見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~
二十二話
二人で渡り鳥亭を出て、目指すは一般区。
王都に来た日から続くパレードも、流石にこの時間帯に開いている店は無い様だ。ただ、屋台自体は畳んでその場に置いてある。
これがあと少ししたら全部組み立てられて、またあの喧騒が始まるのかと思うと、この静かな時間というのが、とても貴重な物の様に感じられるから不思議だ。
「カイトさん、どうかしましたか?」
「ん? いや、ちょっとな」
畳んでそのまま置かれている屋台の山を眺めていたのを怪訝に思ったのか、マリーに声をかけられた。
「あともう少ししたら、この静かな通りがパレードの喧騒に包まれるのかと思ったら、何か感慨深くなったというか」
「あー、それ何となく分かるかもしれません」
てっきり微妙な顔をされるかと思っていたけど、どうやらマリーも似た様な感性を持ち合わせてくれていたらしい。
「ギャップ、とでも言えばいいんですかね? 今はこんなに静かなのに、あともう少ししたら人で溢れかえるパレードの中心地になるなんて、この光景を見てるとそうは思えませんよね」
「そうそう、そうなんだよ。もしこの時間しか知らなかったら、そんな事言われても信じられないよな」
嵐の前の静けさ……とはまた少し違うけど、一番近い感覚としてはそんな感じだろうか? いや、この場合は雪と墨とでも言うべきか?
どっちも微妙に違う気がするけど、言いたい事は何となく分かると思う。
と、そんな事を考えていたら、正面から人が歩いて来た。
全身黒い鎧に身を包み、長く伸びた黒髪をそのままに、吸い込まれそうな程真っ黒な瞳は、特定の場所に焦点が定まってはいない。
ただ、前に進むから前を見ている。そんな感じだ。
「っと、悪い」
「あ、いえ、こちらこそ」
随分と物々しい姿をしているなと思い眺めていたら、いつのまにか俺とその男は肩と肩がぶつかる程に近付いていた。
お互いギリギリの所で肩を躱し、互いに一言謝罪の言葉を口にしてからまた歩き出した。
「……?」
そして、足早に去って行く男の後姿を見て、俺は不思議な感覚に襲われた。
何だか懐かしい空気を感じた様な気がしたのだが、同時に奇妙な不快感にも襲われた。
いや、別に気に食わないとかそういう類のものじゃないんだけど。
何と説明すればいいか。上手い言葉が見つからないが、少なくとも嫌悪感を抱く程の不快感ではなかった。
「何だったんだ? 今の人」
「あの人がどうかしましたか?」
俺がいつまでも男が歩いて行った方角を見ていたからか、マリーから心配する様な言葉をかけられた。
「あ、いや、別に何でもない」
「? そうですか?」
マリーは首を傾げながら不思議そうな顔をしていたが、それ以上は特に気にする様子はなかった。
いや、仮に詳しく聞かれたとしても、説明のしようがないんだけど。
だって、初対面の相手に懐かしさと不快感を同時に覚えたなんて言っても「何言ってんだコイツ?」ってなるのが目に見えてるし。
だから、マリーが深く追求してこなかったのは幸いだった。
「それより、そろそろ帰りましょうか?」
「ん? ああ、もうそんな時間か」
気が付いたら空が徐々に明るみだしており、周囲の建物からは人がちらほらと出て来始めている所だった。
そろそろ宿に帰って朝飯の準備を始めれば、丁度いい時間帯になるだろう。
もっとマリーと散歩していたい気もするが、元々外の空気を吸いに行くついでに始めた散歩だ。
それに、今日は勇者杯の初戦。あまり遅くなって、ギリギリの時間になっても良くない。
けどまあ、もっとゆっくり時間があればな、とは思う。そうすれば、もっとのんびりマリーとの散歩を楽しむ事が出来たのに。
まあ、つべこべ言っても仕方ないか。
「それじゃ、帰ろっか」
「はい」
マリーは俺の言葉に返事を返し、そのまま回れ右をして歩き出す。俺もそれに倣って歩き出した。その時。
