魔界の天使アルトラの国造り奮闘譚

ヒロノF

第54話 再び襲来レヴィアタン(魔界にある国と国家元首の代替わりについて)

 翌日。
 昨日に引き続き朝から豪雨だ。
 今日は川のマーキング作業はお休みね。彼らには中止とは伝えてはいないけど、この豪雨では手伝いに来ることもないでしょう。
 昨日レイアが雨の時の杭の処遇について気付いてくれなければ、またゼロからやり直さなきゃならなかった。
 さて、じゃあ今日は我が家でのんびりしようか。
 そう思って寝転んだ直後――

 コンコンコン

 滅多に人が来ない我が家にノック音。誰か来た。この豪雨に?

 ガチャ

「はい、どちら様?」
「やっ、お久しぶり!」

 レヴィアタン!?

「な、なんであなたが?」
「そんな警戒しないでよ、別に取って食うってわけじゃないんだからさ」
「な……何をしに来たんですか?」
「ただの暇つぶしよ」
「こんな豪雨の日に!?」
「あ~、私、水棲生物に近いから、水が沢山ある時の方が調子が良いのよね」

 つまり、この間はまだこの辺灼熱の大地が冷えたばかりだったから本調子ではなかったってことかな……
 まさか……雨が定期的に降るようになって侵略の条件が整ったから襲撃に来たとか?

「あなたがここでどんな活動をしているのか、女王として視察に来たのよ」
「女王って誰のことですか?」
「私、私」
 自分を指さすレヴィアタン。

「えっ!? あなた女王様なんですか!?」
「まあ、この土地じゃなくて、隣の水の国の女王なんだけどね」
 女王のたたずまいが無い!
 いや、それよりオルシンジテンからは『魔王』としか聞いてないぞ?

「地獄の入り口であるこの場所は、中立地帯でどこの国にも属してないの。そこに家を建てたヤツがいるって噂が立ったから、この間は個人的に視察に来たのよ。この中立地帯は色んな国と国境を隔ててるから、水の国以外からも視察に来るかもね。まあ、うちの国への報告は、『問題無いどころか環境が改善してた』って報告しておいたから大丈夫よ」
 私はそんな大変なところだと知らずに自分好みに作り変えてたのか……
 後で各国から袋叩きに遭うとか大丈夫かな?

「しかし女王様、失礼ながら女王様の装いではないように思えますが…、それに護衛などはおられないのですか?」
 どう見ても際どい格好のお姉ちゃんにしか見えない……

かしこまらなくても普通に話して良いよ。今日も王宮抜け出して視察に来たからね、正式な公務じゃないし。それに転生前の私とあなたの間柄じゃない」
 全然記憶に無いから、ただただ恐縮でしかない……女王様とそんなに打ち解けて話をしていたなんて、転生前は一体どんな関係だったの?

「じゃあ、お言葉に甘えて普段使いの言葉で対応させていただきますね。女王様が王宮抜け出してフラフラしてて大丈夫なの?」
「まあ私強いし、書き置きくらいは置いてきたから問題ないでしょ、今日の公務は私必須じゃないからいなくても部下がやってくれるし」
 自由奔放な女王様だなぁ……
 今王宮は大騒ぎなんだろうな……それとも度々抜け出したりしてるのかな?

「あ、じゃあ来てもらったついでに国について聞きたいんだけど」
「なに? 今暇だし答えられるものなら何でも答えてあげるよ」
 暇って……公務は?

「じゃあ早速、この魔界っていくつ国があるの?」
「ベルゼビュート、あなたは七つの大罪って知ってる?」
「人間界では有名だけど…」
「主な国は七つね。その大罪を司る七人がそれぞれ国を収めてるわ。他にも小国がその3~4倍くらいあると思う。これらは増えたり減ったりするから正確な数はわからないわね。まあ良い国もあれば悪い国もあるよ。私の国は比較的穏やかで良い国だと思うよ」

