魔界の天使アルトラの国造り奮闘譚

ヒロノF

第11話 疑似太陽の創成

 今日は植物を育てる方法を模索するため、庭に出てきた。
 昨日、オルシンジテンで木が自然発火する温度を調べたら四百五十度らしいことがわかった。
 私にはせいぜい猛暑日くらいの気温にしか感じられないから、そんな超高温の中、日々生活していた事実に驚きだ。

 今思い返してみると、毎日入ってるお風呂、必ず少ししたら泡が出てくるけど……あれってジャグジーじゃなくて、沸騰してたってことなのかな?
 スキル『水感知』で感知可能な温度が四十三度くらいまでだから沸騰してても気が付かなかったのね……私は風呂釜でグツグツ煮られてたのか……
 ケルベロスを見る。

「アイツ何で四百五十度の高温の中平気でいられるの? 人間だったら多分即死する温度よ?」

 相変わらずアホみたいに媚びてくる犬。

「昨日フラフラ歩いて来た亡者はもう死んだ身体だから熱さとか大丈夫なのかな?」

 そういえばオルシンジテンが昨日「死者は一定期間、または、恒久的にほとんどの思考能力を無くします」って言ってたな。
 “または”ってことは、思考能力が戻ってくるやつもいるってことだよね?
 この熱さの中思考能力が戻られても、更なる地獄ね。何も考えずに働いてた方がよほど幸せかな。まあ、苦しませることで魂の浄化を図るらしいし、そのための地獄か。

「トロルたちにも熱耐性があるのかな?」

 生前幻想生物を描いた本で、トロルは生命力が高く適応力があるって話を見たことがある。切断されても再生するやつがいるとか。熱に適応しててもおかしくない。
 まあ……私がトロルだと思って、勝手にトロルって呼んでるだけで、実際は何の種族なのかわからないんだけども……

「じゃあ狼たちは?」

 地獄の入り口付近にいるような生物だから、適応しているとも考えられる……見た目赤いし。それは関係無いか。
 この間歩いてみた感じでは、トロルよりも地獄の門広場に近いところに群れが居たから、熱への適応力はかなり高いと思われる。
 もしかしたら、熱に強いコイツケルベロスの眷属か何かなのかもしれない。
 何か前に見たことあるな、冥界にいる狼……たしか……『ガルム』?
 あの狼は仮にガルムと名付けよう。

 と言うより、これらの生物は“この場所”で生まれているので、そもそも環境に適応できてる生態なのかもしれない。
 ただ、トロルの集落はこの間歩いた感じから推測すると、ここから多分五十キロくらいは離れてるから、火山が密集しているここよりは大分熱くない可能性がある。

 まあ、そんなことは今はどうでも良いや。
 当面の目標は、どうやってここに植物を植生させるかということ。

「私の魔法は生命は作れないけど、植物は作れるって言ってたはず」

 試しに、樹属性と火属性を組み合わせて、自ら燃える芽を作ってみる。
 自ら燃えてれば、熱にも耐性があるはず!
 樹魔法で成長促進させ、成木にする予定だったが、育たない。

「あれ? 樹魔法って植物作れても成長はさせられないの?」

 それならと昨日、時間魔法という系統があるとわかったので、芽の周りの時間を早めて実が実る大きさにまで成長させてみようとした。
 が、時間を早めているのに成長はせず、芽が出ただけであっという間に枯れてしまった。

「あれ? これでも無理だ。何で?」

 私の時間魔法がダメだったのかな?
 試しにその辺に落ちてる少し大きめの石を持って、時間を一万倍に早めるイメージで魔力を込める。少し経った後表面がボロボロ崩れて風化していく。
 時間魔法は問題無いようだ。
 しかし、今使ってみて思ったけど、この時間魔法ってかなり危ないな。生物にかけようものなら即座にちりと化しそうだ。今後注意して使おう。

「何がダメなんだろ?」

 ……
 …………
 ………………

 そこで植物の生育に必要なものを思い出した。

「あ、そうだ! 光合成だ! 植物って光が無いとダメなんだ!」

 植物には光による光合成が必要なのだ。
 地球上最悪の侵略的植物である『ナガエツルノゲイトウ』でさえ、太陽光が無いと枯れてしまうって話だ。

 ちょうどこの空の鬱々うつうつとする赤暗さを何とかしたいと思っていたところだ。
 そこで、時間魔法と光魔法を組み合わせて疑似的な太陽を作ってみようと思う。
 これだと熱を発しないので、火魔法も含めたいところだけど、今火をプラスするとこの場所が更に熱くなってしまう可能性が濃厚なので、とりあえず光魔法と時間魔法だけで作って、この場所の熱問題を解決したら効果をプラスしようと考えている。

