見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

十二話

「はい、次の人」
「やっとか。結構待ったな」

 列に並び、順番を待つ事数十分。ようやく俺達の順番が回ってきた。

「身分証をお願いします」

 軽鎧に身を包んだ門番に言われ、ストレージからギルドカードを取り出して門番に手渡した時だった。

「よう、兄ちゃん達。ちょっと俺達に順番譲っちゃくれないかい?」

 後ろから聞こえてくる、下品な声。こう、いかにも三下ですと言わんばかりの声だ。こういうのには下手に関わらないのが一番なんだけどな。

 隣を見ると、マリーも似たような事を考えたのか「関わりたくない」という感情が顔にありありと表れている。
 フーリやアルクを見てみると、二人は素知らぬ顔をしている。

 これは多分、二人共無視しようとしてるんだろうな。フーリはともかく、アルクがこういう行動をとるのは意外だ。

「おい、何無視してんだ!」

 っと、忘れてた。俺がどうしようかと皆の様子を見ていたら、後ろの三下さんが痺れを切らしたのか、どかどかと近づいてくる気配を感じた。

「おい貴様、何を騒いでいる!」

 流石に無視は出来ないかと諦めかけた時、門の方から衛兵らしき人が近づいて来るのが見えた。
 どうやらこの騒ぎを聞きつけて来ようだ。

「げっ、衛兵か」

 後ろの三下くんの嫌そうな声が耳に届く。どうやら自分が騒ぎの原因だという自覚はあるようだ。

 いったいどんな奴なんだろうかと後ろを振り返ってみると、そこには無精髭を生やした小太りのおっさんの姿があった。

 清潔感のない見た目。でっぷりとした腹。俺より少しだけ高い背。背中には大きな斧を装備しており、まさに力任せの噛ませ犬といった感じだ。

「ちっ!」

 と、そんな失礼な事を考えていると、その三下くんが突然回れ右して走り出した。

「また貴様か! いい加減にしろよ! 毎度騒ぎを起こさないと気が済まないのか!」

 それを追いかけて行く衛兵さん。ていうか、今「また」って言ったか?

「ああ、気にしないでくれ。最近毎日ああなんだ」

 顔に出ていたのだろうか? 俺の冒険者カードを受け取った門番が、俺に説明してくれようとする。

「はあ、毎日?」

 毎日って、今みたいなのが毎日起こってるって事か? 一体何でまた。

「実はアイツ、二週間程前に冒険者資格を剝奪されていてな。ああやって冒険者カードを出した奴の前に割り込んで、そのまま盗もうとしやがるんだ」
「え、盗む? つまり、俺は今冒険者カードを盗まれそうになってたって事ですか?」
「まあ、一応そうなるな」

 なんてこった。まさか王都に来ていきなり冒険者カードを盗まれそうになるなんて。未然に防げたから良かったけど。

「だが、あいつもバカだよな。いくら冒険者カードを盗んでも、絶対にバレるってのに。他の街に行こうにも、アイツの腕じゃあな」
「え? そうなんですか?」

 あの三下くんの腕はともかくとして、冒険者カードを盗んでもバレるっていうのはどういう事だろうか?

「そういえば、カイトさんはペコライ以外の冒険者ギルドには行った事なかったんでしたね」
「ん? ああ、うん。そうだな」

 確かに俺は今までペコライ外の冒険者ギルドには行った事ないけど、それが何か関係あるのか?

「実は、冒険者登録をしたギルド以外で冒険者活動をする場合、一度その街の冒険者ギルドで活動登録をしないといけないんです。その際、冒険者カードの人物と実際の人物が違う場合、看破の魔導具が反応するんですよ」
「看破の魔導具?」

 それってアレか? 名前的に、嘘を吐いていると反応するとか? それとも大穴で寒波を呼ぶ魔導具とか……うん、状況的に前者だろう。流石にそのぐらい分かる。

「その魔導具に冒険者カードをかざすと、問題が無ければ緑に、嘘の申告をしていると赤くなるんです。なので、別の冒険者に成りすますとかは出来なくなってるんです」

 なるほど。それなら確かに他人の冒険者カードでのなりすましなんかは無理だろうな。仮に申請しなくても、依頼を受ける時にバレるって所か。

「そちらのお嬢さんの言う通り。しかもアイツは冒険者ギルドでも目立ってたからな。この街で成りすまそうとしても、一分と経たずバレるでしょう。そんな事分かり切ってるのに、アイツもバカな男だ」