 自画自賛ね……
 でも、魔界にも良い国ってあるのね。『魔界』っていう文字のイメージで、魔界全体が修羅の国かと思ってたわ。

「その七つの国ってどんな特徴があるの?」
「そうね……火の国ルシファーランド氷の国アイスサタニア風の国ストムバアル土の国ヒュプノベルフェ樹の国ユグドマンモン雷の国エレアースモ、そして私の水の国アクアリヴィアがあるわ。特徴は大体頭文字の通りね。火の国は熱いし、氷の国は寒いと」
 特徴がそのまま国の特徴になってるわけか。じゃあ火の国って、もしかして冷える前のここより暑かったり? そんなとこに生物が住んでられるのかしら?
 しかし、火の国の名前の主張性……火の要素が全く無いうえに『傲慢』の大罪ルシファーの名前がそのまま入ってる。流石『傲慢』。自己主張が強い……

「この中で、火と氷の国はあまり良い話を聞かないわね、凄く住みにくい国になってるって聞いてる。この二か国は王様がとてつもなく曲者でね……特に火の国の魔王はひざまずかないだけで殺してしまうって噂を聞くわ」
 何か昔の大名行列で、土下座しなかった人が切り捨て御免されるみたいな感じね……

「土の国はよくわからないわね、沈黙の国って言われてる。ここは最近になって王様の魔力の影響で国の情勢も動いてないって噂。以前から停滞を繰り返してたんだけど、今の王様に代替わりしてからは停滞期間が多くなったみたい」
「停滞期間ってなに?」
「土の国の王様の魔力は、『怠惰』の魔力だから、数ヵ月眠りにつき、数週間起きるってことを繰り返すのよ。それも多くの国民が」
「それで国が成り立ってるの?」
「七つの国全てが創立以来数千年の歴史があるよ」
「何でそれで成り立ってるの!?」
「詳しくは国交が無いから私も知らない。興味があれば行ってみたら良いんじゃない?」

「樹の国は賢王って言われてる王様が300年くらい治めてるわ。私の国とも少しだけお付き合いがあるね。その名の通り自然が多く、草木が生い茂る王国で、作物とかも美味しくて良い国よ。今言った四つの国は、樹以外の三国は、私の国とはほとんど外交が無いわ。風と雷は私の国と友好国ね」

 え~と、まとめると、火と氷は危険、土はよくわからない、樹は自然が多くて良い国ってとこか。風と雷は水の国にとっては友好的な国ってことかな。

「水と雷なのに友好的なの?」
「まあ、確かに私たちは雷属性が苦手ではあるんだけど、攻撃されない限りはそんなこと関係ないしね。風は元々あなたが治めていた国よ?」
「えっ!? 私の国?」

 明後日の方向からいきなりパスが回って来た!
 ここで風と慈愛の神バアルの設定が活きてくるのね。
 私が彼女の国と国交がある風の国を治めてたからレヴィアタンともこんな関係が作られているわけか。

「今は誰が治めてるの?」
「アスタロトっていうあなたの眷属だった子よ」
 私が魔界に戻って来たって知ったら、邪魔だからと亡き者にしようなんてしないわよね?

「その人に代替わりしてからの国交は変わらなかったの?」
「変わらなかったね、あなたの部下ってことで外交では常にそばで控えてたから、こっちの国のこともよく知ってただろうし」
「その人と私はどんな関係だったかわかる?」
「腹心の部下だったみたいだし、仲良かったんじゃないの? まあ私から見てだから真の内情は知らないけど。あなたがいなくなった後にかなり取り乱してたみたいよ」

 なるほど、色々聞いてしまったことによって一度にいろんな面倒ごとが押し寄せた気がする……
 国について聞かない方が良かったかな……?
 何も知らずに生活してた方が楽だったかもしれない。
 国の問題に巻き込まれるのは面倒だな。なるべくこの中立地帯から出ないようにしよう。
 国同士の衝突は避けたいし、ましてや魔王なんてなるべく相手にしたくない。

