魔界の天使アルトラの国造り奮闘譚
第189話 隣村からの襲撃者
とある村での会話――
「となり村が、なぜか豊かになってきたらしいだ」
「ここんとこ、なんだかあっちの空が明るくなって、どうぶつもたくさん増えただ」
「オラたちの村は貧困にあえいでるだ! 豊かになったなら、オラたちが行って支配してやるだ! 食い物をさし出させるだ!」
「んだんだ、そうしよう!」
◇
我が家でくつろいでいるところに珍しくマリリアがリーヴァントの命で訪れた。
そして寝耳に水の情報。
「アルトラ様!! 敵襲です!!」
「えっ!? 敵襲!? 襲撃!?」
この町付近って敵対者居たのか!
「はい、今門衛の方々と近くにいた自警団の方々が応戦してくれています!」
「人数は?」
「百人弱くらいです!」
そんな人数で襲撃を!?
リディアは今日も町へ行っている! 鉢合わせするとも限らない!
村だった頃から通して始まって以来、初の緊急事態か! ヤバイ! 子供達を守らないと!
「カイベル! 町の入り口へ急ぐ! あなたも来て!」
「アルトラ様は行かなくても良いと思いますよ?」
「何言ってんの!? 緊急事態だってのに!」
百人弱もいるのよ?
無傷でいられるはずが……
そう思い、急いで町の入り口に行くと――
◇
――もう制圧されてました。
門衛のマークと潤いの木管理官へ異動したトーマスの代わりに入ったもう一人の門衛さん、それと近くに居た町の自警団四人で制圧してしまったらしい。
この町の主戦力である、カイベルとレッドドラゴン三人は全く出番無し。レッドドラゴン三人は騒ぎを聞きつけて集まって来たが、私より後に来た。
たった六人の門衛と自警団でも、百人弱に勝てるのね……
カイベルが落ち着いてるはずだ……たった六人で制圧できるなんて……
私、今のトロルの実力を大分過小評価してたみたいだわ。
襲撃者は全員町の門の外に正座させられてる。
襲撃者たちには少しの切り傷はあるものの、それほど大きな怪我を負った者はいないようだ。戦ってみたら実力差があり過ぎて、すぐに戦意喪失したってところかな。
見た目は、少し小さいのや大きいのはいるもののトロルと同じくらいの背の高さ。しかし骨と皮ばかりでみんなガリガリで腹が膨れている……そりゃあ筋肉質まで成長したうちの町の自警団には勝てないわ。
肌の色が薄めの黒褐色。うちの町のトロルの肌のRGB値をそのままRに置き換えた感じの色合い。仮に名付けるなら『レッドトロル』ってとこか。そうするとうちのは『グリーントロル』かな?
近くにブルートロルもいるのかしら? 全部足したらブラックトロル?
それに対して、応戦した門衛二人と自警団四人は、ほぼ無傷。乱戦で埃を被った程度。
最初の方こそ刃付きの槍で応戦してたが、途中から襲撃者に対して傷を付けないように棒に持ち替えるなど、余裕しゃくしゃくで相手をしてたとか。たった六人しかいなかったのに、それくらい実力差は歴然だったらしい。
応戦した六人は全員、元・騎士団所属のトーマスの手解きを受けてるし、訓練されてない素人相手なら人数が多くても大した脅威にはならないってことかな。見た目もガリガリで体力も無さそうだしね。
いつの間にかリーヴァントが私の隣に居た。
「あれは隣村の者たちですね。ごくごくたまにですが、鉢合わせると昔から小さな衝突がありました」
「隣村?」
はて……? 何度もこの町の上空を飛んだことがあるけど、近くに集落らしい集落は無かったはずだけど……
「どれくらい離れてるの?」
「ここから一日ほど歩いたところに――」
それは日本では隣とは言わない……
「今まではこれほど大勢で行動していることはなかったのですが……ましてや、町まで襲撃に来るなど……初めてのことです」
とりあえず彼らの言い分を聞いてみるか。
「なぜこの町を襲撃しにきたの?」
「あ、人間だ!」
「珍しいだ!」
「うまそうだ」
「お前食っていいか?」
ああ……超久しぶり、このセリフ……
正座させられてたのに、私を食べようと近寄って捕まえようとしたから、躱してカウンターで引っぱたいた。
「いだぁい……!! お父っつぁんにもぶたれたことないのに……」
「座りなさい!」
「ふぁい……」
