魔界の天使アルトラの国造り奮闘譚

ヒロノF

第130話 vs巨大サンダラバード・第2ラウンド

 雷雲から追い出されたのは結果的に良かったかもしれない。
 あの轟音響く雷雲の中では作戦会議なんてできなかったから。

 問題はこの後よね……街中に、もしかしたらさっきよりも激しい空間の裂け目攻撃が来るかもしれない。
 あそこまで飛んで行くのに急いで二十分。
 それまでにまた更に街の被害が拡大してしまうかもしれない。
 かと言って、空間転移歪曲の効果でゲートで一瞬であそこまでは行くことはできない……

「………………」
 あっ! こんな時にあれを使おう。
 私の持つ第二の羽根、『悪魔の羽根』!
 普段、禍々しい見た目だからあまり使う気にならないけど、そんなこと言ってられる状況じゃない。
 早くしないと街や国民の被害が大きくなる。

「アスモ、もう準備は良い?」
「……うん……早く行こう……」
「ちょっと私の前に来て、あっちを向いて?」
「?」
 私の前面に背中を向けて立たせる。
 お腹の方へ手を回して、アスモを抱く形になる。

「……どうしたの……?」
「ちょっと急ぐからアスモを抱えて飛ぶ!」
「……逆に遅くならないの……?」
「大丈夫! 行くよ!」

 悪魔の羽根四枚を出して飛び立つ。
 早っ!?
 こんなに速かったのか。
 今までの三、いや五倍くらい速い! これなら五分以内に着けそうだ。

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 体感的に五分ほどでさっきと同じ雷雲の真下に到着。

「それじゃあ作戦通りに」
「……わかった……」

 再び私だけサンダラバードに団子状態にされつつ、サンダジャバードのいるポイントまで進む。
 アスモから少し遅れて到着。
 目配せアイ・コンタクトして、作戦を再確認。
 作戦開始だ!

 アスモがサンダジャバードの雷攻撃を避けつつ、突進攻撃で接触を図る。
 これで接触できるなら、さっき考えた作戦は使わなくても良いんだけど……
 雷を喰らって落下、復帰。
 これを三回繰り返した。

 ここまでで相手には、『アスモは突進攻撃しかしてこない』ということを十分刷り込めたと思う。
 そして四回目の突進攻撃。
 ここからが考えた作戦。
 アスモに四回目の突進攻撃をしてもらい、サンダジャバードが雷攻撃を放つ前に、アスモの前面にゲートを出現させ、そのまま飛び込ませる。
 突然自分の意思とは関係ないところに空間の裂け目が現れたから、サンダジャバードは面食らったようだ。一瞬硬直した。
 その間にサンダジャバードの背面にゲートの出口を出現させ――

「……背中取った!! 完全なる誘惑テンプテーション!」

 ――サンダジャバードの背面から接触。アスモのスキルで勝利という作戦。

「やった! 成功?」

「……直ちに私たちに攻撃を加えることと、魔法を使うことを止めなさい、あと私から一定の距離を取りなさい……」
 アスモの接触後から、サンダジャバードの挙動に変化が。
 一声『サンダララ……』と鳴いた後に、明らかに大人しくなった。

「……もう大丈夫……暴れ出す心配も無い……」
「ふぅ……やっと終わったのね。これで街の安全も脅かされなくなるね。じゃあ帰ろうか……ここにいると私が突っつかれ続けるし……」
 ボスであるサンダジャバードを従えても、私はサンダラバードに突かれ続けるらしい。
 結局のところ、鎧や兜はほぼ全壊。貴重なアンエレアス鉱石製のマントもビリビリだ。

 さて、じゃあ空間転移が正常になったかどうか試してみるか。
 ゲートを出して、首都の正門と繋げた……つもりでいる。実際くぐってみないと狙ったところに行けるかわからない。

「アスモ行くよ」
「……ちょっと待って、あの卵が気になる。サンダラバードの卵にしては大きすぎる。持って行ってみる……」
 二個の卵を回収。
 まずはゲートにサンダジャバードをくぐらせ、続いてアスモ、最後に私がくぐってゲートを消す。

「おお! アスモデウス様! アルトラ様! ご無事でしたか!」
 お、ゲートはちゃんと正常に機能したみたいだ。

「連れて来たのは?」
「……これが巨大サンダラバード……」
「と言うことは?」
「……うん……無事従えた……」

「やったーーー!!」
「これでもう命を脅かされることもないのね!」
「ありがとうございます! アスモデウス様! そして名も知らぬ少女!」
「ああ……何とか命を繋げることができたわ……疲れた……帰って寝よう……」

 最初は空間転移が出来ないという不便程度のことだったが、それが首都全体を巻き込むほどの大惨事に発展。
 サンダジャバードを捕えることで、この一件は一応の終息を迎えた。

