見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

六話

「もうフォレ、急に走らないでよ」

 アンが慌てて駆け寄ってきたが、フォレはそんなアンの言葉には反応せず、俺に抱き着いたままだ。

「フォレ?」
「ほらフォレ、アンが呼んでるぞ」
「……うん」

 俺が声をかけると、フォレはようやく反応を示し、俺に抱き着くのをやめてアンに向き直った。

「ごめんなさい、アンおねえちゃん」

 そして、素直に謝るフォレ。あ、ちゃんと話は聞いてたんだな。
 そんなフォレに対して、アンは。

「分かればいいのよ。次から気を付けないとダメよ?」
「うん」

 フォレの姉として、きちんと注意をしつつも、決して怒ったりはしなかった。
 良いお姉ちゃんや、アンは。

「いい子ね。それじゃあ」

 アンはフォレの頭を優しく一撫ですると、今度は俺の方に向き直り。

「いらっしゃい、お兄さん」
「ああ。お邪魔してるよ、アン」

 改めていらっしゃいと言ってきたので、俺もそれに返した。

「お兄さんはもうお昼ご飯食べました?」
「昼飯? ああ、ここに来る前に食べてきたけど」

 勇者杯の開会式が終わって帰ったら、ちょうど昼飯時だったからな。
 俺が食べたと答えると、アンは少しだけ残念そうな表情になり。

「そうなんですか。私達は今から食べる所なんですけど」

 アンが微妙な表情で俺の事を見ている。って、今から昼飯? ちょっと遅くない?
 昼飯時はちょっと前に過ぎてる気がするけど。

「ちょっと朝から色々忙しくて、準備してる時間が無かったんです」

 俺が何を言いたいのか察したのか、アンは疲れた様にそう言った。

「忙しかったって、何かあったのか?」
「それが……そう、寝坊!」

 俺が尋ねると、アンは一瞬だけ考えるような素振りを見せた後、誤魔化す様に答えた。

「実は、うっかり寝坊しちゃいまして」

 寝坊? アンが? 確かにアンは、年齢的にはまだまだ子供だが、果たして本当に寝坊が原因で時間が無くなったりするだろうか?
 ていうか、本当に寝坊したのか? いかにも今思い付いたって感じだったけど。

「だから、お昼ご飯まだなんです」
「……そっか。まあ寝坊なら仕方ないな。人間誰しもそういう事はあるし」

 一応筋は通ってるから、これ以上深くは追及しないでおく。
 アンが寝坊したって言うんだから、あくまで寝坊なんだろう。あまり言及しても、アンを困らせるだけかもしれないしな。

 それにしても、今から昼飯、か。それなら丁度いいしアレを出すか。

「アン、今から昼飯なんだよな?」
「え? あ、はい、そうですね」
「それなら、俺にいい考えがあるんだけど」

 時間的に少し遅いし、今から準備していたらもっと遅くなるのは目に見えている。そうなれば今度は晩飯の時間にも差し障るだろう。
 それなら、手軽に旨い昼飯をみんなに食べさせてあげようじゃないか。

 丁度ストレージの中には買ったまま出す機会を完全に逃していた物があるし。

「いい考え、ですか?」
「ああ、まあ見てな」
「?」

 アンはイマイチピンときていないのか、小首を傾げて不思議そうにしている。

「おにいちゃん、いい方法ってなに?」
「ん? それは見てからのお楽しみだ、フォレ」
「わっ」

 俺は真下から俺を見上げる形で見つめてくるフォレの頭に手を置き、そのまま撫で始めた。
 気持ちよさそうに目を細めて、されるがままのフォレを見て、一通り満足し。

「さて、それじゃあ食堂まで移動しようか?」

 俺は未だに考えるような仕草をしているアンに声をかけ、みんなで食堂へと移動を開始した。



 食堂に着き、子供達みんなが席に座るのを待ってから、俺は改めて口を開いた。

「さて、お待たせ。それじゃあ今から良い物を出してやるからな」

 俺は子供達の顔を見回し、最後にアンの顔を見た後、ストレージ画面を開いた。
 その中から、初日に買ってそのまま放っておいた物を選択し、チラッと子供達に視線を向けると、皆ソワソワと落ち着きがない様子で俺の事を見ていた。

