見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~
二十話
渡り鳥亭に帰る途中、露店で適当に晩飯を買ってきた俺達は、俺の部屋に集まって晩飯を済ませた。
すると話題は自然と孤児院の話に。
「途中までは良い感じだったんだけどな」
そう。フォレと出会い、水汲みを手伝う所までは良かったんだ。そこまでは、特に問題は……おじちゃん扱い以外はなかった。
「そうですね。問題はアンちゃんです」
そう、アンだ。
他の子達は驚いてはいたものの、あくまでそれだけ。アンみたいに、明確な拒絶をしてくる事は無かった。
「明らかに警戒されていたからな。年長者だから、と言えばそれまでだが、それ以外に何か理由があるのかもしれない」
「やっぱりそう思うか?」
「ああ。あくまで私個人は、だがな」
そう。確かにあの警戒心には驚いた。年長者として皆を守らないと、という理由でも全然おかしくはないのだが、どうもそれだけじゃない気がするんだよな。
「いっそ明日また行ってみるか?」
もしアンの拒絶が皆を守る為の物なら、何度も孤児院に足を運んで少しづつ信頼を得れば解決するかもしれない。
もしそうなら、行動は早い方がいいだろう。そう考えて、無意識にボソッと小声で呟いただけだったのだが。
「いや、それはやめた方がいいだろう」
「そうですよ。変に何回も訪ねて行って、余計に警戒心を強められたら元も子もありませんよ」
それが聞こえていたのか、二人が俺の言葉を否定してきた。
「それに、もう一度孤児院に行くのなら、一度ニーナさんと話をしてからの方が良いと思います」
「あー、それは確かに」
何も考えずに孤児院を訪ねるよりも、孤児院の事情に詳しそうなニーナさんに話を聞いてからの方が良いだろう。
なんなら一度一緒に来て貰って、アンの誤解を解いて貰えれば話が早い。
「まあ何にしても今日はもう遅いから、話をするならまた明日にでもしよう」
フーリの言葉に窓の外を見ると、既に陽は完全に落ち、夜のとばりが下りている。
確かに、こんな時間に話を聞きに行くのはあまりに非常識だろう。
……ん? 一般区の方はまだ明るいな。貧民街は明かり一つ無いのに。
「それに、明日からはパレードも始まるから、ここも忙しくなる可能性がある」
「あ、そういやそうだった。明日からパレードだったな。だからあんなに明るいのか」
孤児院に気を取られ過ぎて忘れていたが、元々はパレード見学と王都観光が目的で滞在してるんだった。
そっか。確かにそれなら、ニーナさんも忙しくて話どころではなくなるかもしれない。貧民街に泊まりに来る人間がいるかは分からないけど。
「パレードが終わるまでは、話を聞くのは難しいかもしれませんね。ここが忙しくないなら話は別ですけど」
「……まあ、その時はその時だ。最悪の場合でも、食べ物を置いてくるぐらいは出来るんだし、仕方がない」
押し付けになるかもしれないけど、それでも構わない。
自己満足? 偽善? それでもいいさ。
やらない善よりやる偽善って言葉をどこかで聞いた気がするけど、俺はそっちの方が好きだ。
「相変わらず君は」
「カイトさんらしいですけどね」
俺らしい、か。まあそれでもいいか。それで二人が納得してくれるのなら。
「それじゃあ今日はもう遅いし、私達もそろそろ部屋で休ませて貰う」
「そうだね。孤児院もいいですけど、明日からパレードが始まるんですから、そっちもしっかり楽しみましょうね、カイトさん」
「ああ、そうだな。元々そのつもりだったんだ。しっかり楽しむさ」
孤児院の事は気になるけど、そっちばかり気にしていては俺自身が王都を楽しめない。
それはそれ。これはこれ。しっかりメリハリ付けないと、自分の方が参るからな。
「それじゃあ、私達は部屋に戻るよ。おやすみ、カイト君」
「おやすみなさい、カイトさん」
「ああ、二人共おやすみ」
二人はそう一言だけ残し、自分達の部屋へと戻って行き、部屋に残ったのは俺一人。
「さて、俺ももう寝るかな。明日に備えないと」
