見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

三十話

 マリーの言う通り、俺も召喚勇者の力――スキルがアレだけだとは到底思えない。恐らくだが、まだ力を温存していると見て間違いないだろう。

 ていうか、光の電撃を扱うスキル、カッコよかったな。あの駄女神様、どうせなら俺にもああいうスキルを授けてくれれば良かったのに。

 いや、ストレージが充分過ぎるぐらいの性能だっていうのはよく分かってるんだけど。
 無い物ねだりというか、隣の芝生は青く見えるんだよな。

「兄さん、見てた?」

 俺達が光達のスキルを考察していたら、いつの間にか武舞台から戻って来ていた光に声をかけられた。

「ああ、見てたぞ。羨ま……凄かったな」
「そう? ふふっ、ありがとう、兄さん」

 危ない危ない。つい無意識の内に、光に本音を言ってしまう所だった。
 光にこんな事言ってもしょうがないんだから気を付けないと。

「ヒカリさん、まずは一回戦突破、おめでとうございます」
「あら。ありがとう、マリーさん」

 マリーが笑顔でお祝いすれば、光もニコッと微笑んでお礼を言う。一見するとなんて事はないやり取りだ。これでお互い目が笑ってれば完璧なんだけど。
 二人共目がガチなんだよなぁ。本当、もう少し気楽にいけばいいのに。

 ……そこ! 原因が何言ってんだ、とか言わない! 俺だって何でこんな事になってんのか分からなくなりそうなんだから!

「あの、海斗さん」
「ちょっといいですか?」

 笑顔で見えない火花をバチバチ散らせている二人を尻目に、御剣君と橋本さんが俺にコッソリと話しかけてきた。

「ん? どうかした?」

 二人が俺に話しかけてくるなんて珍しいな。しかも、やけにコソコソと話しかけてくるというか。二人は召喚勇者で、俺はしがない一般冒険者だ。もっと堂々と話しかけてくれば良いものを。

「少し前から光さんの様子がおかしいんですけど、何か心当たりはありませんか?」

 そう尋ねてくるのは、さっき「神聖剣」を放った御剣君だ。
 御剣君は光には聞こえない様に、声を小さくして尋ねてくる。隣を見ると、橋本さんも御剣君と同じ事を聞こうとしていたのか、ウンウンと頷いている。

「あーっと、これにはある意味深い……深い? いや、そこまで深くはないか? と、とにかく、深浅い事情があるんだけど」

「「深浅い?」」

 二人して首を傾げ、よく分からないと言いたげな表情になった。うん、言いたい事はよく分かるけど、出来ればツッコまないで欲しい。話が進まないから。

「まあ端的に言うと「俺の為に争わないで」状態ってとこかな?」
「カイト君、それでは余計に意味が分からなくなると思うのだが?」
「フーリ……それは言わない約束だよ」
「む? そんな約束した覚えはないのだが」

 ですよねー。うん、俺もした記憶ないです。
 適当な事を言ってみたのだが、やっぱりフーリは流されないな。

「まあ今はそれは置いておくとして、えっと、二人の事はなんと呼べば?」

 俺の言葉をスルーしながら、フーリが二人に尋ねた。
 そういえば、フーリはヒカリ以外の召喚勇者と話すのは初めてだったっけ? 初めて会った時はあんまり話してなかったし、まずはお互い自己紹介が必要なのかもしれない。

「あ、すみません、まだまともに自己紹介もしてませんでしたね。僕は御剣圭太。気軽に圭太と呼んで下さい」
「私は一度話したと思いますけど、念の為。橋本智子と言います。私の事も気軽に智子と呼んで下さい」

 二人がフーリに自己紹介を済ませると。

「ミツルギ殿にハシモト殿だな。私はフレイア・アルマーク。フーリと呼んで欲しい」

 御剣君と橋本さんに自己紹介を済ませ、フーリと呼ぶ様にお願いしていた。ていうか、そこは名字呼びなのか。
 二人は名前で良いって言ってたけど。

「あ、私は姉さんの妹で、マリエールって言います。マリーって呼んで下さいね」

 そして、いつの間にか光との睨み合いを終えていたマリーも簡単にではあるが自己紹介を済ませ。

「あら、じゃあ私も。兄さんの妹で、近衛光です。光って呼んで下さいね」

 更に光まで参加し、いつの間にか全員が自己紹介をする流れになっていた。
 この流れ、俺も乗るべきか!?