「また今度、一緒に散歩、しましょうね?」
ハッキリと聞こえてきた、マリーからのお誘いの言葉。後ろからしか見えないが、そう言ったマリーの頬は、薄っすらと赤く染まっている様にも見えた。
もしかして、マリーも俺と同じで名残惜しさを感じてくれているのではないか。
自惚れかもしれないけど、確かにそう感じた。だからこそ、俺は。
「ああ、勇者杯が終わった後にでも、ゆっくり散歩しようか」
そう答えた。
例え勇者杯で優勝出来ようが出来まいが、またマリーと一緒にのんびりと散歩を楽しみたいものだ。
「――っ! はい! 約束ですよ!」
「ああ。約束だ」
こちらを振り返り、嬉しそうに言うマリーに、俺は一度頷いて返した。
宿に帰って来た俺達は一度部屋に戻り、その後四人で朝飯を済ませた。
相変わらずヴォルフとロザリーさんは部屋から出て来なかったみたいだが、アミィが昨日の内に差し入れた晩飯は食べてくれていたらしいから、食事も喉を通らない程深刻な状態ではないらしい。
二人の事が気にはなるが、かといっていつまでものんびりと宿で待っている訳にもいかない。俺達はこれから勇者杯の初戦に臨まないといけないのだから。
「そういう訳で、俺達は先に王城に行くから」
「うん。私もギリギリまでヴォルフさん達を待ってから行くね」
アミィはギリギリの時間まで、ヴォルフ達が部屋から出て来るのを待ってみるらしい。
二人はアミィを王都まで護衛してくれたのだし、やっぱりアミィも気になるのだろう。だからこそ、ここはアミィに任せた方が良さそうだ。
「アミィ、二人の事は任せたぞ」
「うん、任せて!」
俺がアミィにお願いすると、アミィはとても嬉しそうに、二つ返事で任せてと言ってくれた。なんか、随分嬉しそうだな。
でもまあ、アミィに任せれば安心だな。
「それじゃあ、そろそろ行こうか」
「はい」
「ああ、行こう」
マリーとフーリに声をかけ、俺達は王城へと向かって出発した。
「にしても、いよいよ勇者杯本戦か。なんか今から緊張してきた」
王城に辿り着き、セバスチャンさんから案内された控室で、俺はこれから始まる試合の話をしていた。
「そうですね。しかも、相手は強者が揃ってますからね。予選を免除されたヒカリさん達はもちろん、漆黒の牙の人達も相当な実力者だという話ですし」
「ああ。それに、予選の狭き門を潜り抜けてきた者達も、皆一癖も二癖もあるだろう。油断していると、あっさりと負けてしまう可能性もある」
二人は俺よりは幾分余裕がありそうな感じがするけど、やっぱりそこは冒険者歴の差という奴なのだろう。
なんだかんだ言っても、俺はまだ冒険者になって半年も経っていない、いわばヒヨッ子だ。こういう場面ではやっぱり経験の差が如実に出てしまう、という事だろう。
……ん?
「なあマリー。そのカップ、もう空だぞ?」
「えっ!? あ、ああ、本当ですね! す、すぐにおかわりお願いしてきます!」
そう言ってマリーは空になったティーカップを持って入り口の方まで小走りで駆けて行った。
「まったく、何をやってるんだマリーは」
「いや、そういうフーリも。今磨いてるそれ、刀身じゃなくて鞘だけど」
「なっ!? ま、まあこういう事もたまにはあるさ! はは、ははははっ」
そう、さっきからやたらと剣を念入りに磨いてると思ったら、刀身ではなく鞘を磨いていたのだ。
ていうか、これって。
マリーが表に控えているメイドに紅茶のおかわりを告げて戻ってきたので、俺はたった今感じた事を二人に聞いてみる事にした。
「なあ、マリー、フーリ」
「な、何ですか、カイトさん?」
「どうかしたか?」
二人が明らかに動揺を隠そうとしているのが手に取る様に分かる。
やっぱり、勘違いとかじゃなさそうだな。
「実は、二人も結構緊張してる?」
「「なっ!?」」
二人の声が見事に重なる。いや、息ピッタリだな。流石姉妹。
「なな、何を言ってるんですか!?」
「わ、私達が、き、緊張だと!?」
いや、二人共分かりやす過ぎだろ!
