見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~
十話
俺の聞き間違いじゃなかったら、今この詐欺師は、孤児院の子供を引き取るって言わなかったか?
「この前も引き取りに来たのヨ。でも、女の子供が「お引き取り下さい!」って喚いてたから無理だったヨ。私は子供を全部引き取りたいだけなのに、酷いヨ!」
どうやら聞き間違いじゃなかった様だ。
「お前が、あの子達を?」
だからこそ、信じられなかった。これがこの詐欺師じゃなかったら、まだ可能性があっただろう。
ここは孤児院なのだから、子供を引き取りたいという人がいてもおかしくはない。
普通にあり得る事だ。
だが、こいつが――詐欺師が子供を引き取る? そんなのは絶対嘘だ。断言出来る。
「オォ? お客さん孤児院の関係者か何かヨ?」
この詐欺師が子供を引き取っても、絶対に子供達は幸せにはなれない。むしろ不幸になる。そう断言してもいい。
「だったら話が早いヨ! さあ、早く子供達を「全部」私に譲るヨ!」
何故ならこいつは、さっきから子供達の事を「全部」引き取ると言っているからだ。
そう、子供達を「全員」引き取るではなく「全部」引き取る、と。人間の事を「全部」だなんて表現する事はまずない。
いくらここが異世界だといっても、そこに違いは無い筈だ。
それなのに「全部」と表現するという事は、この男は子供達の事を「人間」ではなく「物」と見ている事になる。
「さあ、早く!」
そんな奴に、孤児院の子供を引き取らせる? あり得ない。
目の前で子供達を不幸にしようとしている男がいるのに、それを黙って見ているなんて、俺には出来ない。
「何してるヨ! はや……?」
無言でストレージから魔鉄バットを取り出し、それに全力で魔力を籠める。
魔鉄バットの色が一瞬で銀色から紫、そして赤色へと変化し、眩いぐらいに光輝く。
それを迷わずに目の前の男、その爪先に向かって叩きつける。
ガァァンッ!
魔鉄バットは男の鼻先を掠め、石畳の床を抉り砕いた。
「ヒッ!」
突然の出来事に驚いたのか、詐欺師は短い悲鳴をあげ、無様に尻餅をついていた。
その様子を見て、俺が再び魔鉄バットを振りかぶると、詐欺師は慌てて両手をあげ。
「ちょちょっ、ちょっと待つヨ! 急にどうしたヨ!? 私、何かお客さんが怒る様な事言ったヨ!?」
詐欺師は必至に両手を振り、俺に待ったをかけてきたが、そんな行動に構わず、俺は再び魔鉄バットを振り下ろした。
ドガッ!
今度も詐欺師の顔すれすれの場所を魔鉄バットが抉り砕く。
これだけ硬化させた魔鉄バットにとって、石畳の床など、薄いガラスでも叩き割っているかの様な手応えしかない。
「ヒ、ヒィッ! 嫌ヨ! まだ死にたくないヨ!」
再び目の前の床に叩きつけられた魔鉄バットを見て、詐欺師は完全に怯えてしまっていた。
頃合いか。
「おい、詐欺師」
殺気、なんて大層な物はよく分からないが、今俺はこの男の頭蓋を叩き割ってやりたい衝動に駆られている。
だが、それは決して超えてはいけないラインだ。そこを超えてしまったら、俺の中に何かが変わりそうな予感がする。
だからこそ、俺は。
「次は当てる。それが嫌なら二度と孤児院に近付くな」
なるべく抑揚を抑え、脅す様に警告した。
これまでの人生、殺気なんて物を飛ばした経験は無いが、こんな物だろうか?
