魔界の天使アルトラの国造り奮闘譚

ヒロノF

第180話 通貨制度について考える

 川が出来た次は通貨制度を考えないといけない。
 肖像画の件は一応クリアできた。
 もっと重要なことは、お金のデザインをどうするかということ。
 う~ん……“この町でのみ”使うものだし、そこまで凝る必要は無いと思うから、私がデザインしよう。これでも一応元・グラフィッカーだ。

 ――なんて考えて、手を出そうとしたのが甘かった……
 オルシンジテンで久しぶりに日本円を検索して見てみたところ――

「細かっ……!!」

 きちんとまじまじと見たことはなかったが複雑過ぎて、私のような文明の利器を駆使して絵を描いていた一介のグラフィッカー程度では参考にすらならないことがわかった。パソコン使って描いてた私とは次元が違うわ。
 手書きで幾何学模様を作る方法がわからん……パソコンあればすぐ出来るのに……
 肖像画については、オルシンジテンで偉人たちの顔を見せてもらって、それを描き写せば良いだろ。大体向かって左方向を見てるからそういう感じのやつを見せてもらおう。

 あ、そうだ、紙幣だけじゃなくて、貨幣のデザインもしなきゃならないのか。これも馴染み深い日本円を参考にさせてもらおう。


   ◇


 数日後――

 お金の元となる絵を作った。

 しかし、問題はこの絵を元に印刷に使用するための銅板と鋳型いがたを作らないといけないこと。
 生前聞いた話によると、一ミリの幅に十本以上の線を掘らないといけないとか。
 うん! 凄まじ過ぎてもう意味がわからない世界だわ!
 不器用な私では、一〇〇パーセント不可能。
 それにこの町でだけ使うからには、ここまで精密にしなくても良い。そこそこそれなりに偽造出来なければ良いのだ!

 こういうのはカイベルに……って考えるのは私の悪い癖か。この町にはこれに対応できそうな職人がいるじゃないか。
 ドワーフさんたちにお願いしよう!

 偽造防止についても、それほど深く考える必要は無いだろう。透かし程度のもので良いか。まあ……透かしがどういう原理で作られてるのか知りもしないけどね……これもカイベルに聞いて何とかしよう。

「カイベル、お金の透かしの原理って分かる?」
「はい、透かしは紙の薄い部分が明るく、厚い部分が暗く見えるという方法で作られています。『白透かし』と『黒透かし』という技法があり、白透かしは◎△$♪×¥●&%#――」

 ああ……早い段階から何言ってるかわからず、頭が考えるのを拒否した。

「う~ん、ごめん、私の頭じゃ意味が分からないや。それを噛み砕いて製紙工場の人たちに伝えることって出来る?」
「可能です」
「じゃあ、肖像画が描けたら、それを伝えて、中心に透かしを入れてもらって――」

 そして、他にも大事なのは……通貨単位をどうするかってことだけど……


   ◇


 ――な~んて、色々思案したが……

「無理!! これ、私程度の頭でどうかなる問題じゃないわ」

 と言うか……
 そもそもお金に関連することを全部自分一人で完結させようというのが良くないことなのでは?
 こういうのって、大勢の人に関わらせて、分担“させなければ”ならないんじゃないかしら?
 だって、私一人でお金作った場合、発行は自由自在、増刷だって自由に出来る、偽札だって作れる環境にあるってことになる。
 私一人で作った物を他人に信用させることなんてできないよね? だって私しかその情報を握ってないんだから。

 ってことは、大勢の人を巻き込んでお金を作る手伝いをしてもらう“必要”があるわけだ。
 芸術品や調度品じゃないんだから、一個人が作ったお金になんて信用があるはずが無い。
 じゃあ、別に私が関わらなくても、各方面専門機関に丸投げしてしまっても良いのでは? 私の浅い知識で考えるよりは専門機関に頼んだ方が余程良いものが出来る。

