見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

三十四話

「「「「ごちそうさまでした!」」」」
「はい、ごちそうさま」

 お昼ご飯を食べ終えると、皆は満足そうな顔で「ごちそうさまでした」と、大きな声で口にした。
 この間までは、ご飯の前や後に何か決まった言葉を言う習慣なんて無かったのに。

 これも、お兄さん達の影響かな?

 他の教会なんかは、食事の前には必ず神へ祈りを捧げている、という話を、私は一度院長先生に教えて貰った事がある。
 確か、私がこの孤児院に来てすぐの頃だったかな?

 この孤児院では、特にそういうルールは決まっていないって、院長先生は言ってたけど。あの時はまだ院長先生も元気だったし、私よりも年上の子供も沢山いたなぁ。今は皆ここにいないけど。

 運良く貰ってくれる人に巡り会えた人もいれば、自分の力で自立した人もいた。身近な人でいえばニーナさんだ。

 あの人もこの孤児院出身で、自立した人の一人だ。
 私とはほとんど入れ替わりだったけど、それでも私の事を覚えててくれたし、お手伝いとして、あの宿で働かせて貰っている。

 そのおかげで今まで何とかやって来れたし、ニーナさんには感謝してもしきれない。でも、それでも全然足りなかった。

 寄付金は毎回目に見えて減ってきていたし、最近は子供が増えても、誰かに貰われて減る事はなくなっていた。
 自立も、十二歳の私が最年長の時点で無理な話だ。

 院長先生も、最近はほとんど目を覚ます事も無くなってきてるし、あのままだったら多分、私達は一年ももたなかったと思う。
 これからどうすればいいのか。ほとんど見失いかけていた、そんな時だった。あの人が現れたのは。

「また来てくれるかな」

 お兄さん。私達に希望の光を見せてくれた人。
 まだまだ解決しないといけない問題はあるけど、不思議と今ならどうにか出来る気がする。多分これもお兄さんのおかげだと思う。

 また会えたら、今度はどんな話をしよう? どんな顔をしよう? やっぱり笑顔が一番かな? でも、子供っぽいとか思われないかな?
 じゃあ、大人っぽい顔って何だろう? 今度ニーナさんに聞いてみようかな?

 そんな事を考えている時だった

 キィィッ

 部屋の外。礼拝堂の方から、扉の開く音が聞こえてきた。
 今はお昼過ぎ。皆はまだ部屋の中にいるし、こんな時間に訪ねてくるなんて一体誰だろう?

 ……もしかして!

「お兄さん!?」

 フォレが「早く帰って来てね」って言ったら、お兄さんは「出来るだけ」って言ってた。もしかして、本当に急いで来てくれた?
 そう思うと、居ても立っても居られなかった。

 少しでも早くお兄さんに会いたい。その思いから、私は急いで礼拝堂へと向かった。

「おねえちゃん、まって」

 後ろからフォレの声が聞こえてきたのと、私が礼拝堂へと続く扉を開いたのは全く同時だった。
 そして。

「オォ、やっぱり人いたヨ!」
「……誰?」

 礼拝堂への扉の先。広間の中心にいたのはお兄さんではなく、見るからに怪しい格好で、怪しげな喋り方をする、不審者丸出しの男の人だった。





「いくら何でも急すぎるだろ……」

 俺は誰に言うでもなく独りごちた。
 あの後、キノコ鍋をマリーに説明すると「是非食べてみたい!」というので、早速準備しようとしたのだが、そこで光が「そういう事なら私に任せて」と言い出した。

 そして、その瞬間、俺は光に調理して欲しい物がある事を思い出した。

 それらを光に説明すると、折角だから、材料をきちんと揃えて食べようという話になり、どうにかして昼飯に食べようと画策するマリーを説得した後は、光に晩飯の買い出しを頼まれた。