「そういえば、サンダラバードに使った『完全なる誘惑テンプテーション』ってどんな能力なの?」
「……男女問わず相手を虜にして、完全な支配下に置く七つの大罪『色欲ラスト』の固有ユニークスキル……大罪持ち以外は絶対に拒否できない……」
「何そのチートスキル……凄すぎ」
 また所見殺しの能力だな……しかも、レヴィのものより使い勝手が良い。

「……でも、相手に接触する必要があるから、明確に敵と見なされてる場合は、そもそもの接触することが結構難しい……」
 なるほど、それで私のサポートが必要だったわけか。

「効力はどれくらい続くの?」
「……私が解除しない限りは半永久的に続く……ただ、精神力の強い者は長い時間を経てたまに自力解除する者がいる……とは言え私が近くにいる場合は解除されることはないからこの子が暴れ出したりということはない……」
「『色欲ラスト』の大罪所持者が死ぬとどうなるの? 魅了対象が次の宿主へ移るの?」
「……虜になった者は、大罪所持者が死んだと知った時点で殉死する。例えるなら『凄く大好きな人が死んでしまって、もう生きてても絶望しか無い』っていう状態……」
「じゃ、じゃあ虜にした人数が多ければ多いほど……
「……うん、大量の死者が出る……」
「怖っ!」
「……歴史の話になるけど、虜にした人数が多過ぎて、国政、経済が傾いたって記録が残ってる……」
「怖っ!!」
「それとベルゼみたいに元所持者にも効くかどうかわからない……試してみる……?」
「え、遠慮しとく……」
 それは、多分私にも効果がある。レヴィの『嫉妬エンヴィー』の能力が効果があったから。

「……他の者を支配下に置くのは好きじゃないから滅多に使わない……支配下に置くと四六時中付いて歩かれるから面倒……かと言って、『その場に居て』って言うと私が声をかけない限り餓死するまでその場にいるらしい……今回は苦肉の策……」
 『らしい』ってのは、自分で試したことはなくて、先代から聞き及んでるとかそんなところかな?

「そうなんだ。それで、その子はどうするつもりなの?」
「……さあ? 今後国で処遇を決める……じゃあ、後処理があるから王城へ帰るね……明朝8時くらいに王城に来てもらえる……?」
「わかった」

 巨大サンダラバードは、ハーネスも付けていないのにアスモの後ろを付いて行った。
 あ、一応モンスターだからアレ使っておくか。

「スキルドレイン!」

 『魔力変換』ってのを会得した。
 魔力変換? どういう能力かしら? 周囲の魔素を魔力に変換できるってやつ? カイベルに備え付けたようなやつかな。

 さて、私もホテルへ帰るか。
 と思った矢先、目に飛び込んで来たのは重傷の街の人たち。
 この騒動はまだ終わってないらしい。
 ゆるい会話の後に、いきなり殺伐とした雰囲気。

「うぁぁ……痛ぃ……痛いよぉ……」
「大丈夫ですか!?」
 片腕が無い……
 城にいた重役の人と同じく『癒しの水球リジェネレート・スフィア』をかける。

「あ、痛みが……無くなった……」
「安静にしてたら徐々に再生しますので」
「あ、ありがとうございます!」

 ホテルへ帰る道すがら、 既に手当されている者、周囲の者が手当に当たっている者もいたが、切断された多くの者は、止血などの応急手当以外することができないという、どうしようもない状態だった。
 そのため、ホテルへ向かいながら腕を失った者、脚を失った者、指を失った者など、五十人くらいに『癒しの水球リジェネレート・スフィア』をかけながら歩くことに……
 回復に費やしていたら、ホテルに着いた時には3時間ほどが経過していたようだ。
 こんな状態の亜人ひとが街中に沢山いるのか……とは言え、何人の怪我人がいるかわからないから他のルートへ行くとキリが無い。
 雷の国にも救護班や回復術師はいるだろうから、そちらは彼らに任せよう。
 今後私にしか出来ない何かが起こるとも限らない。今のところはホテルで休ませてもらうことにする。8時まで2~3時間後か。仮眠程度はできるかな。

 ホテルに着いてみれば、リディアやカイベルは幸い何事も無かったから、安心した……



 『テンプテーション』、虜にしてあれやこれやとやってもらえるのは良いですが、四六時中近くに居られるのは嫌ですね。
 それも集団だと尚更鬱陶しく感じるかも。
 権力者は、絶対に裏切らない駒が出来て良いかもしれませんけど。
 野心のある人に『色欲』の大罪スキルが渡ったら、かなり危ないことになるでしょうね。

 ちなみに、『色欲』の大罪スキルは女性型の亜人・魔人にしか継承されません。大罪スキルの元となった堕天使アスモデウスが男性型で女好きという設定なので。
 余談ですが、逆に『傲慢』の大罪スキルは男性型の亜人・魔人しか継承されません。男性の方が『傲慢』に結びつきやすいという設定です。

 次回は11月29日の20時から20時15分頃の投稿を予定しています。
  第131話【空間魔法災害から一夜明けて……】

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