王都に来た日から続くパレードも、流石にこの時間帯に開いている店は無い様だ。ただ、屋台自体は畳んでその場に置いてある。
これがあと少ししたら全部組み立てられて、またあの喧騒が始まるのかと思うと、この静かな時間というのが、とても貴重な物の様に感じられるから不思議だ。
「カイトさん、どうかしましたか?」
「ん? いや、ちょっとな」
畳んでそのまま置かれている屋台の山を眺めていたのを怪訝に思ったのか、マリーに声をかけられた。
「あともう少ししたら、この静かな通りがパレードの喧騒に包まれるのかと思ったら、何か感慨深くなったというか」
「あー、それ何となく分かるかもしれません」
てっきり微妙な顔をされるかと思っていたけど、どうやらマリーも似た様な感性を持ち合わせてくれていたらしい。
「ギャップ、とでも言えばいいんですかね? 今はこんなに静かなのに、あともう少ししたら人で溢れかえるパレードの中心地になるなんて、この光景を見てるとそうは思えませんよね」
「そうそう、そうなんだよ。もしこの時間しか知らなかったら、そんな事言われても信じられないよな」
嵐の前の静けさ……とはまた少し違うけど、一番近い感覚としてはそんな感じだろうか? いや、この場合は雪と墨とでも言うべきか?
どっちも微妙に違う気がするけど、言いたい事は何となく分かると思う。
と、そんな事を考えていたら、正面から人が歩いて来た。
全身黒い鎧に身を包み、長く伸びた黒髪をそのままに、吸い込まれそうな程真っ黒な瞳は、特定の場所に焦点が定まってはいない。
ただ、前に進むから前を見ている。そんな感じだ。
「っと、悪い」
「あ、いえ、こちらこそ」
随分と物々しい姿をしているなと思い眺めていたら、いつのまにか俺とその男は肩と肩がぶつかる程に近付いていた。
お互いギリギリの所で肩を躱し、互いに一言謝罪の言葉を口にしてからまた歩き出した。
「……?」
そして、足早に去って行く男の後姿を見て、俺は不思議な感覚に襲われた。
何だか懐かしい空気を感じた様な気がしたのだが、同時に奇妙な不快感にも襲われた。
いや、別に気に食わないとかそういう類のものじゃないんだけど。
何と説明すればいいか。上手い言葉が見つからないが、少なくとも嫌悪感を抱く程の不快感ではなかった。
「何だったんだ? 今の人」
「あの人がどうかしましたか?」
俺がいつまでも男が歩いて行った方角を見ていたからか、マリーから心配する様な言葉をかけられた。
「あ、いや、別に何でもない」
「? そうですか?」
マリーは首を傾げながら不思議そうな顔をしていたが、それ以上は特に気にする様子はなかった。
いや、仮に詳しく聞かれたとしても、説明のしようがないんだけど。
だって、初対面の相手に懐かしさと不快感を同時に覚えたなんて言っても「何言ってんだコイツ?」ってなるのが目に見えてるし。
だから、マリーが深く追求してこなかったのは幸いだった。
「それより、そろそろ帰りましょうか?」
「ん? ああ、もうそんな時間か」
気が付いたら空が徐々に明るみだしており、周囲の建物からは人がちらほらと出て来始めている所だった。
そろそろ宿に帰って朝飯の準備を始めれば、丁度いい時間帯になるだろう。
もっとマリーと散歩していたい気もするが、元々外の空気を吸いに行くついでに始めた散歩だ。
それに、今日は勇者杯の初戦。あまり遅くなって、ギリギリの時間になっても良くない。
けどまあ、もっとゆっくり時間があればな、とは思う。そうすれば、もっとのんびりマリーとの散歩を楽しむ事が出来たのに。
まあ、つべこべ言っても仕方ないか。
「それじゃ、帰ろっか」
「はい」
マリーは俺の言葉に返事を返し、そのまま回れ右をして歩き出す。俺もそれに倣って歩き出した。その時。
「また今度、一緒に散歩、しましょうね?」
