魔界の天使アルトラの国造り奮闘譚

ヒロノF

第16話 トロルズコミュニケーション(改)

「それで私どもに何のようですか?」

 態度が急に紳士的になったな。格好は腰巻きだけでほぼ裸だけど……
 これが噂の変態紳士ってやつか。
 初めて遭った時は怪物並のきょだと思ってたけど、こうしてきちんと対面してみるとそんなに大きくないな。
 生前の私の身長は大体百六十センチだから、まだその感覚が抜けておらず二メートル超えてるのかと思ったけど、転生後の身体は生前より小さいから、多分その差を考えると百八十センチくらいかな? 普通の人間の少し大きい人と変わらないくらい。
 あと……よく見るとやっぱり細いな……初遭遇の時はかなり怪物補正がかかってたんだな。

「この集落は凄く貧乏に見えます、食べるのに困っているのではないですか?」
「確かに日々獲物を捕まえられなければ、その日は何も食べることができないでいます。この辺りには熱に強い狼くらいしかいないので、狩りをするのも命がけです」
「じゃあ作物を育ててみませんか?」
「作物? 先日大量の水が空から降ってきて熱さは和らぎはしましたが……灰とすすだらけのこんな土地で作物が育つとは思えません」

 『大量の水』……
 彼は『雨』のことをそう表現した。
 このトロルたちは、この地で雨というものを経験したことがないのかもしれない。
 何百年、何千年、もしかしたら何万年かもしれない。ずっと灼熱の大地だったから。
 生物にとって水は必要なもののはずだけど、この人たちは水が必要ないように適応進化しているのかも?

「ここで育てることが出来る作物の種を私が用意します」
「そんなことが可能なんですか!?」
「少し時間がかかるかもしれませんが、何とかします。作物を作るには水が必要ですが、水の流れる川は近くにありますか?」
「近くにはありません、毎日ここからかなりの時間歩いたところにある川から水を汲んできます。川の近くには木が群生しているところがあり、村で使う木はそこから調達しています。水や木を取りに行くにも、狼より強い生物がいるため命がけです」

 周辺に植物あったんだな……私はこの辺一帯しか見て回らなかったから気付かなかった。
 火山帯から遠くなれば、少しは植物が育っている場所があるということか。
 いずれにせよ大地が熱せられた状態では作物が育つことはなかった。大地を冷やしたのは、現時点では正解だったと思いたい。

「狼より強い生物が入ってこないように、集落と外界を隔てる壁の穴には見張りを置いています」

 え? 見張り?
 見に行ってみる。
 ホントに居た……
 壁の内側からしか見なかったから気付かなかった。
 やっぱり、この壁を壊さないことには意味があったのだ。狼より強い生物が入ってくるのを防ぐ意味で、壁の一部分だけに穴を開けて、そこから食料その他を調達しているのだ。

 川までかなりの時間歩いたところか……かなりの時間ってどの程度なんだろう? 二時間とか三時間とか四時間とか? 仮にそれぐらいと考えると……遠いな……
 でも、川や木が生えてる場所も一応あるにはあるんだな。これはちょっとした収穫かも。歩きで仮に四時間かかると仮定するなら私なら三十分かからない。
 水が必要無いように進化しているのかと思ったけど、生物である以上はやっぱり水は必要らしい。

「先日の空からの大量の水で、この辺りの水不足が大幅に改善されました」

 あれはやっぱり正解だったのかな。

「空からの大量の水……ちょっと言いにくいですね……今頭に浮かんだ言葉があります。仮に『滝』という名前にしましょうか」

 惜しい! 落下してくるのは同じだけど大分様子が違う!

「あれは、滝じゃなくて雨と言います」
「既に名前があるんですね、では雨と呼ぶことにします。あの雨が降ったくらいの頃から、この地を光が照らすようになりました」

 その光作ったのも私です。

「ただ……この地に水をとどめる力が無いのか、水はすぐに消えてしまいました。確保できている水ももう残り少ないので、間もなくまた水汲みに出なければならない時が訪れるでしょう。それと、あの雨が降った頃から急激に寒くなり、すぐに少しだけ温かくなりましたが、今も寒さに震えています」

 そりゃあ、そんな腰巻きだけの格好じゃ寒いだろうよ……早いところ、衣食住全て改善してやらないとならない。
 ん? ちょっと待って?

