見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~
二十八話
「漆黒の牙のリーダー、ガレオンさん。詳しくはまた後で話しますけど、単純な戦闘力だけならAランク最強とまで言われる冒険者です」
「Aランク最強!?」
マジか。あの大男……もとい、ガレオンってそんなに凄い冒険者だったのか。
まあ勇者でも、勇者の身内でも無いのに予選免除されてる時点で相当強いんだろうとは思ってたけど、まさかそこまでとは。
「今はあまり詳しい話をしている余裕はないが、一つだけ言える事は、生半可な実力では勝負にすらならないという事だ」
「はぇー、凄いんだな。あのガレオンって人」
俺は既に元の位置に戻ったガレオンという男を見ながらそう漏らした。
「ああ、凄いんだよ。果たして、あのヤトガミ・タクトとかいう男で相手になるかどうか」
ああ、そういえばあの二人、一回戦で当たるんだったな。だったら普通はガレオンさんが勝つと思うよな。俺もそう思う。
思うんだけど……何でだろう。妙な胸騒ぎがする。
そう、普通に考えれば負けない筈なんだけど、何故か嫌な予感が胸中に渦巻いている。
「……気の所為、だよな」
俺は再びガレオンさんに視線を向け、言い様の無い不安を感じるのだった。
「本日は第一、第二試合を行い、明日第三、第四試合。明後日に準決勝と決勝戦を行いたいと思います」
今日は第一試合と第二試合だけなのか。俺達は第三試合だから、出番は明日。思ったよりも時間に余裕があるな。
てっきり今日試合があるのだとばかり思ってたから、何だか拍子抜けしたというか。
「それでは三十分の準備時間の後、第一試合を行いますので、選手の方は各自準備が出来次第、控室で待機をお願いします」
司会はそれだけ言うと武舞台から下りていき、それに続いて俺達選手も武舞台から順に下りて選手控室へと向かった。
控室は、八パーティ二十二人全員が入っても充分くつろげそうな程のスペースがあり、仮に全員が揃ってもそれなりに快適に過ごせる様になっている。
そんな中、俺達はとあるパーティへと近付く。それは。
「あ、兄さん。それにフーリさんとマリーさんも。さっきは大変だったわね」
さっき、というのは、夜刀神拓斗の事……ではなく殴り屋三兄弟の事だろうな、この場合。
何でか妙に突っ掛かってきた殴り屋三兄弟。俺に恨みでもあったのか、それとも対戦相手を脅そうという意図でもあったのかは分からないが、面倒な相手ではあった。
それを分かってるからこそ、フーリとマリーはあんなに冷たい態度を取ったのだろう。
アレのおかげで話が面倒な方向に転がる前に、件の夜刀神拓斗事件へと繋がったのだから、二人には感謝しないと。
状況的に感謝していい状況かどうかは置いておくとして。
「ええ、まあ。でも、相手があの殴り屋三兄弟って人達で運が良かったです」
「だな。あの程度の実力なら、問題なく勝てるだろう」
二人は自信満々に言うと、件の殴り屋三兄弟へと視線を向け、それに釣られて俺も殴り屋三兄弟の方へと視線を向けた。
「お前ら! 試合は明日だ! 今日はとことん飲むぞ!」
「「ヒャッハ―、喜んで!」」
リーダー格の男とメンバーの二人が場違いな空気で盛り上がっている。
飲むぞって事は、この後の試合は見ないつもりなのか? 確かに見ないと駄目って決まりはないが、普通は見るもんじゃないか?
