見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~
十四話
あの黒い霧は一体何だ?
触れるとヤバそうっていうのだけは分かるんだけど……って、おっと!?
「こんなに狭い部屋じゃ、避け続けるのにも限界があるぞ。とりあえず、鑑定してみるか」
ここじゃ下手な魔法は使えないし、あの人が操られているだけという可能性がある以上、殴り倒すのも無理。それなら、鑑定結果に賭けてみるしかない。
俺は今なお黒い霧を生み出し纏っている院長先生(仮)に向かって鑑定をかけてみた。
「邪神の闇:触れた物の生命エネルギーを奪う闇 収納可能」
邪神の闇? 何だそれ? 聞いた事ないけど。ていうか、邪神? え、この世界邪神なんているの? 初耳なんだけど……ん?
何だ? もう一つ鑑定結果が……え?
「『あの方の事を知った以上、生かしては返さん!』」
院長先生(仮)が、実に愉快そうに顔を歪めながら話しているのが聞こえるが、正直ちっとも頭に入ってこない。
「『どうした? 恐ろしくて声も出ないか?』」
新たに表示された鑑定結果。それは。
「『だが、安心しろ。痛みなど感じさせずにあの世に送ってやる!』」
「邪神の僕の憑依体:邪神の僕が乗り移った存在 収納可能」
……俺、疲れてんのかな? 何か意味分らない事が書かれてる気がするんだけど。
俺は一度目頭を押さえ、数回ほど目を擦った後、再び鑑定結果に目を通した。
「邪神の僕の憑依体:邪神の僕が乗り移った存在 収納可能」
が、結果は同じだった。
何だよそれ。邪神云々も気になるが、それ以上に目を惹くのは、この「収納可能」の文字。邪神の闇にも同じように出てるけど……え、つまり何だ? あいつに向かって収納とでも唱えれば、ストレージに収納出来るって事?
「『……おい、いい加減何か喋ったらどうだ?』」
信じられない鑑定結果に驚いていると、苛立ったような邪神の僕の声が聞こえてきた。
「え? マジでいいの?」
思わず素で聞き返してしまった。だって、あまりにもタイミングが良すぎるからつい。
俺が取り乱す訳でも、怯える訳でもなく、素で返したのが気に食わなかったのか、邪神の僕は更に声を荒げ。
「『いいから何か喋れ! まあ、貴様に出来る事と言えば、精々命乞い程度……』」
「収納」
お望み通り一言だけ喋ると、邪神の僕の声はそこで途切れた。
いや、正確には邪神の僕そのものが俺の目の前から唐突に姿を消した、か。
自分でしておいてなんだが、本当に収納されたのか?
念の為ストレージ内を確認してみると。
「……えぇ」
ストレージ内には確かに「邪神の僕の憑依体」の文字が追加されていた。
え、これどうしよう? つい勢いで収納しちゃったけど、これってさっきの院長先生(仮)だよな? それがストレージに収納されてるって事は……。
「よし! とりあえず部屋中の闇を収納するか!」
考えるのはその後だな! うん!
……決して現実逃避でも、問題の先送りでもないよ? このままだとアン達にも被害が出るかもしれないし、あくまで優先順位を考えた結果だ。
とりあえず部屋中の邪神の闇をストレージに収納して、と。
「……やべぇ、現実逃避する時間すらなかった」
一瞬だった。邪神の闇を収納するのに掛かった時間は、ほんの一瞬瞬きにも等しい時間しかかからなかった。
念の為ストレージの中を確認すると、そこには確かに「邪神の闇」の文字がある。
「どーしよっかなぁ」
こんな物収納してても使い道なんてそうそう無いだろうし、何より俺のストレージには今、人が収納されてるんだぞ。
何とかして院長先生だけでも助けてあげたいけど、今この「邪神の僕の憑依体」を取り出すと、最初の状態に戻るだけだし……ん?
さてさて、どうしたものかと悩んでいると、突然ストレージから「ピコン」という音が鳴り、次にストレージ画面にコマンドが浮かび上がってきた。
何だ? コマンドが反応してる?
「えーっと、何々? 分解?」
浮かび上がってきたコマンドは「分解」。
そこには、邪神の僕の憑依体を「邪神の僕の魂」と「リヒト」に分離させる、という説明がなされていた。
「……えぇ」
さっきも同じ様なリアクションしたな。でも、他に言葉が出て来ないから仕方がない。ボキャ貧で悪かったな!
