見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

三十六話

「ゴホンッ。それでは可愛らしいお嬢さん。あなたのお名前をお伺いしてもよろしいですか?」

 セバスチャンさんはあまり楽しい話題ではないと判断したのか、一度咳払いをすると、まだ自己紹介をしていないアミィに向かって尋ねた。

「あ、はい。アミィです。お兄ちゃんみたいに異世界人でもありませんし、フーリさん達みたいに貴族様でもないです。ごめんなさい」

 アミィは自己紹介しながら、唐突に謝り始めた。王城に着いてからずっと黙ってるなぁとは思ってたけど。なるほど、そういう事か。
 確かに、ここにいるメンバーで、アミィだけがただの一般人。俗に言う平民だ。

 光達は召喚勇者だし、フーリとマリーは末妹とはいえ貴族家の人間。俺は平民だけど、光達と同じ世界出身の異世界人。
 そんな中で、自分だけが本当にただの平民だという事実に、委縮してしまっているのだろう。

 そんな事気にしなくてもいいのに。と、思ったが、そういえばここは王城だったな。
 もしかして、平民は立ち入り禁止とか、そういうルールが存在してたりするのだろうか?

 そんな事はないと思いたいけど。
 俺はチラッとセバスチャンさんに視線を向けて様子を窺う。

「おや、あなたは平民なのですか?」

 セバスチャンさんの声が一オクターブ程下がった。もしかして、本当に立ち入り禁止なのか? もし本当にそうなら……。
 俺はいつでも動ける様にしながら、セバスチャンさんの様子を窺う。

 あ、動けると言っても、別にセバスチャンさんに危害を加えようとしている訳じゃないぞ?

「は、はい、そうです。あの、ごめんなさい。すぐに出て行きますからっ」

 アミィもそれに気が付いた様で、怯えた様な声を上げながら、城門の方へと向かおうとした所。

「いえ、それには及びませんよ。例え平民であっても関係ありません。アミィ様も大切なお客様ですので」

 セバスチャンさんはさっきとは打って変わって、聞く人を安心させる様な柔らかな声音で、優しく言葉を紡ぐ。

「え? ……あっ」

 そこで初めてアミィは、自分が追い出されようとはしていない事に気が付いた様だ。
 そりゃそうだよな。さっきのセバスチャンさんの声音だと、まるで「招かれざる客だ」とでも言いそうな雰囲気だったし。

「申し訳ありません。少々からかい過ぎてしまいましたね」
「本当ですよ。てっきり本当に追い出そうとしてるのかと思いましたよ」

 俺はセバスチャンさんに冗談めかして言った。
 いやぁ、セバスチャンさんの冗談で本当に良かった。

「ほっほっ。仮に冗談ではなかったとしたら、私はどうなっていたんでしょう? ねえ、海斗様?」

 セバスチャンさんが、意味ありげに俺の事を見ながら尋ねてくる。

「はて? 何の事でしょうか? 別に冗談じゃなかったとしても、セバスチャンさんに何かするつもりはありませんでしたよ?」
「でも、ここから出て行くつもりではあったでしょう?」
「「「え?」」」

 セバスチャンさんの言葉に、フーリ達が同時に声を上げた。ていうか気付いてたのか、セバスチャンさん。

 そう、セバスチャンさんの言う通り、もし仮に冗談じゃなかったとしたら、俺はアミィ連れて、一緒にここから出て行くつもりだった。

 だって、平民だからと言う理由だけでアミィを追い出す様な場所に、俺がいる理由はないし。
 結局、それは杞憂に終わった訳だけど。それにしても、まさかセバスチャンさんに気付かれてるとは思わなかったな。

「お兄ちゃん、それって」

 アミィが俺を見つめているが、気の所為か? その視線が妙に熱っぽく感じるんだけど……。いや、きっと気のせいだな。

「カイトさん、そうなんですか?」
「うん、まあな。セバスチャンさんの言う通り、もしアミィが追い出されてたら、俺も一緒に出て行くつもりだったよ」

 別段隠す様な事でもなかったので、正直に答えた。
 多分その状況になったら、二人も同じ事をするんじゃないか?