私がここへ来た当初の元・トロル村の人たちと似たような生態を見ると、トロルから分化進化した亜種ってとこかな。体色以外はそっくりだし。どっちが先かわからんけど……
それを見たリーヴァントの感想。
「我々も元々はあんな感じだったのですね……改めて過去の自分たちを見ているようで、何とも言えませんね。非常に……無様に見えます……先にアルトラ様に会えたのが幸運でした……」
と、死んだ魚のような目で語った。
「さて、改めて聞くわ。何でこの町を襲撃したの?」
「“しゅうげき”って何だ?」
「むつかしい言葉わからねっ」
う~ん……おバカね……
「えーと、何でこの町を襲ったの?」
「“まち”って何だ?」
「………………じゃあ言い方を変える、何でこの“村”を襲ったの?」
「オラたちの村が食いもんが無くなったから、豊かになったって聞いたとなり村を支配して、水と食いもんを差し出させようとしただ」
普通に侵略者ね……
『水と食べ物』の強奪ってところが、核の炎に包まれた世紀末のやつらみたい。
とは言え、食料が不足してるのか。
彼らもこのアルトレリアの昔と同じ状況に立たされてるってことかな?
今は全く悪意は感じられないから、ちゃんとした教育を施せば、この町と同じ状態になるかもしれないわね。多分先祖は同じだろうし。
じゃあ、久しぶりにアレやるか。
「全体的永久的遺伝的知性上昇 (大)」
そしていつものセリフ。
「おお! 何だこれは~!」
「頭がクリアになっていく!」
「さて、頭も良くなったようだし、ちょっと質問に答えてもらおうかしら」
「な……何ですか?」
今回初登場のレッドトロル。
似たような生態なら、栄養状態が良い方が勝つのは自明の理ですね。
次回は4月13日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
第190話【隣村を求めて……】
「となり村が、なぜか豊かになってきたらしいだ」
「ここんとこ、なんだかあっちの空が明るくなって、どうぶつもたくさん増えただ」
「オラたちの村は貧困にあえいでるだ! 豊かになったなら、オラたちが行って支配してやるだ! 食い物をさし出させるだ!」
「んだんだ、そうしよう!」
◇
我が家でくつろいでいるところに珍しくマリリアがリーヴァントの命で訪れた。
そして寝耳に水の情報。
「アルトラ様!! 敵襲です!!」
「えっ!? 敵襲!? 襲撃!?」
この町付近って敵対者居たのか!
「はい、今門衛の方々と近くにいた自警団の方々が応戦してくれています!」
「人数は?」
「百人弱くらいです!」
そんな人数で襲撃を!?
リディアは今日も町へ行っている! 鉢合わせするとも限らない!
村だった頃から通して始まって以来、初の緊急事態か! ヤバイ! 子供達を守らないと!
「カイベル! 町の入り口へ急ぐ! あなたも来て!」
「アルトラ様は行かなくても良いと思いますよ?」
「何言ってんの!? 緊急事態だってのに!」
百人弱もいるのよ?
無傷でいられるはずが……
そう思い、急いで町の入り口に行くと――
◇
――もう制圧されてました。
門衛のマークと潤いの木管理官へ異動したトーマスの代わりに入ったもう一人の門衛さん、それと近くに居た町の自警団四人で制圧してしまったらしい。
この町の主戦力である、カイベルとレッドドラゴン三人は全く出番無し。レッドドラゴン三人は騒ぎを聞きつけて集まって来たが、私より後に来た。
たった六人の門衛と自警団でも、百人弱に勝てるのね……
カイベルが落ち着いてるはずだ……たった六人で制圧できるなんて……
私、今のトロルの実力を大分過小評価してたみたいだわ。
襲撃者は全員町の門の外に正座させられてる。
襲撃者たちには少しの切り傷はあるものの、それほど大きな怪我を負った者はいないようだ。戦ってみたら実力差があり過ぎて、すぐに戦意喪失したってところかな。
見た目は、少し小さいのや大きいのはいるもののトロルと同じくらいの背の高さ。しかし骨と皮ばかりでみんなガリガリで腹が膨れている……そりゃあ筋肉質まで成長したうちの町の自警団には勝てないわ。
肌の色が薄めの黒褐色。うちの町のトロルの肌のRGB値をそのままRに置き換えた感じの色合い。仮に名付けるなら『レッドトロル』ってとこか。そうするとうちのは『グリーントロル』かな?
