見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

三十一話

「事情は分かりましたけど、言ってる意味が分かりません」
「何で海斗さんの移住を賭けて、光さんとマリーさんが争ってるんですか?」
「何でだろうなぁ?」

 それはむしろこっちが聞きたいくらいだ。何で二人が争ってるんだろう?

「っと、そうだ、光達に相談したい事があったんだった」
「私達に?」

 そうだ。今のやり取りでうっかり言いそびれる所だったけど、あの詐欺師の事を話しておかないと。
 俺達を詐欺ろうとしただけでなく、孤児院にまでちょっかいかけようとしたんだ。

 あの詐欺師には相応の報いを受けて貰わなければならない。

「ああ、実はパレードの露店に、俺達を詐欺ろうとした上に、孤児院にまでいらんちょっかいかけようとした怪しい男がいてな。捕まえて牢屋にでもぶち込んでおけないものかと」

 只の詐欺師なら……良いとは言わないけど、まだマシだった。でも、あの男はあろう事か孤児院にまでちょっかいをかけようとしていたんだ。
 そんなの、許せる訳がない。
 だが、俺があの男の事を説明すると、御剣君が予想外の事を言い始めた。

「怪しい男、ですか? もしかしてそれって、語尾が「ヨ」とかいう、いかにもな男の事だったりします?」
「え、何でそれを?」

 御剣君はまだ説明してもいない男の特徴をズバリ言い当てたのだ。当てずっぽうで当たる様な特徴じゃないよな?
 でも、それじゃあ何で?

「……あ、もしかして、俺達以外にも被害者がいたとか?」

 その可能性は充分ある。
 あそこでパレードの初日から活動をしていたというのなら、他にも被害者がいておかしくない。いや、むしろいたと考える方が自然だろう。

「ええ、まあ。実はこのパレードが始まる数日前ぐらいから、その手の被害報告が相次いでまして。今日だけでも既に十件程報告が上がってるんです」
「十件も!?」

 え、それ全部あの男の被害者なの!?
 ……いや、落ち着け俺。いくらなんでもそんなに大々的に活動してたら、すぐに掴まる筈だろ。

 今御剣君は「その手の被害報告が相次いでいる」と言っただけで、特定の誰かを名指しした訳じゃない。
 なら犯人は複数いて、全部別個の事件だと考えれば辻褄が合う。

 こんなイベントだ。その手の人間が他に湧いてても不思議じゃない。
 でも、もしそうなのだとしたら、何でさっき御剣君は「あの男」の特徴を言い当てられたんだろう?

 普通こういう状況なら、特定の人物の特徴だけを覚えて置くなんて事はあまりない気がするけど。

「はい、十件もです。海斗さんがおっしゃった人物は、特徴がちょっとアレだったんで頭に残ってまして」

 アレ? アレっていうと……あー、そう言う事か。

「こう、いかにも絵に描いた様な不審者ですよね、その人」
「橋本さん」

 橋本さんの言う通り、あの男の特徴は昔から日本でイメージする怪しい人そのものだった。
 そう言われてみれば、御剣君があの男を覚えていた事も、なんら不思議じゃない。

「それで兄さん、孤児院にちょっかいって、具体的に何をしたの?」

 俺があの男の事を思い浮かべて一人納得していると、光から尋ねられた。
 具体的に、かぁ。

「いや、何も。何かする前に俺が追い払ったから、あの男は「まだ」孤児院に何もしてないよ」

 そう、あれはタイミングが良かった。
 もう少し遅れていたら、取り返しのつかない事になったていた可能性もあったのだ。そう考えれば、あの時の俺の行動は正しかったのだと、胸を張って言えるってもんだ。

