見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

四章 一話

 ガタンゴトンッ ガタンゴトンッ ガタンゴトンッ

 目の前に広がるは、見渡す限りの草原地帯。風を切り、大地を走る荷馬車が一台。
 穏やかな景色を眺めながら、ゆっくりのんびりと走るその姿は

 ガタゴトッ ガタゴトッ ガタゴトッ

 ……ゆっくりのんびりと

 ガタゴトッガタゴトッガタゴトッ!

 ……ゆっくり

 ガタガタガタガタッ!

 ……

 ガータタタタタタタタッ!

「いや、早すぎだろ! もっとゆっくり走れないのかよ!」

 全然ゆっくりものんびりもしてなかった。なんなら猛スピードで走り抜けていた。

「えー? なんですってー!」

 予想外のスピードに、俺はついツッコミを入れるが、御者をしているアルクには聞こえなかったらしい。
 そりゃそうか。こんだけスピード出してたら聞こえるもんも聞こえないわな。

「何でもないから気にすんな!」

 無駄だと思ったが、一応答えると。

「? 分かりました!」

 俺の「何でもない」と言う言葉に、首を傾げながらも返事を返すアルクの姿が目に入った。
 いや、それは聞こえるのかよ。

「それにしても、まさかアルクがこんなに飛ばすなんて、全然思いもしなかったわ」
「そうですね。荷物が乗ってない分、飛ばしますとは言ってましたけど、まさかここまでとは」

 俺の言葉に、マリーも似たような事を言っている。
 だってこれ、明らかに飛ばし過ぎだろ。

 車で言うなら六十キロぐらい出てないかこれ? こんなスピード出して、いくら荷物が乗ってないからと言っても、馬が持たないんじゃないか?

「そうか? 私はこの馬車の馬を見た時から、このぐらいは出るだろうと思ってたんだ」が」
「そうなのか?」

 てっきりフーリも同意見かと思ってたら、俺の予想に反して想定内だという。
 馬を見た時からって、そんな簡単に分かるもんなのか?

「あの馬は普通の荷馬車用の馬に比べて一回り程大きく、足も長かったからな。その上足腰の筋肉もしっかりしていたし、蹄も普通より厚くしてあった。多少の重量物程度なら難なく引けるだけのポテンシャルは持っていたからな」
「へえ、色々と見てるんだな」

 俺はそんな所までは見てなかったな。
 あの馬を見ても「ちょっと大きいかな」程度に感じていたぐらいで、そんな事考えもしなかった。

「まあな。で、その馬が荷物の乗っていない馬車を引くんだ。当然その分の力は走りに割く事が出来る。これは当然の結果さ」

 ピシャリと言い切るフーリ。流石馬が好きだと言うだけあって、しっかりと見ている。
 俺とは着眼点が違うよな。

「そんな所まで見てたんだ。流石は姉さんとしか言いようがないよ」
「そうか? これぐらい普通だろ?」

 事も無げにいうフーリだが、普通はそんな所までは見ないと思うけど。
 でも、そっか。もしかしたらこの馬は、日本で言う競走馬に近いのかもしれない。競馬した事ないから知らないけど。

 何なら馬が擬人化した某競馬アプリすらやった事ないぐらいだ。
 ギャンブルは嫌いだったんだよ。ビギナーズラックって奴も無かったし。
 まあおかげで金銭トラブルとは無縁だったし、趣味に金かけられたんだけど。

「皆さん、そろそろ一度休憩にしたいんですけど!」

 と、二人と他愛ない話をしていると、御者台の方からアルクかの声が聞こえてきた。
 休憩か。確かにそろそろいい時間だし、丁度いい頃合いか。

「ああ、分かった! 適当な所で止めてくれ!」
「了解です! 速度落としますよ!」

 アルクがそう言うと、今まで猛スピードで走っていた荷馬車の速度が徐々に減速を始め、やがて歩く様な速度にまで落ち着いた。

 ていうか、実は俺の声聞こえてるんじゃないか? 速度出し過ぎの件だけ聞こえないとかおかしくね?
 アルクの方に視線を向けてみても、特に反応はない。そりゃそうだ。当然の様に人の考えを読んでくる二人と、アルクは違うのだから。

