見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~
四十一話
次の日。
早めの朝飯を取り終えた俺達は、勇者杯の開会式に行く準備を進めていた。
「それじゃあ兄さん、私はやる事があるから、先に王城に戻ってるわね」
「ああ、分かった。また後でな」
光はそう言うと、当たり前の様に俺のベッドで寝ようとしていたユキの腕を掴むと。
「ほらユキ。帰るわよ」
そのままベッドから引っ張り起こし、部屋から出ようとした。
「えー、あたしここにいる!」
しかし、ユキは部屋から出まいと足を踏ん張って抵抗している。
「何言ってるの。あなたも一応開会式に出席しないといけないんだから、わがまま言わないの!」
そんなユキの言葉を光は一蹴すると、踏ん張るユキを無理矢理扉の方まで引っ張って行く。
「やー! ここがいい!」
必死に抵抗しているユキだが、光の方が力が強いみたいで、徐々に扉の方に近づいている。
やがて部屋から二人が出て行ったが、部屋の外からは尚も抵抗するユキと、ユキを連れ帰ろうとする光の声が聞こえてくる。
「ほら、早くしないと遅くなるでしょ!」
「いーやー!」
「開会式が終わったら帰って来ていいから!」
「え? いーのー?」
「きゃっ!」
光の短い悲鳴が聞こえてきたと思ったら、部屋の外が突然静かになる。
「あー、何となく何が起こったのか分かったわ」
多分、ユキが突然力を緩めたんだろうな。なんか「いーの?」みたいな事言ってるの聞こえてたし。
で、その時に抵抗をやめた、と。大方そんな所だろう。
ていうか。
「開会式が終わっても、ここに泊まるつもりなのか?」
それは果たして許されるのだろうか? 俺としては別に二人がここに泊まる事に異論は無いんだけど、それでいいのか?
光は一応この国の召喚勇者って事になってるし、流石にやる事があると思うんだけど。
「ま、いいか」
それは光達が決める事で、俺がどうこう言う事じゃない。もしも光が俺を頼ってきたら、助力は惜しまないつもりだけど。
光の兄として、それぐらいは当然の事だ。
そんな事を考えながら、俺は開会式に行く準備を進めた。
「それじゃあ行きましょうか」
「ああ、そうだな」
準備を終えた俺達は勇者杯の開会式に参加する為、王城へと向かう所だ。
「行ってらっしゃい、お兄ちゃん、フーリさん、マリーさん」
俺達を見送りにきているのはアミィ。アミィは勇者杯には参加しないから、後で一般客として見学に来るらしい。
昨日光がアミィに招待状を渡していたから、見学料は取られないとの事。
ちなみにヴォルフとロザリーさんは俺達よりも早くに王城へと向かった。
何でも、一般参加の選手は推薦枠の選手とは別の場所に集められるらしく、早めに行って準備するとの事。
ていうか、予選通過してたのか。言ってくれればお祝いしたのに。
いや、まだ予選が終わったかどうか分からないけど。集められるって事はそういう事だよな?