まああの三人が試合をその程度にしか考えていないのなら、こっちとしては楽でいいけど。
そんな事を考えている内に、無駄にテンションが高かった殴り屋三兄弟は、そのまま選手控室から出て行ってしまった。
「……随分と余裕だね、あの三人」
「気にするなマリー。所詮はその程度の奴らだという事だ」
フーリとマリーの言葉には棘がある。さっきあの三人からナンパ擬きを受けてたから、その影響からだろう。
「何だか初戦から大変な相手と当たっちゃったわね、兄さん」
「言うな。俺も自分の引き運に驚いてる」
考えようによっては楽な相手なのだろうが、正直その前に面倒な相手という意識が来るから、組み合わせとしては間違いなくハズレだ。
ていうか、よくあんな奴らが予選突破出来たな。
「……もしかして、意外と強いとか?」
「いや、それは無い。殴り屋三兄弟なんてパーティは聞いた事が無いし、あの様子だとAランクどころか、Bランクにすらなってないかもしれない。予選を勝ち抜けたのも、恐らくはまぐれか、組み合わせに恵まれたのだろう」
誰に問いかけた訳でもなかったが、俺の呟きを聞いていたらしいフーリから、あの三人が強いという可能性を否定された。
随分ハッキリ言い切るな。
「精々ギリギリBランクになれるかどうかが関の山だろう。だからといって油断はしない。カイト君の言う通り、本当は実力のある冒険者という可能性も、僅かながらにあるのだからな。まあ、警戒するだけ時間の無駄かもしれないが」
「そもそも対戦相手の情報を集めようともしていない時点で論外ですからね」
確かに。実際殴り屋三兄弟以外のパーティは、全員控室に残っている。
これから第一試合が始まるのだから、出来るだけ相手の情報を得たいと思うのは当然だ。
あの夜刀神拓斗でさえ控室に残っているのだから。
情報といえば、一回戦は光達とホーリーナイツの試合だったな。ホーリーナイツはもちろん、光達の力もまだ一度も見た事はない。召喚勇者の力を見るにはいい機会だな。
「じっくり観察させて貰うからな光」
俺は光を茶化す様に言ったのだが。
「え、観察? も、もちろん、兄さんが望むのなら……いい……わよ?」
何故か顔を赤らめ、もじもじとしながら気恥ずかしそうに返す光。
って、何だよその反応! そんな反応されるとこっちが困るだろ!
「光さん、じゃれ合いはその辺にして下さい」
俺が反応に困っていると、隣から声を掛けてくる人物――御剣圭太君が現れた。
「あら、御剣君。私は別にじゃれ合ってる訳じゃないわ」
などと冗談を言う光……え、冗談だよね?
「光さんって、お兄さんの事になると本当にキャラが変わりますよね。普段は頼り甲斐のあるお姉さんなのに」
その更に隣から、光を残念な物でも見るかのような目で見る橋本さん現れる。
「智子ちゃん、私はもう後悔したくないの。一人で取り残されるのは、もう嫌だから……」
「光……」
思いつめた様な、何かを決意したような、そんな感情が入り混じった表情をする光は、何だかとても儚い物の様に見え……。
「だから……私はもう我慢しないわ! これからは、自分の欲に忠実に生きる事にしたの!」
ねえな、うん。見間違いだった。どうやら俺の目は節穴だったみたいだな。
おかしいな。日本にいた頃の光はもっと真面目というか、優等生キャラだったのに。いつの間にこんな残念系美少女になっちまったんだ?
まさか、今までのキャラは演技で、今の光が本当の光なのか? それはそれでちょっとショックなんだが?
