見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~
十話
「それじゃあ、行きますね」
マリーが前方に向かって杖を構え、魔力を集中し始める。いったいどんな魔法で攪乱しようとしているのだろうか?
「酸の雨!」
「ふぁっ 」
マリーの言葉と共に、山賊達が隠れているであろう場所に、雨が降り始めた。そして俺は衝撃のあまり、変な声が出てしまった。
いや、雨を降らせたことにじゃないよ? だって、実際には雨が降ってる訳じゃなくて、魔法で作った水を上空から落としてるだけだし。いや、それも充分すごいけど。
俺が驚いたのは、そっちじゃなくて酸の方。
確かに酸魔法の魔導具は、俺がマリーに作ってあげた物だ。それは覚えてる。
ただ、今までそれを使う事は無かったし、てっきり使い難いのかと思っていた。
だが、今回マリーは山賊に向かって「酸の雨」とかいう物騒極まりない魔法を放った。
そんなの、絶対喰らいたくない。
どのぐらいの濃度の酸なのかは分からないが、ただの雨かと思ったら武具が溶け始めるとかシャレにならない。
いや、武具だけならマシな方か。もしこれが。
「ぎゃああああっ。な、何だコレ 何だコレェ 俺の武器が、髪がぁっ!」
「や、やめてくれ! ここまで生やすのに、どんだけ苦労したと……あ、あぁ」
「い、嫌だ。ハゲになんてなりたくない! あんなみっともない頭なんかごめんだ!」
「んだと、テメェ! ハゲの何が悪いってんだ!」
「うっせぇハゲ!」
「上等だテメェ! ぶっ殺してやるぁ!」
阿鼻叫喚の地獄絵図。聞こえてくる悲鳴は、悲惨極まりない。
体が溶ける、なんて悲鳴が聞こえて来なかったのは、不幸中の幸いという奴かもしれない。……幸い?
ま、まあ幸いかはともかくとして! 問題は、その不幸を作り出したのが、俺の傍でドヤ顔をしているマリーだという事だ。
「無慈悲な」
「なんて……なんて恐ろしい事を」
フーリは一言だけ。そしてアルクは同じ男として、この状況の恐ろしさに体を震わせていた。
うんうん、やっぱり恐ろしいよな。何がとは言わないが。
「さあアルクさん、今です。虚影を!」
マリーがアルクに向かって、虚影を使う様求める。その声にアルクは「これ以上やるのか?」という視線をマリーに向けていた。
うん、正直これ以上はオーバーキルな気がするけど、俺達の安全の為には仕方ない。
うん、仕方ないんだ。
「え、えっと、インビジブル」
アルクが短く一言だけ唱えると、俺達の体が薄い膜の様な物に覆われた。
ん? 今のってもしかして。
「皆さんに認識阻害の魔法をかけました。流石にアレに追い打ちをかけるのは忍びないというか」
アルクが言う「アレ」とは、最早隠れるのすら忘れ、武具と髪を溶かす悪夢の雨から、必死で逃げ惑う山賊達の事だというのは言うまでもない。
うわ、本当に髪と武具、というか、服だけが溶けてる。
髪が半端に溶けた半裸のおっさんが逃げ惑う姿は、見る方からしても悪夢そのものだろう。夢に出てきそう。
「さあ、少々予定とは違いましたが、今の内に通り抜けましょう」
アルクが馬車を用意し、俺達がそれに乗り込み、改めて出発する。
フーリ、いくら悲惨な光景だからって、無言でゴミを見る様な視線を向けるのはやめてあげて? 見えてなくても傷つくから。
心なしか、馬車の速度が昨日よりも早い気がするが、きっと気のせいだろう。うん、きっとそうだ。
決して酸の雨が怖いからという訳ではない……筈だ。
俺達が通る時は既に酸の雨も止んでいたのだが、山賊達はパニックに陥っていて、全く気付く気配はなかった。アレは当分気付かないだろうなぁ。なんて思っていたら、俺達が通り過ぎた後、マリーが再び酸の雨を降らせ始めた。いや、何やってんの
「ああいう人達にはいい薬です。時間さえあれば、捕まえて衛兵さんに付き出してる所です」
「ああ、そうだ。無慈悲だが、奴らがしてきた事を思えば、アレでも手緩いぐらいだ。無慈悲ではあるが」
なあ、フーリ。何で二回も無慈悲って言ったの?