「ああ。行ってきます、アミィ」
「アミィちゃん、また後でね」
「行って来る」
俺達は渡り鳥亭の入り口から笑顔で手を振るアミィに返事を返し、そのまま王城へと向けて出発した。
王城に着くと、そこは既に沢山の人だかりが出来ていた。
恐らく勇者杯の開会式を見学しようと集まった人達だろう。人だかりからは開会式を楽しみにする声がちらほら聞こえてくる。
「楽しみだなぁ」
「勇者様達の戦い、しっかりこの目に焼き付けないと」
「きっととんでもなく強いに違いない」
「おいおい、今日開会式だけだぞ」
「腹減った」
何かしれっと関係ない事言ってる人もいるけど、概ねこんな感じだ。
「凄い人だかりですね。入れるかな?」
マリーが心配そうに呟きながら、人だかりの先の方を見ようと必死に背伸びしているが、なかなか見る事が出来ない様だ。
「入口までずっと続いているな。このまま待ち続けても、入る頃には陽が暮れそうだ」
そんなマリーの様子を察してか、フーリがこの人だかりの様子をマリーにも分かる様声に出して説明してくれた。
あー、これは確かに当分中に入るのは無理そうだな。
かと言って、他に入り口は無さそうだし、どうしたものか。このままじゃ開会式に遅れるのは確実。でも、これだけの人だかりを押しのけて王城に入るのも気が引けるし。
「おや? 皆様、こんな所で何を?」
どうしたものかと考えていると、後ろから聞いた事がある声に話しかけられた。その声に反応して後ろを振り返ると、そこにはルロンド王国執事長、セバスチャンさんが立っていた。
「ああ、セバスチャンさん。実は少し困っていまして」
「もしかして、中に入れない、と?」
セバスチャンさんの声に真っ先に反応したのはフーリだった。
フーリがセバスチャンさんにそう答えると、セバスチャンさんはフーリの言いたい事を理解したのか、フーリが答えるよりも先に尋ねてきた。しかも正解だ。
「ええ、その通りです。よく分かりましたね」
「見れば分かりますよ。皆様は陛下が直接勇者杯への参加を促した方々ですからね。中に入りもせずに人だかりを眺めていたら、嫌でも理解出来るというものです」
それは、確かにセバスチャンさんの言う通りかもしれない。
ていうか、こんな状態になるのなら、もっと早めに来るんだったな。そうすればこんな所で立ち往生なんてしなくて済んだのに。
正直、関係者には別の入り口が用意されてると思ってたけど。いや、もしかしたら用意されてるのかもしれないけど、そこの周りも人が埋めてるのかもしれない。
「あの、セバスチャンさん。この人だかり、どうにか出来ませんか?」
セバスチャンさんはこの城の執事長。なら、きっとこの状況でも中に入る方法が分かる筈だ。
もしくは、裏口の一つや二つ、知っていてもおかしくはないから、そっちから入れて貰うとか。
「そうですね。もう少し待って頂ければ……ああ、来ましたね」
セバスチャンさんが俺達の後ろの方に視線を向けながら言うので、そっちを振り向くと、そこには。
「おや? あなた方は確か……」
短く切り揃えられた茶色い髪と、爽やかな笑顔が似合いそうな好青年、御剣圭太君が立っていた。
白く輝く鎧に身を包み、腰にはやたらと豪奢な装飾が施された、西洋剣を一本差しており、その姿は典型的な騎士を思い出させる。
彼の後ろには、似た様な格好をした兵士が数人程控えており、御剣君はこの中でリーダー的なポジションにいるのだろうと予想出来た。
着込んでいる鎧が、一人だけ見るからに豪奢だったからだ。御剣君を騎士みたいだと例えたのはコレが理由だったりもする。
まず、鎧の輝き具合が違う。他の兵士たちの鎧がただの金属製だとしたら、御剣君の鎧はミスリルの様な輝きを放っている。
もしかしなくても、あれってやっぱりミスリルか?
もしそうなら、随分とふんだんに使われているな。
肩当は肩パッドの様な形状をしており「それ邪魔じゃない?」と言いたくなるが、あれはあれできっと何か意味があるのだろう。