近くにブルートロルもいるのかしら? 全部足したらブラックトロル?
それに対して、応戦した門衛二人と自警団四人は、ほぼ無傷。乱戦で埃を被った程度。
最初の方こそ刃付きの槍で応戦してたが、途中から襲撃者に対して傷を付けないように棒に持ち替えるなど、余裕しゃくしゃくで相手をしてたとか。たった六人しかいなかったのに、それくらい実力差は歴然だったらしい。
応戦した六人は全員、元・騎士団所属のトーマスの手解きを受けてるし、訓練されてない素人相手なら人数が多くても大した脅威にはならないってことかな。見た目もガリガリで体力も無さそうだしね。
いつの間にかリーヴァントが私の隣に居た。
「あれは隣村の者たちですね。ごくごくたまにですが、鉢合わせると昔から小さな衝突がありました」
「隣村?」
はて……? 何度もこの町の上空を飛んだことがあるけど、近くに集落らしい集落は無かったはずだけど……
「どれくらい離れてるの?」
「ここから一日ほど歩いたところに――」
それは日本では隣とは言わない……
「今まではこれほど大勢で行動していることはなかったのですが……ましてや、町まで襲撃に来るなど……初めてのことです」
とりあえず彼らの言い分を聞いてみるか。
「なぜこの町を襲撃しにきたの?」
「あ、人間だ!」
「珍しいだ!」
「うまそうだ」
「お前食っていいか?」
ああ……超久しぶり、このセリフ……
正座させられてたのに、私を食べようと近寄って捕まえようとしたから、躱してカウンターで引っぱたいた。
「いだぁい……!! お父っつぁんにもぶたれたことないのに……」
「座りなさい!」
「ふぁい……」
私がここへ来た当初の元・トロル村の人たちと似たような生態を見ると、トロルから分化進化した亜種ってとこかな。体色以外はそっくりだし。どっちが先かわからんけど……
それを見たリーヴァントの感想。
「我々も元々はあんな感じだったのですね……改めて過去の自分たちを見ているようで、何とも言えませんね。非常に……無様に見えます……先にアルトラ様に会えたのが幸運でした……」
と、死んだ魚のような目で語った。
「さて、改めて聞くわ。何でこの町を襲撃したの?」
「“しゅうげき”って何だ?」
「むつかしい言葉わからねっ」
う~ん……おバカね……
「えーと、何でこの町を襲ったの?」
「“まち”って何だ?」
「………………じゃあ言い方を変える、何でこの“村”を襲ったの?」
「オラたちの村が食いもんが無くなったから、豊かになったって聞いたとなり村を支配して、水と食いもんを差し出させようとしただ」
普通に侵略者ね……
『水と食べ物』の強奪ってところが、核の炎に包まれた世紀末のやつらみたい。
とは言え、食料が不足してるのか。
彼らもこのアルトレリアの昔と同じ状況に立たされてるってことかな?
今は全く悪意は感じられないから、ちゃんとした教育を施せば、この町と同じ状態になるかもしれないわね。多分先祖は同じだろうし。
じゃあ、久しぶりにアレやるか。
「全体的永久的遺伝的知性上昇 (大)」
そしていつものセリフ。
「おお! 何だこれは~!」
「頭がクリアになっていく!」
「さて、頭も良くなったようだし、ちょっと質問に答えてもらおうかしら」
「な……何ですか?」
今回初登場のレッドトロル。
似たような生態なら、栄養状態が良い方が勝つのは自明の理ですね。
次回は4月13日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
第190話【隣村を求めて……】
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