折角のパレードなんだ。寝不足で参加なんて勿体ない。
孤児院は今日置いてきた分でしばらくは足りるとは思うけど。もし足りない様なら追加で置いてくれば大丈夫だろう。アンにはバレない様にしないと。
オークなら今までに相当狩ったし、肉の在庫もまだまだあるし、定期的に孤児院に届けてあげよう。
そんな事を考えながら、俺はゆっくりと眠りの世界へと落ちて行った。
時は遡り、一週間前。
「それじゃあお母さん、行って来るね!」
「ええ、気を付けてね。ヴォルフ、ロザリー。アミィの事、お願いね」
ペコライの街門。そのすぐ目の前に、満面の笑みで挨拶をする少女――アミィと、愛娘を送り出す女性――イレーヌの姿があった。
イレーヌはアミィを真ん中に挟む様に立っている二人の獣人冒険者、ヴォルフとロザリーに向かって、念を押す様に話しかけた。
「はい。任せて下さい、イレーヌさん。私とヴォルフが責任を持って、アミィちゃんを王都まで送り届けますから」
ロザリーは力強く頷いて答え、ヴォルフは無言で一度頷くと、視線をイレーヌの隣に立つ男――ギルド長へと移した。
「でも、本当に大丈夫なンすか? ギルド長が宿屋の仕事を手伝うなんて」
そう問いかけるヴォルフに、ギルド長は。
「心配しなくても、イレーヌの事は俺がしっかりサポートするさ。だから、安心して楽しんで来るんだぞ、アミィ」
「はい! ありがとうございます!」
自らの胸を叩き、自信満々に答えた。まるで、これから王都へと向けて旅立つ三人に心配をかけさせまいとしているかの様に。
その言葉に、アミィは心の底からギルド長に感謝した。
というのも、この状況を作ったのは、他ならぬギルド長なのだ。
今までイレーヌの状況を知っていたにも関わらず、何もしてやれなかった事に負い目を感じていたギルド長は、少しでも二人に何かしてやりたいと、日頃から考えていた。
そんな時だった。ギルド長が「カイトが商人を王都まで護衛するついでに、パレード見学をしてくる」という情報を得たのは。
この情報を得たギルド長は「これだ!」と思い、すぐに行動に移した。
イレーヌの状況を、カイトが魔導具を使って改善したという話は、ギルド長も知っていた。それをきっかけに、アミィがカイトに恋慕の情を抱いた事も。
だから、ギルド長は急遽ヴォルフとロザリーを呼び出し、事情を説明。二人にアミィとイレーヌを王都まで送り届け、帰りも護衛して欲しいと頼み込んだ。
その結果、二人はコレを快諾し、今に至る。
予想外だったのは、イレーヌにこの話をした時に、自分は宿の仕事があるからと言って、アミィの護衛だけをお願いされた事だ。
宿なら自分達が代わりに開けておくからと言ったのだが、それはイレーヌにやんわりと断られた。
イレーヌにも思う所があるのだろうと思い深くは追及せず、ギルド長はアミィを王都へと送り届ける準備を進める事にした。
そして今に至るという訳だ。
「いや、俺が心配してるのはギルド長で大丈夫なのかって事なンすけどね」
「何だと、ヴォルフ!」
ギルド長はヴォルフの発言に反応し、その頭に拳骨を落とす。
「いってぇ!」
「余計な心配はしなくていいから、お前はアミィの護衛に集中しろ! くれぐれも頼んだぞ」
「……わぁってまずって」
ギルド長の念を押す様な物言いに、ヴォルフも真面目に答える。
ギルド長から事情を聞いている身としては、ここでふざけた返事をしようとは思えなかったからだ。
「さあ、そろそろ出発するわよ、ヴォルフ」
ロザリーの言葉にヴォルフが振り返ると、そこには既に馬車の中へと乗り込んだアミィとロザリーの姿があった。
「ああ、今行く。それじゃあ、俺達はこれで。アミィは俺達が責任を持って、王都まで送り届けますンで、安心して下さい」
「ええ。信じてるわ、ヴォルフ。アミィをお願いね」
イレーヌの言葉にヴォルフはもう一度頷き、二人が待つ馬車へと乗り込んだ。
「出してくれ」
「はい。それじゃあ出発します」
ヴォルフに言われた御者が手綱を握り、三人を乗せた馬車が出発した。
「待っててね、お兄ちゃん!」
三人を乗せた馬車が目指すは王都。