ハッキリと聞こえてきた、マリーからのお誘いの言葉。後ろからしか見えないが、そう言ったマリーの頬は、薄っすらと赤く染まっている様にも見えた。
もしかして、マリーも俺と同じで名残惜しさを感じてくれているのではないか。
自惚れかもしれないけど、確かにそう感じた。だからこそ、俺は。
「ああ、勇者杯が終わった後にでも、ゆっくり散歩しようか」
そう答えた。
例え勇者杯で優勝出来ようが出来まいが、またマリーと一緒にのんびりと散歩を楽しみたいものだ。
「――っ! はい! 約束ですよ!」
「ああ。約束だ」
こちらを振り返り、嬉しそうに言うマリーに、俺は一度頷いて返した。
宿に帰って来た俺達は一度部屋に戻り、その後四人で朝飯を済ませた。
相変わらずヴォルフとロザリーさんは部屋から出て来なかったみたいだが、アミィが昨日の内に差し入れた晩飯は食べてくれていたらしいから、食事も喉を通らない程深刻な状態ではないらしい。
二人の事が気にはなるが、かといっていつまでものんびりと宿で待っている訳にもいかない。俺達はこれから勇者杯の初戦に臨まないといけないのだから。
「そういう訳で、俺達は先に王城に行くから」
「うん。私もギリギリまでヴォルフさん達を待ってから行くね」
アミィはギリギリの時間まで、ヴォルフ達が部屋から出て来るのを待ってみるらしい。
二人はアミィを王都まで護衛してくれたのだし、やっぱりアミィも気になるのだろう。だからこそ、ここはアミィに任せた方が良さそうだ。
「アミィ、二人の事は任せたぞ」
「うん、任せて!」
俺がアミィにお願いすると、アミィはとても嬉しそうに、二つ返事で任せてと言ってくれた。なんか、随分嬉しそうだな。
でもまあ、アミィに任せれば安心だな。
「それじゃあ、そろそろ行こうか」
「はい」
「ああ、行こう」
マリーとフーリに声をかけ、俺達は王城へと向かって出発した。
「にしても、いよいよ勇者杯本戦か。なんか今から緊張してきた」
王城に辿り着き、セバスチャンさんから案内された控室で、俺はこれから始まる試合の話をしていた。
「そうですね。しかも、相手は強者が揃ってますからね。予選を免除されたヒカリさん達はもちろん、漆黒の牙の人達も相当な実力者だという話ですし」
「ああ。それに、予選の狭き門を潜り抜けてきた者達も、皆一癖も二癖もあるだろう。油断していると、あっさりと負けてしまう可能性もある」
二人は俺よりは幾分余裕がありそうな感じがするけど、やっぱりそこは冒険者歴の差という奴なのだろう。
なんだかんだ言っても、俺はまだ冒険者になって半年も経っていない、いわばヒヨッ子だ。こういう場面ではやっぱり経験の差が如実に出てしまう、という事だろう。
……ん?
「なあマリー。そのカップ、もう空だぞ?」
「えっ!? あ、ああ、本当ですね! す、すぐにおかわりお願いしてきます!」
そう言ってマリーは空になったティーカップを持って入り口の方まで小走りで駆けて行った。
「まったく、何をやってるんだマリーは」
「いや、そういうフーリも。今磨いてるそれ、刀身じゃなくて鞘だけど」
「なっ!? ま、まあこういう事もたまにはあるさ! はは、ははははっ」
そう、さっきからやたらと剣を念入りに磨いてると思ったら、刀身ではなく鞘を磨いていたのだ。
ていうか、これって。
マリーが表に控えているメイドに紅茶のおかわりを告げて戻ってきたので、俺はたった今感じた事を二人に聞いてみる事にした。
「なあ、マリー、フーリ」
「な、何ですか、カイトさん?」
「どうかしたか?」
二人が明らかに動揺を隠そうとしているのが手に取る様に分かる。
やっぱり、勘違いとかじゃなさそうだな。
「実は、二人も結構緊張してる?」
「「なっ!?」」
二人の声が見事に重なる。いや、息ピッタリだな。流石姉妹。
「なな、何を言ってるんですか!?」
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