魔界の天使アルトラの国造り奮闘譚

ヒロノF

第179話 アルトレリアが置かれている曖昧な状況

「う~ん、アルトラ~、お客さんカ~?」

 うちの寝坊助が起きて来た。

「あ、お菓子の人ダ! 何しにきタ?」

 “お菓子の人”? あの時お菓子持って来たのはアスモだったのに…… (第116話参照)
 リディアの中ですり替わってしまった……

「あ、忘れてたわ。これ手土産に」
「わ~い!」

 手土産はきっとリディア対策かな?

「リディア、お久しぶりですね」
「あ、リナ!? よく来たナ! 何しに来たんダ?」
「しばらくこの町に住むので、よろしくお願いしますね」
「ここに住むのカ! やったやったァー! じゃあ、今貰ったこのお菓子一緒に食べよウ!」

 あっちはリナさんに任せておけば良いか。
 アクアリヴィアを離れる時に、散々誘ってたしね。

 しかし、中立地帯だったはずだけど、こんなにアクアリヴィアの住人ばかり住まわせちゃって大丈夫かしら?
 各国の中立地帯の定義をちゃんと知らないけど、この地獄の門に影響が無ければ良いってことなのかな?
 ってことは、地獄の門から五十キロも離れてるアルトレリア周辺ならOK?
 全部私の独自解釈でしかないから、どこまで中立地帯かわからない……
 一応七つの大罪である当人に聞いておくか。

「レヴィに聞いておきたいんだけど、ここって中立地帯よね? 自分の国の民を滞在させるのは問題無いの? まあ既にトーマスやドワーフさんたちがいる時点で、何を今更って感じではあるんだけど……」
「う~ん……元々私は地獄の土地を巡って牽制し合うとか、反対している方だからね。争っても何にもならないじゃない? その辺緩くやりたいのよ。ベルゼは魔王に次ぐ程度には強いから管理してくれるなら私は賛成かな」

 この町への影響が心配なのよね……具体的に言うと『地獄の土地に関して保守的な他国からの突然の襲撃』とか。

「あ、じゃあ今度七大国会談があるから、そこで提議してみるのはどう? この中立地帯に住んでる者として、ここを開放してある程度自由に行き来できるようにしたいとかさ。元々デリケートな土地で、私もこの土地が存在してるってだけで神経使わないといけないから、緩くしてくれるなら大歓迎よ!」
「七大国会談?」
「四年に一回開催される七大国の王、つまり七人の魔王が集まる会談があるのよ。次は土の国ヒュプノベルフェの王様が起きる年明けて二月辺りに合わせて開催されるわ。ここで提議して、七大国の王の三分の二以上が賛成すれば、提議が認められるよ。地獄の門付近ここは、何千年前からの中立地帯だって言われてても、もはや形骸化しているようなもんだし、きっと認めてもらえるよ!」
「大国住みでもない私が参加しても良いものなの?」
「もちろんよ、小国や大国の属国がこれに参加して、提議するってこともあるし」

 小国や属国が提議するのか、地球と比べると何だか特殊な形態ね。
 七大国が世界の頂点で、いろんなことの決定権を握ってるって感じなのかしら?

「ところで、土の国ヒュプノベルフェの王様が起きた時に開催されるってのは何で? 王様の代理を立てちゃダメなの?」
「代理でもOKよ。風の国は今王様が不在だから代理を立ててるしね」
「じゃあ、何で?」
「一番の危険分子への警戒かな。七つの大罪最強のルシファーに対抗できるのは、睡眠から起きた直後の土の国の王ヴェルフェゴールしかいないから」
「最強に対抗できるの? どうやって?」
「以前話したと思うけど、現在のヴェルフェゴールは三ヶ月寝続けて、一週間だけ起きた後にまた眠りに入って、また三ヶ月眠って一週間起きるってのを繰り返すってのは覚えてるよね?」
「うん」
「起きたばかりのヴェルフェゴールはブーストがかかってて、ルシファーの力を大きく上回るのよ。ルシファーは『傲慢』の大罪だからみんな警戒してるってわけ。他に警戒されてるのは『憤怒』と『強欲』だけど、強欲はもう三百年以上代替わりせずに安定的に国を統治しているから、警戒心もかなり薄まってる感じね」

