見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~
六章 最終話
「どど、どうしよう。まさか、お兄さんの部屋に泊まる事になるなんて……」
俺の部屋だと答えると、今度は打って変わって声が小さくなるアン。うん、とりあえず、寝起きで知らない部屋で寝かされてたって分かって、取り乱しているのかもしれない。
とりあえず落ち着かせてあげないと。
「まあまあ、落ち着けって。色々気になる事はあるだろうけど」
「あうぅ……はい」
俺が落ち着く様に言うと、アンは顔を赤くし、気恥ずかし気に俯きながらも頷いて応えた。相変わらずキョロキョロとしてはいるけど。
うん、まあ後は時間と共に慣れてくれるだろう。
「よし、腹減ってるだろアン? もうすぐみんな起きてくるだろうから、朝飯の前に顔でも洗うといい。水は……」
そう言って、俺はストレージで適当な大きさの桶を生産し、その中に水魔法で水を張って手渡した。
「これを使っていいぞ」
「え? あ、はい。ありがとう、ございます」
アンは若干戸惑いながらも俺から桶を受け取ってくれた。
「さて、それじゃあアンが顔を洗ってる間に、マリー達を起こしてくるかな。ニーナさんにもアンが目を覚ました事を伝えないと」
多分フーリとマリーはそろそろ起きてるだろうから問題ないとして、ニーナさんはどうだろう?
もうとっくに起きてたりするんだろうか?
そう思い、俺が部屋から出ようとした時だった。
「お兄ちゃん、おはよう! 朝だ……誰?」
部屋の扉を勢いよく開き、アミィが部屋の中へと入ってきた。が、未だに俺の布団の上で寝起きの状態で座ったままのアンを見つけた瞬間、アミィの瞳からハイライトが消えた。
いや、比喩でも何でもなく、リアルに消えてる。
え、何あれどうやってんだ?
「ちょっとアミィちゃん、せめてノックぐらいしないと……どういうですか?」
更にアミィに続く様に、今度はマリーが部屋の中に入って来たと思ったら、アミィとまったく同じ反応をしていた。
いやだから、二人共怖いって!
想像出来るだろうか? 瞳のハイライトが消えた状態の人間二人に無言で見つめられる恐怖を。
こんなホラー体験するぐらいなら、魔物と戦っていた方がよっぽどマシである。
「二人共どうしたんだ? 突然黙り込んだりして……どういう状況なんだこれは?」
「フーリ! 俺は信じてたよ!」
流れ的にフーリも来るだろうとは予想していたけど、フーリだけは二人と違い、理性的な目をしていた。
流石はフーリだ。
「お兄ちゃん、誤魔化さないで!」
「何でここにアンちゃんがいるのか、説明して貰えますか?」
アミィはそもそもアンと面識すらないから、俺の部屋に見知らぬ女の子がいると勘違いしている様だ。
こういう時のアミィって、冷静さを失いがちなんだよな。
対してマリーはアンと面識がある分、聞き方も理性的……に見えるが、俺には分かる。
アレは理性的に見えて、根本的な部分でまったく理性的ではないという事が。
「フーリからも二人に落ち着く様に言ってくれない? 多分今の二人に俺の言葉はあんまり通じないだろうし」
「それは構わないが、きちんと説明してくれるのだろうな?」
「ああ、それはもちろん」
むしろ説明しないという選択肢はない。だって、これは二人にも関係ある話何だから。
「うむ、分かった」
そう言うと、フーリは一度二人の肩を掴むと。
「ほら、二人共、いい加減落ち着いたらどうだ? これじゃあカイト君が説明したくても出来ないだろう?」
と、至極真っ当な事を二人に言ってくれた。
「いや、それは……確かにそうなんですけど」
「姉さん……」
俺じゃなく、フーリに言われたからだろうか?