 その間に光は鍋用の出汁と、ある食材の下ごしらえをしているとの事。まあ所謂適材適所という奴だな。
 で、買い出しに行く直前になって光がとんでもない事を口走ったのが、今の俺の呟きの原因だ。

 光が何と言ったかというと「明日、武闘大会――勇者杯の開会式典が、明日行われる」と言ったのだ。いや、あまりにも急過ぎる。
 まあ開会式とはいっても、特に何かやる事がある訳でもなく、ただ参加するだけでいいらしいからまだマシではある。

 だが、出来ればもう少し早めに、それこそ昨日の時点で話しててくれれば良かったのにとは思う。

「早めに聞いたからって、別に何か準備する訳じゃないけど」

 ていうか、着て行く服気にするぐらいで、後は何もしないんだよな。そういう意味では、別に問題はないか。
 俺に関しては、だけど。

 フーリとマリーも俺と同じだとは限らないからな。もしかしたら俺と違って準備する事が多いかもしれない。
 さっきも「急いで準備しないと」って言って、二人して街に繰り出してしまった。だから買い出しは俺一人なんだけど。

 アミィはというと、光と一緒に晩飯の準備をするって言って、賢者の息吹に残っている。多分、光の手伝いをしながら料理のレパートリーを増やすつもりなのかもしれない。
 この世界に無い料理。もしそれを覚えれば、賢者の息吹の看板メニューが増えるかもしれない。

 そう考えてるのかもしれない。

「ま、帰ってからのお楽しみか」

 もし俺の想像通りなら、ペコライに帰ってからの楽しみが一つ増える。
 この世界の食材を活かした、アミィにしか作れない鍋料理。完成したら是非とも食べてみたい。

 まあ全ては俺の勘違いで、ただ単に宿に残っただけって事もあり得るけど。まあどっちにしても、さっさと宿に帰るに越した事はない。
 よし! そうと決まれば、さっさと買い出しを済ませて宿に帰らないとな。一応明日の準備もあるし。

 そう考え、俺は本日二度目となる市場へと足を運んだ。朝から分かってたらついでに買い出しも済ませられたんだけどなぁ。



 その後、市場での買い出しも終わり、後は宿に帰るだけ。そんな時だった。

「おぃ、カイト。久しぶりだな」
「こんにちは、カイトさん」

 後ろから聞き覚えのある声に話しかけられた。
 そのまま後ろを振り返ると、そこにはペコライでよく顔を合わせ、アミィを王都まで送り届けてくれた二人組の冒険者。ヴォルフとロザリーさんが立っていた。

「おお、ロザリーさんにヴォルフ。久しぶり……って程でもなくない?」

 ペコライを出る時も一度会ってるから、期間で言うとまだ一週間とちょっとしか経ってない。
 確かに王都に来てから色々あり過ぎて、久しぶりな気はするけど。

「そうか? まあそんな事はどうでもいいんだ」
「ん?」

 いや、そんな事って……。一応お前が言ったんだから、そんな事扱いしなくても。
 チラッと横目でロザリーさんの様子を確認してみると、やれやれといった様子で首を左右に振っている。

 ロザリーさんがあんな態度を取るって事は、多分面倒事になる可能性がある。あるんだけど……分かってるなら止めてくれませんかねぇ?

「それよりもカイト。お前達が予選免除で勇者杯に参加するってのは本当か?」
「ん? ああ。まあそうだな」

 予選免除ではあるけど、それは実力とかじゃなくて「光の兄だから」って理由で、半強制的に参加させられるんだけどな。
 だが、そんな事をヴォルフがそれを知る訳もない。

 言っていい物か悩み所だけど、変に暴露して後で問題になっても嫌だし、ここは黙っておこう。

「そうか。噂は本当だったのか」
「噂? ……え、何? 噂になってるの?」

 それは初耳だ。噂って、俺達が予選免除で勇者杯の本戦に出場する事か? もしそうなら、一体どこから話が漏れた?
 ……もう少し詳しく話を聞く必要がありそうだ。

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