 と色々と自分の中の言い訳を納得させて、ドワーフさんと製紙工場に依頼という形で丸投げすることにした。
 肖像画だけは私が描いた、これを元に銅板を作ってもらおう。
 そういうわけで、フィンツさんの下へ――

「お金を作ってほしい?」
「はい」
「偽造か? どこの国の偽札だ?」

 ニヤリと笑いながら冗談めいて話す。

「そんなわけないじゃないですか~! 川が完成してライフラインも整ってきましたし、町の名前も決まりました。この町でもそろそろ通貨制度を始めたいと思いまして、この町でだけ使える通貨を作りたいなと」
「やっと通貨が出来るんだな、生まれた時からアクアリヴィアで生活してたから、ここの物々交換は不便だと思ってたよ。何か交換するたびに、『コレとアレの価値は見合ってるのだろうか?』とか『あまり価値が低いのを交換したら相手に悪いしな』とか考えちまうしな」
「ドワーフさんでもそんなこと考えるんですね」
「……それはどういう意味だ?」
「いえ、言葉の綾です。豪快そうでも、繊細に考えるんだなと」
「あんたのドワーフの認識にはズレがあるな、ドワーフは元来繊細な生き物だぞ? そうでなければ緻密精密な仕事なんか出来ん」

 それもそうか。筋肉質な見た目だから豪快な方なのかと……

「でも繊細な割にはフロセルさんもルドルフさんもお金の管理がちゃんと出来てないような……」
「あの二人は特別ルーズなだけだな。自分で金の管理をしてもらいたもんだよ、まったく……」

 まあ亜人ひとによるのはどんな種族も同じか。

「それはそうと、物々交換するなら酒と交換したいんだが、この町は酒が無いから早く作ってくれ!」
「お酒できる前に、物々交換の制度が無くなりそうですけど……」
「ははは! それもそうだな」

 笑いながら話す。

「お酒に必要な水も確保できる環境になってきましたし、原材料のお米や麦も育てられる環境が出来たので、それについては今後に乞うご期待ってことで…………肖像画は私が描いてきたので、それを元にお願いします」
「ああ、わかった」

 肖像画を受け取った後、少しの間黙り込んだ。

「………………」
「どうかしましたか?」
「何かこの肖像画の中の一人、俺のご先祖様に似てる気がするんだよ……アクアリヴィアの俺の実家に五百年くらい前の肖像画が飾ってあるんだが、ローゼン・マウアーって言うんだけどな」
「本人ですよ、他のドワーフ二人はヒーナ・マウアーとマリア・マウアー、それとトロル族のウォルニールです。上手く描けてますか?」
「えっ!? 本人!? 何であんたが知ってるんだ!? それにこの町と何の繋がりがあって!?」
「ちょっと調べたところ、この町……当時は村ですらないくらい極貧の環境だったようですけど、この村の壁を作ったのがその方々たちだったらしくて、この町にとっては偉人なので、紙幣の肖像画として使わせてもらおうと思いまして」
      (第161話参照)
「ほぇ~! 妙なところで繋がりがあるんだな……ところで通貨単位は何て名称にするんだ?」

 これもずっと考えてるのよね……
 出来ることなら短い方が良い。百“円”、千“円”、一万“円”みたいに。
 私にとって『異世界の円通貨』ってことで、『イェン』とかにしようかしら? 百イェン、千イェン、一万イェン。

 でも、町の名前の候補に挙がった『トローリア』がちょっと勿体ないと思ったのよね……
 じゃあここから取って百トロとか? 百個トロがあるみたいだ……
 間を取って百ロリとか……ダメだ百人のロリが思い浮かぶ……
 百リアとか……百リアはまだ良いんだけど、一万リアにするとちょっと語感が悪いな……
 う~ん……少し長くても『トロリア』が良いかな? 百トロリア、千トロリア、一万トロリア。
 ちょっと長いかな?

