見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~
三十七話
「それで、お兄ちゃんは今日一日一人でのんびり過ごすの?」
「ああ、今日はそういう気分なんだ」
二人が出かけるのを見送ってから自室に戻った俺は、そのままベッドにダイブ。ごろごろしながら華麗に二度寝をかまそうとしていた。
そんなタイミングだった。アミィが俺の部屋を訪れたのは。
アミィは部屋に俺がいるのに気が付くと、目を丸くして驚いていた。無理もない。
いつもならこの時間俺は果ての洞窟の攻略をしているか、街に出掛けているからだ。
驚いて俺を見ているアミィに事情を説明すると、一応納得してくれたようだったが、それでも少し困った顔をしていた。
どうしたのか尋ねてみると。
「今から部屋の掃除をしないといけないから、少しの間部屋を空けて貰えないかな?」
との事。
「あー、そっか。午前中は全部屋の掃除をするんだったな」
そうだった。賢者の息吹の利用客は、そのほとんどが冒険者だ。なので、ほとんど人がいない午前中に全部屋の掃除を済ませるんだったな。
「そうなの。だから、少しの間時間を潰して来てくれると助かるんだけど」
「分かった。そういう事なら適当に時間を潰してくるよ」
こればっかりは仕方がない。とりあえず街でもブラブラしてみるかな。
あ、そうだ。
「なあアミィ。この街で、本を売ってる店ってあるか?」
どうせ出かけるのなら、今日一日ゆっくりする為のお供でも買ってこよう。向こうでも読書が趣味だったし、こっちにも本があればいいんだけど。
「本? 本って魔導書の事?」
「いや、魔導書じゃなくて、読み物としての本なんだけど」
「読み物? おとぎ話とかが書いてある?」
「そう、それ! そういう本が売ってる店を知らないか?」
アミィが最初に魔導書と勘違いした時、もしかしてこの世界には本が無いんじゃないかと危惧したが、どうやらそれは杞憂だったらしい。
ラノベぐらいの長さの本があれば、何冊か欲しいんだけど、果たしてあるだろうか?
「うーん、本かぁ。確か、表通りの奥の方にある、何でも屋さんみたいなお店に売ってあったような」
「表通りの奥。それって……」
確かナナシさんがやってる店がある辺りだよな?
ナナシさんは俺と同じ日本出身みたいだし、そういう商品を取り扱っていたとしても不思議じゃない。それに、もしかしたらナナシさんも読書が好きなのかもしれないし。
そういえば、この間は色々売ってるなぁとは思ったけど、何を売ってるのかはきちんと見てなかったな。
どうしよう? もう一度ナナシさんの店に顔を出すか?
「それもあり、か」
「ん? お兄ちゃん、何か言った?」
「ああ、いや、こっちの話」
折角だ。今日はナナシさんの店でも覗いてみようかな。もしかしたら掘り出し物に出会えるかもしれない。
「ありがとな、アミィ」
俺はアミィの頭に手を伸ばし、そのまま優しく撫でた。
「ふわっ」
すると、少し驚いた様な声をあげ、顔を赤くするアミィ。
あれ? いつもと反応が違う様な……そういえば最近は全然アミィの頭を撫でてなかった気がする。
この短期間で色々あったし、久しぶりで驚いたのだろう。
俺はそんなアミィの反応を眺めながら、頭を撫で続ける。
「さて、それじゃあ俺はちょっと出かけて来るよ」
「あっ……」
「ん?」
俺がアミィの頭から手を離すと、アミィはまるで名残惜しそうに俺の手を眺めている。もしかして、もう少し撫でて欲しかったとか?
