見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~
二十一話
翌朝。
「んっん~っ……はぁ。よく寝た」
目覚めは快調。何だかんだ言って、一週間も野宿だったからな。自分が思っていた以上に、体は疲れていた様だ。
久しぶりのベッドのおかげで、昨日は物凄く熟睡できた。それこそ夢も見ないで、一瞬で目が覚めたのではないかと思うぐらいに。
「あれ? まだ外は暗いな」
ふと窓の外を見ると、まだ陽も昇らない内に目が覚めたのだと気が付いた。
随分目覚めが良かったけど、実は思った程長時間寝てはいなかったみたいだ。
俺の頭の中に「二度寝する」という選択肢がよぎるが。
「でもまあ、すっかり目は覚めたしなぁ」
正直今から二度寝しても、寝付く頃には陽が昇ってしまうだろう。そうなったら逆にキツい。
「……散歩でもするか」
特にやる事も無いし、近場を適当に散歩するのもいいだろう。
そう考え、ストレージから上着を取り出して羽織る。更に布切れを取り出してから水魔法で生成した水で濡らし、それで顔を拭く。
まだマリーみたいに、水玉に顔を付けて洗うなんて器用な真似は出来ないけど、こういうのは毎日コツコツ練習する事が重要だからな。
そして最後に、ストレージからコップ一杯分の水を取り出して、それを飲み干す。
「ふぅ。これでよし。さて、行くとするか」
簡単に身支度を整えた俺は、部屋を出てから宿の出口へと向かう。
まだ誰も起きていないのか、それとも俺達以外に誰も泊まっていないのか。部屋を出ると「シーン」と静まり返った廊下が俺を出迎えた。
早朝の気温の所為か、床板がひんやりとしていて気持ちいい。歩くと床板がキィキィと軋みを上げる。
そのまま廊下を通り抜け、目指すのは宿の出口。
一歩、また一歩と歩く度に、シーンと静まり返った廊下に軋み音が鳴り響く。
この程度の音で誰かが起きる訳ないと分かってはいるが、それでもこの音が気になって仕方がない。
(早く出口に着いてくれ)
極力音を出さない様にしながら突き当たりの階段を下り、何とか無事に出口へと到着。
扉を開けて、俺は外の世界へと一歩踏み出した。
「すぅー、はぁ。涼しいな」
外に出て、空気を肺一杯に吸い込み、ゆっくりとそれを吐き出す。それを数回繰り返してから、改めて王都の街並みに目をやる。
「うん、一般区の方は想像していた街並みと大差ないな」
異世界ではあるけど、文化や技術なんかが中世ヨーロッパを思い出すから、街並みもそうなのかと思ってはいた。
そして実際に目にして、俺の想像は間違っていなかったと分かった。
「それに比べると」
無意識に、昨日向かった孤児院の方へと視線を向けると、そこに広がるのは貧民街。貧民街は一般区に比べ、全体的にすすけているというか、空気が暗い。
気の所為だと言われたらそれまでだが、それでも目に見えて違う部分もある。
一般区がきちんと掃除されているのに対し、貧民街は目に見える範囲だけでもゴミがちらほら落ちていて、薄汚れている印象を受ける。
掃除をする時間が無いのか、それとも道具を揃える余裕が金銭的に無いのか。もしくは、そもそも掃除をしようという気が無いのか。
実際の所がどうであれ、掃除がされていないというのは確かだろう。
この状況を見たら、一般区の方へと足を向けるのが普通なんだろうな。つまり、今の俺は普通ではないという事になる。
「まあ、やっぱり気になるよな」
俺の足は、自然と孤児院の方へと向かっていた。
歩く事十数分。
廃墟を左に曲り、その先にある教会の前で足を止める。昨日訪れたばかりの孤児院だ。
俺はなるべく音を立てない様に、孤児院の入り口の柵の隙間からそっと中を覗く。
「誰もいないよな?」
流石にこんなに朝早くから起きている子はいないだろうと思い、視線を動かしてみると。
「んんっ、んんんんっ!」
あれ? デジャヴ?
