魔界の天使アルトラの国造り奮闘譚

ヒロノF

第91話 新たな村人の紹介とお土産

「お、戻ったか。進捗しんちょく状況はどうだった?」
「私の予想を遥かに超えた進捗しんちょく状態でした! それで、みんなに紹介するのでこちらへ」
 親方衆のところへドワーフ一行を連れて行く。

「お待たせ、えー、集まってもらったのは他でもありません。この工事の要となるドワーフさんたち一行を連れてきました!」
「「「おおおぉぉぉぉ!!」」」
「もう川が出来たも同然だ!」

「凄い歓迎だな……」
「ドワーフ族はモノづくりで有名ですからね」
 こんな何も情報の無い村にまで、その高名が轟いてるんだから凄い。
 まあ、この村どころか、月と同じ距離なら推定30万kmも離れた地球にすら轟いているのだから。

「こちらの方が、ドワーフ商会を取り仕切るヘパイトスさんです」
「ヘパイトスだ、よろしく頼む」
 この後、以下、娘のヤポーニャさん、孫弟子のフィンツさん、フロセルさん、ルドルフさんの三人を紹介。

 次にアクアリヴィアの騎士トーマスとリッチの二人を順に紹介した。
「この二人はとある縁でこの村で生活することになりました。アクアリヴィア騎士であり人魚マーマンのトーマスと半魚人サハギンのリッチです!」
「あ、トーマスです。お世話になります、よろしくお願いします」
「ふんっ」
「リッチ……挨拶は人間関係を円滑に進めるのに必要なことよ?」
「…………リッチです、よろしくお願いします……」
 元々貧困な最果ての村を見下してる典型的な『お貴族様』だからな……彼を村に馴染ませるには骨が折れそうだ……

「そして、この子が水の国の海で仲間に引き入れた、リディアです! じゃあ、リディア変身解除して」
「良いのカ?」
 変身解除してクラーケン形態にさせる。

「おおぉ!?」
「何だアレは!?」
「五日前のとは違う怪物だぞ!?」
 五日前ってのは、多分川掘削開始前に遭遇したフレアハルトら、レッドドラゴンのことだろう。屈強な男どもが凄い勢いで逃げてきたし。 (第61話参照)

「リディアは、クラーケンという高位種族でね、見た目は大きくて威圧感あるけど、優しい子だから仲良くしてあげてね」
 紹介が終わって、再び人型に変身する。

「みんなよろしくナ!」
 初めて怪物に当たる生物が村の一員になったということで、みんなザワザワしている。
 まあ、みんなが気付いてないだけで、村入りしてる怪物は初めてではないんだけど……

「本当に大丈夫なんだろうか?」
「恐いな」
「あ、でもケルベロスはでかいけど無害だったぞ?」
「アルトラ様が連れて来たからには大丈夫なんだろう」
 それぞれ声が聞こえて、リディアが不安そうにしているが……
 これはまあ、時間が解決してくれるより他はない。時間をかけてリディアが無害だということを知ってもらわなければ。

「大丈夫よ、リディアが悪いことしなければ、村の人たちも好きになってくれるから。色々とお手伝いしてあげて」
「わかっタ……」
 大勢の人を前に、若干萎縮気味だ。
 ただ、この村の順応能力はかなり高い。ケルベロスの時は恐がってた翌日に、すでに撫でに来てた子供がいたくらいだ。きっとリディアも問題無く馴染んでくれることだろう。

「さて、今から水の国アクアリヴィアのお土産を配ります!」
「お土産?」
「何ですかそれ?」
 全員色めき立つ。
 お土産の文化は多分無いだろうけど、「配る」って部分を聞いて、何かくれるのだと判断したんだろう。
 水族館で買った、チョコクッキー、人形焼き、骨鯨せんべいを配る。

「わぁー! 何か良い匂いですね!」
「ホントだ! 甘くて良い匂い」
「俺はこっちの香ばしい匂いの方が好きだな」
「じゃあ、一口、美味しいー!」
「甘い! さすが街の食べ物だな!」
「こっちは甘じょっぱくて美味いな」