 門番のおじさんは、さっきの男が走り去っていった方角を眺め、吐き捨てる様に言った。その言い方から、あの男が相当問題を起こしているのだろうという事が分かる。
 まあ、そういう馬鹿はどこの世界にもいるもんだよな。

 ああいうタイプはそもそも人の話を聞かない上に、思い込みが激しいって相場が決まってる。

 話すらした事ないから何とも言えないけど、冒険者資格を剥奪される時点でお察しだろう。

「おっと、話が脱線したな。冒険者カードは全員問題ないから、次で通行税を払ってくれ」

 門番のおじさんが全員分の冒険者カードを水晶の様な物にかざすと、水晶は緑色の輝きを放ち、次へと進む許可が下りる。ていうか、もしかしなくてもアレが例の看破の魔導具か?

「カイト君、何をしているんだ?」

 俺が門番のおじさんが手に持っている水晶に気を取られていると、フーリから声がかかる。あの水晶は気になるけど、今は王都に入るのが先だな。
 アレは後で二人に聞いてみよう。

「はい、四名様ですね。通行税は銀貨四枚になります」
「あ、ここは私が払いますね。はい、銀貨四枚です」
「あっ」

 俺が止める間もなくアルクが銀貨を取り出して通行税を支払ってしまった。あまりにも自然で反応が遅れてしまったじゃないか。

「良かったのか、アルク?」
「ええ、このぐらい依頼者として支払うのは当然の事ですから」

 アルクは当然の様に言うが、そういう物だろうか? ……いや、そういうものかもしれない。
 雇い主としての義務と考えればまあ。

「はい、確かに。ようこそ王都へ」

 門番さんの言葉と共に、門を通される俺達。そのまま真っ直ぐ進み、いざ王都へ。

 門を抜けると、そこには大きな街並みが広がっていた。初めてペコライを見た時も驚いたものだが、王都は更にすごかった。

 パレードがあるっていうのもあるだろうけど、まず活気が段違いだ。見渡す限りの人、人、人。

 大通りの広さはペコライの倍以上。
 人族を中心に多種多様の種族が行き交っている。
 パレードの関係なのかそこかしこに露店が出ていて、それがより一層街を活気づけている。

「それじゃあ、これ。今回の報酬です」

 と、初めて訪れる王都に軽く驚いていると、アルクから報酬だと言って金貨を五枚手渡された。
 あ、そうか。王都に着いたんだから、これでアルクとはお別れなのか。

「それじゃあ皆さん、ここまでお世話になりました。またどこかでお会いしたら、その時はよろしくお願いしますね」
「ああ、またな」
「またお会いしましょうね、アルクさん」

 アルクの言葉に、二人が短く返事を返し、そのまま視線は俺に。

「またな、アルク。俺達はしばらく王都に滞在する予定だから、もしかしたらまた会うかもな」

 少なくともパレードが終わるまでは王都にいる訳だから、その内また会うかもしれない。

「はい。それじゃあ私はこれで」

 そう言って踵を返し、この場を去っていくアルク。水分あっさりとした別れだが、別に永遠の別れという訳でもない。なんなら近い内にまた会う可能性もあるのだ。
 俺はアルクの姿が見えなくなるまで見送り、二人に視線を向ける。

「よし。それじゃあ、とりあえず宿探しからだな」
「そうだね。宿が空いてればいいけど」

 この一週間ずっと野宿だったし、いい加減部屋を借りてゆっくり眠りたいと思っていたから、フーリの提案には大賛成だ。

 だが、パレードの影響で、もしかしたら部屋が空いてない、という可能性もある。
 部屋が空いてればいいんだけどな。そう思いながら、俺は二人と王都での今後について話し合った。

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