見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~
四話
「え、今何が?」
「猫が人間に?」
「何で猫があの子に?」
三人もたった今目の前で起こった信じられない出来事に驚いている様だ。
いや、驚いているというより、文字通り信じられないのか。
俺だって驚いているし、信じられない。だって、猫が人間になったんだぜ。普通信じられるか?
「お魚は!?」
「アージーは夕飯。今はまだ無いわよ」
「えー、そんなーっ」
そんな中、光は何事も無かった様にユキちゃん……いや、ユキ? あれ、どっちだ?
……と、とにかく! 見た目はユキちゃんだし、とりあえずユキちゃんって呼ぶとして。光はユキちゃんと普通に話している。
「なあ光、その子はユキなのか? それともユキちゃん?」
だが、このままではどう呼べばいいのかもままならないので、光に尋ねてみたのだが。
「あ、にいたんおはよう!」
「え? あ、ああ。おはよう?」
俺の言葉に最初に反応したのは、光ではなくユキちゃんだった。
めっちゃいい笑顔と、元気のいい声。されたこっちが清々しくなる様な挨拶だった。
「両方よ、兄さん。この子は元々猫のユキで、兄さんがユキちゃんって呼んでた子……要は同一人物だったって訳」
「……んなアホな」
何の冗談かと思って光に視線を向けたのだが、光の表情は真剣そのもので、これが冗談の類ではないのだという事が分かった。
って事は、この子は本当にユキなのか?
「カイトさん、どう思いますか?」
「アレが実は猫だと言われて、本当に信じられるか?」
マリーとフーリは未だに信じ切れていないのか、俺にどう思うか尋ねてきた。確かに、二人はまだ光と会って間もないし、言葉だけじゃあ本当か嘘かの判断はつかないよな。
でも、光のあの表情、あの目。あれは本当の事を言ってる時の物だ。
「信じられない話かもしれないけど、嘘じゃない。あの子は間違いなく、猫のユキが人間になった姿の筈だよ」
俺は確信を持って二人に告げた。
「そ、そうですか。カイトさんがそう言うなら間違いないですね」
「あ、ああ。にわかには信じられないが、あれが元は猫か……」
俺があまりにも迷いなく「本当だ」と言ったからか、二人はすぐに信じてくれた様だ。
いや、自分で言っておいてなんだけど、よくこんな嘘みたいな話信じられたな。
「ねえ、あなた猫なの?」
「んー?」
と、俺達が「ユキが猫かどうか」の話をしていたら、いつの間にかアミィがユキの元まで行って直接尋ねていた。
「猫人間!」
ドヤ顔で答えるユキ。そのあまりのドヤ顔ぶりに、アミィも苦笑いを浮かべている。
猫人間か。その考えは無かったな。どっちかって言うと、猫人間じゃなくて猫むす――ゲフンゲフン。あれ、風邪かな?
「猫人間って、あなたねぇ……」
そんなユキに、光は片手で顔を覆い、溜息を吐きながら頭を左右に振っている。
「そ、それで? ユキちゃんが猫のユキなのは理解出来たけど、それがどうかしたのか?」
このままだと話が続かないと思い、光に話を振ったのだが。
「いや、別にどうもしないわよ? ただ、兄さんには知っておいて貰いたかっただけで」
「そうなのか?」
特に何かあるという訳じゃなかったらしい。
自分の部屋に案内するってセバスチャンさんと話している時も、随分と食い下がってたし、てっきり何か理由があるのかと思ってたんだけど。
「それで、これからの事なんだけど」
「これから? ああ、武闘大会の事か?」
これからの事と言えば他に無いだろう。そう思ったのだが。
「え? いえ、別にそれはどうでもいいわ」
「どうでもいい!?」
光はハッキリと、どうでもいいと言い切った。いや、仮にもお前は召喚勇者だろ?
流石にどうでもいいは駄目じゃない?
「そんな事よりも大事な話があるの」
そんな事って……。ほら、見てみ? マリー達も苦笑い浮かべてるぞ?
