見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

三十八話

「つまり、問題は「何で俺に見えてるか」じゃなくて、何で俺に「だけ」見えてるか、て事なんじゃないか?」
「どういう事?」

 この二つって、同じ様で実は微妙に違うからな。
 何で俺だけに見えてるのか。他の誰にも見えないのに、俺だけに見える理由。可能性としては一応思い付くけど、あり得るか? だってあの駄女神様だぞ?

「多分だけど、あの駄女神……ガイアとかいう女神様と関係があるんじゃないか?」
「今変な呼び方しようとしなかった?」

 気の所為です。
 まあそれは置いておくとして。

「実は俺、そのガイアって女神様の力でこの世界に転移したんだけど、もしそれが関係してるなら、それはガイア様と関係がある人間――もしくは、ガイア様が選んだ人間にしか見えないんじゃないか?」

 そう。女神の使徒という事は、誰かしらの女神の使徒という事になる。そして、俺はこの世界で女神と呼ばれる存在を一人しか知らない。
 そう、残念な事に一人しか知らない。

 そしてもし、光があの駄女神様の使徒なのだとすれば、俺だけに見えるのにも理解出来る。
 まあその場合別の問題が出て来る訳だけれども。

「光は何か心当たりは無いか? といっても、あの駄女神……駄女神様じゃ望み薄だけど」
「とうとう隠さなくなったわね……でもそうね、関係あるかは分からないけど」

 光は少しだけ考えるような仕草をした後、何か心当たりがある様な言い方をした。

「何だ? 何でもいいぞ?」
「うん。実はこの世界に召喚される時に、誰かを「救って下さい」って言う女の人の声が聞こえた気がするの」
「救って下さい?」
「うん」

 それってつまり、光を使徒にした女神様は、自分では救えない誰かを救う為に、光を使徒に選んだ上で、この世界に召喚したって事か?
 で、それが俺にも関係している可能性がある、と。

「誰かって事は、誰を救えばいいのかは分からないって事だよな?」
「ええ、そうなの。ごめんなさい、兄さん」
「いや、光が謝る必要はないさ」

 悪いのは、きちんと説明もしないで俺達をこんな世界に放り出した、あの駄女神様だ。

「……よし、この件は一旦保留だな」
「保留!?」

 俺が保留だというと、光が殊更驚いた様な声をあげた。そんなに驚く事か?

「いやだって、現状分かってる事が少なすぎるし、何か行動しようにも、なあ?」
「それは……そうだけど」

 光はイマイチ納得がいっていない様で、不満気に声を漏らした。
 まあ光の気持ちも分からないじゃないけど、こればっかりはなぁ。精々気になる事があったら知らせる、ぐらいしかやれる事が無い。

「そう拗ねるなって。俺も何か分かったら連絡するから」
「……あっ」

 俺は拗ねる光の頭に手を置き、いつもみたいにその頭を撫でた。
 言い方は悪いが、光の機嫌はこうすれば大抵直る。困った時はこうするに限る。

「もう、兄さんは。こうすれば私の機嫌が直るとか思ってるでしょ」

 何 故 バ レ た ?

 と、冗談はさておき。

「でもまあ、実際今の段階で俺達に出来る事なんてほとんど無い訳だから、今は待ちの姿勢でもいいと思うんだ。何か手掛かりが掴めるまでは、な。それに、もしかしたら光が聞いたっていう女の人の声が、また聞こえるかもしれないだろ? ほら、こういうの何て言うんだっけ? えーっと……」

 ちょっとド忘れしたけど、あれ何て言うんだっけ? あの、神のお告げ的なの。えーっと、警告? いや、少し違うな。

「もしかして、啓示?」
「そう、それ! 神の啓示って奴!」

 光のおかげでようやく思い出せた。そう、啓示だ。

「もしかしたら、その内光に何かしらの啓示があるかもしれないだろ? 俺の場合はほぼあり得ないけど、光なら充分あり得るだろ?」
「いや「だろ?」って言われても、私にはよく分からないわ。そういうものなの?」

 よく分からないと言う光は、本当に良く分かっていなさそうだった。
 そっか。光はこの手の小説はほとんど読んだ事ないのか。だから「お約束」的な展開がよく分からないんだな。