「ちょっと疑問に思ったんだけど、何でここが中立地帯になってるの?」
「ここって何がある?」
「地獄とか?」
 と言うか地獄への入り口しか無い。

「そう、可能か不可能かは別として、もし地獄を掌握できたらどうなると思う?」
「死者の軍団が作れるとか?」
「主な理由はそんなところね。地球に人間が生まれて以来存在してるものだから、あの地獄の門の先に一体何億人、何兆人、何京人いるかわからないからね。一つの国が支配することが出来ればパワーバランスが一気に傾くでしょ? 仮に他の六つの国が結託して戦ったとしても地獄を手にした国に勝てないでしょうね。それどころか魔界全土が結託しても勝てないかもしれない。だから七つの国全てが納得した上、牽制という意味で中立地帯ってことにしてるわけ」
「じゃあ、私はここを離れた方が良いのかな?」
「悪用しようとしなければ大丈夫だとは思うんだけど……突然現れたどこの国にも所属してない人物だから対応に困ってる国は多いかもしれないね。私も見知ったあなたでなければ攻撃的な態度を取ってた可能性があるし。私の国と国交のある国には無害であることをそれとなく伝えておくけど、今後他の国の訪問客も来ると思っておいた方が良いよ。場合によっては攻撃されることもあるかも。もういっそ地獄の門の守護者でも名乗っちゃえば?」

 うわぁ……面倒くさいところに家建てちゃったな……
 でも、もうトロル村ほったらかして別のとこ行くわけにはいかないし……

「ところで、あなたたちって何千年の昔からの伝説の存在よね? 国を何千年も同じ状態で維持するって可能なの? 例えばさっき言ってた火の国はひざまずかないだけで殺されるって……国民いなくならない?」
「ちょっと認識の齟齬そごがあるみたいだから教えておくね。私たち魔界の生物だからって永遠に生きるわけじゃないの。天使は何万年と生きるけど、私たちは凄く長く生きられてもせいぜい千年程度。稀に数千年生きるのもいるけど、大抵は数百年。短かければ数十年って短命で死ぬのもいる。今の火の国の魔王はここ十数年、数十年くらいの間に代替わりした魔王なのよ」
「七つの大罪ってずっと同じ人じゃないの?」
「大罪スキルを宿主とした者が次の七つの大罪になる。七つの大罪とそれに対応した堕天使は同一の存在と考えてもらえると簡単かもね。要するに何千年生きてるのは器の私たちじゃなくて、私たちに宿る大罪スキルたちに封印された堕天使のことね。私の名前は元々はレヴィアタンじゃなくてビスマって言うのよ」

 歌舞伎とかで言う襲名みたいなもんかな?

「七つの大罪も、魔界に堕とされてもう何千年を経ているから徐々に浄化されていて、継承しても問題無く生活できるのが普通なんだけど、ごく稀に大罪との相性が良過ぎて元々の性質が強く表れるヤツがいるの、それが今の火の国の魔王」
「突然暴君が誕生したってこと?」
「そゆこと」
「何で七つの大罪が主要国を支配するの?」
「それも難しい質問なんだけど、一つはやっぱりその強さによるところかな。強い者が王様に相応しい、みたいな感じ。七つの大罪を得ると魔王としての力を継承するから並大抵の亜人や魔人では全く歯が立たなくなるしね。私が強いのも大罪に依るところが大きい。もう一つは七つの大罪を持っている者が王様になると国が豊かになる傾向があるのよね。だから代々継承者が王様になる風習が生まれたってとこかな。もちろん逆に国を疲弊させることも無いとは言えないけど、傾向として考えると豊かになってる方が多いみたい」

 「大罪」なのに国が豊かになるなんて変わった特性ね……
 欲望で物を引き付けるとか、そういうオカルト染みたことかしら?



 今回、地獄の門がある場所が中立地帯であること、魔王の存在意義、国の設定などを考える上で、特徴などでかなり迷いました。
 地獄の門がある場所がなぜ中立地帯なのか。
 魔王は数千年生きてる設定にするか、代替わりする設定にするか。
 国とそれと関係する魔王にどんな特徴を与えるかなど。
 なるべく矛盾が出ないように設定を作ったはずですが、矛盾を見つけた方は教えていただけると嬉しいです。

 次回は9月14日の20時頃の投稿を予定しています。
  第55話【再び襲来レヴィアタン(『創成魔法』が奪われた!?)】

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