「でも、勘違いしないでね。私は別に、兄さんのいない所で頼りがいのあるキャラを演じてる訳じゃないから。今の私と普段の私、どっちも本当の私なの」
と、橋本さんに説明する光は、日本にいた頃の様な雰囲気を纏っていた。
それを見た俺は。
「……何だ、やっぱり光は光だな」
別に光が変わってしまった訳じゃないと知り、ホッと胸を撫で下ろした。
そうだよな。人間そうそう変わるもんじゃない。
「カイトさん。ヒカリさんって、面白い人ですね」
「……ああ、確かにな」
光がマリーから「面白い人」扱いを受けてしまったが、その通りかもしれない。
確かに、日本にいた頃の光も別に偽者って訳じゃないだろう。本人もそう言ってるし。
ただ、光が無意識の内に自分をセーブしていた可能性はある。何だかんだ言っても、俺と光に血の繋がりはない。
だからこそ、心のどこかで無意識の遠慮というか、一線を引いていた可能性はある。
それがこの世界に来た事によって、少しずつ綻びが生じ始めたのかもしれないな。
「Aランク最強!?」
マジか。あの大男……もとい、ガレオンってそんなに凄い冒険者だったのか。
まあ勇者でも、勇者の身内でも無いのに予選免除されてる時点で相当強いんだろうとは思ってたけど、まさかそこまでとは。
「今はあまり詳しい話をしている余裕はないが、一つだけ言える事は、生半可な実力では勝負にすらならないという事だ」
「はぇー、凄いんだな。あのガレオンって人」
俺は既に元の位置に戻ったガレオンという男を見ながらそう漏らした。
「ああ、凄いんだよ。果たして、あのヤトガミ・タクトとかいう男で相手になるかどうか」
ああ、そういえばあの二人、一回戦で当たるんだったな。だったら普通はガレオンさんが勝つと思うよな。俺もそう思う。
思うんだけど……何でだろう。妙な胸騒ぎがする。
そう、普通に考えれば負けない筈なんだけど、何故か嫌な予感が胸中に渦巻いている。
「……気の所為、だよな」
俺は再びガレオンさんに視線を向け、言い様の無い不安を感じるのだった。
「本日は第一、第二試合を行い、明日第三、第四試合。明後日に準決勝と決勝戦を行いたいと思います」
今日は第一試合と第二試合だけなのか。俺達は第三試合だから、出番は明日。思ったよりも時間に余裕があるな。
てっきり今日試合があるのだとばかり思ってたから、何だか拍子抜けしたというか。
「それでは三十分の準備時間の後、第一試合を行いますので、選手の方は各自準備が出来次第、控室で待機をお願いします」
司会はそれだけ言うと武舞台から下りていき、それに続いて俺達選手も武舞台から順に下りて選手控室へと向かった。
控室は、八パーティ二十二人全員が入っても充分くつろげそうな程のスペースがあり、仮に全員が揃ってもそれなりに快適に過ごせる様になっている。
そんな中、俺達はとあるパーティへと近付く。それは。
「あ、兄さん。それにフーリさんとマリーさんも。さっきは大変だったわね」
さっき、というのは、夜刀神拓斗の事……ではなく殴り屋三兄弟の事だろうな、この場合。
何でか妙に突っ掛かってきた殴り屋三兄弟。俺に恨みでもあったのか、それとも対戦相手を脅そうという意図でもあったのかは分からないが、面倒な相手ではあった。
それを分かってるからこそ、フーリとマリーはあんなに冷たい態度を取ったのだろう。
アレのおかげで話が面倒な方向に転がる前に、件の夜刀神拓斗事件へと繋がったのだから、二人には感謝しないと。
状況的に感謝していい状況かどうかは置いておくとして。
「ええ、まあ。でも、相手があの殴り屋三兄弟って人達で運が良かったです」
「だな。あの程度の実力なら、問題なく勝てるだろう」
二人は自信満々に言うと、件の殴り屋三兄弟へと視線を向け、それに釣られて俺も殴り屋三兄弟の方へと視線を向けた。
「お前ら! 試合は明日だ! 今日はとことん飲むぞ!」
「「ヒャッハ―、喜んで!」」
リーダー格の男とメンバーの二人が場違いな空気で盛り上がっている。
飲むぞって事は、この後の試合は見ないつもりなのか? 確かに見ないと駄目って決まりはないが、普通は見るもんじゃないか?