「そうだな。お約束って言うと少し言い過ぎだけど、神の啓示を受けて、って展開なら割とよく見るぞ」
「そう……分かった。兄さんの言う通り、今は保留にしておくわ」

 俺が答えると、光は少しだけ考えるような素振りを見せた後、俺の言う通り、保留にする事にした様だった。
 言う通りっていっても、何もしない訳だけど。

「そうか。まあ何かあったら何でも相談してくれ。いつでも相談にのるからな」

 女神の使徒については、残念ながらあんまり力になれなかったが、俺に出来る事なら何でも力になろう。
 俺は光の兄なのだから。

「ふふっ。ありがとう、兄さん。それじゃあ早速なんだけど」
「おう、何だ? 俺に出来る事なら何でもいいぞ」

 腕に力を込め、光に力こぶを作って見せる。

「これからは私達と一緒に王都に住まない?」
「おう、任せ……ん?」

 今光は何か変な事言わなかったか? 聞き間違いじゃなければ、王都に住むとかなんとか。
 念の為もう一度光に尋ねると。

「だから、私達と一緒に王都に住みましょうって言ったの。私と兄さん、そしてユキ。日本にいた時みたいに、また三人一緒に暮らしましょう?」
「……」

 どうやら俺の聞き間違いではなかった様だ。光は俺に、一緒に王都に住もうとお願いしてきている。

 正直、叶えてやりたい気持ちはある。あるっていうか、出来れば叶えてやりたい。それに、光とユキと、そして俺の三人で生活する。それはそれで、きっと楽しい未来が待ってる事だろう。

 日本にいた時みたいに、また一緒に住む。家族として、それは自然な事だ。
 だが、それを叶えるという事は、俺のやりたい事を――果ての洞窟の踏破を諦めるという事に繋がる。

 光には悪いけど、今はまだそういう訳にはいかない。

「光、悪いんだけど」

 俺が断腸の思いで光のお願いを断ろうと口を開いた時だった。

「その誘い、ちょっと待った!」

 突然部屋の扉が勢いよく開け放たれ、そこから現れたマリーが待ったをかけてきた。
 え、どういう事?

「すまない、カイト君。部屋の前を通りかかったら二人の話し声が聞こえてきてな」

 更にはマリーの後ろからフーリまで現れた。

「いきなりどうしたんですか? マリーさん、フーリさん」

 光は二人のいきなりの訪問にも驚いた様子を見せず、冷静に尋ねていた。
 ただ、気の所為じゃなければ、光とマリーの間に見えない火花が散ってる様な気がするんだけど、気の所為か?

「そんな事よりも光さん、カイトさんを引き抜こうとしないで下さい。カイトさんは私達のパーティに必要な存在なんですから」

 必要な存在。マリーからそう言われ、こんな状況にも関わらず、少し嬉しくなってしまう。
 そっか。俺は必要とされてるんだな。改めて言葉にされると、なんか照れるな。

「でも、マリーさん。私と兄さんは義理とはいえ兄妹なのよ? 家族が一緒に住むのは自然な事じゃない?」

 光はマリーの言葉を聞いた上で、当然の様に返した。ていうか、話し方というか、口調変わってない? 今まで敬語使ってなかったか?

「確かにそうですけど、カイトさんは既に私達とパーティを組んでるんですから、私達の意見も聞くべきだと思います」
「それはそうかもしれないけど、兄さんが王都に住みたいって言うなら、その意見を尊重するのも、パーティメンバーの役目じゃない?」

 光とマリーは互いに一歩も引かずに言い合っている。別に喧嘩をしている訳ではないのだが、穏やかな空気じゃない。

「カイト君、モテモテだな」
「いや、それは何か違う気がするんだが?」

 フーリはまるで他人事の様に成り行きを見守っている。
 あの二人が熱くなってるだけなんだろうけど、フーリは気にならないのだろうか?

「心配しなくても、私はカイト君を信じているからな。仮に王都に住みたいって言うなら、その時は勇者……いちいち勇者を付けるのも面倒だな」

 あ、それは俺も思ってた。フーリって、毎回律義に勇者ヒカリって呼んでたからな。

「別に勇者は付けなくていいと思うぞ」
「む、そうか? なら、これからはヒカリ君と呼ぶ事にするか」

 俺が勇者は付けなくてもいいって言うと、フーリは少しだけ考えた後に「ヒカリ君」と呼び方を改める事にした様だ。。

「ヒカリ君の言う通り、カイト君の意見を尊重するだけだ。私は信じているがな」

 二回も信じているというフーリ。ていうか、俺の言いたい事が分かったのか。
 それはそれで見えない圧力を感じるんだけどな。

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