確かにこの男は許せない。それに犯罪者だ。だが、だからといって本当に殺そうとは思わない。当然だ。
ていうか、普通の人生経験をしていれば、そんな機会はまず訪れないだろう。だから、殺気なんて物も、想像した事はあったとしても、自分の意志でまともに扱える訳ないのだ。
「わ、分かったヨ! 二度と近づかないヨ!」
だが、今の俺の行動は効果てきめんだったらしく、詐欺師は慌てて立ち上がり、大きなリュックを適当に持つと。
「ヨー!」
そのまま孤児院から走り去っていった。
それを後姿が見えなくなるまで睨み続け、しばらくしてようやく視界に詐欺師の姿が映らなくなった。
「はぁぁーっ。上手くいったぁ」
思いの外望み通りに事が進み、俺は安堵の息を漏らす。
正直あの男に激しい怒りを感じたのは間違いない。
だが、だからといって詐欺師を追い払えるかどうかはまた別問題だ。
俺が怒りに任せて行動出来るタイプだったらまた話は違ったかもしれないけど、生憎俺はそういうタイプじゃない。
どっちかというと俺は、理性が感情を爆発しない様に抑えるタイプの人間だ。
だからこそ、今みたいな場面でも無意識の行動ではなく、頭で考えて行動する訳だが。
でも、こういう時は子供達の為にがむしゃらに行動するタイプの方が良いよな。
「それにしても、あの詐欺師「この前」って言ってたよな?」
もしかしてそれって、一昨日の話だったりするのか?
もしそうなら、今日あんまり元気が無かったアンの様子にも納得がいく。
多分アンは、あの詐欺師を必死に追い払おうとしたのかもしれない。
初対面の時のアンを思い出せば、充分想像がつく。
それならそうと、俺に相談してくれれば良かったのに。そうすれば、もっと他にもやりようはあったかもしれない。
「……おにいちゃん?」
そんな事を考えていると、孤児院の方から子供の声が聞こえてきた。フォレだ。
フォレは今の音が聞こえたのか、しきりに辺りを見回しながら、俺の元まで駆け寄って来た。
「おにいちゃん、もう帰っちゃったんじゃなかったの?」
「い、いや! えっと……」
フォレは俺の傍まで来ると、そのまま俺の足に抱き着き、俺を見上げる形で尋ねてきた。
どうしよう、何も言えねぇ。
かと言って、今のやり取りを話す訳にもいかない。そんな事しても、フォレを怖がらせるだけだ。
でも、それじゃあ何て説明したらいいか。
「……アンは!?」
「ん? アンおねえちゃん?」
俺は苦し紛れにアンの名前を出した。
「そう、アンだ! アンが今どこにいるのか知らないか? ちょっと用事を思い出してな」
我ながら苦しい言い訳だと思うが、他に良い方法を思いつかなかった。
だが、まだ年端もいかない幼い少女が相手なら、こんな言い訳でも通じる筈だ。
「えっと、今はおじいちゃんのお世話をしに行ってると思うよ」
おじいちゃんのお世話。それはつまり、倒れたっていう孤児院の院長先生の世話の話だろう。
そのお世話をしているという事は、今まで俺が訪れた事のない部屋である可能性が高い。
でもそんな場所、俺は知らない訳で。
「なあフォレ、そのおじいちゃんがいる部屋まで案内してくれないか?」
こうなった以上、もう行く所まで行ってやろう。そう思って、フォレに案内を頼んだんだ。
どうせならこっちからアンの所まで行ってやろうではないか。
ついでに、寝たきりになったという院長先生の様子も見てみよう。
「おじいちゃんの部屋まで? うん、いいよ」
俺が案内を頼むと、フォレは二つ返事で了承し、俺の手を握ると。
「こっちだよ! 付いて来て!」
そう言って、俺の手を引いて歩き始めた。
何か妙に張り切ってるけど、急にどうした? そんなに俺を案内するのが嬉しいのか?