 どっちにするかな……思い切って聞いてみるか。

「イェンとトロリア、どっちが良いと思います?」
「どっちも聞き慣れないが……どこから出た単位なんだ?」
「イェンは私の故郷の通貨に似た通貨単位です。トロリアの方はこの間町の名前を決める会議で出て来た、候補に挙がった名前の一つです。トロルに関連して良い名前だなと思ったものの、リーヴァントに却下されて、少し勿体ないなと思ったので」
「その二つだと…………う~ん……イェンの方が呼びやすくて楽ではあるな」
「ではイェンでお願いします!」
「わかった、イェンと刻めば良いんだな?」
「それと貨幣の鋳型いがたの製造と自動で鋳造ちゅうぞうや印刷できる機械もお願いできますか?」
「ああ、ウォルタのお嬢さんがドワーフ引き連れてきたからな、アイツらにも参加してもらえば可能だと思うよ。ただ、そうすると電力が必要になってくるな」

 う~ん……本当ならエレアースモで太陽作って、その見返りに発電所建設の技術者を連れてくる予定だったんだけど……

「自家発電機ではどうにかなりませんか?」
「あの大きさでは難しいかもな、まあ金を刷るのはそう頻繁なことでもないし、刷る時だけ発電するってことにすれば、発電機を複数台作れば可能だと思う」
「どれくらいで出来ますか?」
「そうだな……三ヶ月あれば可能だと思う」
「ではそれでお願いします。それで、お支払いは水の国通貨ウォルで良いですか?」
「ああ、そうしてくれ」
「いくらぐらいになりますか?」
「そんなに高くはないぞ。あ、いや、機械も作るんだったな……そうだな……じゃあ全部で五千万ってところでどうだ?」
「五千万か……」

 少し前ならあったにはあったが……今はもうそこまでの手持ちが無い。今現在私の手持ちは四百万エレノル程度。空間魔法災害で今少し価値が下がったからウォルに換算すると多分三百五十万ウォルくらい。
 直近で、フレアハルトのお父さんから約三千万ウォル相当 (カイベル調べ)の金銀財宝を貰い受けたけど……これとエレノルを換金して、更に都合良く見積もっても三千五百万に届かない。

「提案なんですけど、資材は川工事の時と同じく、私が用意するというのはどうでしょう?」

 物質魔法で金属を生成すれば可能ではある。消費するMPが少々大変だけど……まあ鉄橋を複数作ることに比べれば、機械作る程度なら死ぬことは無いでしょう。

「それならデザイン料と機械の製造料だけで済むよ。そうだな……一千万とあと機械作る職人たちへ一千万ってところだな」
「ではそれでよろしくお願いします」
「あ、そうだ! 親方も巻き込もう!」
「どういうことですか?」
「親方はヒーナ・マウアーの子孫、フロセルとルドルフはマリア・マウアーの子孫だから、それぞれにご先祖様の紙幣をデザインしてもらおう!」

 ヘパイトスさんはもうアクアリヴィアに帰ってしまったものの、都合が良いことに、この町に壁を作った三人の子孫が勢ぞろいしていたらしい。

「俺が親方に頼み込みに行くからゲートで送ってくれ」

 ゲートでアクアリヴィア首都・トリトナのドワーフ商会へ。
 ヘパイトスさんに話をして、協力を取り付けてくれた。
 曰く「帰って来てから事務作業ばかりで暇してたからちょうど良い」とのこと。
 私から言わせると『事務作業』は暇の分類には当たらないと思うけど……

 ヘパイトスさんには一万イェン通貨のヒーナ・マウアーを担当・デザインしてもらうことになった。
 そして、順に五千イェン通貨のローゼン・マウアーをフィンツさん、二千イェン通貨のマリア・マウアーをフロセルさん、千イェン通貨のウォルニールをルドルフさんが担当することになった。



 通貨制度って考えることが沢山ありますね。
 アルトラ(著者)には知識が無いので、各機関に丸投げします(笑)
 ですので、お金関係に明るい方で、ここまで読んでいただけてる方は「これはどう考えてもおかしい、どう考えても間違ってる」ってところがあった場合は、ご教示いただけると幸いですm(__)m

 次回は3月23日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
  第181話【税金制度の構想】

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