見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

三話

「っていう事で、ちょっと孤児院に行って来る」

 あの後四人で集まって昼飯を済ませ、孤児院に出掛ける旨を皆に伝えた。伝えたのだが……。

「どういう事で孤児院に行くというのだ?」

 フーリからのツッコミが入る。いやまあ、確かにいきなり何の説明もなく「という事で」とか言われても「何のこっちゃ?」ってなるよな。
 ふと二人の方を見てみると。

「カイトさん、ちゃんと説明して下さい」
「ごめんね、お兄ちゃん。流石に私も、どういう事で孤児院に行くのか気になるの」

 二人共気になっている様だった。うん、やっぱり説明不足ですよね分かります。

「いや、これから勇者杯が始まる訳じゃん?」

 俺が三人に同意を求める様に視線を送ると、三人共「うんうん」と頷いてくれた。

「そうなると、孤児院に顔を出せる時間も減るかもしれないだろ? そうなる前に、一回顔を出しておこうかと思ってな。魔導具の調子も気になるし、行くなら早めに行った方が良いと思うんだよ」

 いつまでも王都にいる訳じゃないけど、せめて王都にいる間は孤児院の事を気にかけておきたい。

 もっと気軽に王都に来れるなら良いんだけど、ペコライから王都までかなりの距離があるし、それは少し難しいだろうからな。

「なるほど、そういう事ですか」
「確かに。勇者杯が始まったら、あんまり時間は取れないだろうな」
「そういう事なら納得」

 俺が簡単に説明すると、それだけで三人共納得してくれた様だった。いや、簡単にとは言うけど、実際これ以上の理由はないんだけどね。

「そういう訳で、これからちょっと孤児院に顔を出してくるけど、みんなはどうする?」

 一応三人にどうするか尋ねてみた。もしかしたら一緒に孤児院に行きたいって言うかもしれないからな。アミィなんかは孤児院の事が気になってるみたいだし、その可能性はある。

「んー、私はちょっと遠慮しておきますね」
「私もだ。勇者杯が始まる前に、装備の点検をしておきたいからな」

 俺の問いかけに、二人はやんわりと断りを入れてきた。フーリは装備の点検をするからパス、と。

 て事は、マリーも同じ理由かな。
 そう思ってマリーの方に視線を向けると、マリーは無言で何度か頷いた。正直二人が一緒に来てくれれば孤児院の子達も喜ぶと思うけど、そういう事なら仕方ない。

「アミィはどうする? 一緒に行くか?」

 二人がダメでも、アミィはどうするだろう?
 もしもアミィが一緒に付いて来るというのであれば連れて行くけど。

「うーん、私も遠慮するね。やりたい事があるから」

 と思っていたけど、意外な事にアミィも用事があるみたいで、断られてしまった。
 アミィの事だから、てっきり「私もも行く」とか言い出すかと思ってたけど。

「そうか。なら俺一人で行って来ようかな」

 ちょっと様子を見てくるぐらいにするつもりだから、俺一人でも特に問題は無い。それにしても、三人共用事があるのか……偶然だよね?
 実は俺に内緒で、みんなでどこかに出掛けるとか、そんな事ないよね?

「あ、お兄ちゃん」
「ん? 何だ?」
「ヒカリさんから教わった料理の練習がしたいから、今晩は私がご飯の用意するね」

 俺がそこはかとなく不安になっていると、アミィが今日の晩飯の準備をすると言い出した。

 光に教わった料理? もしかして、キノコ鍋の事か? 確かアミィはあの時、光の手伝いをしていたから、その時に教わったのか?
 で、その練習をしたい、と。

 何だそういう事か。それならそうと早く言ってくれればいいのに。いらん勘繰りをしたじゃないか。
 にしても、やっぱりアミィは新しい料理を覚えるつもりで光の手伝いを申し出たんだな。

 じゃないと、こんなにすぐ練習するとは言わないだろうし。
 もしこれでアミィが日本の料理をどんどん覚えたら、ペコライでも日本食を食べられるようになる可能性もある訳か。