まあフォレが笑顔だし、そこまで気にしなくても別にいいか。
そう思い、俺はフォレに手を引かれるまま、その後を付いて行った。
今にして思えば、この時俺が「行く所まで行ってやろう」と思ったのは、偶然とはいえ本当に良い判断だった。
そう、胸を張って言える。
何故かというと。
「助けてよ、お兄さん!」
フォレに案内されて辿り着いた部屋。その中で、まるで世界の全てに絶望し、今にも自ら命を絶ってしまいそうな空気を纏い、それでも必死に助けを求めるアンを見つける事が出来たのだから。
「呼んだか?」
「……え?」
だからこそ、俺はこのタイミングに間に合った事を、心の底から神に感謝した。
まあ相手はあの駄女神様なんだけど。
「この前も引き取りに来たのヨ。でも、女の子供が「お引き取り下さい!」って喚いてたから無理だったヨ。私は子供を全部引き取りたいだけなのに、酷いヨ!」
どうやら聞き間違いじゃなかった様だ。
「お前が、あの子達を?」
だからこそ、信じられなかった。これがこの詐欺師じゃなかったら、まだ可能性があっただろう。
ここは孤児院なのだから、子供を引き取りたいという人がいてもおかしくはない。
普通にあり得る事だ。
だが、こいつが――詐欺師が子供を引き取る? そんなのは絶対嘘だ。断言出来る。
「オォ? お客さん孤児院の関係者か何かヨ?」
この詐欺師が子供を引き取っても、絶対に子供達は幸せにはなれない。むしろ不幸になる。そう断言してもいい。
「だったら話が早いヨ! さあ、早く子供達を「全部」私に譲るヨ!」
何故ならこいつは、さっきから子供達の事を「全部」引き取ると言っているからだ。
そう、子供達を「全員」引き取るではなく「全部」引き取る、と。人間の事を「全部」だなんて表現する事はまずない。
いくらここが異世界だといっても、そこに違いは無い筈だ。
それなのに「全部」と表現するという事は、この男は子供達の事を「人間」ではなく「物」と見ている事になる。
「さあ、早く!」
そんな奴に、孤児院の子供を引き取らせる? あり得ない。
目の前で子供達を不幸にしようとしている男がいるのに、それを黙って見ているなんて、俺には出来ない。
「何してるヨ! はや……?」
無言でストレージから魔鉄バットを取り出し、それに全力で魔力を籠める。
魔鉄バットの色が一瞬で銀色から紫、そして赤色へと変化し、眩いぐらいに光輝く。
それを迷わずに目の前の男、その爪先に向かって叩きつける。
ガァァンッ!
魔鉄バットは男の鼻先を掠め、石畳の床を抉り砕いた。
「ヒッ!」
突然の出来事に驚いたのか、詐欺師は短い悲鳴をあげ、無様に尻餅をついていた。
その様子を見て、俺が再び魔鉄バットを振りかぶると、詐欺師は慌てて両手をあげ。
「ちょちょっ、ちょっと待つヨ! 急にどうしたヨ!? 私、何かお客さんが怒る様な事言ったヨ!?」
詐欺師は必至に両手を振り、俺に待ったをかけてきたが、そんな行動に構わず、俺は再び魔鉄バットを振り下ろした。
ドガッ!
今度も詐欺師の顔すれすれの場所を魔鉄バットが抉り砕く。
これだけ硬化させた魔鉄バットにとって、石畳の床など、薄いガラスでも叩き割っているかの様な手応えしかない。
「ヒ、ヒィッ! 嫌ヨ! まだ死にたくないヨ!」
再び目の前の床に叩きつけられた魔鉄バットを見て、詐欺師は完全に怯えてしまっていた。
頃合いか。
「おい、詐欺師」
殺気、なんて大層な物はよく分からないが、今俺はこの男の頭蓋を叩き割ってやりたい衝動に駆られている。
だが、それは決して超えてはいけないラインだ。そこを超えてしまったら、俺の中に何かが変わりそうな予感がする。
だからこそ、俺は。
「次は当てる。それが嫌なら二度と孤児院に近付くな」
なるべく抑揚を抑え、脅す様に警告した。
これまでの人生、殺気なんて物を飛ばした経験は無いが、こんな物だろうか?