二人は思いの外アッサリと文句を言わなくなった。流石はフーリ。次からも使えるな、この手。
「ありがとうフーリ。それじゃあアンの事も説明しないといけないし、とりあえず朝飯でも食べながら話さないか?」
「ああ、そうだな」
「きちんと説明してよ、お兄ちゃん!」
「ええ、そうですね」
俺がそう言うと、三人共俺の言葉に頷いてくれた。
アミィとマリーはまだ何か言いたげだったが、とりあえずその反応に満足し、俺が改めてアンの方に振り返ってみると。
「あ、あの。私、本当にここに居ていいんでしょうか?」
と、非常に申し訳なさそうな顔で尋ねてきた。
「当たり前だろ? むしろ、いたらダメな理由がない」
アンには聞きたい事があるし、何よりここはアンにとって家族も同然の人が経営する宿なんだ。
ある意味アンにとっては第二の実家みたいなものなんだから。
「そうですか……うん、そうですよね。ありがとうございます、お兄さん!」
自分がここに居るのが当たり前だと分かったのか、そう言うアンの顔には、笑顔が浮かんでいた。
昨夜から見た記憶の無いアンの笑顔。それが見られただけでも、今の俺にとっては救いになる。
その後、俺の部屋が騒がしかったからか、ヴォルフとロザリーさん、それにニーナさんまでが俺の部屋を訪ねて来たので、俺はついでにそのまま全員で朝飯を取る準備を始めた。
「孤児院がもぬけの殻、ですか?」
そう言ったのは、ついさっき俺の事を視線だけで殺せそうな程冷え切った瞳を向けてきた人物。マリーだ。いや、冷え切ったというか、ハイライトが完全に消えてただけだけど。
今は誤解が解けたからか、いつもの状態に戻っている。
「ああ、そうだ。昨夜俺とニーナさんが孤児院に行った時には、アン以外誰もいなかった」
そう、アン以外誰も。
「だがカイト君。確か君は一昨日に一度孤児院に顔を出していたと思うのだが、その時には特に異常は無かったんだろう? たった一夜であの人数の人間が行方不明になるだろうか?」
確かに、フーリの言う事は尤もだ。
俺もそれは考えたのだが、実際に居なくなっていたのは確かだ。だからこそ、アンの話が重要になってくる訳で。
「それに関しては、アンに聞いてみようと思ってる」
そう言ってアンに視線を向けると、アンは一瞬だけビクッと体を強張らせていたが、すぐにその緊張を解いてくれた。
「なあアン、昨日孤児院にいったい何があったんだ? たった一晩で孤児院の人間が行方不明だなんて。いったい誰が、どうやって攫って行ったんだ?」
「えっと、それは……」
俺の質問に答えようと、アンは一度目を瞑り、考え込む様な仕草を始めた。
アンにとっても辛い話だというのは分かってる。でも、目撃者がアンしかいない今、アンの話だけが唯一の手掛かりなんだから。
「信じて貰えるかどうか、分からないんですけど」
アンがおずおずといった感じで口を開き、話し始めた。
「大丈夫だ。どんな荒唐無稽な話でも、俺は否定したりしない」
「そうだよアンちゃん、遠慮せず話してみて」
「どんな些細な事でもいい。こういうのは少しでも情報が多い方が、調べる側としても助かるからな」
フーリの言う通り、どんなに些細な事でも、それが事件解決の手掛かりになったりするものだ。
「えっと、それじゃあ話しますね」
俺達の言葉に納得したのか、アンは一度息を吐いてから、改めてその口を開いた。
「実は昨日、孤児院を訪ねてきた人がいて、その人達が孤児院の子供達とおじいちゃんの事を攫って行ったんだと思います」
思います、というのは、多分アン自身がその瞬間を目撃していない、という事だろう。あんな場所に一人で隠れられるとは思えないし、誰かがアンが入った後に上から蓋をした筈だ。
そして、その蓋をした人物は、消去法でリヒトさんしかいない筈だ。
やっぱり俺の予想通り、孤児院の子供達、それにリヒトさんは、誰かに攫われた、という事だろう。
「攫ってって……アンちゃん、その人の顔とか覚えてない?」
アンの話を聞いたマリーが、犯人の特徴をアンに尋ねた。確かに、それが分かるかどうかで、今後の捜索の仕方が変わってくる。
しかし、この後アンの口から出てきた言葉は、俺達の想像をアッサリと裏切るものだった。
「えっと、顔じゃないけど、真っ黒な鎧を着た、黒髪黒目の男の人でしたよ?」
「「「「「「っ!?」」」」」」
ヴォルフとロザリーさん、それと俺達三人が同時に息を呑んだ。
だが、それも仕方がない。
だって、俺達はその男の特徴をよく知っている。ヴォルフとロザリーさんなんかは特にだろう。
真っ黒な鎧を着た、黒髪黒目の男。その特徴は、今日勇者杯で漆黒の牙と戦う事になっている男――夜刀神拓斗の特徴そのまんまだったからだ。
俺の部屋だと答えると、今度は打って変わって声が小さくなるアン。うん、とりあえず、寝起きで知らない部屋で寝かされてたって分かって、取り乱しているのかもしれない。
とりあえず落ち着かせてあげないと。
「まあまあ、落ち着けって。色々気になる事はあるだろうけど」
「あうぅ……はい」
俺が落ち着く様に言うと、アンは顔を赤くし、気恥ずかし気に俯きながらも頷いて応えた。相変わらずキョロキョロとしてはいるけど。
うん、まあ後は時間と共に慣れてくれるだろう。
「よし、腹減ってるだろアン? もうすぐみんな起きてくるだろうから、朝飯の前に顔でも洗うといい。水は……」
そう言って、俺はストレージで適当な大きさの桶を生産し、その中に水魔法で水を張って手渡した。
「これを使っていいぞ」
「え? あ、はい。ありがとう、ございます」
アンは若干戸惑いながらも俺から桶を受け取ってくれた。
「さて、それじゃあアンが顔を洗ってる間に、マリー達を起こしてくるかな。ニーナさんにもアンが目を覚ました事を伝えないと」
多分フーリとマリーはそろそろ起きてるだろうから問題ないとして、ニーナさんはどうだろう?