 そうなれば俺も嬉しいし、ここは微力ながら協力しないとな。

「料理の練習か。なら、材料は俺が揃えるぞ。何が必要だ?」

 幸いストレージにはそれなりに豊富な量の食材が保管されている。食材が足りないなんて事はそうそうないだろう。

「え、いいの? お兄ちゃん?」

 俺が強力を申し出ると、アミィは驚いた様な顔をして尋ねてきた。

「当たり前だろ。アミィの作る料理は旨いからな。それに」

 俺はそこで視線をアミィから逸らし、隣に移した。そこには、興味なさげを装って明後日の方角を見ているマリーの姿がある。
 光から教わった料理。それはつまり、キノコ鍋の事を言っているのだろう。そして、キノコと言えばこの人、マリーだ。

 マリーは俺と一瞬だけ目が合うと、再び視線を逸らした。
 いや、態度でバレバレだから。

「ここにキノコ鍋を期待してるマリーが一人いるし、な」
「ちょっ!? べ、別に期待なんてしてませんよ!?」

 マリーはまるで心外だとばかりに俺の言葉を否定してくるが、流石にそれは無理があると思うんだ。
 だって……。

「あ、そうなんだ。じゃあこのオイ椎茸は出さなくても」
「嘘はいけませんよね! 人間正直が一番です!」

 ほら、すぐ手の平返すじゃん。オイ椎茸絡みの話だとマリーは嘘吐けないんだから、いい加減諦めようよ。

「じゃあ気を取り直して、これぐらいでいいか?」

 俺はストレージで木の籠を生産し、それに適当に食材を詰めてからアミィに手渡した。

「うわ、こんなに。ありがとう、お兄ちゃん!」

 アミィは籠の中身を見て驚きの声をあげた後、俺に笑顔でお礼を言うが、これぐらいならお安い御用だ。

「っと、そういえばどこで料理するんだ?」

 特に考えもせずに手渡したけど、よく考えたらこの部屋で料理をする訳じゃないから、今渡しても運ぶ手間が残るじゃん。
 どうせなら厨房までは運んであげないと。

「うん? どこって、ニーナさんに厨房を借りるつもりだけど?」
「ニーナさんに?」

 でも、ニーナさんに借りるって事は、多分厨房は一階だよな? 二階にはそれらしい場所は無いし。

「なら、これは一旦ストレージに仕舞い直して、厨房でもう一回渡すよ」

 その方がアミィの負担も軽くなる。何気にアレ、結構重かったからな。アミィの細腕だと、厨房まで運ぶのも一苦労だろう。

「いいの?」
「もちろん。どうせ今から出かけるんだから、ついでだ」

 外に出掛けるなら、どの道受付の前は通るんだから、ちょっと厨房に寄ってから出掛ければいいだけの話だ。
 大して手間はかからない。

「ありがとう、お兄ちゃん。それじゃあお願いしようかな」
「ああ、任せとけ」

 そうと決まれば早速出掛けるとするかな。

「って事だから、俺はそろそろ出掛けるよ」
「はい、気を付けて下さいね」
「ああ、今日は夕飯までには帰って来るんだぞ」

 出掛ける前に二人に声をかけると、二人が返事を返してくれたのだが、フーリの返しが若干気になった。
 前に無断で孤児院に泊まった事、実は根に持ってたりしない? 俺の考え過ぎ?

「カイト君の考え過ぎだな」
「久しぶりに心読まれた気がするなぁ!」

 ここ最近はそこまで読まれる事は無かったと思ってたのに、久しぶりにピンポイントに読まれた気がする。
 やっぱりまだ顔に出てるって事だよなぁ。

「ふふっ。いや、すまない。別に他意があった訳じゃないんだ。気を付けて行ってくるといい」
「そう? ならいいけど」

 一応フーリ本人もこう言ってるし、そういう事にしておこう。

「それじゃあ、行ってきます。行こうか、アミィ」
「うん!」

 もう一度二人に声をかけ、俺はアミィを伴って部屋を後にした。
 そういえば、あそこは俺の部屋なんだけど……ま、いっか。別に困る事は無いし。

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