まああの三人が試合をその程度にしか考えていないのなら、こっちとしては楽でいいけど。
そんな事を考えている内に、無駄にテンションが高かった殴り屋三兄弟は、そのまま選手控室から出て行ってしまった。
「……随分と余裕だね、あの三人」
「気にするなマリー。所詮はその程度の奴らだという事だ」
フーリとマリーの言葉には棘がある。さっきあの三人からナンパ擬きを受けてたから、その影響からだろう。
「何だか初戦から大変な相手と当たっちゃったわね、兄さん」
「言うな。俺も自分の引き運に驚いてる」
考えようによっては楽な相手なのだろうが、正直その前に面倒な相手という意識が来るから、組み合わせとしては間違いなくハズレだ。
ていうか、よくあんな奴らが予選突破出来たな。
「……もしかして、意外と強いとか?」
「いや、それは無い。殴り屋三兄弟なんてパーティは聞いた事が無いし、あの様子だとAランクどころか、Bランクにすらなってないかもしれない。予選を勝ち抜けたのも、恐らくはまぐれか、組み合わせに恵まれたのだろう」
誰に問いかけた訳でもなかったが、俺の呟きを聞いていたらしいフーリから、あの三人が強いという可能性を否定された。
随分ハッキリ言い切るな。
「精々ギリギリBランクになれるかどうかが関の山だろう。だからといって油断はしない。カイト君の言う通り、本当は実力のある冒険者という可能性も、僅かながらにあるのだからな。まあ、警戒するだけ時間の無駄かもしれないが」
「そもそも対戦相手の情報を集めようともしていない時点で論外ですからね」
確かに。実際殴り屋三兄弟以外のパーティは、全員控室に残っている。
これから第一試合が始まるのだから、出来るだけ相手の情報を得たいと思うのは当然だ。
あの夜刀神拓斗でさえ控室に残っているのだから。
情報といえば、一回戦は光達とホーリーナイツの試合だったな。ホーリーナイツはもちろん、光達の力もまだ一度も見た事はない。召喚勇者の力を見るにはいい機会だな。
「じっくり観察させて貰うからな光」
俺は光を茶化す様に言ったのだが。
「え、観察? も、もちろん、兄さんが望むのなら……いい……わよ?」
何故か顔を赤らめ、もじもじとしながら気恥ずかしそうに返す光。
って、何だよその反応! そんな反応されるとこっちが困るだろ!
「光さん、じゃれ合いはその辺にして下さい」
俺が反応に困っていると、隣から声を掛けてくる人物――御剣圭太君が現れた。
「あら、御剣君。私は別にじゃれ合ってる訳じゃないわ」
などと冗談を言う光……え、冗談だよね?
「光さんって、お兄さんの事になると本当にキャラが変わりますよね。普段は頼り甲斐のあるお姉さんなのに」
その更に隣から、光を残念な物でも見るかのような目で見る橋本さん現れる。
「智子ちゃん、私はもう後悔したくないの。一人で取り残されるのは、もう嫌だから……」
「光……」
思いつめた様な、何かを決意したような、そんな感情が入り混じった表情をする光は、何だかとても儚い物の様に見え……。
「だから……私はもう我慢しないわ! これからは、自分の欲に忠実に生きる事にしたの!」
ねえな、うん。見間違いだった。どうやら俺の目は節穴だったみたいだな。
おかしいな。日本にいた頃の光はもっと真面目というか、優等生キャラだったのに。いつの間にこんな残念系美少女になっちまったんだ?
まさか、今までのキャラは演技で、今の光が本当の光なのか? それはそれでちょっとショックなんだが?
「でも、勘違いしないでね。私は別に、兄さんのいない所で頼りがいのあるキャラを演じてる訳じゃないから。今の私と普段の私、どっちも本当の私なの」
と、橋本さんに説明する光は、日本にいた頃の様な雰囲気を纏っていた。
それを見た俺は。
「……何だ、やっぱり光は光だな」
別に光が変わってしまった訳じゃないと知り、ホッと胸を撫で下ろした。
そうだよな。人間そうそう変わるもんじゃない。
「カイトさん。ヒカリさんって、面白い人ですね」
「……ああ、確かにな」
光がマリーから「面白い人」扱いを受けてしまったが、その通りかもしれない。
確かに、日本にいた頃の光も別に偽者って訳じゃないだろう。本人もそう言ってるし。
ただ、光が無意識の内に自分をセーブしていた可能性はある。何だかんだ言っても、俺と光に血の繋がりはない。
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