これは、カイト達がペコライを出発した次の日の出来事だった。
すると話題は自然と孤児院の話に。
「途中までは良い感じだったんだけどな」
そう。フォレと出会い、水汲みを手伝う所までは良かったんだ。そこまでは、特に問題は……おじちゃん扱い以外はなかった。
「そうですね。問題はアンちゃんです」
そう、アンだ。
他の子達は驚いてはいたものの、あくまでそれだけ。アンみたいに、明確な拒絶をしてくる事は無かった。
「明らかに警戒されていたからな。年長者だから、と言えばそれまでだが、それ以外に何か理由があるのかもしれない」
「やっぱりそう思うか?」
「ああ。あくまで私個人は、だがな」
そう。確かにあの警戒心には驚いた。年長者として皆を守らないと、という理由でも全然おかしくはないのだが、どうもそれだけじゃない気がするんだよな。
「いっそ明日また行ってみるか?」
もしアンの拒絶が皆を守る為の物なら、何度も孤児院に足を運んで少しづつ信頼を得れば解決するかもしれない。
もしそうなら、行動は早い方がいいだろう。そう考えて、無意識にボソッと小声で呟いただけだったのだが。
「いや、それはやめた方がいいだろう」
「そうですよ。変に何回も訪ねて行って、余計に警戒心を強められたら元も子もありませんよ」
それが聞こえていたのか、二人が俺の言葉を否定してきた。
「それに、もう一度孤児院に行くのなら、一度ニーナさんと話をしてからの方が良いと思います」
「あー、それは確かに」
何も考えずに孤児院を訪ねるよりも、孤児院の事情に詳しそうなニーナさんに話を聞いてからの方が良いだろう。
なんなら一度一緒に来て貰って、アンの誤解を解いて貰えれば話が早い。
「まあ何にしても今日はもう遅いから、話をするならまた明日にでもしよう」
フーリの言葉に窓の外を見ると、既に陽は完全に落ち、夜のとばりが下りている。
確かに、こんな時間に話を聞きに行くのはあまりに非常識だろう。
……ん? 一般区の方はまだ明るいな。貧民街は明かり一つ無いのに。
「それに、明日からはパレードも始まるから、ここも忙しくなる可能性がある」
「あ、そういやそうだった。明日からパレードだったな。だからあんなに明るいのか」
孤児院に気を取られ過ぎて忘れていたが、元々はパレード見学と王都観光が目的で滞在してるんだった。
そっか。確かにそれなら、ニーナさんも忙しくて話どころではなくなるかもしれない。貧民街に泊まりに来る人間がいるかは分からないけど。
「パレードが終わるまでは、話を聞くのは難しいかもしれませんね。ここが忙しくないなら話は別ですけど」
「……まあ、その時はその時だ。最悪の場合でも、食べ物を置いてくるぐらいは出来るんだし、仕方がない」
押し付けになるかもしれないけど、それでも構わない。
自己満足? 偽善? それでもいいさ。
やらない善よりやる偽善って言葉をどこかで聞いた気がするけど、俺はそっちの方が好きだ。
「相変わらず君は」
「カイトさんらしいですけどね」
俺らしい、か。まあそれでもいいか。それで二人が納得してくれるのなら。
「それじゃあ今日はもう遅いし、私達もそろそろ部屋で休ませて貰う」
「そうだね。孤児院もいいですけど、明日からパレードが始まるんですから、そっちもしっかり楽しみましょうね、カイトさん」
「ああ、そうだな。元々そのつもりだったんだ。しっかり楽しむさ」
孤児院の事は気になるけど、そっちばかり気にしていては俺自身が王都を楽しめない。
それはそれ。これはこれ。しっかりメリハリ付けないと、自分の方が参るからな。
「それじゃあ、私達は部屋に戻るよ。おやすみ、カイト君」
「おやすみなさい、カイトさん」
「ああ、二人共おやすみ」
二人はそう一言だけ残し、自分達の部屋へと戻って行き、部屋に残ったのは俺一人。
「さて、俺ももう寝るかな。明日に備えないと」
折角のパレードなんだ。寝不足で参加なんて勿体ない。
孤児院は今日置いてきた分でしばらくは足りるとは思うけど。もし足りない様なら追加で置いてくれば大丈夫だろう。アンにはバレない様にしないと。