きっとそうだ。そうに違いない。
腰当は、何枚かの逆三角形のプレートを結い合わせた様な形状をしており、いかにも「ファンタジー世界の鎧」といった感じだった。
ちなみに後ろの兵士の人達の鎧にはこういう物は付いておらず、機能性を追求していそうな鎧は、一言でいえば地味だ。
これで全員が兜を被ったりしたら、絶対に見分けがつかない自信がある。
「光さんのお兄さんと、それから同じパーティメンバーの方達でしたよね? 確か、海斗さん、フーリさん、マリーさん」
御剣君は俺達に順番に視線を向けながら確認した。
覚えててくれたんだな。顔を合わせたのなんてほんの数十分程度なのに、俺だけじゃなく、フーリやマリーの名前まで覚えてたのか。
「何かお困りですか?」
御剣君は、俺達が人だかりを眺めるだけでその場から動かない事を怪訝に思ったのか、尋ねてきた。
フーリとマリーは、何と答えたら良いものかといった感じでお互いに顔を見合わせている。
相手は召喚勇者で、俺と同郷。ならここは、二人よりも俺が答えるべきだろう。
「ああ、実はちょっと困った事になってて」
俺は二人よりも一歩前に出ると、御剣君に事の経緯を説明した。
早めの朝飯を取り終えた俺達は、勇者杯の開会式に行く準備を進めていた。
「それじゃあ兄さん、私はやる事があるから、先に王城に戻ってるわね」
「ああ、分かった。また後でな」
光はそう言うと、当たり前の様に俺のベッドで寝ようとしていたユキの腕を掴むと。
「ほらユキ。帰るわよ」
そのままベッドから引っ張り起こし、部屋から出ようとした。
「えー、あたしここにいる!」
しかし、ユキは部屋から出まいと足を踏ん張って抵抗している。
「何言ってるの。あなたも一応開会式に出席しないといけないんだから、わがまま言わないの!」
そんなユキの言葉を光は一蹴すると、踏ん張るユキを無理矢理扉の方まで引っ張って行く。
「やー! ここがいい!」
必死に抵抗しているユキだが、光の方が力が強いみたいで、徐々に扉の方に近づいている。
やがて部屋から二人が出て行ったが、部屋の外からは尚も抵抗するユキと、ユキを連れ帰ろうとする光の声が聞こえてくる。
「ほら、早くしないと遅くなるでしょ!」
「いーやー!」
「開会式が終わったら帰って来ていいから!」
「え? いーのー?」
「きゃっ!」
光の短い悲鳴が聞こえてきたと思ったら、部屋の外が突然静かになる。
「あー、何となく何が起こったのか分かったわ」
多分、ユキが突然力を緩めたんだろうな。なんか「いーの?」みたいな事言ってるの聞こえてたし。
で、その時に抵抗をやめた、と。大方そんな所だろう。
ていうか。
「開会式が終わっても、ここに泊まるつもりなのか?」
それは果たして許されるのだろうか? 俺としては別に二人がここに泊まる事に異論は無いんだけど、それでいいのか?
光は一応この国の召喚勇者って事になってるし、流石にやる事があると思うんだけど。
「ま、いいか」
それは光達が決める事で、俺がどうこう言う事じゃない。もしも光が俺を頼ってきたら、助力は惜しまないつもりだけど。
光の兄として、それぐらいは当然の事だ。
そんな事を考えながら、俺は開会式に行く準備を進めた。
「それじゃあ行きましょうか」
「ああ、そうだな」
準備を終えた俺達は勇者杯の開会式に参加する為、王城へと向かう所だ。
「行ってらっしゃい、お兄ちゃん、フーリさん、マリーさん」
俺達を見送りにきているのはアミィ。アミィは勇者杯には参加しないから、後で一般客として見学に来るらしい。
昨日光がアミィに招待状を渡していたから、見学料は取られないとの事。
ちなみにヴォルフとロザリーさんは俺達よりも早くに王城へと向かった。
何でも、一般参加の選手は推薦枠の選手とは別の場所に集められるらしく、早めに行って準備するとの事。
ていうか、予選通過してたのか。言ってくれればお祝いしたのに。
いや、まだ予選が終わったかどうか分からないけど。集められるって事はそういう事だよな?