視線を動かしたその先には、井戸の前で必死にロープを引っ張り上げようとしているフォレの姿があった。
「いやいやだから、フォレに水汲みはまだ早いって」
俺は小さく呟くと、孤児院の門を跳躍で飛び越え、フォレのすぐ傍に着地した。
「ひゃっ!」
突然空から人が降って来たからか、フォレは驚いてその場で尻餅をつき、引っ張っていたロープから手を離してしまった。
そうするとロープは重力に引っ張られ、自然と井戸の中へと吸い込まれていき……。
「っと、あっぶね」
完全に落ちる寸前に、俺は何とかロープを掴む事に成功した。
危なかった。もし全部落ちていたら少々面倒な事になっていた所だ。
「え、お、おじちゃん?」
「ぐっ」
フォレの言葉の刃が、俺の心に突き刺さる。悪気が無い分、その切れ味は格別だ。
とにかく深呼吸だ。すぅー、はぁ。よし。
「おはよう、フォレ」
「あ、うん。おはよう」
俺がおはようと言うと、フォレは呆気に取られながらも挨拶を返してきた。
うん、きちんと挨拶が出来て偉いな。
「また水汲みしてたのか?」
「う、うん。朝ご飯に使うから」
俺が尋ねると、フォレはおずおずと答える。昨日の一件があったからか、それともいきなり空から降って来たからか、イマイチ反応が鈍い。
……うん、多分後者だな。流石にそれぐらいは言われなくても分かる。
「どれ、ちょっと待ってろ」
俺は手に握ったままだったロープを引っ張り、井戸の中の桶を引き上げると、桶の中には水がなみなみと溜まっていた。
うん、これを子供が引き上げようとするのが、そもそも間違っている。
「フォレ、水桶貸してくれ」
「あ、うん。はい」
フォレが差し出してきた水桶を片手で受け取って足元に置き、その中に水を注いでいく。
全部注ぎ終わったら桶を井戸の傍らに置き、水がなみなみと注がれた水桶を持ち上げる。
「昨日と同じ場所まででいいか?」
「え、いいの?」
フォレが言う「いいの?」という言葉には「昨日あんな事があったのに」という言葉が手前に付いてそうだな。
……いや、考え過ぎか。多分単純に「手伝ってくれるの?」って意味だろう。こんな子供がそこまで考えているとは思えないし。
「ああ、当たり前だろ?」
だからこそ、俺は当たり前の様に答えた。
「ありがと、おじちゃん」
「……どういたしまして」
フォレに悪気は無いんだ。深く考えずに「おじちゃん」って言ってるだけだ。
そう自分に言い聞かせ、落ち込みそうになるのを防ぐと、そのまま後ろにフォレを伴い、教会へと向かう。
入口の扉に手をかけ、そのまま片手で押し開くと、目の前に広がる礼拝堂。
朝方の薄暗い雰囲気の礼拝堂は、昨日と違って妙に神聖な空気が漂っている気がする。つい祈りを捧げたくなる雰囲気とでもいうか。
そのまま少しの間礼拝堂に見入っていると。
「おじちゃん? どうしたの?」
「ん? あ、いや、何でもないぞ」
本来の目的を忘れていた事に気が付いた。
俺は礼拝堂の脇の扉に視線を移すと、フォレと一緒にそこに向かって歩きだした。
扉の目の前に辿り着き、そのまま開こうとして。
「あ、そういえば。俺はここで帰った方がいいか?」
昨日あんな事があったのに、その張本人が中に入るのは不味いかもしれない。
そもそもアンと遭遇したら、また一悶着起こしてしまうかもしれない。ていうか絶対起こる。
「ううん、大丈夫。まだ皆寝てるから」
俺がフォレに尋ねると、何とまだ皆寝ているという。
てことは、フォレは皆が起きるより早く起きて、一人で水汲みをしようとしてたのか?
「なあフォレ。次からは皆と一緒に水汲みした方がいいんじゃないか?」
もし間違って井戸にでも落ちたりしたら、誰にも気づいて貰えない可能性もある。出来れば一人で水汲みはしない方がいいだろう。
「でも、わたしも頑張ってお手伝いしないと。アンお姉ちゃん、大変そうだし」
フォレを気遣って出た言葉だったが、返って来たのはそんな言葉だった。
アンが大変そう? 確かにアンは年長者みたいだし、他の子供達の面倒を見ながら色々やってるのかもしれないけど、だからと言って、何で一人で水汲みを?
