見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

五章 最終話

チラッと反対側に控えている光達に視線を送ると、ニコリと微笑む光。いや、別にそういう意味で視線を送った訳じゃないからな?
 聞いてないぞって言いたかったんだが。

「カイトさん、とにかく武舞台に上がらないと」
「あ、ああ。そう……だな」

 よく考えたら何もする事がないのに開会式に呼ばれるなんてある訳ないよな。
 でも、それならそれで一言言っておいて欲しかった。もう一度光達に視線を向けると、三人は丁度武舞台の上に上がる所だった。

 あ、そっか。そういえば光達も勇者杯に参加するんだったな。いや、参加するというか、主役じゃんあの三人。完全に忘れてたわ。
 そのまま俺達も武舞台の上に上がると、その後に続く様にもう一組武舞台の上に上がって来た。

 四人組のパーティで、男女比は半々。身に付けている武具が、剣二人に弓一人。そして杖一人と、バランス重視のパーティなんだろうというのが窺える。

「まずは今王都で最も勢いのあるAランク冒険者パーティ「漆黒の牙」の皆さんです!」

 Aランク冒険者。Sランクを除けば最高ランクの冒険者。つまり、フーリ達よりもランクが上。
 なんか想像がつかないな。だって、二人共とんでもなく強いんだぞ?

 それよりも上だなんて。名前を呼ばれた漆黒の牙のメンバーから、一人が一歩前に出る。筋骨隆々。まさにそんな言葉が似合いそうな大男だ。背中に背負った大剣も、彼が扱うのであれば軽々と振り回される事だろう。

 大男が前に出ると、途端に観客席から歓声が上がる。

「キャーッ」
「こっち向いてぇ!」
「絶対優勝しろよ!」
「お前らならやれるぜ!」
「うほっ、いい男」

 ちょっと待て! 今変な声聞こえなかったか!? この歓声の中でもハッキリと聞こえたけど!?
 だが、周りを見ても誰も気にしている様子はない。

 あれ? 聞き間違い? そんな筈は……ま、いっか! うん、気にしたら負けだな!
 そんな事を考えている内に、大男は一度姿勢を正すと、陛下に向かって軽く頭を下げた。

 それに応える様に、片手を顔の横ぐらいの高さまで上げて返す陛下。
 そのやりとりが終わると大男は一歩下がり、会場内に徐々に静寂が戻る。
 そのタイミングを見計らう様に、司会が再び口を開く。

「続いて、辺境の地、ペコライからやって辺境の美しき冒険者! 「氷炎の美姫」の皆さんです!」
「「「「うおぉぉぉぉっ!」」」」

 野太い大歓声。まさしくそんな言葉が似合いそうだ。
 二人の氷炎の美姫って二つ名、王都でも有名なんだな。野郎共の野太い歓声がそれを物語っている。

 しかし、この大歓声を受けて、二人はというと。

「……カイト君」
「……カイトさん」

 顔を真っ赤に染め、俯き加減で俺の名前を呼び。

「「お願いします」」

 示し合わせたかのように、俺にお願いしますと言ってきた。お願いしますとは、さっきの大男がやった事を、俺がやってくれという事だろう。
 まあそりゃそうなるわな。

 元々二人は氷炎の美姫という二つ名を恥ずかしがってたんだ。こんな衆人環視の中で呼ばれたら、こういう反応も当然だろう。
 問題は、この空気の中俺が一歩前に出たら、絶対空気が凍り付く事だが。

「分かった」

 まあ大した問題じゃないよな。こういう時は俺がやらないと。
 俺は二人の前に一歩踏み出したが、さっきははち切れんばかりの大歓声が上がっていたのに、今回それは無かった。

「「「「「……」」」」」

 無言、沈黙。ただひたすらに重い空気が流れる。
 会場に集まった観客達は、俺という異物をどう見ているのか。単純に思いつくのは、二つの花に集る虫、とかか。

 あるいは嫉妬。もしくは侮蔑。一番きキツイのは眼中にすら入ってない可能性だけど、それに関しては恐らく気にしなくても大丈夫だろう。
 だって会場は静かになったけど、痛いぐらいの視線は感じてるから。

 ……えっと、確かこの後は、陛下に向かって軽く頭を下げればいいんだっけか?
 俺は観客席に向けていた意識を、向かいに立つ陛下の方へと向けた。

「……」

 俺が視線を向けても、陛下は何も言わない。だが、その頬が若干ヒクついているのを、俺は見逃さなかった。この人、絶対面白がってるだろ。
 そんな事を考えながら、大男の行動を思い出し、軽く頭を下げる。

