見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

三章 最終話

 一週間後。

「お久しぶりです、コノエ・カイトさん」
「ああ、久しぶり」

 遂にアルクを王都まで護衛する日がやってきた。
 現在、俺達三人とアルクは賢者の息吹の酒場に集まっており、王都へ出発する前に四人で朝飯を食べていた。

 王都まで馬車で約一週間、その間必要な物資の準備は既に完了している。
 武具の手入れも済ませてあり、後はアルクを王都まで送り届けるだけだ。

「今回は護衛依頼を受けて頂き、本当にありがとうございます。おかげで安心して王都に向かう事が出来ます」
「いや、礼には及ばんさ。私達も護衛ついでに王都の観光が出来るしな。むしろ、馬車を借りる代金が浮いて助かるぐらいだ」
「あはは。そう言って貰えると、こちらとしてもありがたいです。護衛料もいくらか割り引いて貰えましたし。それに、食料の準備までして貰って、こちらとしても大助かりです」

 フーリの言う通り、アルクの護衛は俺達にとっても大きなメリットがある。
 アルクは王都までの護衛料を割安で依頼出来る上に、食料を収納するスペースを別の物に回す事が出来る。

 俺達は馬車を借りる代金が浮いて、手入れをする手間も省ける。
 お互いに利害が一致した、誰一人損しない関係だと言えるだろう。

「聞くまでもありませんけど、もう出発の準備は済ませてありますよね?」
「ええ、もちろんです。商品になる魔物の素材もコツコツ溜めましたし、馬車の準備も万全です。いつでも出発出来ますよ」
「そうか。ならこれを食べ終わったら、早速出発するか?」
「ええ、お願いします」

 出発は朝飯を食べてすぐ。なら出発前にイレーヌさんとアミィに一言挨拶しておかないとな。

「皆さん、もう行っちゃうんですか?」

 俺が席を立とうとすると、俺達の会話を聞いていたのか、厨房の方からアミィが近寄って来た。

「ああ、これを食べたらすぐに出発だ。王都観光もしようと思ってるし、しばらくは帰って来ないと思う」

 俺がそう答えると、アミィは少し寂しそうな表情を浮かべる。

「そうなんだ。寂しくなるね」
「アミィ……お土産いっぱい買ってくるから、そんな顔するな」

 ここに泊まり始めて約一ヶ月。その間、毎日みんな一緒に過ごしてきたんだから、その気持ちはよく分かる。

 自惚れじゃなければ、俺達と接する時のアミィは年相応というか、客と従業員というよりも、家族や友達と接する時の様な感じだった。

 そんな中、アミィはここに一人残る訳だからな。そりゃ寂しいだろう。
 出来る事なら一緒に連れて行ってやりたいけど、アミィにはここの仕事もあるし、それは流石に無理だろう。

「……うん、分かった。期待してるね、お兄ちゃん!」
「よし、いい子だ」

 俺が素直に頷いたアミィの頭を優しく撫でてやると、いつも通り、気持ちよさそうにそれを堪能するアミィ。

「ねえ、姉さん。アミィちゃんって……」
「ああ、そうだ。まったく、末恐ろしいな」
「ん? 何か言ったか?」

 アミィの頭を撫でていると、フーリとアミィの呟きが耳に届いたが、何を話しているのかよく分からなかった。
 アミィが末恐ろしいって、どういう事?

「「別に」」

 二人揃って同じ言葉を同時に返してきた。君達息揃い過ぎじゃない?

「なあアルク、二人は何の話をしてたんだ?」
「え? さあ? 何でしょうね?」

 アルクなら何の話か分かるかと思い尋ねてみたが、残念ながらアルクにも何の話か分からなかった様だ。

「さて、それじゃあそろそろ出発しようか」

 俺達のやり取りがひと段落着いた所で、フーリがそう声を上げた。
 見れば、既に三人共朝飯を食べ終えており、いつでも出発出来る状態になっている。
 俺? もちろん既に食べ終わってるけど?