「に、兄さんは、こ、今夜はどこに泊まるの?」
「え? 俺?」
どこに泊まるって、そりゃあ渡り鳥亭だけど……ってそうか、そういう事か。
光は俺が今日王都に来たと思ってるのか。それで、まだ俺が宿の確保が出来てないだろうって心配してるんだな。
相変わらず光は優しい子だ。
「も、もし良かったら、私の部屋に……」
「心配しなくても大丈夫だぞ。ちゃんと宿の確保はしてあるから」
俺が光に心配かけまいと説明したのと、光が話し始めたのは同時だった。
ん? 光は今何て言ったんだ? 声が被って断片的にしか聞こえなかったけど。
確か「良かった」「部屋」ってのは聞こえたんだけど。
「「「……」」」
そして何故か、マリー達に続いて光まで苦笑いを浮かべだした。しかも三人共俺の方を見ながら。
いや、確かに声が被ったのは悪かったけど、仕方ないじゃん? タイミングが悪かったんだって。
「光さん、こういう事はよくあったんですか?」
「ええ、割と頻繁に。週に七回ぐらいは」
「それは毎日というのではないか?」
そして、まるで打ち合わせた様に三人が無言で集まり、ひそひそと話し始めた。いや、俺置いてけぼりなんですけど? 三人で内緒話なんてやめて下さい。
ていうか、君達息合い過ぎじゃない? 今日が初対面だよね? もしかして、これが噂に聞く女の友情って奴か?
「何の話してるんですか?」
「あたしも混ぜてー」
マリー達が内緒話を始めると、それを見ていたアミィとユキまでその輪に加わろうとした。
……よし、今なら。
「俺も混ぜてー」
自然な流れで話に加わろうとしたのだが。
「ダメよ、兄さん」
「ダメです、カイトさん」
「諦めろ、カイト君」
「お兄ちゃんはちょっとあっち行ってて」
「にいたん、ごはん食べよ!」
全員から門前払いを喰らってしまった。
「ユキ、ご飯はまだよ」
「えーっ」
いや、ユキに関しては飯食いたがってただけか。
内緒話に加われなかった俺をよそに、皆はそのまま話を続行。必然的に、俺はする事も無くなる訳で。
「……王城見学でもしてこようかな」
俺は皆の話を邪魔しない様に部屋の扉をそっと開き、そのまま部屋を出た。
「さて、と」
とりあえずセバスチャンさんでも探すか。あの人に頼めば、王城を案内してくれるかもしれないし。
そう思い、誰か人がいないか辺りを見回すと。
「貴様はっ!?」
目の前に金髪小太りの豪奢な衣服に身を包んだ、いかにも貴族然とした姿をした小柄なおっさんが立っていた。無駄に伸ばした顎髭を、何度も引っ張っている。いや、初対面の相手を貴様呼ばわりって……あんた何様だよ?
いや、雰囲気的に貴族様なのかもしれないけど。
「くっ、覚えてろ!」
おっさんは俺と出会った途端、忌々し気に俺を睨んだかと思うと、そのまま踵を返して立ち去ってしまった。
いや、何を覚えていろと? ていうか。
「誰だよ」
俺はあんなおっさんと話した事が無ければ、会った事も無い。完全な初対面だ。恨まれる筋合いはない。
それなのにあの態度。もしかしたら、召喚勇者の事を気に食わない勢力の人間とかか?
それなら話は分かる。召喚勇者が気に食わないなら、その身内の事も気に食わなくても全然不思議じゃない。
貴族なら、俺が光の身内だって情報を知っててもおかしくないし。
「ちょっと兄さん、どこに行くのよ?」
「ん? ああ、悪い悪い。ちょっと王城見学でもと思ってな」
「もう、急に出て行くからびっくりしたじゃない。さ、部屋に戻って」
気付かれない様に部屋を抜け出したつもりだったが、どうやらバレていたらしい。
光は俺に、部屋の中へ戻る様に言うと、そのまま先に部屋の中へと戻って行ってしまった。
「……まあ、いいか」
さっきのおっさんの事は気になるが、今考えても仕方がない。
直接何かされた訳じゃないし、光に一言話しとけば、後は陛下がどうにかしてくれるだろう。
そう考え、俺は光に促されるまま、再び部屋の中へと戻った。
……王城見学、し損ねたな。
「猫が人間に?」
「何で猫があの子に?」
三人もたった今目の前で起こった信じられない出来事に驚いている様だ。
いや、驚いているというより、文字通り信じられないのか。
俺だって驚いているし、信じられない。だって、猫が人間になったんだぜ。普通信じられるか?
