見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

二十三話

 マリーとフーリの反応が分かりやす過ぎた件。いや本当、冗談とかではなくて。
 普段は俺の方が顔に出てるらしいけど、今日だけは自信を持って言える。二人共緊張し過ぎだろ!

「なあ、二人共。一回落ち着こう? ほら、深呼吸深呼吸」

 俺が二人にそう言うと、二人共言われた通りゆっくりと深呼吸を始める。その姿を見ていると何というか、妙に落ち着いて来る。

(ああ、自分よりもテンパってる人見ると、逆に冷静になるって本当だったんだな)

 昔からよく聞く話ではあるが、実際に自分がその立場になるとよく分かる。これは確かに冷静になるな。
 そんな事を考えながら、二人がある程度落ち着いてきたであろうタイミングを見計らい、俺は二人に話しかけた。

「二人共、落ち着いたか?」
「……はい、大丈夫です」
「ああ」

 俺の言葉に、二人がそれぞれ返事を返してくる。
 いやあ、さっきまで緊張で落ち着かなかったのに、二人のおかげですっかり緊張が解れた。

「何か二人の姿見てたら、緊張なんてどっかに飛んでいったわ」
「うぅ、嬉しくないです」
「恥ずかしい所を見られてしまったな」

 二人が頬を赤く染めて恥ずかしそうに視線を逸らしている。マリーはともかく、フーリのこういう姿っていうのは珍しいな。
 普段しっかりしてる分、こういうフーリはなかなか見られない。

 それだけ緊張していたって事だろうけど。

「さて、お互い緊張が解れた所で、今日の作戦でも練らないか? といっても、特別な事をする訳じゃないだろうけど」

 これからトーナメントの組み合わせが発表された後、一度だけルール説明が行われてから、すぐに第一試合が始まるという話だ。
 それはつまり、もし第一試合に選ばれたなら、最悪作戦を経てる時間はないかもしれない、という事になる。

「作戦ですか。そうですね」
「ああ、本戦の事を考えたら悪くない」

 二人も俺と同じ事を考えたのか、二つ返事で返してきた。
 さて、それじゃあ作戦会議といきますか。





「ねえ、ヴォルフ」
「ぁん?」

 私は隣で寝ているヴォルフに声をかけた。

 本当なら私達は今日、予選を突破して勇者杯の本戦に参加している筈だった。だけど、予選最終日。その最終戦で、見た事もない力を扱う男一人に、私とヴォルフ、そしてひょんな事から知り合ったアルクという青年の三人は、手も足も出ずに敗退した。

 ハッキリ言って、あの男の強さは異常だった。触れるだけで力を奪われる霧の様なスキルに、どれだけ攻撃しても一切ダメージが通らなかった鎧。いや、アレは鎧の力だけではないのかもしれない。けれど、結局私達はその力の正体すら掴めないまま、一方的に打ち負かされた。

「本戦、そろそろ始まる頃じゃない?」
「……ぁあ、そうだな」

 ヴォルフは私の方には振り返らず、気のない返事を返してきた。
 気持ちは分かる。私だって、あんなに一方的に負けたのに、すぐに気持ちを切り替えられる程強くはない。

 でも、ヴォルフがいるから。ヴォルフのそんな姿を、いつまでも見ていたくないから。
 だから私が立ち上がらないと。いつまでも塞ぎ込んでいても、何も解決はしないから。

「予選はあんな結果になっちゃったけど、せめて本戦を見に行かない?」

 だから私は、今なお塞ぎ込んでいるヴォルフを、本戦を見に行こうと誘ってみた。すると、ヴォルフは一度だけ私の方に顔を向けてくれた。

「――っ!」

 無気力。そんな言葉が浮かんでくる様な、覇気のない顔だった。分かってはいたけど、出来ればヴォルフのそんな顔は見たくなかった。
 ヴォルフのそんな姿を見てしまったからか、私は無意識の内に悟ってしまった。この誘いは断られる、と。