俺はもう一度無言でアミィの頭に手を置いた。
「わっ」
まさかもう一度撫でられるとは思っていなかったのか、アミィは驚きの声をあげたが、しかし俺の手から逃れようとはしなかった。
こうやって見ると、アミィってやっぱり妹みたいだよな。
そんな事を考えながら、俺はしばらくアミィの頭を撫で続けた。
「さて、と」
俺はアミィの頭から手を離し、今度こそ出かける準備を済ませる。といっても、やる事といえば、上着を羽織るぐらいだけど。
「それじゃあ、少し出かけて来るから」
「うん、気を付けてね、お兄ちゃん!」
俺が上着を羽織り、出掛けてくると告げると、アミィは笑顔で見送ってくれた。
それを微笑ましく感じながら、俺はペコライの街へと繰り出した。
朝の表通り。
それは普段冒険が終わってから見る光景とは、少し違った光景を見せている。
夕方の客層は主に冒険帰りの冒険者がメインなのに対し、この時間は一般市民――主に主婦だと思われる女性が中心だ。
活気があるのも、飯が食べられる店より、食材や生活用品等を売っている店が多く、その姿はまるで日本のスーパーみたいだ。
そんな夕方とはまた違った一面を見せる表通りを、俺はのんびりと歩く。
普段は見かけない様な人が多く、散歩がてら人間観察をしているだけで全然飽きない。
「なんか新鮮だな、こういうの」
普段は食材を売ってる店なんて見向きもしないのに、今日は特に気にしなくても自然と視界に入ってくる。
「はいよ! 全部で大銅貨五枚だよ!」
「あら、もうちょっとお安くなりません? このお肉も頂くから」
「奥さんには敵わないねぇ。よっしゃ、それも合わせて大銅貨六枚でどうだい?」
所々から聞こえてくる値引き交渉。その様子は、まさしく専業主婦と店の大将といった感じだ。
懐かしいな、こういうの。俺の子供の頃は、田舎でこういう風景をよく見かけたものだ。叩き売りなんかも珍しくなかった時代だ。
最近じゃ大型ショッピングモールやらが増えてきて、こういう風景は全然見かけなくなってたな。
駄菓子屋なんかも全然見かけなくなって、代わりにコンビニなんかが増えて……時代の移り変わりなんだろうけど、やっぱり寂しいもんだった。
願わくば、この世界ではこういう風景がいつまでも続きますように。
そう心の中で祈った。
「さて、と。この辺りかな?」
表通りもそろそろ終点。終わりを迎える頃だ。
アミィの話だと、この辺に本が売ってる店がある筈なんだけど。
「おや? 近衛海斗さんではありませんか」
俺が周囲を見回していると、後ろの方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ナナシさん、こんにちは」
「はい、こんにちは。それで、今日はどうしました? っと、少々お待ちを」
ナナシさんは俺に挨拶を返すと、そのまますぐ近くの店の裏側に回り込み、そこから中へと入って行った。
そのまま内側から店にかかっていた幕を回収して店先に立つと、改めて俺に視線を向け。
「お待たせしました。今日はどういったご用件で?」
いつもの調子で俺に尋ねてきた。
「実はアミィから、この辺に本を売ってる店があるかもしれないって聞いてきたんですけど、それってナナシさんの店だったりしないですか?」
もしかしたら別の店かもしれないけど、場所的にこれ以上先の事を言ったとは思えない。
「本ですか? それは魔導書の事ではなくて?」
「ええ、魔導書じゃなくて、読み物としての本です」
魔導書自体に興味はあるが、今読みたいのは只の本――所謂小説という奴だ。もちろん、魔導書が小説の様に読む事が出来るのなら、この際魔導書でもいいんだけど。
「読み物ですか……少々お待ちください」