 光魔法で疑似的な太陽を作り、空のちょうど良さそうなところへ浮かべる。
 時間魔法で二十四時間周期で一定の間隔を移動するように設定する。
 これらを組み合わせて、移動ルートを設定。魔界がどの程度広いかはわからないから、端から端を疑似太陽で照らすというのはちょっと無理がある。
 そこで、日が沈む時には地面に接触した時に光が消え、翌日の日の出にまた光が付くという方法に設定する。疑似太陽の日の出から日没までの移動範囲は…………う~ん……百キロもあればこの生活圏なら十分だろう。百キロに設定した。
 一応日の出と日没の場所に生活圏のある生物がいるかどうかも確認に行ったが大丈夫そうだった。
 ちなみに、日が沈む地点に行けば疑似太陽に触れることができるが、触れたところでダメージとかは無い。まあ、まぶし過ぎて近寄ることが難しいかもしれないけど……
 “触れることができる”というのはちょっと間違いかな。光だけがそこにある状態なので、物質的な意味で触れられるという意味ではない。

「東西の方向がどっちかわからないな……じゃあ、適当に広場の中央から見て、地獄の門のある方向を北ってことにしようかな」

 昔の人は北は死の方角って言ってたしね。

「いや、オルシンジテンにけば良いんだ!」

 そういうわけでオルシンジテンにいたところ、適当に言った地獄の門のある方向が北だったらしく、どちらにしても問題無かった。
 北の方角も分かったので、疑似太陽が広場を横切るように設定した。
 ちなみに、トロルたちの集落は南の方角にある。

「よーしっ! これで疑似太陽の完成だ!」

 と、思ったのだが――

「……暗い……光が出来て明るくはなったけど、暗いわ……」

 その原因を考えてみた。
 きっとこの空の色が原因だ。
 現在の空の状態は、疑似太陽という光源は出来たものの、空自体は真っ黒な状態。
 これを地球で表すと、真っ暗な夜に野球のナイターの白熱灯を点けたような感じ。
 太陽を作っても空が真っ黒だから到底昼間の景色には見えない。『昼間である』と認識するには“青い”空が必要というわけだ。

「確かオルシンジテンが『小規模な範囲・十分な魔力があれば景色ごと書き換えることも可能です』って言ってたから、疑似太陽が動く範囲プラス五十キロくらいの範囲を青空に書き換えよう」

 空間魔法を使い、疑似太陽に地球と同じ空を再現する効果を付与してみたところ、真っ黒だった空が突然青色に変わった。

「おぉ!?」

 真っ暗な空が瞬時に青空に変わったため、作った私自身がビックリしてしまった。
 しかし小規模範囲ながら、これで一応地球に居た時と似たような景色を再現出来たと思う。

 早速、疑似太陽の効果範囲の端、“空の端”を確認に行ってみようか。

   ◇

 というわけで“空の端”まで天使の羽を使って飛んできた。

「疑似太陽が正午になるところが基点だから、半球状に空が再現されているんだけど……」

 “空の端”に着いてみると、その光景はかなり異様だった。
 書き換えたのは疑似太陽の範囲プラスαだからその効果範囲を出ると……一瞬で真っ暗に変わる。

「疑似太陽の効果範囲内を見れば青空、でもその外は真っ黒か……何て歪な空なんだろう……」

 青い空と黒い空の間にグラデーションの部分が全く無いため、まるでこの世の終わりかのような様相を呈している。

「まあ、これで生活圏くらいは明るい光の環境で過ごせそうだ」

 雨が降らないから年中晴れなんだけど、そこは魔界だから仕方がない。
 昼間の時間帯に“光がある”という事実だけでも、幾分か心が安らぐ。

 でも、我が家に戻ってみると……
 私にとっては太陽が出来て良いことなのだが、何だかさっきからケルベロスの様子がおかしい。萎縮して怯えてさえ見える。
 そういえば、ケルベロスって太陽の光が苦手だって設定があったな。ヘラクレスに陽の光の下に引きずり出された時に怯えてたんだっけ。まあ、あれは真っ暗な地底の環境下から、突然光の下に出されたからビックリしただけらしいし、そのうち慣れるでしょ。

「よし! 本日は雲も無く快晴だ!」



 活火山が周囲に七個あって、外気温を450℃に設定しましたが、これが無理があるだろうと思った場合は、火山が何個あれば450℃に達するか教えていただけるとありがたいです。
 火山七個あれば450℃くらいに達するのではないかとある程度適当に設定したため、間違いである可能性が高いと思っています。

 次回は8月2日の夜頃の投稿を予定しています。
  第12話【燃える木、凍てつく木、潤いの木】

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