本当に手緩いと思ってる? いや、確かに山賊相手にこの程度なら手緩いんだろうけど。
でも、服と髪だけ溶かす雨か。本当に器用な事するよな、マリーって。
「なあ、マリー」
「はい? 何ですか?」
俺は改めてマリーの魔力操作の実力の高さに驚くと共に、心からの思いを込めて。
「俺、ハゲにはなりたくないからな?」
マリーに伝えておいた。
今後機嫌が悪くなったマリーに、服と髪をやられない為だ。
「いや、カイトさんにあんな事しませんからね 」
まるで心外だと言わんばかりに声を張り上げてマリーは言うが、果たしてそうか?
「もし俺がオイ椎茸を一人で食べてしまったとしても?」
「………………し、心外、です」
長かったなぁ、溜め。
オイ椎茸という単語に言葉を詰まらせ、思い悩む事数十秒。いや、下手すると一分以上悩んでいたんじゃないだろうか?
悩みに悩んだ末に出した、というか絞り出した言葉は「心外です」だった。
うん、これだけ悩んだ末に出した言葉なら、信じても良いのかもしれない。油断は出来ないけど。
まあいくらキノコジャンキーのマリーでも、流石にそんな事はしないだろう。そう思う事にした。
山賊の悪夢から数時間後。
無事リーグ山脈を越えた俺達だったが、さっきの山賊達が追ってこないとも限らないという事から、しばらくの間馬車を走らせ、無事リーグ山脈から離れる事が出来た。
山脈越えをしたら、後は王都に向かうだけ。魔物の襲撃なんかはあるだろうが、他は特に問題はない筈だとの事。
ワイバーンを見れなかったのは残念だが、危険な魔物に遭遇しなくて済んだと考えよう。
「さて。少し遅くなったが、この辺で野営の準備を始めようか」
「ああ、そうだな」
フーリの言う通り、山賊達と距離を取るために少し長めに移動した所為で、辺りは既に暗くなり始めている。
これ以上遅くなると、野営の準備もしにくくなるだろう。
ストレージから野営道具一式を取り出し、三人でそれをテキパキと準備していく。
この作業にも慣れたもので、初日に比べて随分スムーズに準備出来る様になった。
最初はテントの組み立て方すら分からなかったからなぁ。
キャンプなんて生まれてこの方した事なかったのだから仕方ないけど。ウチは父さんも母さんもキャンプに一切興味がなかったからな。
だからウチはキャンプという文化に触れる機会もなく、俺も興味がなかった。まあ一緒に行く相手もいなかったから別にいいんですけどね。
「ふぅ、こんな物だろう」
大方野営の準備を終え、次に晩飯の準備に取り掛かる。
といっても、ストレージから取り出すだけだけど。
「よし、これで準備完了だな」
テーブルの上には酒場で買っておいた晩飯が、湯気を立ち昇らせながら並んでいる。
こういう時、ストレージ内に時間経過がないのがありがたい。
いつでも出来立ての料理が、手間をかけずに食べられるのだから。
「いやあ、いつ見てもカイトさんのアイテムボックスは便利ですね。これ、数日前に買った料理ですよね? それがこんな出来立ての状態で保存できるなんて」
アルクは今日の晩飯を見ながら感心したように声をかけて来る。
「本当ですよね。コレがあるのと無いのとでは大違いです」
アルクの言葉に、マリーもうんうん頷きながら同意している。
うん、それに関しては俺も同感だ。自分で言うのもなんだが。
「さあ、折角カイト君が保存してくれていたんだ。続きは食べながらにでもして、早速頂こう」
「それもそうだな」
確かにフーリの言う通りだ。
二人も同じ事を思ったのか、各々が席に着き、全員が座った所で晩飯の時間だ。
「「「「いただきます」」」」
俺達三人に加え、アルクもそう口にしてから、晩飯を食べ始めた。
その後、テーブルに並んだ晩飯を全て食べ終え、追加で昼間のオイ椎茸(上)の串焼きを作って食べた俺達は、見張りのマリーを残し、そのままテントで眠りについた。
あと少しで王都か。一体どんな所なんだろう? それに、パレードという名のお祭りも気になる。
アミィには沢山お土産を買って行ってやらないとな。
そうやって、遠足前の子供みたいにしばらくワクワクで眠りにつけなかったが、時間が経つと共に、俺は自然と眠りについていた。
マリーが前方に向かって杖を構え、魔力を集中し始める。いったいどんな魔法で攪乱しようとしているのだろうか?