っと、話しが逸れるな。
つまりだ。この分解を使えば院長先生と、それに取り付いていた邪神の僕の魂を分離させる事が出来るって事だよな?
てことは、この「リヒト」っていうのは、院長先生の名前か。
でも、こんなに簡単に事が進んでいいのか? だってこの邪神の僕とやらは、院長先生に憑依して、めっちゃ意味深に登場した上に、邪神の闇なんて大層な名前のスキルまで使ってたんだぞ。
それをストレージに収納・分離してハイおしまい、なんて、あまりにも哀れな気がするんだけど……。
「いや、別にいいか」
思い返してみれば、コイツはアンとフォレを怯えさせた張本人だ。しかも二人が慕っている院長先生に憑依するというふざけた事までしている。
処す理由としては充分であれ、見逃す理由は全く無いな。
「それじゃあ、分解っと」
対象は邪神の僕の憑依体。それをタップし、分解のコマンドを選択。すると、邪神の僕の憑依体が一瞬だけ光り、次の瞬間には「邪神の僕の魂」と「リヒト」に分解された。
「後はこのリヒトさんを取り出せばいい、のか?」
なんせ人を取り出すなんて経験、自分以外では初めてだから、上手くいくか緊張している。俺自身は何度かストレージの中に入ってるから平気だって分かってるけど。
「……ええい、考えてても仕方がない! どうせこのまま収納しっぱなしって訳にはいかないんだから、さっさと取り出そう!」
そう思い「リヒト」の文字を選択した時だった。
「リヒト:状態異常 衰弱」と表示され、その横に「浄化」のコマンドが浮かんできた。
「何だ、衰弱状態?」
それって、イレーヌさんに掛かってる「衰弱の呪い」と同じ状態って事か? 仮にもしそうだとして、何でリヒトさんが衰弱の呪いに? いや、それ以上に気になるのは。
「浄化が反応してるって事は、もしかして……」
今までの経験上、ストレージのコマンドが反応する時は、問題を解決出来る時だった。それなら、この衰弱も「浄化」で治せるのでは?
そう考えるのと、俺の手が動くのはまったく同時だった。
俺はすぐにリヒトさんに反応している浄化のコマンドをタップした。
するとリヒトさんの名前が一瞬だけ光り、光が治まる頃にはリヒトさんの状態異常、衰弱は綺麗に無くなっていた。
「やっぱり、衰弱が消えてる……て事は」
可能性の話になるが、リヒトさんと同じようにイレーヌさんをストレージに収納さえ出来れば、衰弱の呪いを浄化する事が出来るかもしれない。
まだ確実という訳じゃないが、可能性は充分ある。
そして、もしそれが出来るのなら、イレーヌさんを長年苦しめ続けた衰弱の呪いは、近い内に完全に克復出来るかもしれない。
意図しない所で実験みたいな感じになってしまったが、どうか成功していて欲しい。
そう願いながら、俺はベッドの上にリヒトさんを「取り出した」。
「うっ……ん」
ベッドの上に現れたリヒトさんは、一瞬だけ小さな呻き声をあげると、そのままベッドの上に横たわった。
「リヒトさん?」
ベッドに横たわったリヒトさんからの反応はない。
もしかして取り出した時にどこか痛めたのかと思い、リヒトさんに声をかけてみたが。
「すぅ、すぅ」
ベッドの上から聞こえてくるのは小さな寝息。
どうやらリヒトさんはどこか痛めた訳ではなく、眠っているだけの様だ。よかった。どこか痛めたりしたのかと思ったけど、とりあえず怪我はないみたいだな。
「油断は出来ないけど、とりあえずは終わった、のか?」
部屋の中を見回してみるが、特に異常は見受けられない。邪神の闇は生物にしか影響がないのか、部屋中に広がっていた筈なのに、その痕跡がどこにも見当たらない。
「随分とあっさり終わったけど、とりあえず一安心かな」
本当にあれで良かったのかという決着の着き方だったけど、しょうがないよな。
むしろいたずらに被害が大きくならなかった幸運に感謝した方がいいだろう。
「お兄さん! 大丈夫ですか!?」
「カイトさん!?」
「無事か、カイト君!?」
そんな事を考えていると、突然部屋の扉が開き、そこからマリーとフーリ、そしてアンが部屋の中に飛び込んできた。
え、どういう事? ていうか、何で二人も孤児院にいるの?
