見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

三十話

 うん、見た感じ別に変な物は置いて無さそうだ。
 店の外観は普通。商品も普通。値段は一応書いてはあるが、これが正規の値段か分からない。だが、特段高いとは感じない。
 そう、特筆すべき欠点のない、極普通の薬屋に思えた。

 店主以外は。

「さあお客サン、何でも好きなの買って行ってヨ。お安くしとくヨ」

 特徴的な語尾。独特の喋り方。怪しげなサングラスをかけて……この世界サングラスなんてあるの!?
 初めて見たんだけど!?

「あ、あの、えっと」
「ん? 何ヨ何ヨ。何が欲しいのヨ?」
「……いえ、何でもありません」

 アミィが恐る恐るといった様子で店主に話しかけようとするが、そのあまりの怪しさに、途中で話すのを断念してしまった様だ。

「それでお客サン、何を買うのヨ? まさか、冷やかしヨ?」

 俺達がいつまでも訝し気に見ている事に気が付いたのか、ただ単に早く売りたかったのかは分からないが、店主は何も買わずにいる俺達の事を、冷やかし扱いし始めた。

「冷やかしなら帰るヨ! 私忙しいヨ!」

 店主は最早冷やかしだと決めつけた上で、俺達を追い返そうとする。いや、別に冷やかしじゃないんだけど。

「これ! この青い薬! これは何の薬?」

 別に薬が欲しい訳じゃないから、ここで追い返されても構いはしないのだが、勝手に冷やかし扱いされるのも癪だと思い、適当に手に取った薬の説明を店主に求めた。

「お? 何ヨ買うのヨ? だったらアナタお客サンヨ! それはケガした時に使う薬ヨ! どんな大ケガをしても、それをかければ一発で治るヨ……多分」
「多分!?」

 今この店主、多分って言ったか!?
 自分の店の商品の説明で、多分なんて言う事あるか!?

「し、仕方ないヨ! いくら薬が凄くても、流石に欠損までは治せないヨ!」

 欠損……つまり、腕や足なんかを切断していたら、流石に治せないって事か。それは確かにその通りだろう。むしろ欠損を治せる薬なんて物があるのかの方が気になるぐらいだ。

 だが、それはつまり、欠損さえしていなければ治せるって事か? だとしたら、これは凄い薬なんじゃないだろうか?

「じゃあ、例えば全身丸焦げだったとしても、これを使えば治せるって事か?」

 俺は確認の為、店主に尋ねてみた。

「いや、それは無理ヨ。もっと軽いケガじゃないとダメヨ」
「丸焦げは治せないのか」

 流石に丸焦げは言い過ぎたか。確かにそれなら、欠損を治す方が簡単そうではあるし、仕方がない。

「じゃあ、欠損は無理でも、骨折なら治せるか?」

 流石に骨折なら治せるだろう。これはハードルを下げ過ぎたか? 店主が「当たり前ヨ!」って言うのが目に浮かぶ。
 だが、俺の想像していた答えは、店主の口から発せられる事はなかった。何故なら。

「それも無理ヨ」
「はぁ!? 骨折も無理なのか!?」

 まさかの骨折も治せないときた。いや、さっき「どんな大ケガでも治せる」って言ってたじゃないか。まさか嘘だったのか?

「当たり前ヨ!」

 いや、ここで言うのかよ! 一つ遅いわ!

「じゃあどんなケガなら治せるって言うんだ?」

 いい加減このやり取りにも飽きてきた所だ。ていうか、骨折も治せない様な薬を「どんな大ケガでも治せる」とか言って売り捌こうとしてる辺り、どうにも胡散臭くなってきたんだよな。

 この怪しい店主といい、怪しげな薬といい、もしかしてこの店は、俗にいう悪徳業者というものではなかろうか?

「擦り傷切り傷、打撲に火傷。それぐらいなら、この薬を飲めば安心ヨ! そこはかとなく効いた気がする筈ヨ!」
「いや、気がするだけかヨ!」

 効きすらしないんじゃねえか! あんまりな言い分に、語尾がうつっちまったじゃねえか!