「えっと、じゃあ最後に俺の……」
「あ、それは大丈夫です」
「光さんに話は聞いてますから」
「私達には言うまでもなく必要無いですよ?」
「だな。今更自己紹介も何も無いだろう」
「せめて最後まで言わせてくれない!?」

 まさか全員に「必要ない」って言われるとは思わなかった。
 いや、確かにフーリとマリーに必要無いのは分かるけど。ていうか、それなら光の自己紹介もいらないんじゃ? という言葉は、今この場では意味を成さないだろう。

 そういう空気なのだ。

「私に自己紹介なんて必要ないのは分かるわよね、兄さん?」
「いや、そりゃそうなんだけど」

 光とはもう十年以上一緒に暮らしてるんだし、その必要が無いのは当然分かる。分かるんだけど……。

「はぁ、まあいいや。それよりも話の続きだけど……」

 と言いかけた所で、俺はふとある事に気付いた。
 いや、光がいるのにさっきの話の続きなんて出来る訳ないじゃん。だって光本人の話だったんだから。

 さっきの御剣君達の様子から、あまり光本人には聞かれたくない類の話だろうし、なんとか上手い事光から離れられれば……。

「あ、そうでしたね。それで、光さんがおかしいんですけど、海斗さんは何か知りませんか?」
「御剣君!?」

 え、今普通に言ったけど、いいの? すぐそこに光がいるけど? なんなら会話に加わってるけど?

「え、私がおかしいってどういう事? というより、何で私いきなり罵倒されたの?」

 光は突然御剣君からおかしいと言われ、心外だとでも言いたげにしている。いやあ、今のお前は多分おかしいって言われても仕方ないと思うぞ?
 日本にいた頃からだいぶキャラ変わってるし。

「それで海斗さん、さっき言ってた「俺の為に争わないで」とかなんとか言う話、聞かせて貰えませんか?」
「あー、そんな事も言ったっけ?」

 うん、言った。バッチリ覚えてる。正直今までのマリーと光のやり取り見てたら、ほとんどの人が同じ事を考えるんじゃないかな? 

「カイトさん、そんな風に説明してたんですか?」
「いやその、何というか」

 だって他に思いつかなかったんだもん。仕方ないじゃん?
 マリーから呆れたような目で見られ、何とも居心地の悪い気分を味わっていると。

「はあ、これでは話しが進まんな。ミツルギ殿、ハシモト殿も、良かったら私から説明しよう」
「あ、はい、そうですね。その方が早そうです」
「すみません、よろしくお願いします」

 フーリの提案に即座に頷く二人の様子が目に入った。うん、確かに少々脱線しすぎたかなとは思ってたから、フーリの提案は助かった。

「さて、どこから説明したものか。話は私達が初めて王城に来た日に遡るのだが」

 フーリはつい数日前の事を思い出す様にしながら、二人に説明を始めた。



「という事なんだ」
「「……?」」

 フーリの説明を一通り聞いた二人は、文字通り意味が分からないとでも言いたげに小首を傾げている。
 うん、そうだよな。普通はそうなるよな……って、あれデジャヴ?

 当事者の俺でさえイマイチ意味が分からない。
 何で俺がペコライに住むか王都に住むかを賭けて、マリーと光が争ってるんだよ。しかも当の本人が若干置いてけぼり状態で。

 そういえば勇者杯の褒美として「叶えられる範囲で何でも願いを叶えてやる」なんて話になったのがそもそもの事の発端だったっけ?
 褒美自体は嬉しいけど、それでこんな事態になるというのなら、それも少々考え物かもしれない。

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