魔界の天使アルトラの国造り奮闘譚

ヒロノF

第152話 村の回覧板事情

 『接近注意!! 村はずれの丘の上にミツバチを飼育しています。刺激すると刺す可能性があるため、近寄らないようにお願いします』
 かなり目立つような構成にして注意喚起。『接近注意』は赤文字ででかでかと書く。
 あとは、蜂についての情報をちょっと細かく書いておく。蜂に対してのNG行動とか、生態とかを少し細かく。
 それとハチミツに対して興味持ってもらえるように、ハチミツはこんなに美味しいとか。
 文言はこんなところで良いだろう。
 とりあえず出来たものを試作用の回覧板に挟んでおく。
 そういえば、この回覧板の書類ってどうやって作ってるんだろう?

「この回覧板に挟む書類ってどうやって同じもの作ってるの?」
「え? それはもちろん手書きですけど」
「手書き!? 各家に回す冊数はいくつあるの?」
「この村に住んでる人数が千人弱、各家庭三人住まいくらいと考えて、平均三百三十世帯くらいですかね? 十世帯に一冊回すと考えると……三十冊くらいじゃないでしょうか?」
「えーと、正確には三十一冊みたいですね」

 イザベリーズが正確に調べて教えてくれた。

「入れ込む紙は何枚くらい?」
「五枚から七枚くらいですかね? 特に多い時は十枚くらいの時がありますけど」
「ってことは平均六枚か。それで、各家保管する紙の枚数は?」
「一枚が普通です。二枚以上になるのは稀ですね」

 えーと、三十一冊に六枚ずつ挟む。一枚を各家の保管と考えてそれプラス十枚。だから三十一冊×十六枚か。

「ってことは回覧板一回回すのに……四百九十六枚!? それを全部手書き!?」
 めんどくせっ!
 最低でも私はあと三十枚分これを手書きしないといけないのか。
 現代に生きていた身としては、かなり面倒と感じてしまう。コピー機あれば一枚で済むのに……
 しかも十枚の時にはおよそその倍? これは手書きでは大変だわ。

「そうですけど……役所内に二十人くらい働いてるので手分けして書いてます」
「ちょっと今回の回覧板に入れるものと同じ内容の、別の人が書いたものを見せてくれる?」
「どうぞ」

 あ~……確かに同じ内容だ。でも書いた人によって字の綺麗さが全然違う……それに幅とか間隔とかも違う……中には中心から徐々にズレて言ってる人も……
 と言うか……私の字は下手な部類だ……これは誰かに頼んだ方が良いかも……

 ところで、さっき書いた依頼達成記録の方は大丈夫かしら? エリスリーンが私の文章を見てツッコミを入れてきたことを考えると、読めないほど下手ってわけではないと思うけど。
 あれ? でも『接近注意』だけ妙に上手いな……これって、私が『接近注意』の部分だけイラストとして見てて、他を文字として見てるってことなのかな?

「それでも一人当たり二十三から四枚書かないといけないんでしょ?」
「そうですけど……他に何か方法がありますか?」
「え、と……魔法で複製とかは?」
「そんな便利な魔法があるんですか?」
「いや知らないけど……」
「なんだぁ……アルトラ様が知らないなら私たちが知ってるわけないじゃないですか」
「いや、何の不満も出ないからそういう魔法を使える亜人ひとがいるのかと……」
「不満が出ないと言うよりは、『それしか知らない』から不満の持ちようがないってことじゃないですか? 複製魔法なんてものがあるんなら随分楽になるんですけどね~」

 これはコピー機を作った方が良いかもしれない。
 いや、もしかしたら水の国アクアリヴィア雷の国エレアースモになら売ってるかもしれない。近いうちに買いに行ってくるか。
 でも……映像技術テレビは白黒だったけど、そんな高度っぽいもの売ってるのかしら? やっぱり作った方が良い?
 ああ~! カイベルの印刷機能が明かせれば一番楽なんだけどなぁ……

「じゃあ、木版画とか」
「それはどういう方法なんですか?」
「木の板に文字を書いて、その文字が浮かぶように掘る方法よ。それに墨やインクを塗ることで、同じものを沢山刷ることができる」
「それ良いですね! でも掘るのが大変そうですけど……」

