見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

十話

 やっべ。そういえばアミィに声をかけるの忘れてた。

「ねえ、いるんでしょ! 返事して!」

 扉の外から聞こえてくるアミィの声は、若干怒っている様にも感じる。いや、若干どころじゃねえな。普通に怒ってらっしゃるわ。
 どうするかなぁ。
 まあとりあえず。

「ああ。今開けるから、ちょっと待っててくれ」

 そう答えてから、俺は扉の外で待つアミィを室内へと招き入れるべく、部屋の扉を開いた。すると。

「ねえ、お兄ちゃん。今日のお夕飯、外で食べるって本当?」

 俺と目が合うと同時に、アミィから晩飯の件について尋ねられた。
 情報早っ! 一体誰に聞いてきたんだ?

「まあそうだな。その予定だ」

 とはいえ、別に特段隠す程の事でもないので、俺は正直に答えた。

「どういう事? お兄ちゃん、今日はみんなとお夕飯食べるんじゃなかったの!」

 俺が答えると、アミィが更に問い詰めて来る。いや、確かに黙ってたのは悪かったけど、でもさ?

「そんなに叫んで疲れないか?」
「誰の所為だと思ってるの!?」

 俺が尋ねると、一際大きな声で叫ぶアミィ。そして「ぜぇはぁ」と息を乱している。うん、そんなに叫ぶからだぞ?

「と、とにかく、詳しく説明して」

 流石に疲れたのか、アミィは叫ぶのをやめたが、それでも詳しく説明して欲しいという。いや、詳しくも何も、言葉通りの意味なんだけど。

「詳しくって言っても、さっき行って来た孤児院の子に夕飯に招待されたから、今夜はそっちにお邪魔するってだけの話なんだけど」
「孤児院? お兄ちゃん孤児院に行ってたの?」

 孤児院の話をすると、アミィが予想外だと言いた気な表情になった。
 あれ? 言ってなかったっけ? ……うん、言ってないな。

「ああ、実は昨日からな。そこで知り合った子と……まあ色々あったんだけど、今日無事和解出来てな。それでって訳じゃないけど、晩飯に誘われてな。折角だから受ける事にしたんだよ」

 説明してなかったのは流石に悪かったので、アミィにも事の経緯を簡単に説明。アミィからすれば当然一緒に夕飯を食べる物だとばかり思っていた相手が、突然何の説明もなく出掛けようとしていたんだ。そりゃ面白くないよな。

「そっか、孤児院の……うん、分かった。そういう事なら、今夜は我慢するね」
「いいのか?」

 尋ねた俺が言うのもなんだが、正直もっと文句を言われるかと思っていた。それがまさか、こんなにあっさりと納得してくれるとは。

 光も「孤児院」って言葉を聞いた途端文句を言わなくなったんだよな。もしかして俺が思っている以上に、皆孤児院の事を気にしてるとか?
 まあ俺にとってはありがたい誤算ではあったから別にいいけど。

「お兄ちゃんらしいね」
「そうか?」
「うん! でも、明日は一緒にご飯食べようね?」
「ああ、それはもちろん」

 明日なら特に用事は無いから、それは心配しなくても大丈夫だな。
 アミィはそれだけ言うと、部屋の扉に手をかけ。

「それじゃあ、今夜は楽しんできてね!」
「ああ。ありがとな、アミィ」

 アミィは俺に「行ってらっしゃい」と言うと、そのまま俺の部屋から出て行った。
 いやぁ、すぐに納得してくれて助かった。でもこれで光とアミィにもちゃんと説明したし、フーリは最初から事情を理解してる側だ。

 て事は、後残ってるのは。

「ヴォルフとロザリーさんか」

 言葉にしてみたものの、別に一緒に晩飯を食べる約束をしている訳でもないのだから、多分二人は俺が孤児院で晩飯を食べるって言っても、特に文句は言って来ないだろう。
 つまり。