俺が頭を捻っていると、フォレが更に言葉を続ける。
「おじいちゃんが倒れちゃったから、わたしも頑張らないと」
「……え? おじいちゃん? 倒れた?」
予想外のフォレの言葉に、俺は無意識に聞き返していた。
「んっん~っ……はぁ。よく寝た」
目覚めは快調。何だかんだ言って、一週間も野宿だったからな。自分が思っていた以上に、体は疲れていた様だ。
久しぶりのベッドのおかげで、昨日は物凄く熟睡できた。それこそ夢も見ないで、一瞬で目が覚めたのではないかと思うぐらいに。
「あれ? まだ外は暗いな」
ふと窓の外を見ると、まだ陽も昇らない内に目が覚めたのだと気が付いた。
随分目覚めが良かったけど、実は思った程長時間寝てはいなかったみたいだ。
俺の頭の中に「二度寝する」という選択肢がよぎるが。
「でもまあ、すっかり目は覚めたしなぁ」
正直今から二度寝しても、寝付く頃には陽が昇ってしまうだろう。そうなったら逆にキツい。
「……散歩でもするか」
特にやる事も無いし、近場を適当に散歩するのもいいだろう。
そう考え、ストレージから上着を取り出して羽織る。更に布切れを取り出してから水魔法で生成した水で濡らし、それで顔を拭く。
まだマリーみたいに、水玉に顔を付けて洗うなんて器用な真似は出来ないけど、こういうのは毎日コツコツ練習する事が重要だからな。
そして最後に、ストレージからコップ一杯分の水を取り出して、それを飲み干す。
「ふぅ。これでよし。さて、行くとするか」
簡単に身支度を整えた俺は、部屋を出てから宿の出口へと向かう。
まだ誰も起きていないのか、それとも俺達以外に誰も泊まっていないのか。部屋を出ると「シーン」と静まり返った廊下が俺を出迎えた。
早朝の気温の所為か、床板がひんやりとしていて気持ちいい。歩くと床板がキィキィと軋みを上げる。
そのまま廊下を通り抜け、目指すのは宿の出口。
一歩、また一歩と歩く度に、シーンと静まり返った廊下に軋み音が鳴り響く。
この程度の音で誰かが起きる訳ないと分かってはいるが、それでもこの音が気になって仕方がない。
(早く出口に着いてくれ)
極力音を出さない様にしながら突き当たりの階段を下り、何とか無事に出口へと到着。
扉を開けて、俺は外の世界へと一歩踏み出した。
「すぅー、はぁ。涼しいな」
外に出て、空気を肺一杯に吸い込み、ゆっくりとそれを吐き出す。それを数回繰り返してから、改めて王都の街並みに目をやる。
「うん、一般区の方は想像していた街並みと大差ないな」
異世界ではあるけど、文化や技術なんかが中世ヨーロッパを思い出すから、街並みもそうなのかと思ってはいた。
そして実際に目にして、俺の想像は間違っていなかったと分かった。
「それに比べると」
無意識に、昨日向かった孤児院の方へと視線を向けると、そこに広がるのは貧民街。貧民街は一般区に比べ、全体的にすすけているというか、空気が暗い。
気の所為だと言われたらそれまでだが、それでも目に見えて違う部分もある。
一般区がきちんと掃除されているのに対し、貧民街は目に見える範囲だけでもゴミがちらほら落ちていて、薄汚れている印象を受ける。
掃除をする時間が無いのか、それとも道具を揃える余裕が金銭的に無いのか。もしくは、そもそも掃除をしようという気が無いのか。
実際の所がどうであれ、掃除がされていないというのは確かだろう。
この状況を見たら、一般区の方へと足を向けるのが普通なんだろうな。つまり、今の俺は普通ではないという事になる。
「まあ、やっぱり気になるよな」
俺の足は、自然と孤児院の方へと向かっていた。
歩く事十数分。
廃墟を左に曲り、その先にある教会の前で足を止める。昨日訪れたばかりの孤児院だ。
俺はなるべく音を立てない様に、孤児院の入り口の柵の隙間からそっと中を覗く。
「誰もいないよな?」
流石にこんなに朝早くから起きている子はいないだろうと思い、視線を動かしてみると。
「んんっ、んんんんっ!」
あれ? デジャヴ?