ナナシさんはその場で空中に手をかざし、何かをいじくる様な仕草を始めた。アレは、ストレージか。
確かナナシさんもストレージを持っていた筈だから、きっと俺と同じ事をしているんだろう。
「ああ、ありました。これなんかいかがですか?」
ナナシさんは何もない虚空から本を取り出し、それを俺に向かって差し出してきた。
その手には「賢者ペコライ伝説」 というタイトルの本が三冊握られていた。
「ああ、今日はそういう気分なんだ」
二人が出かけるのを見送ってから自室に戻った俺は、そのままベッドにダイブ。ごろごろしながら華麗に二度寝をかまそうとしていた。
そんなタイミングだった。アミィが俺の部屋を訪れたのは。
アミィは部屋に俺がいるのに気が付くと、目を丸くして驚いていた。無理もない。
いつもならこの時間俺は果ての洞窟の攻略をしているか、街に出掛けているからだ。
驚いて俺を見ているアミィに事情を説明すると、一応納得してくれたようだったが、それでも少し困った顔をしていた。
どうしたのか尋ねてみると。
「今から部屋の掃除をしないといけないから、少しの間部屋を空けて貰えないかな?」
との事。
「あー、そっか。午前中は全部屋の掃除をするんだったな」
そうだった。賢者の息吹の利用客は、そのほとんどが冒険者だ。なので、ほとんど人がいない午前中に全部屋の掃除を済ませるんだったな。
「そうなの。だから、少しの間時間を潰して来てくれると助かるんだけど」
「分かった。そういう事なら適当に時間を潰してくるよ」
こればっかりは仕方がない。とりあえず街でもブラブラしてみるかな。
あ、そうだ。
「なあアミィ。この街で、本を売ってる店ってあるか?」
どうせ出かけるのなら、今日一日ゆっくりする為のお供でも買ってこよう。向こうでも読書が趣味だったし、こっちにも本があればいいんだけど。
「本? 本って魔導書の事?」
「いや、魔導書じゃなくて、読み物としての本なんだけど」
「読み物? おとぎ話とかが書いてある?」
「そう、それ! そういう本が売ってる店を知らないか?」
アミィが最初に魔導書と勘違いした時、もしかしてこの世界には本が無いんじゃないかと危惧したが、どうやらそれは杞憂だったらしい。
ラノベぐらいの長さの本があれば、何冊か欲しいんだけど、果たしてあるだろうか?
「うーん、本かぁ。確か、表通りの奥の方にある、何でも屋さんみたいなお店に売ってあったような」
「表通りの奥。それって……」
確かナナシさんがやってる店がある辺りだよな?
ナナシさんは俺と同じ日本出身みたいだし、そういう商品を取り扱っていたとしても不思議じゃない。それに、もしかしたらナナシさんも読書が好きなのかもしれないし。
そういえば、この間は色々売ってるなぁとは思ったけど、何を売ってるのかはきちんと見てなかったな。
どうしよう? もう一度ナナシさんの店に顔を出すか?
「それもあり、か」
「ん? お兄ちゃん、何か言った?」
「ああ、いや、こっちの話」
折角だ。今日はナナシさんの店でも覗いてみようかな。もしかしたら掘り出し物に出会えるかもしれない。
「ありがとな、アミィ」
俺はアミィの頭に手を伸ばし、そのまま優しく撫でた。
「ふわっ」
すると、少し驚いた様な声をあげ、顔を赤くするアミィ。
あれ? いつもと反応が違う様な……そういえば最近は全然アミィの頭を撫でてなかった気がする。
この短期間で色々あったし、久しぶりで驚いたのだろう。
俺はそんなアミィの反応を眺めながら、頭を撫で続ける。
「さて、それじゃあ俺はちょっと出かけて来るよ」
「あっ……」
「ん?」
俺がアミィの頭から手を離すと、アミィはまるで名残惜しそうに俺の手を眺めている。もしかして、もう少し撫でて欲しかったとか?
