魔界の天使アルトラの国造り奮闘譚

ヒロノF

第194話 通貨制度の開始に向けた銀行員育成

 レヴィアタンに銀行員貸し出しの打診をした一ヶ月後――

 この町の新しい銀行員として適正のあるものをオルシンジテンで選出してもらい、数字に明るく、臨機応変が利き、かつ忍耐力がある十人を、報酬は多めに出すという名目でスカウトした。
 ほとんどは元・トロル村の者たちで占められたが、一人だけレロルレッドトロル村から選出。まだこの町に来て日は浅いが、オルシンジテンに間違いは無いだろう。

 そして、いよいよお借りする銀行員を迎えに行く。
 レヴィに一週間ほど前に、迎えに行く旨を伝えてある。手紙は書いたとしても配達してくれる人がいないから直接行って伝えた。
 まあこれは他に伝える手段が無いから仕方ない。それに手紙よりも直接行った方が早いし。


   ◇


「ベルゼ、こちらトリトナ中央銀行のシーラ」

 中央銀行!? 地方の人で良かったのに……

「お初にお目にかかります、シーラ・ウエストレイクと申します。あら? あなたは……確か一ヶ月と少し前に銀行に来られてましたよね?」
「はい、そうですけど……」
「結構な額を換金されてたので覚えてますよ!」
「あ、あの時の!」

 ヘパイトスさんへ工事料金を支払うお金を、エレノルからウォルへ換金する時に応対してくれた亜人《ひと》だ。
 千五百万なんて大金を交換する亜人《ひと》はあまりいないから、顔を覚えられていたらしい。

「今日から半年間お世話になります」
「こちらこそよろしくお願いします!」

 ここから通貨が出来るまでの約二ヶ月間、銀行員 (予定の亜人ひとたち)に銀行業務を叩き込んでもらうことになる。


   ◇


 訓練開始前に銀行員 (予定の亜人ひとたち)の訓練場となる疑似銀行を土魔法で即席で作った。強度はあまり無いが二ヶ月間訓練場にした後に取り壊すので問題無い。
 そして、次の日から早速業務の手ほどきが始まった。

「皆さん良いですか? 銀行業務とは信用の積み重ねです! この『信用』が無いところに、自分の大事なお金を預けておくことなどできないからです! この信用を得るには、常に誠実に対応することです!」
「「「はい!」」」
「また、常に笑顔を心掛け、お客様の話に耳を傾けましょう」

 この業務訓練に使うお金については、白紙に1、5、10、50、100、500、1000、2000、5000、10000と書かれた疑似通貨を用いた。
 一円単位の正確さを要求されるため、ここから計算の訓練に励むことになる。


   ◇


 私が出張をお願いした手前、初日くらいは業務を見ておいた方が良いと思い、銀行業務を見学する。

 訓練は入出金の対応を主に行う。
 シーラさんから提案された訓練方法は、町中から一日に数十人を選出し、疑似的なお客さんとして銀行を訪れさせ、銀行員に入出金の訓練をさせるというもの。 この疑似客を使うのには意図があり、アルトレリアの銀行員は、通常の洗練されて入行(※)してくる銀行員とは違って、ズブの素人なのだから入出金程度のことでも訓練しなければならない。そのために町全体を挙げて訓練にお付き合いしてもらうことにする。
      (※入行:銀行への入社という意味)
 銀行員には良い練習となるし、町民には銀行が正式にオープンした後に入出金に戸惑わないような環境を、比較的自然な流れで作れるという一石二鳥の作戦。

 日に数十人疑似客を出張させ、入出金の対応を練習。
 町民には回覧板にて「銀行業務訓練のために、声をかけさせていただきます。ご協力いただけると幸いです」と知らせてあり、客役に選ばれた場合は少しの報酬 (一日分の食材一式)と紙の疑似通貨を渡して、入金または出金のために疑似銀行へ行ってもらう。
 この客役はその場でスカウトし、これを毎日銀行の正式オープンまで繰り返して反復訓練する。入金・出金どちらにするかは客役を選んだ時点でランダムに決める。
 数日後に、また同じ客役に行ってもらい、この前に入金をした亜人ひとは出金を、出金をした人は入金をしてもらう。
 もっとも……これについては前に銀行に行ってくれた人と同じ亜人ひとに都合よく会えば銀行に行くのをお願いするという程度のものだが……何せ、他人がその日にどこで何をしているかなんて把握できてるわけではないしね。あらかじめその亜人ひとを魔力でマーキングしておけば可能ではあるけど、そこまでして同じ亜人ひとを使う必要も無いかと考えた。
 スカウトは私と役所員数名にお願いする。

 初日ということで、やはり全員対応に四苦八苦。


   ◇


 一日の疑似業務が終わった。

「やったぁ……終わった……」
「やっと帰れるのね……」
「肩凝った……」

 と、全員が終わった気分でいると、シーラさんの次の一言がその雰囲気を打ち消す。

「まだですよ?」
「「「えっ!?」」」
「銀行は業務終了後からの業務がありますから」
「「「えぇ…………」」」

 業務終了後、今度は疑似通貨の額と伝票の数字が合ってるかどうかを照査しなければならない。
 普通の忍耐力なら嫌になるところだが、そこはオルシンジテンが選出してくれた人たち。全員黙々と伝票の精査をしている。

「金額合ってます!」
「こっちも大丈夫です!」
「問題ありません!」
「あの~、千イェン足りないみたいです……」
「全員足りない分を探してください! 銀行では一イェンでも足りないのは大問題です! 疑似通貨 (紙)なので床に落ちてないかどうか探してみてください! また、伝票に記入ミスが無いか精査してください」

 ということで、“1000と書かれた紙”の捜索が始まった。
 少しして――

「あ、見つかりました!」
「このように、少しでも足りない場合、見つかるまで原因を究明しなければならないので、みなさん是非ともミスが無いようお願いします!」
「「「はい!!」」」

 これは大変だ……
 今日のところは、金額も合ったため、ここで業務終了となった。



 銀行員の訓練開始です。
 毎度のように言ってますが、明らかにおかしい部分を指摘していただけるとありがたいですm(__)m

 次回は4月25日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
  第195話【客役からの疑問】

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