見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

九話

 昼飯はマリーの強い要望により、オイ椎茸(上)の串焼きを作って食べる事になったんだが、これが予想以上に旨かった。
 ジューシーさといい食べ応えといい。そして何よりも旨味が凄かった。

 そう感じたのは俺だけではなかったみたいで、フーリとアルクも驚きに目を見開いていた程だ。
 マリーは当然言わずもがな。聞くまでもないだろう。

「さて、そろそろ山脈越えを再開するか。日が暮れる前には越えてしまいたいからな」

 昼飯を食べ終え、しばしの休憩を挟んだ後、フーリの言葉と共に、俺達は山脈越えを再開した。

 道が下りになっている事から、既に折り返しは過ぎていると思うのだが、一度もリーグ山脈に登った事のない俺にはその辺の感覚がイマイチよく分からない。
 まあ日暮れ前には越えるってフーリは言ってるし、距離的にもそこまで長い訳ではないのだろう。

 そう考え、俺は定期的に気配探知を発動させながらフーリについて行った。



 数時間後。
 道の傾斜も徐々に緩やかになってきたし、そろそろ山脈越えも終わりだろうと思っていた時の事だった。

 突然気配探知に引っかかる複数の反応。魔物の気配とは違うこの感じ、もしかして人間か?

 場所は少し先の方だが、このまま進めば間違いなく鉢合わせになるだろう。ただの一般人とかだったら全然問題ないんだが、もし相手が俺達と敵対する様な存在なら厄介な展開になる。

「皆、ちょっといいか?」

 俺が全員に聞こえる声で話しかけると、皆の視線が俺に集まる。

「どうかしたのか、カイト君?」
「何かありましたか?」

 二人が俺に尋ねてきて、アルクは黙って俺の言葉を待っている。

「実はこの先の方で、気配探知に反応があってな。どうもそれが人間っぽいんだよ」

 たった今起こった出来事を、そのまま全員に伝えてみた。だって、こんな場所で複数の人間の気配なんて、どう考えてもおかしい。

 数はざっと十人ぐらい。それが道を挟んで両側に半分ずつ。まるで隠れる様に道の両側で息を潜めているのだ。
 控えめに言って不審者だろ。通報案件待ったなしだ。

「なに? それは間違いないのか?」

 俺の言葉が予想外だったのか、それとも別の理由からか、フーリが訝し気な表情で聞き返してきた。

「ああ、大体十人ぐらいかな。それが道を挟んで両側に、まるで隠れるみたいにしてるんだけど」

 そう言うと、皆の空気が変わった。ていうか目つきが変わった。
 まるで遭遇したくないものに遭遇してしまった様な。嫌な相手に対して向ける視線とでも言えばいいのだろうか。

 とにかく、嫌な物を見る様な目つきになっている。

「カイトさん、ちなみにそれ、ここからどのぐらい離れてるかとか分かりますか?」
「どのぐらい? んー、そうだな。大体一キロちょいって所かな?」

 俺達のペースなら十分もしない内に遭遇する筈だ。今から道を変えようにも、もうゴールはすぐそこ。あと少しで山脈越えは終わりなのだ。
 このまま遭遇するのを覚悟で進むかどうかなんだが、皆のこの反応は一体何なんだ?

「なあ、皆はこの先に何がいるのか分かってるのか?」

 さっきの反応から察するに、俺以外は皆心当たりがあるんだろうけど。

「多分ですけど、この山周辺を根城にしているという山賊だと思います」

 俺の問いかけに最初に答えたのはアルクだった。
 アルクが言うには、数ヶ月ほど前からこのリーグ山脈周辺に住み着いたゴロツキが、山脈越えをする商人なんかを狙って金品を奪う、所謂追い剥ぎをしているという。