「お兄ちゃん、喋り方が……」
「あ、ああ、大丈夫。ちょっと取り乱しただけだから」

 アミィも俺の語尾が変な事に気が付いたみたいだったが、まあいい。とりあえず俺がやる事は一つだ。

「鑑定!」
「ちょっ、お客サン困るヨ!」

 俺が手に持った薬に鑑定をかけたのを見て、店主が慌てて止めに入ろうとするが、もう遅い!
 さて、鑑定結果は、と。

「自己暗示薬:自分自身に軽度の自己暗示を施す薬。効果は数分程度。軽い依存性あり」

 ……これのどこが薬だ! どこからどう見ても、麻薬の類だろうが! いや、麻薬も薬といえば薬だけども!

「……」

 俺は鑑定結果を確認し、無言で店主の事を睨み付ける。

「アー、アハハハハッ。どうも不良品が混じってたみたいネ! 不思議な事もあるもんネ!」

 この期に及んで苦しい言い訳を始める店主。これは黒だな。

「これ、詐欺じゃないですか!」

 すると、その様子を見ていたアミィが大声で店主を詐欺師呼ばわりする。

「ちょちょちょ、お客サン、声が大きいヨ! シーッ、シーッ」

 流石に堂々と詐欺師呼ばわりされるのは不味いと判断したのか、店主は慌ててアミィを止めようとする。

「アミィ、落ち着けって。今ここでコイツを詐欺師呼ばわりするのは良くない」
「おお、お客サン、話が分かるヨ。ありがたいヨ」

 俺がアミィを止めると、店主は自分の味方をしてくれたのだと思ったのか、ほっと胸を撫で下ろしている。

「何で、お兄ちゃん! まさか、この詐欺師の肩を持つの!?」

 アミィは信じられないといった顔で俺に文句を言ってくる。いや、別にコイツの味方をする気はないけど。

「アミィ、ちょっと耳貸せって」

 俺は怒るアミィの肩に手を置き、耳を貸す様に言った。

「もう、何?」

 アミィは怒りに肩を震わせながらも、俺に耳を近づけてきた。

「ここで騒ぐと「営業妨害だ!」って言われかねないだろ? そうなると、俺達もあまり良くない状況になる。だから、今は抑えてくれ。後で光経由で然るべき処置を下して貰えるようにするから」

 ちょっとズルい気もするが、それが一番穏便に事を済ませる方法だ。
 証拠を押さえて国に動いて貰えば、この男一人でどうこう出来るとは思えない。

「でも、それまで放っておくの?」

 俺の考えを聞いて、幾分冷静さを取り戻したのか、アミィは怒りに身を震わせる事はなくなった様だが、それでも納得はしていない様だった。
 ていうか、何でアミィはこんなに怒ってるんだ?

 詐欺師が許せないっていうのは分かるけど、これは少々異常じゃないだろうか?

「大丈夫だって。アミィが今「詐欺師!」って叫んだだろ? 少なくとも今周りにいた人達はコレを聞いてた訳だから「ここは詐欺師がやってる店だ」っていう噂は流れる筈だ。そうなれば、この男も派手に動けなくなるだろ? その間にしょっ引いて貰えばいいんだよ」
「それは……確かにそうだけど」

 アミィに俺の考えを説明したのだが、それでも納得し切っていない様だった。うーん、どうしたものか。

「……それじゃあ、あんまり悪さするなよ」
「ちょっ、お兄ちゃん!?」

 これ以上ここにいても埒が明かないと判断し、俺はアミィの手を握り、半ば強引に引っ張る様にその場を後にした。

「おお、分かったヨ! 私嘘吐かないヨ!」

 どの口が言うんだ! どの口が!
 全力でツッコミを入れたい衝動に駆られたが、それをなんとか抑え付ける。

「嘘吐き! 人でなし! 最低!」

 どうやらアミィは堪えきれなかった様で、詐欺師の男に向かって罵倒を浴びせかけていた。
 本当、一体アミィに何があったんだ? 普段はもっと冷静に物事を見れる子の筈なんだけど。

 今ここであの男と争っても、良い事は無いのに。
 俺は未だに怒りを露わにするアミィの手を引き、何とかその場から離れる事に成功した。

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