「……」

 相変わらず会場内は静かなだ。
 頭を上げ、俺はそのまま一歩下がり、二人と足並みを揃える。これで一通り終わった筈だ。

 さて、後は光達だけだけど、召喚勇者も同じ事をしないといけないのだろうか?
 扱い的には俺達と同じ選手扱いなのかも気になる所ではあるけど。

「カイトさん、ありがとうございました」

 俺が隣に立つと、マリーからギリギリ聞こえるか聞こえないかという程小さな声でお礼を言われた。

「ああ、どういたしまして」

 それに倣い、俺も周りに聞こえないギリギリの大きさで返事を返す。
 色々気になる事はあったけど、それは後で光にでも話を聞くか。詐欺師の件もあるし。

「それでは最後に、国王陛下からお言葉を頂戴したいと思います」

 と、そんな事を考えていたら、司会が「最後に」という言葉を使った。
 あれ? まだ光達の紹介がまだだけど? と思ったが、よく考えたら光達は勇者歓迎パレードで充分顔見せは出来ているし、別に今更ここで紹介をする必要もないのか。

 司会の言葉に応える様に、陛下がゆっくりとした動作で武舞台の上に上がった。そして、観客席、来賓席、関係者と、一通り順繰りと見回し、ゆっくりとその口を開いた。

「えー、諸君。今日は勇者杯の開会式の為に集まってくれてありがとう。感謝する」

 陛下の話は、実に当たり障りのない出だしから始まった。

「こうやってパレードを開けるのも、勇者杯を開催出来るのも、ひとえに諸君の協力あってこそだ。予選はまだ続いているが、それも今日で終わる。諸君にはこの開会式が終わった後、本戦へと進む戦士を、是非その目で見届けて貰いたい」

 淡々と言葉を紡ぐ陛下。だが、その言葉には聞く人間を惹き付ける力を感じる。言葉を紡ぐその姿からは、この人に付いて行こうという気持ちが湧いてくる。
 こうやって見ると、本当に一国の王なんだなと、改めて認識させられる程の威厳があった。

 これが俗にいう「王者の貫禄」という奴か。
 だが、俺はそんな事よりも、もっと気になる事があった。

(予選、まだ終わってなかったのか)

 てっきり終わってるとばかり思ってたから、これは予想外だ。いやまあ、確かに選手の数少ないなぁとは思ってたけど。そっか、終わってないのか。
 ヴォルフ達、勝ち進んでくるといいなぁ。

「そして、皆が注目する勇者杯、見事優勝した者には、褒美を取らせようと思う」

 褒美。その言葉を陛下が口にした瞬間、会場内からざわめきが起こった。

「え、褒美?」
「ギルガオン陛下直々に?」
「一体どんな褒美を?」
「うほっ、こっちもいい男」

 だから、昨日から明らかにヤバい奴一人いるだろ! 何で誰もツッコまないんだよ!
 ふと会場の入り口の方に視線を向けると、セバスチャンさんが額に手を当て、顔を左右に振っていた。

 あ、これ絶対今思い付いたな。じゃないとあのセバスチャンさんがあんなに頭痛そうにはしない筈だ。

「褒美の内容は……ふむ、そうだな。優勝したパーティの願いを、一つだけ叶えようではないか。もちろん、可能な範囲内で、だが」

 ザワッと。褒美の内容を聞いた瞬間、会場内がまたも騒然とする。
 何でも一つ願いを叶える、か。これって、この間陛下が言ってた褒美とは別枠なのか。それとも同じなのか。一度陛下に確認する必要があるな。

 それにしても、何でも好きな願いを叶える、か。それは会場内がざわめいても仕方がない。
 だが俺は今、こんな状況なのに、冷や汗を流している。何故かって?

「「……」」

 マリーと光の二人が、無言で火花を散らし合っているからだ。
 この二人は何か思う所があるんだろうな。で、俺もそれに巻き込まれる、と。
 うん、こういう時の俺の勘は当たるん……。

「――っ!?」

 その時、突然形容しがたい嫌な視線を感じた。例えるなら、人の悪意を固めて、それを形にしたかの様な物、とでも言えばいいか。
 慌てて周囲を見回すが、既に視線は感じられなくなっていた。

「カイト君。どうかしたのか?」
「……いや、別に何も」

 フーリは俺が突然周囲を見回し始めたのが気になったのか、俺を心配する様に声をかけてきた。
 それに対して、俺はとりあえず何も無いと答えた。

「そうか? ならいいんだが」

 フーリはそれ以上深く追求してくる事は無く、俺は再び武舞台の上に意識を戻した。武舞台上では陛下がまだ喋ってはいるが、その内容はほとんど入ってくる事はなかった。
 今の視線は何だったのか。この胸の中に溢れる嫌な予感は何なのか。

 俺は何となく、これから開催される勇者杯が、只では済みそうにない予感を感じた。

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