「ああ。行ってきます、アミィ」
「アミィちゃん、また後でね」
「行って来る」
俺達は渡り鳥亭の入り口から笑顔で手を振るアミィに返事を返し、そのまま王城へと向けて出発した。
王城に着くと、そこは既に沢山の人だかりが出来ていた。
恐らく勇者杯の開会式を見学しようと集まった人達だろう。人だかりからは開会式を楽しみにする声がちらほら聞こえてくる。
「楽しみだなぁ」
「勇者様達の戦い、しっかりこの目に焼き付けないと」
「きっととんでもなく強いに違いない」
「おいおい、今日開会式だけだぞ」
「腹減った」
何かしれっと関係ない事言ってる人もいるけど、概ねこんな感じだ。
「凄い人だかりですね。入れるかな?」
マリーが心配そうに呟きながら、人だかりの先の方を見ようと必死に背伸びしているが、なかなか見る事が出来ない様だ。
「入口までずっと続いているな。このまま待ち続けても、入る頃には陽が暮れそうだ」
そんなマリーの様子を察してか、フーリがこの人だかりの様子をマリーにも分かる様声に出して説明してくれた。
あー、これは確かに当分中に入るのは無理そうだな。
かと言って、他に入り口は無さそうだし、どうしたものか。このままじゃ開会式に遅れるのは確実。でも、これだけの人だかりを押しのけて王城に入るのも気が引けるし。
「おや? 皆様、こんな所で何を?」
どうしたものかと考えていると、後ろから聞いた事がある声に話しかけられた。その声に反応して後ろを振り返ると、そこにはルロンド王国執事長、セバスチャンさんが立っていた。
「ああ、セバスチャンさん。実は少し困っていまして」
「もしかして、中に入れない、と?」
セバスチャンさんの声に真っ先に反応したのはフーリだった。
フーリがセバスチャンさんにそう答えると、セバスチャンさんはフーリの言いたい事を理解したのか、フーリが答えるよりも先に尋ねてきた。しかも正解だ。
「ええ、その通りです。よく分かりましたね」
「見れば分かりますよ。皆様は陛下が直接勇者杯への参加を促した方々ですからね。中に入りもせずに人だかりを眺めていたら、嫌でも理解出来るというものです」
それは、確かにセバスチャンさんの言う通りかもしれない。
ていうか、こんな状態になるのなら、もっと早めに来るんだったな。そうすればこんな所で立ち往生なんてしなくて済んだのに。
正直、関係者には別の入り口が用意されてると思ってたけど。いや、もしかしたら用意されてるのかもしれないけど、そこの周りも人が埋めてるのかもしれない。
「あの、セバスチャンさん。この人だかり、どうにか出来ませんか?」
セバスチャンさんはこの城の執事長。なら、きっとこの状況でも中に入る方法が分かる筈だ。
もしくは、裏口の一つや二つ、知っていてもおかしくはないから、そっちから入れて貰うとか。
「そうですね。もう少し待って頂ければ……ああ、来ましたね」
セバスチャンさんが俺達の後ろの方に視線を向けながら言うので、そっちを振り向くと、そこには。
「おや? あなた方は確か……」
短く切り揃えられた茶色い髪と、爽やかな笑顔が似合いそうな好青年、御剣圭太君が立っていた。
白く輝く鎧に身を包み、腰にはやたらと豪奢な装飾が施された、西洋剣を一本差しており、その姿は典型的な騎士を思い出させる。
彼の後ろには、似た様な格好をした兵士が数人程控えており、御剣君はこの中でリーダー的なポジションにいるのだろうと予想出来た。
着込んでいる鎧が、一人だけ見るからに豪奢だったからだ。御剣君を騎士みたいだと例えたのはコレが理由だったりもする。
まず、鎧の輝き具合が違う。他の兵士たちの鎧がただの金属製だとしたら、御剣君の鎧はミスリルの様な輝きを放っている。
もしかしなくても、あれってやっぱりミスリルか?
もしそうなら、随分とふんだんに使われているな。
肩当は肩パッドの様な形状をしており「それ邪魔じゃない?」と言いたくなるが、あれはあれできっと何か意味があるのだろう。
きっとそうだ。そうに違いない。
腰当は、何枚かの逆三角形のプレートを結い合わせた様な形状をしており、いかにも「ファンタジー世界の鎧」といった感じだった。
ちなみに後ろの兵士の人達の鎧にはこういう物は付いておらず、機能性を追求していそうな鎧は、一言でいえば地味だ。
これで全員が兜を被ったりしたら、絶対に見分けがつかない自信がある。
「光さんのお兄さんと、それから同じパーティメンバーの方達でしたよね? 確か、海斗さん、フーリさん、マリーさん」
御剣君は俺達に順番に視線を向けながら確認した。
覚えててくれたんだな。顔を合わせたのなんてほんの数十分程度なのに、俺だけじゃなく、フーリやマリーの名前まで覚えてたのか。
「何かお困りですか?」
御剣君は、俺達が人だかりを眺めるだけでその場から動かない事を怪訝に思ったのか、尋ねてきた。
フーリとマリーは、何と答えたら良いものかといった感じでお互いに顔を見合わせている。
相手は召喚勇者で、俺と同郷。ならここは、二人よりも俺が答えるべきだろう。
「ああ、実はちょっと困った事になってて」
俺は二人よりも一歩前に出ると、御剣君に事の経緯を説明した。
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