「追い払ったって、カイトさんがですか?」
「ん? そうだけど?」

 その為になれない脅しなんかをした訳だけど。そもそも俺みたいな一般人があんな慣れない事するもんじゃないんだよな。
 本職の人がやるならまだしも。

「まあ問題はその後だったんだけど。ほら、二人には昨日話したろ?」

 そう、本当に問題だったのはむしろこの後。
 あの男を追い払った後は、本当に色んな事が起こり過ぎた。

 アンは泣いてるし、院長先生――リヒトさんは、一時的にとはいえ死んでるし、邪神の僕とかいうよく分からん謎の存在は出てくるし、神の光とかいうチートスキルは手に入るしで、正直夢を見ていたと言われても信じてしまうレベルだ。

 ていうか今まで忘れてたけど、邪神の僕の魂収納したままだったっけ。
 あれどうしようかな? このままストレージに収納しておくのはちょっと嫌だけど、だからと言ってストレージから解放すると絶対碌な事にならない。

 孤児院であんな事があったんだ。また第二第三のリヒトさんが現れないとも限らない。ていうか現れるだろう。
 そうなると、その対処もしなくてはならなくなるんだけど、流石にそれは勘弁願いたい。。

 本当、扱いに困る代物だ。
「あー、昨日言ってましたね。確か、邪神の僕がどうこうって話でしたよね?」
「「「邪神?」」」

 光達が突然聞き慣れない言葉を聞いたからか、首を傾げて頭に疑問符を浮かべているのが分かった。
 そういえば召喚勇者と邪神って何か関係性があったりするのか?

 俺の中では、勇者と言えば魔王だとかを討伐する為に召喚されるってイメージだったけど、その辺はどうなんだろう?
 邪神も魔王の一部に含まれます、的な話になったりしないのか?

 ……しないだろうなぁ。もし仮にそうなるのだとしたら、少しぐらいそういう噂を耳にしてもおかしくない。それがさっぱりないという事は、つまりそういう事だよなぁ。

 この世界では、邪神の討伐は勇者の役目じゃないし、そもそも邪神が本当に存在しているのかさえ定かではない。

 いや、それを言うなら「魔王」もなんだけど。
 って、そういえば勇者が召喚される理由って何なんだろう? あまりにも当たり前すぎて考えもしなかった。

「兄さん、その邪神っていったい何の話?」

 と、そんな事を考えていたら、光から邪神について尋ねられた。
 尋ねられたはいいけど、正直それは俺にも分からないんだよな。

「あー、悪い光。実は俺もそんなに邪神について知らないんだよ」

 だからこそ、俺は光に隠さずに説明した。

「海斗さんも、ですか? ですが、邪神の話を始めたのは海斗さんですよね?」
「いや、確かにそうなんだけど、」

 痛い所を突いて来るな御剣君は。
 確かに邪神の話を始めたのは俺だ。だが、だからと言って邪神がどういう存在なのかまで分かるという訳じゃない。

 邪神っていう単語が出てくるだけで、ストレージに異常が発生した訳じゃないしな。

「まあ確かに御剣君の言う事には一理あるよ? でも、調べようがなかった訳よ。邪神の存在を知ったのもつい昨日の話だし」
「え、昨日? 海斗さんがその邪神の存在を知ったのって、昨日の話なんですか?」

 橋本さんが俺の話を聞いて尋ねてくる。

「ああ、そうだよ。昨日孤児院に行って、偶然その存在を知ったんだ。だからそもそも、邪神について調べる時間もなかったんだけど」

 そもそもの話、御伽噺の中にほんのちょっとだけ出てくる様な存在を、いきなり調べろって言われても、土台無理な話だ。  

「だから、邪神の事を聞かれても、何とも言えないとしか言えないんだよな」

 俺達の敵なのかどうか、そもそもこの世界に本当に存在しているのか。分からない事だらけだ。

「なるほど、確かにそれは海斗さんの言う通り、何とも言えませんね」

 今の説明で納得してくれたのか、アッサリと認める御剣君。

「ただ、それはそれとして、その詐欺師だという男の話は詳しく聞いておきたいので、もう一度話して貰っても大丈夫ですか?」
「ああ、そうだな。それはもう一度きちんと話しておかないと」

 邪神云々の話は一旦置いておくとして、あの詐欺師についてもきちんと説明しておかないと、捕まえられるもんも捕まえられないよな。

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