「そうだな。あまりダラダラしていてもしょうがないし、そろそろ出発するか」
「そうですね」

 俺とマリーは準備万端。後はアルクだけ。
 そう思ってアルクに視線を向けると。

「はい。それじゃあ今日から数日間、よろしくお願いします」

 アルクが一度席から立ち上がり、俺達に向かって改めてそう口にした。

「こちらこそ。王都までの間だが、よろしく」

 俺達を代表してフーリが返事をして、アルクに向かって握手を求める様に手を差し出した。
 それに応える様に、アルクもそれを握り返し、二人が握手を交わす。

「さて。アミィ、世話になったな」

 フーリは一度俺達を見回した後、アミィに一言声をかけてから酒場を出ようとした。
 え? いや、まだ挨拶してない人がいるんじゃ。

「あらあら、フーリ。私には何もないの?」

 そう思っていたら、厨房の奥から件の人物――イレーヌさんが姿を現した。

「あ、イレーヌさん。い、いや、別にそういう訳じゃ」

 すっかり忘れていたのか、それともこの後声をかけようと思っていたのかは分からないが、突如現れたイレーヌさんを見て動揺するフーリ。
 これは多分忘れてたな。

 相手にもよるけど、フーリって意外とこういうアクシデントというか、想定外の事に弱いんだよな。
 戦闘になるとそんな事は無いんだけど。

「姉さん、そんなに慌てなくても。イレーヌさん、行ってきますね!」
「ええ、気を付けてね」

 対するマリーは特に慌てる事もなく、普通に言葉を交わしていた。
 いつもは逆なんだけどな、こういうの。

「カイトさんも、行ってらっしゃい」

 そんな二人を眺めていると、イレーヌさんは俺にも声をかけてくれた。

「あ、はい。行ってきます」

 こういうの、なんかいいな。日本では当たり前の事だったけど、やっぱり「行ってらっしゃい」って送り出してくれる人がいるのは嬉しいものだ。
 そしてそれに「行ってきます」って返す。

 当たり前の事だけど、それがいい。

「楽しみにしてるね、お兄ちゃん!」
「ん? ああ、期待して待ってろ、アミィ!」

 うん。王都観光もいいが、出来るだけ早くここに戻って来よう。俺にとって、ここはもう帰るべき場所になっているのだから。
 そのままイレーヌさんとアミィに見送られながら、俺達は酒場を後にした。



 賢者の息吹を後にし、ペコライから出ると、そこには一台の馬車が停車していた。
 二トントラックと同じぐらいの大きさで、半楕円状の真っ白な布が荷台を覆う様に取り付けられている。

 そして後方に一か所、御者台と荷台の間に一か所、計二か所に入り口らしき物も設けられている。

 典型的な荷馬車といった感じだ。

「皆さん、これが私の馬車です」

 アルクの言葉で、この荷馬車が王都に向かうまでの間、俺達が乗る事になる馬車だと分かった。

「これが俺達の乗る馬車か」
「シンプルでいい馬車ですね」
「なかなかいい馬を飼っているじゃないか。気に入った」

 一人だけ馬車より馬に関心を寄せる人がいるけど、スルーしよう。

「それでは改めて、今日から数日間お世話になります」
「ああ、よろしく頼む」
「よろしくお願いしますね、アルクさん」
「よろしく、アルク」

 アルクが改めて挨拶し、俺達もそれに応えた。
 王都まで約一週間、何が起こるかは分からない。だが、二人と一緒ならきっと楽しい旅路になるだろう。護衛だけど。

 アルクは……この旅の道中で、その人となりを理解していけばいいか。

「それじゃあ、出発!」

 フーリの言葉を合図に、俺達は王都へ向けて出発した。





「……行ったか?」
「はい、たった今」

 カイト達が王都へ向けて出発してから数分後。ペコライの街から一人の男が姿を現し、門番と言葉を交わしていた。

 スキンヘッドで厳つい体つきの男。ペコライの冒険者ギルド、ギルド長の姿がそこにあった。

「だとよ、アミィ」

 ギルド長がそう声をかけた先には、酒場でカイト達を見送った筈のアミィの姿があった。
 どうやらカイト達の後をこっそり着いて来た様だ。

「ありがとうございます、ギルド長」
「なあに、気にするな。なんてったって、あのイレーヌの頼みだからな」
「はい。お世話になります、ギルド長」
「おう、任せとけ! 良い護衛も用意したからな!」

 ギルド長とアミィは互いに向き合い、二ッと笑い合う。
 何をお願いするのか。そして何を任せろなのか。それは一部の者のみが知る事である。

「王都観光「楽しみにしてるね」お兄ちゃん!」

 ペコライの入り口。既に姿が見えなくなったカイト達を見送る様に、無邪気に笑うアミィの姿がそこにあった。

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