こりゃ責任重大だな。そう思い、俺はテーブルの上に「アレ」取り出した。

「「「「うわぁ! すごーい!」」」」

 子供達が一瞬の内にテーブルの上に並んだ物を、目を輝かせて見ている。そうそう、この顔が見たかったんだ。
 子供達の喜ぶ顔が。

 俺がテーブルの上に取り出した物。それは、先日出店で買い溜めておいたお好み焼きなんかの料理の数々だった。
 それらをテーブルの上に所狭しと並べれば、さながらパーティーの様な状態になる。

 結構な数があったな。まさかテーブルを埋め尽くして尚余るなんて思ってもみなかった。まあ残ってる分はおかわり分にすればいいか。

「おにいちゃん、すごいご馳走だね」

 他の子同様目を輝かせていたフォレは俺の方を見ると、その幼さ相応の満面の笑みを浮かべて話しかけてきた。

 本当にこうして見れば見る程、フォレはまだ年端もいかない幼子なんだと実感させられる。こんな小さな子が水汲みをしようとしていた状況が、一日でも早く改善される事を願うばかりだ。

「ああ、全部食べていいんだぞ。アンも遠慮せず食べてくれ」

 俺が話しかけながらアンの方を見ると、アンは驚きのあまり言葉を失っている様だった。
 いや、そろそろ正気に戻ってもいいんじゃないか?

 実を言うと、アンは俺がストレージから料理を出し始めた時から、ずっとこの調子である。
 予想外の光景に驚いているのだろうけど、そろそろ話したい事とかもあるんだけど。

「聞いてたか、アン?」

 聞いてはいないだろうけど、念の為アンに尋ねながら、再度話しかけてみた。

「……はっ! な、何、お兄さん?」

 流石に今度は聞こえていたのか、アンは驚きの声をあげながらも、俺の声に返事を返した。

「いや、だから、これ全部食べていいんだぞって話」

 イマイチ話を聞いていないアンに、俺は再び同じ話をした。

「あ、えっと、はい。ありがとうございます。でも、こんなに沢山のご馳走、本当にいいんですか?」

 今度こそ話を理解したアンがお礼を言ってくるが、そのすぐ後に、本当にいいのか尋ねてきた。
 ご馳走、か。これ全部パレード会場の出店の料理を寄せ集めただけなんだけどな。

 確かにパッと見はご馳走が並んでいる様に見えるかもしれないけど。

「ああ、いいぞ。遠慮せず食べてくれ」

 ただ、その寄せ集めの料理がご馳走に見えるのが、孤児院の子供達なのだ。

「ねえねえお姉ちゃん、早く食べようよ!」
「僕もう待ちきれないよ!」
「早く早く!」
「お腹ペコペコ!」

 子供達は目の前の料理に、我慢の限界がきている様だ。
 そんな子供達の様子を見て、アンは一つ息を吐くと。

「うん、そうね。それじゃあいただきましょうか。みんな、お兄さんにきちんとお礼を言うのよ」
「「「「はーい! お肉のお兄ちゃん、ありがとう! いただきます!」」」」

 アンの許しが出た事で、子供達は俺に一言お礼を言ってから、一斉に目の前の料理に手を伸ばした。

「おいしい!」
「こんなの初めて食べた!」
「これもおいしいよ!」
「これもこれも!」

 子供達は口々に「おいしい」と言っては、どんどん料理を食べ進めていく。
 おお、すげえ勢い。やっぱり食べ盛りの子供がこれだけ揃うと違うな。

「おにいちゃん、これすっごくおいしい」
「ん? そうか? なら良かった」

 フォレは食一口べる度に俺に話しかけては、また食べると言った事を繰り返している。まあ本人が楽しいなら別にいいけど、大変じゃない?

「ほら、アンも食べな。旨いぞ」

 アンがまだ一口も料理に口をつけていないのに気が付き、俺は手頃な料理を手に持ってアンに手渡した。

「あ、えっと……ありがとうございます、お兄さん」

 アンはそれだけ言うと、俺から料理を受け取って食べ始めた。

「うん、美味しいです。すっごく」
「そうか?」

 何だろう。なんか今日のアン、変じゃないか?

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