もうとっくに起きてたりするんだろうか?
そう思い、俺が部屋から出ようとした時だった。
「お兄ちゃん、おはよう! 朝だ……誰?」
部屋の扉を勢いよく開き、アミィが部屋の中へと入ってきた。が、未だに俺の布団の上で寝起きの状態で座ったままのアンを見つけた瞬間、アミィの瞳からハイライトが消えた。
いや、比喩でも何でもなく、リアルに消えてる。
え、何あれどうやってんだ?
「ちょっとアミィちゃん、せめてノックぐらいしないと……どういうですか?」
更にアミィに続く様に、今度はマリーが部屋の中に入って来たと思ったら、アミィとまったく同じ反応をしていた。
いやだから、二人共怖いって!
想像出来るだろうか? 瞳のハイライトが消えた状態の人間二人に無言で見つめられる恐怖を。
こんなホラー体験するぐらいなら、魔物と戦っていた方がよっぽどマシである。
「二人共どうしたんだ? 突然黙り込んだりして……どういう状況なんだこれは?」
「フーリ! 俺は信じてたよ!」
流れ的にフーリも来るだろうとは予想していたけど、フーリだけは二人と違い、理性的な目をしていた。
流石はフーリだ。
「お兄ちゃん、誤魔化さないで!」
「何でここにアンちゃんがいるのか、説明して貰えますか?」
アミィはそもそもアンと面識すらないから、俺の部屋に見知らぬ女の子がいると勘違いしている様だ。
こういう時のアミィって、冷静さを失いがちなんだよな。
対してマリーはアンと面識がある分、聞き方も理性的……に見えるが、俺には分かる。
アレは理性的に見えて、根本的な部分でまったく理性的ではないという事が。
「フーリからも二人に落ち着く様に言ってくれない? 多分今の二人に俺の言葉はあんまり通じないだろうし」
「それは構わないが、きちんと説明してくれるのだろうな?」
「ああ、それはもちろん」
むしろ説明しないという選択肢はない。だって、これは二人にも関係ある話何だから。
「うむ、分かった」
そう言うと、フーリは一度二人の肩を掴むと。
「ほら、二人共、いい加減落ち着いたらどうだ? これじゃあカイト君が説明したくても出来ないだろう?」
と、至極真っ当な事を二人に言ってくれた。
「いや、それは……確かにそうなんですけど」
「姉さん……」
俺じゃなく、フーリに言われたからだろうか?