触れるとヤバそうっていうのだけは分かるんだけど……って、おっと!?
「こんなに狭い部屋じゃ、避け続けるのにも限界があるぞ。とりあえず、鑑定してみるか」
ここじゃ下手な魔法は使えないし、あの人が操られているだけという可能性がある以上、殴り倒すのも無理。それなら、鑑定結果に賭けてみるしかない。
俺は今なお黒い霧を生み出し纏っている院長先生(仮)に向かって鑑定をかけてみた。
「邪神の闇:触れた物の生命エネルギーを奪う闇 収納可能」
邪神の闇? 何だそれ? 聞いた事ないけど。ていうか、邪神? え、この世界邪神なんているの? 初耳なんだけど……ん?
何だ? もう一つ鑑定結果が……え?
「『あの方の事を知った以上、生かしては返さん!』」
院長先生(仮)が、実に愉快そうに顔を歪めながら話しているのが聞こえるが、正直ちっとも頭に入ってこない。
「『どうした? 恐ろしくて声も出ないか?』」
新たに表示された鑑定結果。それは。
「『だが、安心しろ。痛みなど感じさせずにあの世に送ってやる!』」
「邪神の僕の憑依体:邪神の僕が乗り移った存在 収納可能」
……俺、疲れてんのかな? 何か意味分らない事が書かれてる気がするんだけど。
俺は一度目頭を押さえ、数回ほど目を擦った後、再び鑑定結果に目を通した。
「邪神の僕の憑依体:邪神の僕が乗り移った存在 収納可能」
が、結果は同じだった。
何だよそれ。邪神云々も気になるが、それ以上に目を惹くのは、この「収納可能」の文字。邪神の闇にも同じように出てるけど……え、つまり何だ? あいつに向かって収納とでも唱えれば、ストレージに収納出来るって事?
「『……おい、いい加減何か喋ったらどうだ?』」
信じられない鑑定結果に驚いていると、苛立ったような邪神の僕の声が聞こえてきた。
「え? マジでいいの?」
思わず素で聞き返してしまった。だって、あまりにもタイミングが良すぎるからつい。
俺が取り乱す訳でも、怯える訳でもなく、素で返したのが気に食わなかったのか、邪神の僕は更に声を荒げ。
「『いいから何か喋れ! まあ、貴様に出来る事と言えば、精々命乞い程度……』」
「収納」
お望み通り一言だけ喋ると、邪神の僕の声はそこで途切れた。
いや、正確には邪神の僕そのものが俺の目の前から唐突に姿を消した、か。
自分でしておいてなんだが、本当に収納されたのか?
念の為ストレージ内を確認してみると。
「……えぇ」
ストレージ内には確かに「邪神の僕の憑依体」の文字が追加されていた。
え、これどうしよう? つい勢いで収納しちゃったけど、これってさっきの院長先生(仮)だよな? それがストレージに収納されてるって事は……。
「よし! とりあえず部屋中の闇を収納するか!」
考えるのはその後だな! うん!
……決して現実逃避でも、問題の先送りでもないよ? このままだとアン達にも被害が出るかもしれないし、あくまで優先順位を考えた結果だ。
とりあえず部屋中の邪神の闇をストレージに収納して、と。
「……やべぇ、現実逃避する時間すらなかった」
一瞬だった。邪神の闇を収納するのに掛かった時間は、ほんの一瞬瞬きにも等しい時間しかかからなかった。
念の為ストレージの中を確認すると、そこには確かに「邪神の闇」の文字がある。
「どーしよっかなぁ」
こんな物収納してても使い道なんてそうそう無いだろうし、何より俺のストレージには今、人が収納されてるんだぞ。
何とかして院長先生だけでも助けてあげたいけど、今この「邪神の僕の憑依体」を取り出すと、最初の状態に戻るだけだし……ん?
さてさて、どうしたものかと悩んでいると、突然ストレージから「ピコン」という音が鳴り、次にストレージ画面にコマンドが浮かび上がってきた。
何だ? コマンドが反応してる?
「えーっと、何々? 分解?」
浮かび上がってきたコマンドは「分解」。
そこには、邪神の僕の憑依体を「邪神の僕の魂」と「リヒト」に分離させる、という説明がなされていた。
「……えぇ」
さっきも同じ様なリアクションしたな。でも、他に言葉が出て来ないから仕方がない。ボキャ貧で悪かったな!