「お魚は!?」
「アージーは夕飯。今はまだ無いわよ」
「えー、そんなーっ」
そんな中、光は何事も無かった様にユキちゃん……いや、ユキ? あれ、どっちだ?
……と、とにかく! 見た目はユキちゃんだし、とりあえずユキちゃんって呼ぶとして。光はユキちゃんと普通に話している。
「なあ光、その子はユキなのか? それともユキちゃん?」
だが、このままではどう呼べばいいのかもままならないので、光に尋ねてみたのだが。
「あ、にいたんおはよう!」
「え? あ、ああ。おはよう?」
俺の言葉に最初に反応したのは、光ではなくユキちゃんだった。
めっちゃいい笑顔と、元気のいい声。されたこっちが清々しくなる様な挨拶だった。
「両方よ、兄さん。この子は元々猫のユキで、兄さんがユキちゃんって呼んでた子……要は同一人物だったって訳」
「……んなアホな」
何の冗談かと思って光に視線を向けたのだが、光の表情は真剣そのもので、これが冗談の類ではないのだという事が分かった。
って事は、この子は本当にユキなのか?
「カイトさん、どう思いますか?」
「アレが実は猫だと言われて、本当に信じられるか?」
マリーとフーリは未だに信じ切れていないのか、俺にどう思うか尋ねてきた。確かに、二人はまだ光と会って間もないし、言葉だけじゃあ本当か嘘かの判断はつかないよな。
でも、光のあの表情、あの目。あれは本当の事を言ってる時の物だ。
「信じられない話かもしれないけど、嘘じゃない。あの子は間違いなく、猫のユキが人間になった姿の筈だよ」
俺は確信を持って二人に告げた。
「そ、そうですか。カイトさんがそう言うなら間違いないですね」
「あ、ああ。にわかには信じられないが、あれが元は猫か……」
俺があまりにも迷いなく「本当だ」と言ったからか、二人はすぐに信じてくれた様だ。
いや、自分で言っておいてなんだけど、よくこんな嘘みたいな話信じられたな。
「ねえ、あなた猫なの?」
「んー?」
と、俺達が「ユキが猫かどうか」の話をしていたら、いつの間にかアミィがユキの元まで行って直接尋ねていた。
「猫人間!」
ドヤ顔で答えるユキ。そのあまりのドヤ顔ぶりに、アミィも苦笑いを浮かべている。
猫人間か。その考えは無かったな。どっちかって言うと、猫人間じゃなくて猫むす――ゲフンゲフン。あれ、風邪かな?
「猫人間って、あなたねぇ……」
そんなユキに、光は片手で顔を覆い、溜息を吐きながら頭を左右に振っている。
「そ、それで? ユキちゃんが猫のユキなのは理解出来たけど、それがどうかしたのか?」
このままだと話が続かないと思い、光に話を振ったのだが。
「いや、別にどうもしないわよ? ただ、兄さんには知っておいて貰いたかっただけで」
「そうなのか?」
特に何かあるという訳じゃなかったらしい。
自分の部屋に案内するってセバスチャンさんと話している時も、随分と食い下がってたし、てっきり何か理由があるのかと思ってたんだけど。
「それで、これからの事なんだけど」
「これから? ああ、武闘大会の事か?」
これからの事と言えば他に無いだろう。そう思ったのだが。
「え? いえ、別にそれはどうでもいいわ」
「どうでもいい!?」
光はハッキリと、どうでもいいと言い切った。いや、仮にもお前は召喚勇者だろ?
流石にどうでもいいは駄目じゃない?
「そんな事よりも大事な話があるの」
そんな事って……。ほら、見てみ? マリー達も苦笑い浮かべてるぞ?
