見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

二十四話

 アミィちゃんは、まるで任された事が誇らしいとでも言わんばかりの、とても嬉しそうな表情を浮かべている。

「だから、私はヴォルフさんとロザリーさん、二人と一緒にお兄ちゃんの応援に行きたいんです」

 アミィちゃんの表情は嘘を吐いている様にも、私達に気を使っている様にも見えない。そこにあるのは本当に私達と一緒に勇者杯を見に行きたい、カイトさんを応援したい、という想いだと分かった。

「だからヴォルフさん、一緒に勇者杯を見に行きましょう」

 再びヴォルフを誘うアミィちゃん。
 ああ、本当にこの子は私達に気を使っている訳じゃないのね。
 正直な話、私は周りに気を使われる事を一番恐れていた。

 もし変に気を使われて、みんなから慰められたりなんかしたら、その度に予選を通過出来なかった事を、酷い負け方をした事を思い出しそうで。

 でも今、アミィちゃんは私達に気を使っている訳じゃない。理由はどうあれ、本心から誘ってくれているんだ。そう、理由が多少不純だとしても。
 カイトさんの応援をしたいからだとしても。

「……ちょっと外で待ってろ」

 そしてそれはヴォルフにも伝わった様で、短く一言だけそう告げると、アミィちゃんの背中を押しながら入口を目指して歩き出した。

「ちょ、ちょっとヴォルフさん!? 自分で歩けますから!」

 突然背中を押され、アミィちゃんは明らかに慌てていた。そしてヴォルフはそれを見て――ほんの少しだけ笑っていた。
 あ、ヴォルフ面白がってる。

「ほら、ちょっとだけ出てろ」

 ヴォルフは慌てるアミィちゃんを表に出すと、そのまま扉を閉じた。

「まったく、あいつぁ一体いつからああなっちまったんだ?」
「ああなって、ていうのは、カイトさんの事を好きになっちゃったって事?」

 分かり切っている事だけど、私があえて聞いてみると。

「ったり前だろ。あいつに惚れる前のアミィは、ああいうタイプじゃなかっただろ」

 ヴォルフが荷物の中から普段着を取り出し、それに着替えながら、どこか面倒臭そうに言った。

「それはまあ、そうね。カイトさんに出会う前のアミィちゃんは、いっぱいいっぱいって感じだったし」

 あの頃のアミィちゃんは、見ていて本当に心配だった。
 いつもギリギリで、いつ壊れてもおかしくなさそうだった。気丈に振舞ってはいるけれど、いつか壊れてしまいそうで、見ていられないぐらい。

