見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

十五話

 ボリュームが凄い!

 いきなり何の話かって? 露店の食べ物の話だ。
 まだパレード前日という事もあって、開いている露店そのものは少ないのだが、それでも充分満足出来るぐらい食べれる。

 値段はそこそこ。
 骨を持ち手に豪快に焼かれた、所謂マンガ肉だったり、一切れ一切れが握り拳大ぐらいあるんじゃないかと思う程の串焼き。

 何でこんなにボリュームがあるのか疑問に思っていたのだが、周りの客層を見てなんとなく理由を察した。
 露店を利用している客のメイン層が、俺達と同じ冒険者の様なのだ。

 多分パレード目的で王都に滞在している冒険者達が利用しているのだろう。そして、そんな冒険者達を満足させるには、量を増やすのが一番だ。
 だからこんなに量が多いのか。

「ま、俺としては腹いっぱいになれば文句はないけど」
「どうかしたんですか?」
「いや、別に」

 俺が独り言を漏らしていると、それを聞いていたマリーから尋ねられた。その腕の中には大きな紙袋が収まっており、マリーは時折その中から果物を取り出しては、それに齧りついている。

 さっき露店で見かけた果物をまとめ買いした内の一つだろう。

「カイトさんも食べますか?」
「ん? そうだな、貰うよ。ありがとう」

 マリーがその手に真っ赤なリンゴを持ち、俺に差し出してきたので、それを受け取って一口齧る。うん、甘酸っぱくて旨い。

 それにしても、この世界ってたまに地球と同じ物が、同じ名前で売ってたりするんだよな。単なる偶然か?
 それとも、もしかして昔の召喚勇者とやらが関係してたりとか?

「はい、姉さんも」
「ああ。ありがとう、マリー」

 俺と同じく、フーリにもそれを手渡すマリー。
 まあ、今は難しい事を考えるよりも、目の前の旨い物だな。
 そう考え、リンゴをもう一口齧る。うん、やっぱり旨い。

「マリー、それ収納しとこうか?」
「あ、はい、そうですね。お願いします」

 マリーが両手で抱えている紙袋はなかなかの大きさがあり、それを抱えたまま歩くのは大変だろう。

 俺が収納しようかと提案すると、流れる様に紙袋を差し出してくるマリー。それをストレージに収納してから、改めて王都の街並みを見回してみた。

 レンガ造りの建物が立ち並ぶ街道と、その街道を行き交う多種多様な種族は、ペコライでもよく見かけた風景だ。

 王都でも同じような光景が見られるという事は、この世界の建築物はレンガ造りが主流なんだろう。

 それに、多種多様な種族が共存しているこの環境。それはつまり、この国が「亜人差別」をしていない事の証でもある。

 実際に亜人差別なる物があるか分からないけど、地球でも同じ人間同士で差別が起こるんだから、あったとしてももおかしくない。

「そういう意味じゃ、ペコライの近くに転移したのは幸運だったな」

 おかげで気兼ねなく冒険者生活を満喫出来ている訳だし。
 まあそういう訳で、街並みや住人の様子は、規模以外はペコライとそこまで大差ない。
 大きな違いといえば、街の中心の方に見える大きな城ぐらいだろうか?

 遠目から見てもハッキリ城だと認識出来るそれは、ペコライには無かった物だ。
 もっと近くで見てみたい。そう思った。

「なあ、二人共。ちょっとあの城見に行かないか?」

 折角王都に来たんだ。滞在中に気になった場所は出来る限り見ておきたい。その内見ようと思っていても、いつ見られなくなるか分からないんだから。

 それに、あんなにデカい城、近くで見たくなるのは当然じゃないか! え、俺だけじゃないよね?