「に、兄さんは、こ、今夜はどこに泊まるの?」
「え? 俺?」
どこに泊まるって、そりゃあ渡り鳥亭だけど……ってそうか、そういう事か。
光は俺が今日王都に来たと思ってるのか。それで、まだ俺が宿の確保が出来てないだろうって心配してるんだな。
相変わらず光は優しい子だ。
「も、もし良かったら、私の部屋に……」
「心配しなくても大丈夫だぞ。ちゃんと宿の確保はしてあるから」
俺が光に心配かけまいと説明したのと、光が話し始めたのは同時だった。
ん? 光は今何て言ったんだ? 声が被って断片的にしか聞こえなかったけど。
確か「良かった」「部屋」ってのは聞こえたんだけど。
「「「……」」」
そして何故か、マリー達に続いて光まで苦笑いを浮かべだした。しかも三人共俺の方を見ながら。
いや、確かに声が被ったのは悪かったけど、仕方ないじゃん? タイミングが悪かったんだって。
「光さん、こういう事はよくあったんですか?」
「ええ、割と頻繁に。週に七回ぐらいは」
「それは毎日というのではないか?」
そして、まるで打ち合わせた様に三人が無言で集まり、ひそひそと話し始めた。いや、俺置いてけぼりなんですけど? 三人で内緒話なんてやめて下さい。
ていうか、君達息合い過ぎじゃない? 今日が初対面だよね? もしかして、これが噂に聞く女の友情って奴か?
「何の話してるんですか?」
「あたしも混ぜてー」
マリー達が内緒話を始めると、それを見ていたアミィとユキまでその輪に加わろうとした。
……よし、今なら。
「俺も混ぜてー」
自然な流れで話に加わろうとしたのだが。
「ダメよ、兄さん」
「ダメです、カイトさん」
「諦めろ、カイト君」
「お兄ちゃんはちょっとあっち行ってて」
「にいたん、ごはん食べよ!」
全員から門前払いを喰らってしまった。
「ユキ、ご飯はまだよ」
「えーっ」
いや、ユキに関しては飯食いたがってただけか。
内緒話に加われなかった俺をよそに、皆はそのまま話を続行。必然的に、俺はする事も無くなる訳で。
「……王城見学でもしてこようかな」
俺は皆の話を邪魔しない様に部屋の扉をそっと開き、そのまま部屋を出た。
「さて、と」
とりあえずセバスチャンさんでも探すか。あの人に頼めば、王城を案内してくれるかもしれないし。
そう思い、誰か人がいないか辺りを見回すと。
「貴様はっ!?」
目の前に金髪小太りの豪奢な衣服に身を包んだ、いかにも貴族然とした姿をした小柄なおっさんが立っていた。無駄に伸ばした顎髭を、何度も引っ張っている。いや、初対面の相手を貴様呼ばわりって……あんた何様だよ?
いや、雰囲気的に貴族様なのかもしれないけど。
「くっ、覚えてろ!」
おっさんは俺と出会った途端、忌々し気に俺を睨んだかと思うと、そのまま踵を返して立ち去ってしまった。
いや、何を覚えていろと? ていうか。
「誰だよ」
俺はあんなおっさんと話した事が無ければ、会った事も無い。完全な初対面だ。恨まれる筋合いはない。
それなのにあの態度。もしかしたら、召喚勇者の事を気に食わない勢力の人間とかか?
それなら話は分かる。召喚勇者が気に食わないなら、その身内の事も気に食わなくても全然不思議じゃない。
貴族なら、俺が光の身内だって情報を知っててもおかしくないし。
「ちょっと兄さん、どこに行くのよ?」
「ん? ああ、悪い悪い。ちょっと王城見学でもと思ってな」
「もう、急に出て行くからびっくりしたじゃない。さ、部屋に戻って」
気付かれない様に部屋を抜け出したつもりだったが、どうやらバレていたらしい。
光は俺に、部屋の中へ戻る様に言うと、そのまま先に部屋の中へと戻って行ってしまった。
「……まあ、いいか」
さっきのおっさんの事は気になるが、今考えても仕方がない。
直接何かされた訳じゃないし、光に一言話しとけば、後は陛下がどうにかしてくれるだろう。
そう考え、俺は光に促されるまま、再び部屋の中へと戻った。
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