「さっさと出掛けるか」

 このままマリーと二人で孤児院まで出掛けても問題にはならない筈だ。そう考え、俺はアミィを呼びに行くべく、部屋の扉に手をかけた。



「マリー、準備出来てるか?」
「あ、はい、今行きます」

 珍しく俺がマリーを迎えに行くと、部屋の中から聞こえてきたのは「今行く」というマリーの返事だった。

 やっぱりこういう身支度なんかは、男よりも女の方が時間かかるものだよな。こればっかりは仕方がない。

 日本にいた頃も、よく光に「女の子は準備に時間が掛かるものなの」って言われてたし、そのぐらいは俺にも理解出来る。

 そういえば光は俺と出掛ける時、いつも準備に一時間ぐらい掛かってたっけ? いくら時間が掛かるとはいえ、流石に掛け過ぎじゃないかとも思ったが、それを口に出す事は憚られた。

 もし口を出して、いらん説教なんかされたら堪らないからな。

「お待たせしました!」

 そんな事を考えていたら、部屋の中から身支度を整えたマリーがその姿を現した。
 いつもとそんなに変わらない様にも見えるが、そんな筈はない。光曰く、女の子が時間を掛けて準備した時は、何かしら見た目に変化が表れているものだという。

 でも、これといって変化は……あ。

「それ、俺が前にプレゼントした奴か?」
「あ、気付きましたか? 実はそうなんです。普段は冒険で落とさない様に身に付けてないんですけど、せっかくの機会ですから、こういう時くらい身に付けようかなって」

 そう、マリーが今着ている服の胸元には、以前俺がプレゼントしたブローチが青い輝きを放ちながらその存在を主張していた。
 確か名前は「月の雫」だったか?

 青く透き通るそのブローチは、見ているこっちが沈み込んでいきそうな程深く濃い青色をしていた。

「それじゃあ、そろそろ孤児院に行きましょうか?」
「ああ、そうだな。そろそろ行くか」

 久しぶりに見た月の雫はとりあえず置いておくとして。そろそろいい時間だし、出掛けるか。
 俺とマリーはそのまま二人で宿を出て、孤児院へ向かって歩き始めた。



「あ、そうだマリー」

 晩飯の事を考えていた時、俺はとあることを思い出し、マリーに声をかける。

「何ですか?」

 マリーは特に身構える事もなく、自然と返事を返してくれた。うん、これから言う事を聞いても、どうかそのままでありますように。

「孤児院に分ける食べ物の事なんだけど」
「食べ物っていうと、昨日のオーク肉とかの事ですか?」

 確かに昨日はオーク肉だったな。ボリューム第一に考えたら、あの選択は間違いじゃなかったと思う。アン達も喜んでくれてたし。
 だが、今回は違うんだよなぁ。

「それも良いんだけど、もっと別の物というか」
「別の物?」

 流石にこれだけじゃあ何かは分からないよな。

「栄養面を考えたら、肉以外にも分けてあげた方がいいと思うんだ」
「あ、それもそうですね。お肉だけじゃ栄養が偏っちゃいますからね。それじゃあ、野菜を分けてあげたいって事ですか?」
「ああ、そうだな。野菜とか、魚介類とか……「キノコ」類とか」

 ピクッ

 俺が「キノコ」という単語を発した瞬間、マリーの体が見るからに強張ったのが分かった。マリーってキノコ関連の話になると分かりやすいんだよな。

「俺のストレージには今、とあるキノコが大量に保管してあってな」
「…………そうなんですか? そんなにいっぱいは無いんじゃないですか?」

 マリーは俺の言葉に懐疑的な声を上げたが、それは本心で言ってるのか。それとも最悪の事態を引き起こさない為の演技か。それはマリー以外には……いや、分かるな。
 どう見ても演技だわコレ。めっちゃ目が泳いでるし。

「いやいや、心配しなくても「大量」にあるぞ」
「またまた、ご冗談を。「適量」しか無いですよね?」
「「……」」

 ……適量? この大量に保管されてるオイ椎茸やウ舞茸が、マリーの言う「適量」なのか?
 もし本気なら、感覚が少々麻痺しておりませんでしょうか?

 まあその話は置いておくとして、本題に入らないとな。

「物は相談なんだが」
「聞きたくありません」

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