見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

二十九話

「まあ、それはそれで良いのかもな」

 日本にいた頃みたいな良い子の光もいいけど、こうやって自分に正直な光っていうのも悪くない。
 いや、むしろこっちの方が活き活きしてて良いまであるな。

「どうかしたのかカイト君? ニヤニヤして」
「え、俺ニヤニヤしてた?」

 自分ではそんなつもりはなかったんだけど。

「してましたね。ちょっと気持ち悪かったです」
「え、ちょっ、酷くない?」

 いきなり気持ち悪いと言われ、思わず本音が漏れてしまう。そっか、気持ち悪かったのか俺。いや、確かに他人のニヤケ顔って気持ち悪いよね。うん、よく分かる。

「それでは、僕達はそろそろ武舞台の方に向かいますね」

 俺が軽くショックを受けていると、御剣君が武舞台の方を指差して言った。って、もう行くのか?

「ちょっと早すぎるんじゃないか? まだ後十五分ぐらいあるだろ?」

 確かに早めに行動する事は良い事だが、流石にちょっと早すぎやしないか?
 だって、三十分の準備時間が設けられているのに、その半分しか利用しないなんて勿体ないと思うんだけど。

 これが一時間ぐらい時間が取ってあったのなら話は別だが。

「いえ、僕達は一応この国の召喚勇者ですので、皆の模範になる様な行動を心掛けないと」
「もう圭太ったら、相変わらず真面目なんだから」

 俺が今まさに言おうとしていた言葉を、御剣君の後ろから現れた橋本さんが代弁してくれた。
 いや本当、冗談とかじゃなくて。あんまり真面目過ぎるのも考え物だぞ?

「いやいや智子、そんな事ないだろ? これぐらい普通だって」

 だが、御剣君は橋本さんの言葉にも頷かない。むしろ、これぐらいが普通だと言い始めてしまった。

 いやまあ、たかが十五分程度で真面目過ぎるとか言うのもアレな気がするけど。でも、橋本さんのこの言い方、どうも普段からこういう節が見られるって事だよな?

「そう、御剣君は真面目なの。すっごく」
「気配消して忍び寄って来た事にツッコミを入れるべきか悩ましい所だが、そうなのか?」

 御剣君が話しかけてきた辺りから、ずっと視界の端に映ってたから「何やってんだろうな」とは思ってたけど、この為だったのか。

「もう、もう少し驚いてくれてもいいのに。でも、そうなの。それが彼の良い所でもあるんだけどね」

 それは何となく分かる。さっきも会場内の観客に向かって手を振ったり等、ファンサービスにも余念がなかったよな。

 ああいう事を自然と出来るのは、それだけ場慣れしているという事にも繋がる。きっと勇者としてこの世界に召喚されてから、こういう事もそれなりにこなしてきたのだろうけど、それよりも前。

 日本にいた頃からこういう事を経験してたに違いない。
 例えば生徒会長とか。

「それじゃあ兄さん、私達はもう行くわ。応援よろしくね。さ、二人共行くわよ」

 光はニコッと笑顔を浮かべ、まだ話を続けている二人を連れて、武舞台の方へと歩いて行ってしまった。

「応援ね。そんなの当たり前だろ」

 俺はそんな光を見送りながら、一人呟いた。



「それでは皆さん、お待たせしました。これより、勇者杯第一試合を始めたいと思います!」

 光達を見送った後、適当に談笑して時間を潰し、いよいよ始まった勇者杯。
 第一試合は光達「勇者パーティ」と、やたらテカテカに輝く純白の鎧がトレードマークの「ホーリーナイツ」の試合だ。

 武舞台の上では、両チームがお互い向かい合い、試合開始の合図を待っている。
 光達の力も未知数だが、相手のホーリーナイツの実力も同じく未知数……というより、今回の参加者全員が、俺にとって未知の相手なんだけど。

「この試合、二人はどっちが勝つと思いますか?」
「さあな。普通に考えれば勇者ヒカリ達が勝つだろうが、戦いというのは何が起こるか分からないからな」
「俺も何とも言えないな。どっちのパーティもどれだけ強いのかさっぱり分からないし」