「でも、本当に山賊なのか? もしかしたらただの一般人の可能性もあるんじゃ?」

 自分で言っておいてなんだが、こんなに怪しい行動をしているのがただの一般人なんて可能性、ほとんどゼロだろうけど。

「いや、それはないだろう。ただの一般人が、そんな待ち伏せみたいな事する筈がない」
「ですよねぇ」

 フーリもはっきりと断言しているし、隠れてるやつらもさっきから微動だにしない。これはもうクロで間違いないだろう。
 はた迷惑な話だ。

 それにしても、山賊か。アミィに聞いた話が脳裏を掠めるが、あれは何年も前の話だし、そもそもイレーヌさんに呪いをかけた盗賊は、イレーヌさん自身によって倒されたって聞いている。今回の山賊とは全くの無関係だろう。

「どうする、姉さん。このままじゃあ戦闘は避けられないよね?」
「ああ。だからと言って、今から引き返していたら予定には到底間に合わない。覚悟を決めるか」

 覚悟を決める。つまり、戦うって事だよな、山賊と。
 これまで魔物相手の戦闘はしてきたけど、対人戦は初めてだ。正直人と戦うのは気が引ける。けど。

「仕方がない、か」

 俺は二人と共に戦うべく、アルクの前に立った。
 出来れば人との戦闘は避けたかったけど、そんな事も言ってられない。覚悟を決めないと。

「あの、ちょっといいですか?」

 俺達が先に仕掛けようと武器を手に持つと、突然アルクから待ったがかかった。
 一体どうしたんだ?

「私のスキルを使えば、無駄な戦いを避けられるかもしれません」
「どういう事だ、アルク?」
「私のスキル「虚影」を使って、山賊達に幻覚を見せます。その隙に馬車で一気に駆け抜けましょう」

 虚影。敵に幻覚を見せるスキルか? もしそうなら、使い方次第で色んな事が出来そうなスキルだ。

 そしてアルクは、山賊に幻覚を見せている隙に一気に突破すると言う。確かに、それが上手くいけば無駄な戦闘は避けられそうだけど。

「ふむ、確かに悪くない作戦だ。だが、それでどのぐらい時間を稼げるんだ? あまりに短いと難しいぞ」
「そうですね。十人ぐらいに一斉に虚影をかけるとなると、一分が限界ですね。それ以上は魔力が持ちません」

 一分か。ある程度手前からスキルをかけて、通り抜けてから気付かれないぐらい離れる時間を考えれば、少々心許ない時間だ。だが、折角アルクが時間を稼いでくれると言うのだし、そこはこっちでどうにかするべき事か。
 二人はどう思っているのだろうか?

「一分か。もう少し稼げればいいのだが、流石に難しいか」

 フーリは俺と同じで、少々心許ないと感じている様だ。やっぱりそうなるよな。安全マージンを考えれば、最低でも二分は欲しい所なんだけど。

 そうなると、マリーも似た様な意見だろう。そう思っていたのだが、マリーの考えは俺達とは違っていた。

「なら、私が最初に魔法で攪乱しますから、その混乱に乗じて虚影をかけて下さい。そうすればもっと時間を稼げる筈です」

 マリーはアルクの虚影をサポートする方向で考えていた様だ。確かにそれなら、ただ幻覚を見せるだけよりも時間は稼げそうだけど、どう攪乱するのだろうか?

「確かにそれなら離脱するだけの時間は稼げそうだが、一体どうするつもりだ?」

 フーリもそれは感じた様で、マリーに尋ねている。

「それは見てのお楽しみって事で。とりあえず、これで決まりだね。アルクさん、よろしくお願いします」
「はい、マリーさん。こちらこそ」

 フーリに対して意味深な笑顔を向けて答えると、マリーとアルクがお互いに声をかけあい、自然とこの作戦で行く事が決定した。

 どんな方法で攪乱するのかは分からないが、いざという時は俺もサポート出来る様、準備しておけばいいか。
 フーリも俺と同じ事を考えたのか、その手にしっかりとミスリルの剣を握っていた。

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