 そうなのよね……あれ作るのかなり大変。昔の学校の先生方はよくあれをやってくれてたと思うわ。

「あとは……ガリ版?」
「それは何ですか?」

 これの仕組みは私もよく知らない。そういう言葉を知ってるだけで年齢的に見たこともないから。
 私の学童時代には配られる書類は全部プリントだったし。

「ごめん、言っておいてだけどこれは私にもよくわからない。忘れて」
「何にしても、楽に出来るようになると良いんですけど」
「じゃあ何とか楽になる方法を考えておくよ」






 工房から本体がゲートで戻って来た。
「ただいま」
「お帰り本体わたし

 机の上の書類を見て――

「あ、忘れてた! 依頼達成記録付けないといけないんだった!!」
「もうやっておいたよ」
「流石分身体わたし! ありがとう!」
「あと、ミツバチの注意喚起と……ああ、別に説明しなくても取り込んでもらえば良いのか」

 分身体を本体へ還元する。
 私がいなかった時の記憶が頭に流れ込む。
 なるほど、コピー機能に当たる何か方法を考えておかないといけないのか。

「あの……それでどうでした?」
「工房で傘の生産をお願いしてきたよ」
「あの……それで……今日は傘は……無いですよね?」
「フッフッフ……そう言うかと思って試作品を借りて来た! ジャーン! はい、これ使って」
「良いんですか!?」
「エリスリーンとイザベリーズにも」
「私たちも!? ありがとうございます!」

「借り物だから大事に扱って。ただ、試作品だから耐久度もバラバラで、もしかしたら使い物にならないものもあるかもしれない。濡れて帰っても文句は言わないこと!」
「使えない物だったら……結局濡れるんですね……でも全く無いのに比べたら雨を防げて良いですね!」
「試作品を借りて来たから、どうせなら使い勝手とかも教えてくれれば、今後の参考になるかもしれない」
「あの……貴重な品なんですよね? 万が一壊してしまったら……?」
「乱暴に使って壊れたのでないなら、そのまま返却してくれれば良いってさ。使い方に関しては細心の注意を払うみたいな使い方はしなくても大丈夫だと思う。後日回収するよ。あ、使った後は開いた状態で干して乾かしておいて。そのまま折り畳んだまま放置しておくとダメージ受けたり、カビたりするかも」
「「「わかりました」」」

 こんな感じに、代理業務最終日にも関わらず、まったり過ごすことになった。

 次の日に傘の感想を聞いたところ、全員「あまり濡れなくて良かった」と概ね好評。
 ただ、油の塗り込みが甘く、一部紙が破れてしまったところもあったとのこと。
 あと、少し傘の幅が小さく、豪雨に対しての防御力は甘めだったらしい。骨組みの強度については三つとも問題無かったらしい。
 乾かしてもらって後日回収の上、ミリアンにお返しし、感想や改善点も伝えた。



 コピー機がある現代って、ホント便利な世の中ですよね。
 一応、明日で『村役所長代理編』が終わります。

 ◆ここまで読んでいただいている方々へ◆
 ここまで物語を追いかけてくださり、ありがとうございます(^^)
 しかし、少々残念なお知らせがあります。
 直近のエピソードのストックが本当に残り少なくなってしまったので、この『村役所長代理編』が終わったら、少しの間ストック期間として投稿を制限しようと思います。
 週一か週二程度の投稿になると思います。投稿予定日はその都度後書きにてお知らせします。
 私が遅筆なために申し訳ありません。また、今後もストック期間が存在してしまうかもしれませんが、ご了承いただけると幸いです。

 将来描こうとしているネタなら20~30ほどのあるのですが、肝心な直近のエピソードが無くなってしまったため上記のような投稿形態になると思います。
 しばらく後に投稿したいと思っているネタはあるので、エタることは無いと思いますので、ご了承いただけると幸いです。仮に何のお知らせもなくエタった場合、私に何か(病気・事故などに)遭って続けられなくなったと思ってください。
 ストックが溜まり次第、また連日投稿に切り替えようと思います。
 この次は第7章『村拡大編(仮題)』を書く予定です。

 次回は12月21日の20時から20時15分頃の投稿を予定しています。
  第153話【リーヴァントたちが旅行から帰って来た】

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