俺はもう一度無言でアミィの頭に手を置いた。
「わっ」
まさかもう一度撫でられるとは思っていなかったのか、アミィは驚きの声をあげたが、しかし俺の手から逃れようとはしなかった。
こうやって見ると、アミィってやっぱり妹みたいだよな。
そんな事を考えながら、俺はしばらくアミィの頭を撫で続けた。
「さて、と」
俺はアミィの頭から手を離し、今度こそ出かける準備を済ませる。といっても、やる事といえば、上着を羽織るぐらいだけど。
「それじゃあ、少し出かけて来るから」
「うん、気を付けてね、お兄ちゃん!」
俺が上着を羽織り、出掛けてくると告げると、アミィは笑顔で見送ってくれた。
それを微笑ましく感じながら、俺はペコライの街へと繰り出した。
朝の表通り。
それは普段冒険が終わってから見る光景とは、少し違った光景を見せている。
夕方の客層は主に冒険帰りの冒険者がメインなのに対し、この時間は一般市民――主に主婦だと思われる女性が中心だ。
活気があるのも、飯が食べられる店より、食材や生活用品等を売っている店が多く、その姿はまるで日本のスーパーみたいだ。
そんな夕方とはまた違った一面を見せる表通りを、俺はのんびりと歩く。
普段は見かけない様な人が多く、散歩がてら人間観察をしているだけで全然飽きない。
「なんか新鮮だな、こういうの」
普段は食材を売ってる店なんて見向きもしないのに、今日は特に気にしなくても自然と視界に入ってくる。
「はいよ! 全部で大銅貨五枚だよ!」
「あら、もうちょっとお安くなりません? このお肉も頂くから」
「奥さんには敵わないねぇ。よっしゃ、それも合わせて大銅貨六枚でどうだい?」
所々から聞こえてくる値引き交渉。その様子は、まさしく専業主婦と店の大将といった感じだ。
懐かしいな、こういうの。俺の子供の頃は、田舎でこういう風景をよく見かけたものだ。叩き売りなんかも珍しくなかった時代だ。
最近じゃ大型ショッピングモールやらが増えてきて、こういう風景は全然見かけなくなってたな。
駄菓子屋なんかも全然見かけなくなって、代わりにコンビニなんかが増えて……時代の移り変わりなんだろうけど、やっぱり寂しいもんだった。
願わくば、この世界ではこういう風景がいつまでも続きますように。
そう心の中で祈った。
「さて、と。この辺りかな?」
表通りもそろそろ終点。終わりを迎える頃だ。
アミィの話だと、この辺に本が売ってる店がある筈なんだけど。
「おや? 近衛海斗さんではありませんか」
俺が周囲を見回していると、後ろの方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ナナシさん、こんにちは」
「はい、こんにちは。それで、今日はどうしました? っと、少々お待ちを」
ナナシさんは俺に挨拶を返すと、そのまますぐ近くの店の裏側に回り込み、そこから中へと入って行った。
そのまま内側から店にかかっていた幕を回収して店先に立つと、改めて俺に視線を向け。
「お待たせしました。今日はどういったご用件で?」
いつもの調子で俺に尋ねてきた。
「実はアミィから、この辺に本を売ってる店があるかもしれないって聞いてきたんですけど、それってナナシさんの店だったりしないですか?」
もしかしたら別の店かもしれないけど、場所的にこれ以上先の事を言ったとは思えない。
「本ですか? それは魔導書の事ではなくて?」
「ええ、魔導書じゃなくて、読み物としての本です」
魔導書自体に興味はあるが、今読みたいのは只の本――所謂小説という奴だ。もちろん、魔導書が小説の様に読む事が出来るのなら、この際魔導書でもいいんだけど。
「読み物ですか……少々お待ちください」
ナナシさんはその場で空中に手をかざし、何かをいじくる様な仕草を始めた。アレは、ストレージか。
確かナナシさんもストレージを持っていた筈だから、きっと俺と同じ事をしているんだろう。
「ああ、ありました。これなんかいかがですか?」
ナナシさんは何もない虚空から本を取り出し、それを俺に向かって差し出してきた。
その手には「賢者ペコライ伝説」 というタイトルの本が三冊握られていた。
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