「丁度お昼の時間ですし、このまま昼食も一緒に済ませちゃいましょうか」
「んー、そうだな」

 確かにマリーの言う通り、そろそろ昼飯の時間だ。

 この世界、時計は存在しているが、持ち歩ける様な大きさの時計は存在していないらしい。なので、俺達の様な冒険者が時間を確認する時は、基本的に太陽の位置を見ている。

 この確認の仕方は最近覚えたやり方で、二人に聞いたらすぐに教えてくれた。
 まあ大雑把にしか確認出来ないけど。
 で、今は太陽の位置が丁度真上。昼飯時だ。

「もう下りても大丈夫ですよ」

 荷馬車が完全に停車すると、アルクが御者台から降りてきて俺達に声をかける。
 その言葉を聞き、俺達は順番に荷馬車から降りた。

 荷馬車が停車しているのは、平原地帯に敷かれた街道から少しだけ逸れた所にある、川のほとりの様だ。
 さらさらと流れる水は、川底がはっきり見えるぐらい澄んでいて、とても綺麗だ。

「さてと。それじゃあ準備するから、ちょっと待っててくれ」

 俺は荷馬車のすぐ傍で軽く体をほぐしている三人に声をかけ、昼飯の準備を始めた。
 ストレージからテーブルとイスを人数分取り出して適当に並べ、そこに今日の分の昼飯を四人分並べる。

「賢者の息吹で準備して貰った食事も、カイト君がいればこうやって腐らせずに保存出来る。まったく、カイト君には感謝だな。おかげで長旅の食事も、こうやってまともな物を食べる事が出来る」

 俺が昼飯の準備をしていると、体をほぐし終わったのか、フーリがすぐ傍まで近寄ってきながら声をかけてきた。

「どういたしまして。そう言って貰えると、俺も嬉しいよ」

 日本みたいに交通の便がしっかりしていて、店も沢山ある様な国なら飯の心配なんてしなくてもいいんだけど、この世界だとそうはいかない。
 なんせペコライから王都までの道中、宿屋はおろか食べ物を売ってる店すらないのだ。

 その上王都までは一週間以上かかるという。必然的に夜は野宿する事になるし、飯は基本的に保存食か現地調達になる。
 そこに時間経過させずに食べ物を収納しておけるストレージがあればどうだろう?

 そう、食事事情の改善だ。加えて俺のストレージは容量無限。もうね、過剰なぐらいの量の食べ物を収納してきたよ。軽く一か月分はあるんじゃないかと思うぐらいに。
 まあ余った分は後日冒険中の昼飯にも出来るし、無駄になる事は無いんだけど。

「本当に保存食じゃない……。コノエさんのアイテムボックスは随分と変わってるんですね。まさか時間経過しないなんて」

 俺がちゃっちゃと準備を済ませていると、その光景を見ていたアルクから感心したような声が聞こえてきた。

「しかも容量も、私のより遙かに多いなんて」

 アルクには俺のストレージについて少しだけ説明してある。
 といっても、ストレージ内は時間経過しないという事と、容量がアルクのよりも多いという事だけだけど。

 流石にストレージのコマンドについて話す訳にはいかなかったから、そこは伏せてある。

「まあな。ほら、そんな事よりも、準備出来たぞ」

 俺はアルクの話を打ち切り、三人に準備が出来た事を伝えた。下手にアイテムボックスの話を続けると、ボロを出しかねないし。

「待ってました、オイ椎茸!」
「マリー程じゃないが、まともな物が食べられるのはやはり嬉しいものだな」

 俺が声をかけると、二人は普段よりも幾分テンション高めで各々席に着いていた。
 そういえば討伐隊で賢者の森に潜ってた時、俺はペコライで留守番だったな。あの時の飯は、多分保存食だったんだろう。

 二人の態度で丸分かりだ。

「すみません、私の分まで用意して貰って」
「ああ、いいって。気にするな。その分、報酬は期待してるぞ」

 アルクが申し訳なさそうにしながら席に着いていたので、俺はちょっとおどけた口調でアルクに返事を返しておいた。
 実際その分報酬は上乗せしてくれるというし、間違ってはいない。

「さて、それじゃあ食べようか」
「ええ、そうですね」

 俺の言葉にアルクが答えながら近くのパンに手を伸ばし。

「「「いただきます」」」

 俺達は数日前からお約束になった言葉を口にする。最初は物珍しさから口にしていた二人だったが、最近は当たり前の様に口にする様になっていた。
 やっぱりこれが無いと落ち着かない。

「え? 何ですか? いた?」

 アルクは「いただきます」という言葉を初めて耳にしたのか、何が何だか分かっていない様だった。まあこの世界の人達ならそれが普通だよな。
 いや、もしかしたら侍の国とやらにはある可能性も?

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