っと、話しが逸れるな。
つまりだ。この分解を使えば院長先生と、それに取り付いていた邪神の僕の魂を分離させる事が出来るって事だよな?
てことは、この「リヒト」っていうのは、院長先生の名前か。
でも、こんなに簡単に事が進んでいいのか? だってこの邪神の僕とやらは、院長先生に憑依して、めっちゃ意味深に登場した上に、邪神の闇なんて大層な名前のスキルまで使ってたんだぞ。
それをストレージに収納・分離してハイおしまい、なんて、あまりにも哀れな気がするんだけど……。
「いや、別にいいか」
思い返してみれば、コイツはアンとフォレを怯えさせた張本人だ。しかも二人が慕っている院長先生に憑依するというふざけた事までしている。
処す理由としては充分であれ、見逃す理由は全く無いな。
「それじゃあ、分解っと」
対象は邪神の僕の憑依体。それをタップし、分解のコマンドを選択。すると、邪神の僕の憑依体が一瞬だけ光り、次の瞬間には「邪神の僕の魂」と「リヒト」に分解された。
「後はこのリヒトさんを取り出せばいい、のか?」
なんせ人を取り出すなんて経験、自分以外では初めてだから、上手くいくか緊張している。俺自身は何度かストレージの中に入ってるから平気だって分かってるけど。
「……ええい、考えてても仕方がない! どうせこのまま収納しっぱなしって訳にはいかないんだから、さっさと取り出そう!」
そう思い「リヒト」の文字を選択した時だった。
「リヒト:状態異常 衰弱」と表示され、その横に「浄化」のコマンドが浮かんできた。
「何だ、衰弱状態?」
それって、イレーヌさんに掛かってる「衰弱の呪い」と同じ状態って事か? 仮にもしそうだとして、何でリヒトさんが衰弱の呪いに? いや、それ以上に気になるのは。
「浄化が反応してるって事は、もしかして……」
今までの経験上、ストレージのコマンドが反応する時は、問題を解決出来る時だった。それなら、この衰弱も「浄化」で治せるのでは?
そう考えるのと、俺の手が動くのはまったく同時だった。
俺はすぐにリヒトさんに反応している浄化のコマンドをタップした。
するとリヒトさんの名前が一瞬だけ光り、光が治まる頃にはリヒトさんの状態異常、衰弱は綺麗に無くなっていた。
「やっぱり、衰弱が消えてる……て事は」
可能性の話になるが、リヒトさんと同じようにイレーヌさんをストレージに収納さえ出来れば、衰弱の呪いを浄化する事が出来るかもしれない。
まだ確実という訳じゃないが、可能性は充分ある。
そして、もしそれが出来るのなら、イレーヌさんを長年苦しめ続けた衰弱の呪いは、近い内に完全に克復出来るかもしれない。
意図しない所で実験みたいな感じになってしまったが、どうか成功していて欲しい。
そう願いながら、俺はベッドの上にリヒトさんを「取り出した」。
「うっ……ん」
ベッドの上に現れたリヒトさんは、一瞬だけ小さな呻き声をあげると、そのままベッドの上に横たわった。
「リヒトさん?」
ベッドに横たわったリヒトさんからの反応はない。
もしかして取り出した時にどこか痛めたのかと思い、リヒトさんに声をかけてみたが。
「すぅ、すぅ」
ベッドの上から聞こえてくるのは小さな寝息。
どうやらリヒトさんはどこか痛めた訳ではなく、眠っているだけの様だ。よかった。どこか痛めたりしたのかと思ったけど、とりあえず怪我はないみたいだな。
「油断は出来ないけど、とりあえずは終わった、のか?」
部屋の中を見回してみるが、特に異常は見受けられない。邪神の闇は生物にしか影響がないのか、部屋中に広がっていた筈なのに、その痕跡がどこにも見当たらない。
「随分とあっさり終わったけど、とりあえず一安心かな」
本当にあれで良かったのかという決着の着き方だったけど、しょうがないよな。
むしろいたずらに被害が大きくならなかった幸運に感謝した方がいいだろう。
「お兄さん! 大丈夫ですか!?」
「カイトさん!?」
「無事か、カイト君!?」
そんな事を考えていると、突然部屋の扉が開き、そこからマリーとフーリ、そしてアンが部屋の中に飛び込んできた。
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