 それは恐らく、あの頃のアミィちゃんを見ていた人達に聞けば、みんな同じ事を言うだろう。

「ま、悪い事じゃねえけどな。おかげで俺も、少しだけ気が楽になった」
「ヴォルフ……」

 ヴォルフの気持ちは痛い程によく分かる。私だって、本戦に進みたかったし、あんなにひどい負け方をして落ち込んでたんだから。

「さて、ちゃっちゃと準備済ませるか」

 そう言うとヴォルフは最後に上着の袖に腕を通し、さっと自分の服装を確認すると、気合でも入れる様に自分の頬を一度叩いた。

「うし、こんなもんか」

 その姿は、いつものヴォルフ……とまではいかないけど、少なくともさっきまでの覇気のない顔をしていた時に比べれば遙かにマシになっていた。

 ヴォルフが着替え終わったのを見計らい、私は一つだけ気になった事をヴォルフに尋ねてみる事にした。

「ねえヴォルフ」
「あん?」

 相変わらずのつっけんどんな返事。でも、これでこそヴォルフだ。だからこそ、確認しておかないと。

「あんた、アミィちゃんがカイトさんの事好きだって気付いてたのね。意外」
「馬鹿にしてんのか!? あれで気付かない方がどうかしてるだろ!」

 当たり前の事の様にヴォルフは言うけれど、正直気付かなくても驚かないというか、気付いてなかったって言われた方が逆に納得出来たかもしれない。

「当たり前、ねぇ」
「あんだよ。何か言いたい事でもあんのか?」

 私が意味ありげにを見つめると、不機嫌そうな顔をするヴォルフ。

「別に。ただ、意外だなって話。ヴォルフって鈍いから」

 ヴォルフの目の前、鼻と鼻がぶつかりそうになるぐらいの至近距離まで近づいて、下から覗き込む形でヴォルフに顔を寄せるが、当のヴォルフはというと。

「あん? 俺のどこが鈍いってんだよ?」

 特に何の反応も示さず、そんな事を言う。
 さっきも私が見てるのに、何の迷いなく着替えるし、今だってそう。

「……そういうとこがよ」
「は? 何だそりゃ?」

 ヴォルフは意味が分からないといった感じで尋ねてきたが、私はあえてそれを無視して部屋の扉を開いた。

「お待たせ、アミィちゃん」
「あ、もう終わりましたか?」

 扉を開けると、そこにはヴォルフの着替えが終わるまで部屋の外で待っててくれたアミィちゃんの姿があった。

「ええ、もう入って良いわよ」

 私がそう言うと、アミィちゃんはそのまま部屋の中へと入って来た。

「おう、待たせたなアミィ。お前の言う通り、今から勇者杯を見に行くぞ」

 ヴォルフはアミィちゃんの頭に手を置き、その頭をワシャワシャと乱雑に撫でながら声をかける。って、アミィちゃんは女の子なんだから、そんな乱暴に撫でたりしたら……。

「ちょっとヴォルフさん、やめて下さい。私の頭はお兄ちゃん専用です!」

 アミィちゃんは自分の頭を撫でるヴォルフの手を掴むと、その手を振り払いながら言った。
 その声は静かに、だけど明らかに怒っている感じだった。

「ア、 アミィちゃん?」
「お、おいアミィ?」

 その様子を見て、私は背中を嫌な汗が伝うのを感じた。それはヴォルフも同じだったのか、私達がアミィちゃんに話しかけるタイミングが綺麗に被る。

「……次からは気を付けて下さいね!」

 そんな私達の様子を見て、アミィちゃんはほんの少しの間を空けた後、満面の笑みでヴォルフに注意をしたのだけれど、その言葉の裏には「二度目はない」という言外の意志を感じた。

「「ハハ、ハハハハッ」」

それを見て、聞いて、私とヴォルフは乾いた笑いを漏らすのが精一杯だった。
 アミィちゃんの頭は二度と撫でまい。私とヴォルフは特に示し合わせた訳でもないが、どちらからともなくお互い視線で会話した後に頷いた。





「それではただいまより、今回の勇者杯で見事本戦にまで勝ち進んだ選手の紹介をさせて頂きます!」

 武舞台の上で声を張り上げているのは、今回の勇者杯で審判と司会を務める男。
 あの後、三人で作戦会議をしていたら、あっという間に時間は過ぎ、今は光達と共に武舞台の上に集まっていた。

 光達勇者パーティ、王都のAランク冒険者「漆黒の牙」。そして俺達「氷炎の美姫」。
 計三パーティが武舞台の上に上がり、今は司会者の言葉に耳を傾けて。

「ねえ兄さん、昨日は帰れなくてごめんなさいね。寂しかったでしょ?」

 いないな、うん。
 さっきから光はこうやって頻繁に俺に話しかけてくる。そして。

「ヒカリさん、今はそんな話をする様な場じゃありませんよ」

 こうやってマリーに注意されている。……俺を間に挟んだ状態で。
 何故か二人共間に俺を挟んで会話をするもんだから、俺はやたら窮屈と言うか、居心地の悪さを感じているのだ。

 うん、とりあえず司会者がちょいちょい俺達の事見てるし、そろそろこのやり取りやめようか。
 俺はまだ小声で言い合いをしている二人の会話に入り、しばらくの間静かにする様に促した。

 すると二人はそこで初めて今の自分達の状態に気が付いたのか、二人して顔を赤くすると、そこで話すのをやめてくれた。

 それを見た司会者は、俺達を含めて先に武舞台の下に集合している選手達を一瞥すると、再び進行し始めた。

「予選を免除された選手については既に紹介は終わっていますので、今回は割愛させて
頂きます。それでは予選を突破した選手の入場です!」

 司会者がそう言うと、武舞台の入り口の方から、数人一組で固まって歩く集団が順番に武舞台の下に集まって来た。
 その数、五組の計十三人。既に集まっていた俺達を合わせると、合計八組二十二人の選手が集まった事になる。

 その後、選手が全員集まった事を確認した司会者が、俺達を全員武舞台の上へ上がる様に促したので、それに従い全員が武舞台の上に上がった。
 それを見届けると、司会者は再び口を開いた。

「それではこれより、勇者杯のルール説明に移りたいと思います!」

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