「城って言うと、あの王城の事ですか?」
「そうそう。折角だから近くで見たいと思ってな」

 マリーが言う王城とは、多分あの城の事で間違いないだろう。ここから見える城なんてアレ以外ないし。

「いいんじゃないか? カイト君は王都に来るのは初めてなんだし、王城に興味が湧くのも当然だ」
「だよな! あんなにデカい城、近くで見てみたくなるよな!」

 良かった! 俺だけじゃなかった!
 そうだよな。あんなに目立ってるのに、気にするなって方が無理だ。王都のどこにいても、視界に入りそうなぐらいだし。

「そうですね。パレードが始まったら人も増えるでしょうし、今の内に見に行きましょうか」
「おお! ありがとうマリー」

 異世界の王城。それを生で、しかも間近で見るチャンスなんてそうそうないからな。ていうか、普通はないか。

「それじゃあ早速行こう」
「ああ、時間は有効に使わないと」

 まだ昼過ぎとはいえ、のんびりしているとすぐに日が暮れる。この世界には車なんて便利な物はないから、移動は基本徒歩だし、これだけ広い王都だと、移動にも時間がかかる。

 俺達は昼飯を食べ歩きしながら、目的地を王城に決めて歩き出した。



「ほぇ~、近くで見ると一段とでっけぇなぁ」

 街道を王城に向かって真っ直ぐと進む事三十分。途中寄り道をしなかったからか、思ったよりも早く辿り着いた俺達は、揃って王城を眺める。
 そのあまりのデカさに、思わず感心してしまった。

 東京ドームよりも広いんじゃないか?
 そして、王城をぐるっと囲う様に流れている川。いや、これは堀に水を流した水路か?
 まあどっちでもいいけど。

 更に、王城を守る様にぐるっと建てられた城壁と王城の対比もあって、典型的な西洋の城を彷彿とさせる。

 城壁の外側からでも、ハッキリと見える王城。造りは西洋風。四つの物見塔のような物が四方に建っており、その中心に城が建っている。

 真っ白な城壁は陽の光を反射してキラキラと輝いており、こんなに大きな城なのに手入れが行き届いているのが分かる。

 一階部分は流石に城壁で隠れて見えないが、二階正面はバルコニーとなっており、そこに数人の人影が見える。
 綺麗なドレスを身に纏っている事から、王族、もしくは貴族の令嬢といった所だろうか?

 対して、その女性と向かい合っている相手は、随分とラフな格好をしているように見える。

 王城に努める使用人とかだろうか? だが、いくら使用人とはいえ、流石にもう少し小綺麗な格好をさせていそうなものだが。
 まあとにかく、ここから見える範囲で分かるのはそのぐらいだ。

 中に入って、もっと詳しく見学出来ればとも思うが、それは流石に無理そうだ。
 何故なら、王城へと入るには水路を越える必要があり、その為の跳ね橋も設置されているのだが、両サイドには騎士甲冑に身を包んだ警備兵らしき存在が立っていて、許可なく王城へは入れてくれそうもない。

 らしきというか、間違いなく警備兵なんだろうけど。

「どうだ、カイト君。満足したか?」
「え? ああ、うん。間近で見ると本当に凄いな、この城」

 王城を眺めながらそんな事を考えていると、フーリに声をかけられた。

「実際に中に入って見てみたい所だけど、それは流石に無理だよな?」

 念の為、ダメ元でフーリに確認してみるが、返ってきた答えは。

「流石にそれは無理だな。諦めてくれ」

 当然の如く無理だという回答。当然だよな。普通は何か特別な事情でもない限り、こんな一介の冒険者を王城に招き入れたりはしないだろう。
 警備的な意味においても正解だ。

「でも、こうやって外から眺めている分には警備兵の人達も何も言ってこないですから、それで我慢して下さいね、カイトさん」

 そしてマリーからの諭す様な言葉。いや、確かに興味はあるけど、別に無理して中に入りたい訳でもないからね?

 チラッと警備兵さんの方を見ると、軽く会釈してきたので、俺もそれに会釈を返しておいた。

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