 多少戦い方を知っていれば判断できただろうけど、生憎俺は勇者パーティとホーリーナイツ、どちらもどんな戦い方をするのか知らない。

「そうですよね。私も同じです。ホーリーナイツの方は少し聞いた事あるんですけど」
「そうなのか? ホーリーナイツって……」
「それでは、試合開始!」

 どんな戦い方をするんだ? という言葉は、司会者の言葉に掻き消されてしまった。
 マリーに話を聞く前に、第一試合が始まったからだ。こうなったら聞くよりも直接見た方が早い。

 百聞は一見にしかずって……。

「見よ! これが我らの――」

「雷よ!」
「神聖剣!」
「イノセント・アロー!」

「「「ぎゃあぁぁぁぁ!」」」

 一瞬だった。
 試合開始と同時に、光達がそれぞれスキルを発動し、ホーリーナイツの面々がスキルの嵐に飲み込まれたのは。

 光が放ったスキルは、シンプルに雷系統の魔法だろう。割とよく聞くスキルだが、電気という概念が無いこの世界では、未知の力を操る驚異のスキルになる。
 その雷が、ホーリーナイツの面々を直撃、痺れによってその動きを封じ込めた。

 御剣君のスキルは、確か「神聖剣」って言ったか? これまた王道のネーミングだな。神の聖剣って書いて神聖剣なんだろうけど、本当「ザ・勇者」ってスキルだな。

 御剣君の手が光輝いたかと思えば、次の瞬間その手に光の剣が握られていて、それを一振りしただけで、ホーリーナイツの鎧が一瞬にして切り裂かれていた。

 そして、橋本さんのスキル「イノセント・アロー」は、白く輝く光の矢を放ち、電撃で痺れて身動きが取れず、鎧まで切り裂かれて攻撃を防ぐ手段を完全に失ったホーリーナイツを爆風で吹き飛ばし、三人共あっさりと場外へと落ちていった。

 圧倒的。
 反撃する暇も与えず、一方的に勝負を決めた勇者パーティに、観客達はおろか、司会者さえも何が起こったのかすぐに理解出来ないでいる様だ。

「し、試合終了! 勝者、勇者パーティ!」

 一足早く正気に戻った司会者が、慌てて試合終了を宣言。それを皮切りに、観客席からはち切れんばかりの大きな拍手と歓声が沸き起こった。

「すげぇ! 俺何が起こったのか分からなかったぜ!」
「流石は勇者パーティだ!」
「キャー、こっち向いてぇ!」
「お前らならやってくれるって、信じてたぜ!」
「ふーっはははは、圧倒的ではないか!」

「ねえ、今一人変な歓声混じってなかった?」
「何の話ですか?」

 いや、今明らかに一人変な事言ってる奴いたよね? マリーには聞こえなかったのかな?

「そんな事よりも、流石は召喚勇者、と言うべきか。まさか試合中にまともに戦い方を見る事すら出来ないとはな」

 そんな事って……いや、多分俺の空耳だったんだろう。きっとそうだ。そうに違いない。

「確かに戦い方は見れなかったけど、スキルを見れただけまだマシだろ?」

 特に光の電撃。アレは知らなかったら完全に初見殺しのスキルだ。
 少なくとも雷よりも早く動ける様でないと、躱す所か防ぐ事すらままならなかっただろう。

 確かに御剣君の「神聖剣」や、橋本さんの「イノセント・アロー」も脅威ではあるが、アレはまだ目で追えるレベルだから初見でもやりようはある。
 まあ今となっては三つとも見る事が出来たし、そういう意味では収穫はあったと言えるか。

「スキルがアレだけだったら、な」
「やはりカイト君も気付いていたか」

 俺が呟くと、フーリが真っ先に反応を示した。カイト君「も」って事は、フーリも同じ事を考えてたって事か。
 そして、俺でも気付けるって事は、当然マリーも気付いてる筈で。

「今のスキルは確かに脅威ですけど、召喚勇者のスキルがこれだけだとは考え難いですからね」

 そう呟くマリーは、どこか確信を持って話をしているみたいだった。

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