確かにこの男は許せない。それに犯罪者だ。だが、だからといって本当に殺そうとは思わない。当然だ。
ていうか、普通の人生経験をしていれば、そんな機会はまず訪れないだろう。だから、殺気なんて物も、想像した事はあったとしても、自分の意志でまともに扱える訳ないのだ。
「わ、分かったヨ! 二度と近づかないヨ!」
だが、今の俺の行動は効果てきめんだったらしく、詐欺師は慌てて立ち上がり、大きなリュックを適当に持つと。
「ヨー!」
そのまま孤児院から走り去っていった。
それを後姿が見えなくなるまで睨み続け、しばらくしてようやく視界に詐欺師の姿が映らなくなった。
「はぁぁーっ。上手くいったぁ」
思いの外望み通りに事が進み、俺は安堵の息を漏らす。
正直あの男に激しい怒りを感じたのは間違いない。
だが、だからといって詐欺師を追い払えるかどうかはまた別問題だ。
俺が怒りに任せて行動出来るタイプだったらまた話は違ったかもしれないけど、生憎俺はそういうタイプじゃない。
どっちかというと俺は、理性が感情を爆発しない様に抑えるタイプの人間だ。
だからこそ、今みたいな場面でも無意識の行動ではなく、頭で考えて行動する訳だが。
でも、こういう時は子供達の為にがむしゃらに行動するタイプの方が良いよな。
「それにしても、あの詐欺師「この前」って言ってたよな?」
もしかしてそれって、一昨日の話だったりするのか?
もしそうなら、今日あんまり元気が無かったアンの様子にも納得がいく。
多分アンは、あの詐欺師を必死に追い払おうとしたのかもしれない。
初対面の時のアンを思い出せば、充分想像がつく。
それならそうと、俺に相談してくれれば良かったのに。そうすれば、もっと他にもやりようはあったかもしれない。
「……おにいちゃん?」
そんな事を考えていると、孤児院の方から子供の声が聞こえてきた。フォレだ。
フォレは今の音が聞こえたのか、しきりに辺りを見回しながら、俺の元まで駆け寄って来た。
「おにいちゃん、もう帰っちゃったんじゃなかったの?」
「い、いや! えっと……」
フォレは俺の傍まで来ると、そのまま俺の足に抱き着き、俺を見上げる形で尋ねてきた。
どうしよう、何も言えねぇ。
かと言って、今のやり取りを話す訳にもいかない。そんな事しても、フォレを怖がらせるだけだ。
でも、それじゃあ何て説明したらいいか。
「……アンは!?」
「ん? アンおねえちゃん?」
俺は苦し紛れにアンの名前を出した。
「そう、アンだ! アンが今どこにいるのか知らないか? ちょっと用事を思い出してな」
我ながら苦しい言い訳だと思うが、他に良い方法を思いつかなかった。
だが、まだ年端もいかない幼い少女が相手なら、こんな言い訳でも通じる筈だ。
「えっと、今はおじいちゃんのお世話をしに行ってると思うよ」
おじいちゃんのお世話。それはつまり、倒れたっていう孤児院の院長先生の世話の話だろう。
そのお世話をしているという事は、今まで俺が訪れた事のない部屋である可能性が高い。
でもそんな場所、俺は知らない訳で。
「なあフォレ、そのおじいちゃんがいる部屋まで案内してくれないか?」
こうなった以上、もう行く所まで行ってやろう。そう思って、フォレに案内を頼んだんだ。
どうせならこっちからアンの所まで行ってやろうではないか。
ついでに、寝たきりになったという院長先生の様子も見てみよう。
「おじいちゃんの部屋まで? うん、いいよ」
俺が案内を頼むと、フォレは二つ返事で了承し、俺の手を握ると。
「こっちだよ! 付いて来て!」
そう言って、俺の手を引いて歩き始めた。
何か妙に張り切ってるけど、急にどうした? そんなに俺を案内するのが嬉しいのか?
まあフォレが笑顔だし、そこまで気にしなくても別にいいか。
そう思い、俺はフォレに手を引かれるまま、その後を付いて行った。
今にして思えば、この時俺が「行く所まで行ってやろう」と思ったのは、偶然とはいえ本当に良い判断だった。
そう、胸を張って言える。
何故かというと。
「助けてよ、お兄さん!」
フォレに案内されて辿り着いた部屋。その中で、まるで世界の全てに絶望し、今にも自ら命を絶ってしまいそうな空気を纏い、それでも必死に助けを求めるアンを見つける事が出来たのだから。
「呼んだか?」
「……え?」
だからこそ、俺はこのタイミングに間に合った事を、心の底から神に感謝した。
まあ相手はあの駄女神様なんだけど。
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