怪獣対巨人!赤灼鋼帝レッドカイザー 始まりの炎と無限の宇宙

牧名もぐら

第五話 レッドカイザー、暴走-10

 路肩に止められていた車と言う車の影から人が飛び出してくる。左右合わせて二十人近い武装警察が、盾を構えて一斉に車両へ寄った。前方と後方の車には六人ずつ、ユイの乗った中央の車には八人が迫ると、ドアの死角に隠れるように動いた。護衛の男が銃を抜いた。
 窓に手が伸ばされ、一見除細動器のようなものが当てられる。思わず耳を塞ぐような高周波が車内を襲った。出力が徐々に上げられていき、突然窓ガラスが砕け散る。即座に何かが車内に投げ込まれて、護衛の男はそれを即座に外へ返そうとしたが、がら空きの窓が盾で塞がれた。投げ込まれたこぶし大の物体は煙を吹きだし、瞬く間に車内を満たす。
 車内の人間はいっせいに口を覆い目を瞑った。護衛の男がドアに体当たりをするように車外へ飛び出すと、ろくな反撃も出来ないまま二人の盾持ちに押し倒され、無力化された。
 煙は車内で依然生み出されて、肉体の本能からか、ユイと幹部を含む四人も結局車を出た。咳込みながらも、全員が手を後ろに組まされその場で膝立ちをさせられる。ほかの二台の様子も似たようなものだった。
 いずれの車も後部座席と運転席は隔離されており、煙の影響を受けていない運転手は三人ともまだ乗ったままだが、それも時間の問題だ。
 一連の出来事は、一分とかからずに終わった。
 歩道には興味深げに傍観したり、携帯端末のカメラを向けてくる人がいた。野次馬はこれからどんどん増えるだろう。
 忙しくなく作戦隊員たちは動き回って、そこかしこで報告が飛び交う。
 包囲の外側にあった車から一人の男が降りて、彼に付き添うように三人の男が続いた。スーツ姿で、疲れた顔をしており、スーツはよれている。
 ユイの前に隊員の一人が立った。手に持った端末とユイの顔を見比べ、彼女を立たせると、スーツの男の方へ連れて行った。
「彼女か?」
 何かただ事ではない雰囲気を持つスーツの男は、うしろの会社員ふうの目立たない男に言った。
「はい」
「よし、じゃあ作戦成功だ。はじめまして、ジローです」
「ユイです」
 ユイは言って、軽く咳をした。
「すまんね、緊急だったもんで手段が荒くなってしまった。一応、政府高官や重要人物が誘拐されたときに使うスモークだから、後遺症はないと保証しておくよ。ほとんど見かけだけなんだ」
 ジローが首を振ると、ユイは彼らが降りてきた車へ案内された。一般車両に見えるが、おそろしく頑丈にできていると、ユイは乗るときに分かった。
 ジローは現場で指揮を出し、壁に使った車両に怪獣教の面々が押し込まれ、彼らの乗っていた車両も動かされる。多くなる野次馬と反比例して、混乱は終息の一途を辿っていった。
 ユイが車の後部座席で落ち着いていると、ジローが助手席に入って来た。一息ついて、シートに体を沈める。
「いや、災難だったね、お互いさま」
「アキ君ですか?」
「えっ、ああ、まあそうだ」
 ジローはバックミラーを動かして、座った姿勢のままユイを見た。
「そうか、君があのユイか。全て、知っているんだね?」
 ユイはその言葉の意味を理解して頷いた。
「君が攫われたと知ったアキ君は、俺の部下を脅……伝手に使って、早急に君の居場所を特定及び救助することを要請したんだ。大変だったよ、普通一時間でこんな部隊は出せない。でも、俺はこの街で結構な力を持っていてね。こうやって直々に現場に出ることで無理やり部隊を出すことに成功したのさ。連中、この街の有力者と繋がってる驕りがあったんだ。君を誘拐してどこへ連れて行ったのかあっさり分かったし、そこから街の東関門へ出ることは容易に想像できた。ホテルにいるときに仕掛けるのが理想だったけど、怪獣が出た」
 ジローは大きくため息をついた。
「怪獣が出るなら、レッドカイザーも出る。怪獣教は早々にホテルを去ると分かって、二ヵ所に部隊を配置した。本当はもう一ヵ所にも罠を張りたかったが、俺の持ち駒は直属の部隊十人と顔を利かせて無理やり引っこ抜いたあの二十人。正直これで上手くいくとは思ってなかったから、いっそ全て運任せにした。ふっ、誘拐判明から一時間半で被害者を取り返すなんて、ありえるかい? まったく……結果はこの通りさ。連中、ろくに武装をしていなかった」
「人を殺さないのがポリシーだそうですよ」
「へぇ? それは笑える」
 ジローはわずかに黙ってから、再び口を開いた。
「なんで、こんな話をしたのか分かるかい」
「もう“身内”だからですか」
「話が早いね」
 ジローはユイを身内に引き込もうとしている。作戦内容とことの顛末を詳細に聞かせれば、あとから何とでも理由をつけて“知ったことへの責任”を追及し、監視や身柄の拘束という名目のもとにユイを手元に置くことができる。
 そうする理由は、当然アキだ。もはや制御の効かない弾頭と化したアキに対する安全装置で、人質でもある。ユイにはそれだけの価値があるとジローは判断したし、そのためにここまでの無茶を通した。
 ジローにとってアキの制御は重大な課題なのだ。
 アキの傍若無人ぶりはユイもよく知っている。彼は変わってしまった。家族が、自分が消えたことで空いた穴が、暴力への潜在的な渇望によって埋められてしまった。
 その穴を自分なら埋め治してあげられるかもしれないと、ユイは思った。
 同時に、そうはいかないかも知れないとも。アキはその力の発露によってユイと出会うことができたのだから、ユイが戻ることで一層強い力への執着が生まれるかもしれない。
 アキの心にまだ付け入る隙があるか。自分はその隙に付け込めるか、ジローや他の人間が、自分をダシに同じことができるのか。
 ユイはよく考えた。それから眉をわずかに寄せて、唇を噛んでからようやく言葉を発した。
「お願いがあるんです」

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