「さっき確か木が群生しているって言ってたけど……」
「生えてますよ、川のほとりに黒ずんだ葉っぱの木ですが」
「それって光が無くても育つ木なんですか?」
「木って光が無いと育たないものなんですか?」
「少なくとも私はそういう認識でいました」

 影で育つものなんて、コケやカビくらいかと思ってたけど……この世界には光が無くても大木に育つ木があるのか。
 じゃあ無理に太陽を作らなくても良かった。
 ………………いや、やっぱり太陽無いと鬱になりそうだから必要ね!

 住環境となるトロルたちの家も酷いものだが、それよりもまずは食を何とかしないと生命を繋ぐことができない。結果衣食住の『住』は後回しだ。
 喫緊きっきんの課題はやはり食と水、その次にあの男性は腰巻き、女性は胸当てと腰巻きしかない服装の改善だ。

「わかりました、それらも私が解決します。あなたの名前は何と言うのですか?」
「リーヴァントと言います」

 予想してたが、この人がさっき話題に出てたリーヴァントか。
 姿に似合わず何かカッコイイ名前だな。

「ではリーヴァント、今からあなたをこの集落のリーダーに抜擢ばってきします。この食料を集落の皆に分けてください」

 あらかじめ狩っておいたガルム十匹を空間魔法で取り出す。
 それを見ていたリーヴァント含め、数人の村人から「おおぉ!?」という声が上がる。

「水はあと何日分くらいありそうですか?」
「そうですね……普通に使って三日、多く見積もっても五日というところでしょうか」
「わかりました、その間に何とか解決策を考えます」

 一日くらいは水を飲まなくて良いとすると、タイムリミットは六日ほどか……

「では、私は一旦帰ります」

 おっと、帰る前にまだやっておくべきことがあった。
 リーヴァント以外の村人の知性も上げておかないと。

「今から集落の住民全員を集めてもらえますか? 女子供赤ん坊年寄り至るまで全員を」
「な、何をするつもりですか?」

 かなりおびえがあるな……私にはこのトロルひとに対して前科があるし仕方ない……
 まあ、「女子供赤ん坊年寄りまで全員集めろ」なんてセリフ、アニメや漫画でも村を滅ぼしに来た悪いやつからしか聞いたことないし、不安も当然か。

「危害は加えないと約束します、必ず一人も漏らさずに連れてきてください」

 そうしないと、全員に魔法かけられないから、一人だけおバカとか出てきちゃうしね。

   ◇

 しばらくして、村の全員がここに集まった。

「いない人はいませんね?」

 何か学校の先生が点呼を取るようだ。
 しかし、集まった人数多いな……千人くらいいる? これMP足りるかな……
 全員集めろって言った手前、出来ないとは言えない……人数甘く見積もってた……集落だからせいぜい五百人くらいかと……
 ガルムも十匹だと一匹当たり百人で食べないといけない。明らかに少ない……帰る前にもう二十匹くらい狩って持ってくるか。

「村外れのタイレンがおらん」

 まだ来てない人いたか。
 また少し待つ。

   ◇

 タイレンらしきトロルが遅れてやって来た。
 もういない人いないでしょうね?
 まあ漏れてたら後から個別に掛け直せば良いか。

「コホンッ……では! 【全体的永久的エターナル・ハイ・遺伝的知性インテリジェンス上昇 (大)・オール・ジーン】」

 集まった村人全員に知性上昇の強化魔法をかけた。これで集落の全員の知性が上がったはずだ。
 我ながらチートじみた力だ……
 でも、ドッと疲れた……どれくらいMP持って行かれたんだろう……
 一応次の世代まで影響するように『遺伝的』って意味も込めてみたけど、実際のところは次の世代までこの強化魔法が続くかどうかはわからない。

 しかし、これでもう私を食べようとは思うまいよ……多分。



 今回はおバカだったトロルの知性が劇的に引きあがりました。

 次回は8月7日の20時頃の投稿を予定しています。
  第17話【嫉妬の王襲来】

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