「そうですか。いえ、そうですよね。カイトさんならそうしますよね」
「そうだな。実にカイト君らしい」

 俺の返事を聞いて何かに納得したのか、二人は満足気に頷いている。

「なるほど、皆さんはそういう関係ですか。なかなか興味深いですね」
「何がですか?」

 その様子を見ていたセバスチャンさんが、よく分からない事を言い始めた。興味深いって、俺達の関係が?
 一緒にパーティを組む仲間と、妹みたいな存在ですけど?

 それがそんなに興味深いですか?

「ほっほっ。なるほど、そういう事ですか。いや、失敬。話が脱線してしまいましたね」

 セバスチャンさんは俺の問いかけには答えずに意味深な笑いを一度漏らすと、両手をパンッと叩き、場を仕切りなおす様な仕草をした。
 いやあの、何がそういう事なんですか?

「大変お待たせしました。それではこれより、皆様を来客室の方にご案内させて頂きます」

 そう言って、王城に向かって歩き始めるセバスチャンさん。どうやらこれ以上答えてくれる気はなさそうだ。
 仕方ない。また次の機会にでも聞いてみるか。

 俺達ははぐれない様に、セバスチャンさんの後に続いて歩き始める。

「あの、お兄ちゃん。さっきの事なんだけど」

 少し歩くと、後ろを歩いていたアミィから、突然声をかけられた。

「ん? さっき?」

 さっきって言うと、セバスチャンさんの冗談の件だろうか?

「お兄ちゃんは、もし私が本当に追い出されてたら、本当に一緒に出て行ってくれるつもりだったの?」
「ん? 当然だろ?」

 何を当たり前の話をしているんだ? アミィだけ追い出すのを良しとする訳ないじゃないか。

「もし本当に追い出されていたら、俺も一緒に出て行って、二度と王城には近づかなかっただろうな」
「あう……そうなんだ」

 俺の返事を聞くと、アミィはそれだけ言って黙って俯いてしまった。
 あ、いや。光がいるから、二度とってのは大袈裟だったかもしれない。でも、出て行くつもりだったのは本当だ。

「それに、もしフーリとマリーが追い出されていたとしても、同じように出て行っただろうな」

 二人は俺にとって、大切な仲間なんだ。それを蔑ろにするというのなら、俺は迷いなく出て行っただろう。

「そうなんですか?」

 と、俺達の話を聞いていたのか、前を歩いていたマリーが振り返って尋ねてきた。

「そりゃそうだろ。それに、もしも逆に俺が追い出されようとしてたら、マリーも同じ様に出て行くだろ?」

 フーリも同じだ。言葉にしなくても、そのぐらいの事は分かる。
 二人はよく俺に「お人好し」と言うが、二人も大概お人好しなんだよな。俺がやるって事は多分二人もやるだろう事は想像に難くない。

「分かりませんよ? もしかしたら、そのまま無視しちゃかもしれません」

 マリーは悪戯な笑みを浮かべ、茶化す様に答える。それだけで、ほぼ答えは決まった様なものだな。

 間違いなく、マリーは俺と同じ事をする。フーリは聞こえていないのか特に何も言って来ないが、考えるまでもないだろう。

「ま、そういう事にしとくさ」
「そういう事にされちゃいました」

 俺の返事に、軽口を叩くマリー。やけに機嫌がいいな。何か良い事でもあったのか?
 と、そんな事を考えていると。

「ん? どうした、アミィ?」
「……」

 アミィがいきなり俺の服の裾を掴み、そのまま黙って俯いている。
 なんか、前もこんな事があったな。あの時は確か、イレーヌさんが快復した時だったか?

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