「酸の雨!」
「ふぁっ 」
マリーの言葉と共に、山賊達が隠れているであろう場所に、雨が降り始めた。そして俺は衝撃のあまり、変な声が出てしまった。
いや、雨を降らせたことにじゃないよ? だって、実際には雨が降ってる訳じゃなくて、魔法で作った水を上空から落としてるだけだし。いや、それも充分すごいけど。
俺が驚いたのは、そっちじゃなくて酸の方。
確かに酸魔法の魔導具は、俺がマリーに作ってあげた物だ。それは覚えてる。
ただ、今までそれを使う事は無かったし、てっきり使い難いのかと思っていた。
だが、今回マリーは山賊に向かって「酸の雨」とかいう物騒極まりない魔法を放った。
そんなの、絶対喰らいたくない。
どのぐらいの濃度の酸なのかは分からないが、ただの雨かと思ったら武具が溶け始めるとかシャレにならない。
いや、武具だけならマシな方か。もしこれが。
「ぎゃああああっ。な、何だコレ 何だコレェ 俺の武器が、髪がぁっ!」
「や、やめてくれ! ここまで生やすのに、どんだけ苦労したと……あ、あぁ」
「い、嫌だ。ハゲになんてなりたくない! あんなみっともない頭なんかごめんだ!」
「んだと、テメェ! ハゲの何が悪いってんだ!」
「うっせぇハゲ!」
「上等だテメェ! ぶっ殺してやるぁ!」
阿鼻叫喚の地獄絵図。聞こえてくる悲鳴は、悲惨極まりない。
体が溶ける、なんて悲鳴が聞こえて来なかったのは、不幸中の幸いという奴かもしれない。……幸い?
ま、まあ幸いかはともかくとして! 問題は、その不幸を作り出したのが、俺の傍でドヤ顔をしているマリーだという事だ。
「無慈悲な」
「なんて……なんて恐ろしい事を」
フーリは一言だけ。そしてアルクは同じ男として、この状況の恐ろしさに体を震わせていた。
うんうん、やっぱり恐ろしいよな。何がとは言わないが。
「さあアルクさん、今です。虚影を!」
マリーがアルクに向かって、虚影を使う様求める。その声にアルクは「これ以上やるのか?」という視線をマリーに向けていた。
うん、正直これ以上はオーバーキルな気がするけど、俺達の安全の為には仕方ない。
うん、仕方ないんだ。
「え、えっと、インビジブル」
アルクが短く一言だけ唱えると、俺達の体が薄い膜の様な物に覆われた。
ん? 今のってもしかして。
「皆さんに認識阻害の魔法をかけました。流石にアレに追い打ちをかけるのは忍びないというか」
アルクが言う「アレ」とは、最早隠れるのすら忘れ、武具と髪を溶かす悪夢の雨から、必死で逃げ惑う山賊達の事だというのは言うまでもない。
うわ、本当に髪と武具、というか、服だけが溶けてる。
髪が半端に溶けた半裸のおっさんが逃げ惑う姿は、見る方からしても悪夢そのものだろう。夢に出てきそう。
「さあ、少々予定とは違いましたが、今の内に通り抜けましょう」
アルクが馬車を用意し、俺達がそれに乗り込み、改めて出発する。
フーリ、いくら悲惨な光景だからって、無言でゴミを見る様な視線を向けるのはやめてあげて? 見えてなくても傷つくから。
心なしか、馬車の速度が昨日よりも早い気がするが、きっと気のせいだろう。うん、きっとそうだ。
決して酸の雨が怖いからという訳ではない……筈だ。
俺達が通る時は既に酸の雨も止んでいたのだが、山賊達はパニックに陥っていて、全く気付く気配はなかった。アレは当分気付かないだろうなぁ。なんて思っていたら、俺達が通り過ぎた後、マリーが再び酸の雨を降らせ始めた。いや、何やってんの
「ああいう人達にはいい薬です。時間さえあれば、捕まえて衛兵さんに付き出してる所です」
「ああ、そうだ。無慈悲だが、奴らがしてきた事を思えば、アレでも手緩いぐらいだ。無慈悲ではあるが」
なあ、フーリ。何で二回も無慈悲って言ったの?