 三百年統治……江戸幕府以上の年月を一人の王様が統治してるのか……かなりの長生きね。

「警戒してるのはわかった。でも、もしヴェルフェゴールが出席できなかったらどうするの? 例えば体調不良とか病気とか」
「ヴェルフェゴールのブーストは各国では三段階あると考えられててね、起床後二十四時間がハイストブースト期間、起床後三日間がハイブースト期間、その後の入眠までの徐々に力が下がって行く間がブースト期間と仮定されてるの。で、『怠惰』の大罪の宿主は、起床後の三日間ほどのハイブースト期間は体調不良だったり病気だったりを完全に無視して行動できるの。例え瀕死の重傷でも、全身の骨が折れてても、今にも死にそうな老衰の状態でも」
「何それ!? どういうこと!?」
「そういう固有ユニークスキルらしいんだけど、ハイブーストの間はあらゆる体調不良を無効化するらしいよ。日数が経過して、三日を経過した辺りからそれが切れるから、その後は元々の症状通りになってしまうそうだけど。あ、でもブースト状態は入眠する直前の日まで続くよ」

 体調不良や病気、老衰すら無効化出来るって凄い能力ね。

「だから『怠惰』の大罪の宿主が死ぬのは、無敵状態が終わったところから入眠する間の期間なんだってさ」

 あ、そっか、眠ってる間は時が止まるんだっけ。自分の死期が予想し易くて、遺言残す時は良いな。私もそうなりた……くはないか。寝てばっかいるし。
 無敵でいられる期間の方が長いけど、無敵の間は寝てる時が多いから不便な能力ってわけね。

「特に起床後二十四時間のハイストブースト期間は脳と心臓が同時に破壊されない限りは、心臓をえぐられても、脳を破壊されても瞬時に再生して行動可能だって噂がある」
「す……凄い能力だ……!」
「だからヴェルフェゴールが起きるタイミングで開催されるってことなのよ」
「その説明聞くと、七大国会談開催に際して、何でヴェルフェゴールの起床がカギになってるのか、よぉ~く分かるわ。じゃあ、他の四つの大罪の警戒度ってどんな感じなの?」
「過去五代くらいさかのぼってみても、あまり悪い話が出て来ないから警戒心は薄れてる感じかな。昔は『色欲』への警戒心が高かったらしいよ。何せ能力の使用方法次第で、簡単に国を瓦解させることができるから。あと、大昔の『暴食』は恐ろしかったって古文書の一ページには出てくるね。知的生命体である亜人や魔人でも平気で食べるような性質だったって」
「マジか……前々世の私の時は?」
「前にも言ったと思うけど、私が知る限りでは食べなかったと思うよ。まあ私は外の国の者だから詳しいところまではわからないけど、少なくとも国民に慕われているようではあったから」

 それはちょっと安心した。昔の私、亜人食べないでグッジョブ!
 と言うか、“古文書”? 歴史書じゃなくて? 物凄く古い文献ってことかしら?

「『怠惰』は昔からほぼ警戒されてない。起床してる時間がわずかしかないから、他国を侵略する時間なんてとても無いだろうしね」

 ああ……まあ『怠惰』だしね……確かにあまり危害を加えられるイメージは無いかな。
 その辺に寝っ転がられてると、多分邪魔だけど。
 掃除機で突きたくなるかもね。

「『嫉妬』はどうだったの?」
「私が知る限りは穏やかなものよ。私は二代前の女王様までしか知らないけど、『嫉妬』と名が付く割には他人に嫉妬する人はいなかったように思う。もっと前ならヒステリックに叫んだりする女王様もいたかもしれないね」

 レヴィの話を聞く限りには、『嫉妬』、『暴食』、『色欲』、『強欲』は、もうかなり薄まってきて、大昔ほど大罪としての特徴が無いってことなのかな。
 逆に『傲慢』、『憤怒』はまだ警戒されてると。
 『怠惰』も特徴が無くなってるってほど薄まってる感じじゃないね。以前睡眠時間が一年の時があったなんて話を聞いたから、現在と比較すればかなり薄まった能力になっているのは確かみたいだけど。

「七大国会談の参加申し込みは私の方でしておくよ、それじゃあ、私はこれで帰るよ」
「あ、もう帰るの? ご飯でも食べて行ったら?」
「この時間に来れるようにスケジュール調整しておいたから、次の予定があるしね」

 女王様だから忙しいか。

「レヴィアタン様、ありがとう存じます!」
「それじゃ、七大国会談前日に迎えに来るから、リナのことをよろしくね!」

 今回も突然来て、突然帰ったな……

「私はアルトラ様の町の方々と仲良くできるでしょうか……?」

 何だか大分自信無くしてる感じね……
 アクアリヴィアを案内してもらった時は、もっとはきはきしてたと思ったけど……

「大丈夫大丈夫! ここに殺伐とした空気はほとんど無いから! リナさんならきっとすぐに馴染めるよ!」

 その後、リナさんの家が建つ前の仮住まいを案内し、町の中を案内した。
 本住まいする家は、町の中心から少し離れたところへと建てられる予定となった。



 起床初日のヴェルフェゴールの固有スキルが凄すぎる。
 けど、月単位で睡眠取らないといけないこんな能力は要りませんね(笑)

 次回は3月21日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
  第180話【通貨制度について考える】

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