 どれを取っても、まだトロル村ここには無いから美味しいに違いない。
 男どもばかりでこの反応なのだから、一般的にスイーツが好きな女の子にも受けがいいはず。
 とは言え、残念ながら村中に配るほどは買ってきていないから、関係各所に配るくらいになってしまうが……
 せっかくだからこれらを参考に、ハンバームちゃんに名物でも作ってくれるように頼んでみよう。

「あと、男どもにはこれを」
 買って来た酒を出す。

「それは何ですか?」
「お酒って言ってね、飲むと気持ち良くなる飲み物よ」
 自分で言って気付いたが……この表現だと何かヤバイクスリみたいな気がする……

「ただ仕事中に酔っぱらわれると困るから夜だけ飲むようにして」
 まあ、私はザルだったから一度も二日酔いになったことなんてないけど。

「アルトラ様、水の国楽しかったッスか?」
「え、まあ面白い国だったよ……って、ナナトス!?」
「一人だけ楽しんで来てズルいッス!」
「遊びに行ったんじゃなくて、仕事頼みに行ったんだし……ところで、あなた筋肉疲労で今日お休みなんじゃなかったの?」
「何か楽しそうな気配がしたから、動けない身体押して急いで来たッス!」
 第六感かスキルの一つかな? 楽しそうなところを見逃さないスキルとか。

「じゃあ、ちょうど良かったね、今お土産配ったところだから」
「遠慮なくいただくッス!」

 その時フレアハルトが小声で話しかけてきた。
「アルトラ、ちょっと話がある」
「なに?」
あの娘リディアが正体を明かしたということは、我もそろそろ明かして良いということなのか?」
「ごめん、あなたはもうちょっと待って」
「何で我は正体を明かしてはダメなのだ!」
 私の予想と一言一句同じこと言ったよ……

「しっ! 声が大きい……あなたはこの地域で知られ過ぎてるから、もう少し時期を見たい」
 手を合わせてお願いする。
「もうちょっとだけ辛抱して! それにリディアはまだ幼いからか、寝ている間に変身が解けちゃうことがあるの。突然村に巨大な魔物が出現したらパニックになるかもしれないと思って、前もって明かしておくことにしたの。もしリディアがあなたと同じくらいの年齢なら隠させたけど」
「ム……そういう理由があるのなら仕方ないか……」
 こういう風にちゃんと理由付けすると、フレアハルトは素直に引き下がってくれることが多いのよね。

「さて、新顔紹介も兼ねた休憩も終わったところで、川作りを再開しましょうか。ここからは分担作業をしてもらいます。フレハル組、イチトス組は今まで通り川の基礎部分の掘削をお願い。ダイクー組、カペンタ組はドワーフの下に付いてもらって、堀ったところを整地、固めの作業に入ってもらいます。ここからは私より、専門家のドワーフの指示に従ってください」
 私じゃわからんとこ多いだろうし……

「じゃあ、俺っちはここで失礼しますッス」
 作業が始まる頃にナナトスが退散しようとする。

「食べるだけ食べておさらばするつもり?」
「筋肉痛で痛いんスよ」
「じゃあ明日からちゃんと頑張ってもらおうか」
「いや、自由参加ッスから」
 まあそうだが……
 仕方ないのでナナトスは帰す。

 あ、それなら休んだ作業員にお土産持って行ってもらおう。
「待って、じゃあ今日参加できなかった作業員にこれ持ってってあげて」
 買って来たお土産を包んで渡す。

「えっ? 自分がッスか? 身体痛いのに?」
「ここまで来る元気があるんだから、死にゃしないわよ。配るくらいできるでしょ? その後は休んで良いからお願い」
「人使いが荒いッスね……わかりましたッス……」
 面倒なこと頼まれたな、って顔をしているけど、作業に参加してくれてる人が、たまたま今日休んだからってご褒美を貰えないのはおかしいからね。
 ナナトスが来なければ、私が配りに行ってたところだけど、都合良く来てくれたから帰るついでにお願いする。



 果たしてフレハルが正体を明かせるようになるのはいつになるのでしょう……

 次回は10月21日の20時22分頃の投稿を予定しています。
  第92話【コンクリート固めは専門家に任せ、アルトラは村へ】

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