「……いや、ワリィが今そんな気分じゃ――」
「行きましょうよ!」

 ヴォルフが私の誘いを断ろうとした瞬間、部屋の扉が勢いよく開き、そこからアミィちゃんが姿を現した。

「アミィちゃん!?」

 予想外の訪問者に、私は思わず素っ頓狂な声をあげていた。
 確かアミィちゃんは私達とは別に一部屋借りている筈だから、余程の理由が無い限りはこの部屋を訪ねてくる事はない筈。

「あ、こんにちは、ロザリーさん」
「あ、うん、こんにちは」

 アミィちゃんが普通に挨拶をしてきたので、私もつい普通に返しちゃったけど、絶対そんなタイミングじゃなかったよね?
 一応昨日放っておいてって言った筈だったわよね? 出来れば今の私達の姿を、あまり見られたくはなかった。

「ヴォルフさん。勇者杯、見に行きましょうよ!」

 アミィちゃんがもう一度ヴォルフに同じ事を言うけれど、当のヴォルフはと言うと。

「……」

 私達とは反対側を向いて、無言で寝たふりをしている。
 いや、流石に今のアミィちゃんに対して寝たふりは通用しないと思うけど。だって、アミィちゃんは明らかに私達の会話を聞いていたみたいだし。

「ほら、ヴォルフさん! 寝たふりなんてしないで下さい!」

 アミィちゃんがヴォルフの体を両手で揺さぶり、ヴォルフの寝たふりを許さない。
 それでも、最初は知らんふりしていたヴォルフだけれで、いつまでも諦めないアミィちゃんを前に、徐々に我慢の限界が近付いてきたのか。

「だぁーもう! うっとぉしーな!」

 最後には我慢の限界に達したヴォルフが、寝たふりをやめてアミィちゃんに怒鳴りながら起き上がった。

「すぐに返事しないからですよ。さあ、一緒に勇者杯、見に行きましょう!」

 アミィちゃんはヴォルフの怒鳴り声なんて物ともせずに、またヴォルフを勇者杯に誘っている。
 って、あれ? そういえば……。

「ねえアミィちゃん、何でヴォルフを勇者杯に誘ってるの?」

 単純に考えれば、昨日の一件で私達を心配してくれたっていうのが正しそうだけど、それじゃあ何で勇者杯に誘うのかしら?
 アミィちゃんだって、私達のこの傷の原因ぐらい察してくれてる筈よね?

 それでもなお勇者杯に誘う理由なんて。

「え? えっと、単純に三人でお兄ちゃんの雄姿を見たいっていうのもありますけど、一番の理由はお兄ちゃんに頼まれたからです」
「頼まれた? お兄ちゃんって言うと、カイトさんの事?」

 アミィちゃんが「お兄ちゃん」なんて親しみを込めて呼ぶ相手なんて、私は一人しか知らない。
 少し前、突然ペコライに現れた、謎の多い新人冒険者「コノエ・カイト」さん。

 侍の国出身らしく、名字が名前よりも前に付いている。
 カイトさんは冒険者登録をしてから、あっという間に私達と同じCランク冒険者にまで上り詰めた凄い人だ。

 何度か一緒に魔物と戦った事もあるけど、実力も申し分もない。強いて言えば戦い方が少し変わってはいるけど、それは欠点にはなりえない。
 少なくとも、先にCランクになっていた私達と比べて、実力が見劣りするなんて事はない。

 そして、ヴォルフが(勝手に)ライバル視している相手でもある。
 でも、何でカイトさんが私達の事をアミィちゃんにお願いするのかしら?

「はい。お兄ちゃん、昨日も二人の事心配してたんですよ。何かあったのかって」
「そうなの?」
「はい」

 知らなかった。まさかカイトさん心配されていたなんて。
 確かに昨日の私達は、傍から見たら心配してしまうぐらいにはボロボロだったわね。
 傷自体はもう大分良くなっているのだけれど。

「……おいアミィ。今の話は本当か?」

 私が自分の体を見下ろしながら怪我の具合を確認していると、ヴォルフが静かな声でアミィちゃんに尋ねた。

「はい、本当です。お兄ちゃん、すっごく心配してましたよ。今朝も、私に「二人の事は任せた」って言ってたんですから」

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