オークなら今までに相当狩ったし、肉の在庫もまだまだあるし、定期的に孤児院に届けてあげよう。
そんな事を考えながら、俺はゆっくりと眠りの世界へと落ちて行った。
時は遡り、一週間前。
「それじゃあお母さん、行って来るね!」
「ええ、気を付けてね。ヴォルフ、ロザリー。アミィの事、お願いね」
ペコライの街門。そのすぐ目の前に、満面の笑みで挨拶をする少女――アミィと、愛娘を送り出す女性――イレーヌの姿があった。
イレーヌはアミィを真ん中に挟む様に立っている二人の獣人冒険者、ヴォルフとロザリーに向かって、念を押す様に話しかけた。
「はい。任せて下さい、イレーヌさん。私とヴォルフが責任を持って、アミィちゃんを王都まで送り届けますから」
ロザリーは力強く頷いて答え、ヴォルフは無言で一度頷くと、視線をイレーヌの隣に立つ男――ギルド長へと移した。
「でも、本当に大丈夫なンすか? ギルド長が宿屋の仕事を手伝うなんて」
そう問いかけるヴォルフに、ギルド長は。
「心配しなくても、イレーヌの事は俺がしっかりサポートするさ。だから、安心して楽しんで来るんだぞ、アミィ」
「はい! ありがとうございます!」
自らの胸を叩き、自信満々に答えた。まるで、これから王都へと向けて旅立つ三人に心配をかけさせまいとしているかの様に。
その言葉に、アミィは心の底からギルド長に感謝した。
というのも、この状況を作ったのは、他ならぬギルド長なのだ。
今までイレーヌの状況を知っていたにも関わらず、何もしてやれなかった事に負い目を感じていたギルド長は、少しでも二人に何かしてやりたいと、日頃から考えていた。
そんな時だった。ギルド長が「カイトが商人を王都まで護衛するついでに、パレード見学をしてくる」という情報を得たのは。
この情報を得たギルド長は「これだ!」と思い、すぐに行動に移した。
イレーヌの状況を、カイトが魔導具を使って改善したという話は、ギルド長も知っていた。それをきっかけに、アミィがカイトに恋慕の情を抱いた事も。
だから、ギルド長は急遽ヴォルフとロザリーを呼び出し、事情を説明。二人にアミィとイレーヌを王都まで送り届け、帰りも護衛して欲しいと頼み込んだ。
その結果、二人はコレを快諾し、今に至る。
予想外だったのは、イレーヌにこの話をした時に、自分は宿の仕事があるからと言って、アミィの護衛だけをお願いされた事だ。
宿なら自分達が代わりに開けておくからと言ったのだが、それはイレーヌにやんわりと断られた。
イレーヌにも思う所があるのだろうと思い深くは追及せず、ギルド長はアミィを王都へと送り届ける準備を進める事にした。
そして今に至るという訳だ。
「いや、俺が心配してるのはギルド長で大丈夫なのかって事なンすけどね」
「何だと、ヴォルフ!」
ギルド長はヴォルフの発言に反応し、その頭に拳骨を落とす。
「いってぇ!」
「余計な心配はしなくていいから、お前はアミィの護衛に集中しろ! くれぐれも頼んだぞ」
「……わぁってまずって」
ギルド長の念を押す様な物言いに、ヴォルフも真面目に答える。
ギルド長から事情を聞いている身としては、ここでふざけた返事をしようとは思えなかったからだ。
「さあ、そろそろ出発するわよ、ヴォルフ」
ロザリーの言葉にヴォルフが振り返ると、そこには既に馬車の中へと乗り込んだアミィとロザリーの姿があった。
「ああ、今行く。それじゃあ、俺達はこれで。アミィは俺達が責任を持って、王都まで送り届けますンで、安心して下さい」
「ええ。信じてるわ、ヴォルフ。アミィをお願いね」
イレーヌの言葉にヴォルフはもう一度頷き、二人が待つ馬車へと乗り込んだ。
「出してくれ」
「はい。それじゃあ出発します」
ヴォルフに言われた御者が手綱を握り、三人を乗せた馬車が出発した。
「待っててね、お兄ちゃん!」
三人を乗せた馬車が目指すは王都。
これは、カイト達がペコライを出発した次の日の出来事だった。
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