視線を動かしたその先には、井戸の前で必死にロープを引っ張り上げようとしているフォレの姿があった。
「いやいやだから、フォレに水汲みはまだ早いって」
俺は小さく呟くと、孤児院の門を跳躍で飛び越え、フォレのすぐ傍に着地した。
「ひゃっ!」
突然空から人が降って来たからか、フォレは驚いてその場で尻餅をつき、引っ張っていたロープから手を離してしまった。
そうするとロープは重力に引っ張られ、自然と井戸の中へと吸い込まれていき……。
「っと、あっぶね」
完全に落ちる寸前に、俺は何とかロープを掴む事に成功した。
危なかった。もし全部落ちていたら少々面倒な事になっていた所だ。
「え、お、おじちゃん?」
「ぐっ」
フォレの言葉の刃が、俺の心に突き刺さる。悪気が無い分、その切れ味は格別だ。
とにかく深呼吸だ。すぅー、はぁ。よし。
「おはよう、フォレ」
「あ、うん。おはよう」
俺がおはようと言うと、フォレは呆気に取られながらも挨拶を返してきた。
うん、きちんと挨拶が出来て偉いな。
「また水汲みしてたのか?」
「う、うん。朝ご飯に使うから」
俺が尋ねると、フォレはおずおずと答える。昨日の一件があったからか、それともいきなり空から降って来たからか、イマイチ反応が鈍い。
……うん、多分後者だな。流石にそれぐらいは言われなくても分かる。
「どれ、ちょっと待ってろ」
俺は手に握ったままだったロープを引っ張り、井戸の中の桶を引き上げると、桶の中には水がなみなみと溜まっていた。
うん、これを子供が引き上げようとするのが、そもそも間違っている。
「フォレ、水桶貸してくれ」
「あ、うん。はい」
フォレが差し出してきた水桶を片手で受け取って足元に置き、その中に水を注いでいく。
全部注ぎ終わったら桶を井戸の傍らに置き、水がなみなみと注がれた水桶を持ち上げる。
「昨日と同じ場所まででいいか?」
「え、いいの?」
フォレが言う「いいの?」という言葉には「昨日あんな事があったのに」という言葉が手前に付いてそうだな。
……いや、考え過ぎか。多分単純に「手伝ってくれるの?」って意味だろう。こんな子供がそこまで考えているとは思えないし。
「ああ、当たり前だろ?」
だからこそ、俺は当たり前の様に答えた。
「ありがと、おじちゃん」
「……どういたしまして」
フォレに悪気は無いんだ。深く考えずに「おじちゃん」って言ってるだけだ。
そう自分に言い聞かせ、落ち込みそうになるのを防ぐと、そのまま後ろにフォレを伴い、教会へと向かう。
入口の扉に手をかけ、そのまま片手で押し開くと、目の前に広がる礼拝堂。
朝方の薄暗い雰囲気の礼拝堂は、昨日と違って妙に神聖な空気が漂っている気がする。つい祈りを捧げたくなる雰囲気とでもいうか。
そのまま少しの間礼拝堂に見入っていると。
「おじちゃん? どうしたの?」
「ん? あ、いや、何でもないぞ」
本来の目的を忘れていた事に気が付いた。
俺は礼拝堂の脇の扉に視線を移すと、フォレと一緒にそこに向かって歩きだした。
扉の目の前に辿り着き、そのまま開こうとして。
「あ、そういえば。俺はここで帰った方がいいか?」
昨日あんな事があったのに、その張本人が中に入るのは不味いかもしれない。
そもそもアンと遭遇したら、また一悶着起こしてしまうかもしれない。ていうか絶対起こる。
「ううん、大丈夫。まだ皆寝てるから」
俺がフォレに尋ねると、何とまだ皆寝ているという。
てことは、フォレは皆が起きるより早く起きて、一人で水汲みをしようとしてたのか?
「なあフォレ。次からは皆と一緒に水汲みした方がいいんじゃないか?」
もし間違って井戸にでも落ちたりしたら、誰にも気づいて貰えない可能性もある。出来れば一人で水汲みはしない方がいいだろう。
「でも、わたしも頑張ってお手伝いしないと。アンお姉ちゃん、大変そうだし」
フォレを気遣って出た言葉だったが、返って来たのはそんな言葉だった。
アンが大変そう? 確かにアンは年長者みたいだし、他の子供達の面倒を見ながら色々やってるのかもしれないけど、だからと言って、何で一人で水汲みを?
俺が頭を捻っていると、フォレが更に言葉を続ける。
「おじいちゃんが倒れちゃったから、わたしも頑張らないと」
「……え? おじいちゃん? 倒れた?」
予想外のフォレの言葉に、俺は無意識に聞き返していた。
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