二人は思いの外アッサリと文句を言わなくなった。流石はフーリ。次からも使えるな、この手。
「ありがとうフーリ。それじゃあアンの事も説明しないといけないし、とりあえず朝飯でも食べながら話さないか?」
「ああ、そうだな」
「きちんと説明してよ、お兄ちゃん!」
「ええ、そうですね」
俺がそう言うと、三人共俺の言葉に頷いてくれた。
アミィとマリーはまだ何か言いたげだったが、とりあえずその反応に満足し、俺が改めてアンの方に振り返ってみると。
「あ、あの。私、本当にここに居ていいんでしょうか?」
と、非常に申し訳なさそうな顔で尋ねてきた。
「当たり前だろ? むしろ、いたらダメな理由がない」
アンには聞きたい事があるし、何よりここはアンにとって家族も同然の人が経営する宿なんだ。
ある意味アンにとっては第二の実家みたいなものなんだから。
「そうですか……うん、そうですよね。ありがとうございます、お兄さん!」
自分がここに居るのが当たり前だと分かったのか、そう言うアンの顔には、笑顔が浮かんでいた。
昨夜から見た記憶の無いアンの笑顔。それが見られただけでも、今の俺にとっては救いになる。
その後、俺の部屋が騒がしかったからか、ヴォルフとロザリーさん、それにニーナさんまでが俺の部屋を訪ねて来たので、俺はついでにそのまま全員で朝飯を取る準備を始めた。
「孤児院がもぬけの殻、ですか?」
そう言ったのは、ついさっき俺の事を視線だけで殺せそうな程冷え切った瞳を向けてきた人物。マリーだ。いや、冷え切ったというか、ハイライトが完全に消えてただけだけど。
今は誤解が解けたからか、いつもの状態に戻っている。
「ああ、そうだ。昨夜俺とニーナさんが孤児院に行った時には、アン以外誰もいなかった」
そう、アン以外誰も。
「だがカイト君。確か君は一昨日に一度孤児院に顔を出していたと思うのだが、その時には特に異常は無かったんだろう? たった一夜であの人数の人間が行方不明になるだろうか?」
確かに、フーリの言う事は尤もだ。
俺もそれは考えたのだが、実際に居なくなっていたのは確かだ。だからこそ、アンの話が重要になってくる訳で。
「それに関しては、アンに聞いてみようと思ってる」
そう言ってアンに視線を向けると、アンは一瞬だけビクッと体を強張らせていたが、すぐにその緊張を解いてくれた。
「なあアン、昨日孤児院にいったい何があったんだ? たった一晩で孤児院の人間が行方不明だなんて。いったい誰が、どうやって攫って行ったんだ?」
「えっと、それは……」
俺の質問に答えようと、アンは一度目を瞑り、考え込む様な仕草を始めた。
アンにとっても辛い話だというのは分かってる。でも、目撃者がアンしかいない今、アンの話だけが唯一の手掛かりなんだから。
「信じて貰えるかどうか、分からないんですけど」
アンがおずおずといった感じで口を開き、話し始めた。
「大丈夫だ。どんな荒唐無稽な話でも、俺は否定したりしない」
「そうだよアンちゃん、遠慮せず話してみて」
「どんな些細な事でもいい。こういうのは少しでも情報が多い方が、調べる側としても助かるからな」
フーリの言う通り、どんなに些細な事でも、それが事件解決の手掛かりになったりするものだ。
「えっと、それじゃあ話しますね」
俺達の言葉に納得したのか、アンは一度息を吐いてから、改めてその口を開いた。
「実は昨日、孤児院を訪ねてきた人がいて、その人達が孤児院の子供達とおじいちゃんの事を攫って行ったんだと思います」
思います、というのは、多分アン自身がその瞬間を目撃していない、という事だろう。あんな場所に一人で隠れられるとは思えないし、誰かがアンが入った後に上から蓋をした筈だ。
そして、その蓋をした人物は、消去法でリヒトさんしかいない筈だ。
やっぱり俺の予想通り、孤児院の子供達、それにリヒトさんは、誰かに攫われた、という事だろう。
「攫ってって……アンちゃん、その人の顔とか覚えてない?」
アンの話を聞いたマリーが、犯人の特徴をアンに尋ねた。確かに、それが分かるかどうかで、今後の捜索の仕方が変わってくる。
しかし、この後アンの口から出てきた言葉は、俺達の想像をアッサリと裏切るものだった。
「えっと、顔じゃないけど、真っ黒な鎧を着た、黒髪黒目の男の人でしたよ?」
「「「「「「っ!?」」」」」」
ヴォルフとロザリーさん、それと俺達三人が同時に息を呑んだ。
だが、それも仕方がない。
だって、俺達はその男の特徴をよく知っている。ヴォルフとロザリーさんなんかは特にだろう。
真っ黒な鎧を着た、黒髪黒目の男。その特徴は、今日勇者杯で漆黒の牙と戦う事になっている男――夜刀神拓斗の特徴そのまんまだったからだ。
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