本当に手緩いと思ってる? いや、確かに山賊相手にこの程度なら手緩いんだろうけど。
でも、服と髪だけ溶かす雨か。本当に器用な事するよな、マリーって。
「なあ、マリー」
「はい? 何ですか?」
俺は改めてマリーの魔力操作の実力の高さに驚くと共に、心からの思いを込めて。
「俺、ハゲにはなりたくないからな?」
マリーに伝えておいた。
今後機嫌が悪くなったマリーに、服と髪をやられない為だ。
「いや、カイトさんにあんな事しませんからね 」
まるで心外だと言わんばかりに声を張り上げてマリーは言うが、果たしてそうか?
「もし俺がオイ椎茸を一人で食べてしまったとしても?」
「………………し、心外、です」
長かったなぁ、溜め。
オイ椎茸という単語に言葉を詰まらせ、思い悩む事数十秒。いや、下手すると一分以上悩んでいたんじゃないだろうか?
悩みに悩んだ末に出した、というか絞り出した言葉は「心外です」だった。
うん、これだけ悩んだ末に出した言葉なら、信じても良いのかもしれない。油断は出来ないけど。
まあいくらキノコジャンキーのマリーでも、流石にそんな事はしないだろう。そう思う事にした。
山賊の悪夢から数時間後。
無事リーグ山脈を越えた俺達だったが、さっきの山賊達が追ってこないとも限らないという事から、しばらくの間馬車を走らせ、無事リーグ山脈から離れる事が出来た。
山脈越えをしたら、後は王都に向かうだけ。魔物の襲撃なんかはあるだろうが、他は特に問題はない筈だとの事。
ワイバーンを見れなかったのは残念だが、危険な魔物に遭遇しなくて済んだと考えよう。
「さて。少し遅くなったが、この辺で野営の準備を始めようか」
「ああ、そうだな」
フーリの言う通り、山賊達と距離を取るために少し長めに移動した所為で、辺りは既に暗くなり始めている。
これ以上遅くなると、野営の準備もしにくくなるだろう。
ストレージから野営道具一式を取り出し、三人でそれをテキパキと準備していく。
この作業にも慣れたもので、初日に比べて随分スムーズに準備出来る様になった。
最初はテントの組み立て方すら分からなかったからなぁ。
キャンプなんて生まれてこの方した事なかったのだから仕方ないけど。ウチは父さんも母さんもキャンプに一切興味がなかったからな。
だからウチはキャンプという文化に触れる機会もなく、俺も興味がなかった。まあ一緒に行く相手もいなかったから別にいいんですけどね。
「ふぅ、こんな物だろう」
大方野営の準備を終え、次に晩飯の準備に取り掛かる。
といっても、ストレージから取り出すだけだけど。
「よし、これで準備完了だな」
テーブルの上には酒場で買っておいた晩飯が、湯気を立ち昇らせながら並んでいる。
こういう時、ストレージ内に時間経過がないのがありがたい。
いつでも出来立ての料理が、手間をかけずに食べられるのだから。
「いやあ、いつ見てもカイトさんのアイテムボックスは便利ですね。これ、数日前に買った料理ですよね? それがこんな出来立ての状態で保存できるなんて」
アルクは今日の晩飯を見ながら感心したように声をかけて来る。
「本当ですよね。コレがあるのと無いのとでは大違いです」
アルクの言葉に、マリーもうんうん頷きながら同意している。
うん、それに関しては俺も同感だ。自分で言うのもなんだが。
「さあ、折角カイト君が保存してくれていたんだ。続きは食べながらにでもして、早速頂こう」
「それもそうだな」
確かにフーリの言う通りだ。
二人も同じ事を思ったのか、各々が席に着き、全員が座った所で晩飯の時間だ。
「「「「いただきます」」」」
俺達三人に加え、アルクもそう口にしてから、晩飯を食べ始めた。
その後、テーブルに並んだ晩飯を全て食べ終え、追加で昼間のオイ椎茸(上)の串焼きを作って食べた俺達は、見張りのマリーを残し、そのままテントで眠りについた。
あと少しで王都か。一体どんな所なんだろう? それに、パレードという名のお祭りも気になる。
アミィには沢山お土産を買って行ってやらないとな。
そうやって、遠足前の子供みたいにしばらくワクワクで眠りにつけなかったが、時間が経つと共に、俺は自然と眠りについていた。
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