見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~
三十四話
エレナさん達ギルド職員がギルド長に招集されてから数分後。
何事も無かったかの様に受付に戻ってきたエレナさんは、俺の顔を見てニッコリと笑顔を作り。
「明日からしばらくの間、果ての洞窟への出入りは禁止です」
「何で!?」
とんでもない爆弾を投げつけてきた。
果ての洞窟に出入り禁止? 何で? 俺何か出禁をくらう様な事したっけ?
……いや、思いつく限り、そんな事をした記憶はない。でも、ならどうして?
「あ、勘違いしないで下さいね。別にカイトさんだけが出入り禁止な訳じゃなくて、ギルド関係者以外は全て対象ですから」
「あ、なんだ、それなら納得……出来ないな。何でまた急に?」
出禁は俺だけじゃないと聞いてとりあえず安心したが、それでも納得はしていない。何でいきなり出入り禁止なんて話になるんだ?
「もしかして、九層が原因ですか?」
理由が分からず頭を捻っていると、隣のフーリがエレナさんに尋ねた。
九層? もしかして、ワ―タイガーが原因か?
「はい、フーリさんの仰る通りです。先程の報告を受け、ギルドは原因究明の為に調査員を派遣する事を決定したので、それが落ち着くまでは果ての洞窟への出入り自体を禁止する事になりました」
エレナさんはフーリの質問に対して滞りなく答えたが、俺はそれを聞いて少し不安になった。
だって、調査員と言えば、つい最近悲惨な出来事があったばかりじゃないか。
「エレナさん、それはその……大丈夫なんですか?」
以前、賢者の森の調査隊は、シンによって壊滅させられている。
そういう前例がある以上、今回も全滅の可能性があるのではないかと考えてしまったが故に出た言葉だった。
だが、エレナさんは俺の言葉に一つ頷くと、自信満々な表情で。
「安心して下さい。今回調査の指揮を執るのは、あのモーヒさんですから」
と、俺達を安心させる様に答えた。
「モーヒさんが指揮を? それは本当ですか、エレナさん?」
モーヒさんが指揮を執ると聞いて、それに真っ先に反応を示したのはマリーだった。そういえば、マリーにはいつかモーヒさんの事を聞こうと思っていたのだが、すっかり忘れてたな。
「はい、間違いありません。前回の失敗を反省して、今回はモーヒさんを中心に九層の生態系の調査を行う事になりました。念の為、九層と八層の間には結界石を設置し、万が一の時は転移魔法陣で地上へと脱出する、という話です」
なるほど。流石にギルドも、賢者の森の一件から何も考えない訳がないか。それを聞いて少し安心した。
それに、何と言ってもモーヒさんはS級冒険者。この街最強の冒険者の筈だ。
「詳しい内容はこれから詰めるとの事ですが、とりあえずその調査が終わるまでの間は、果ての洞窟への出入りは禁止です」
エレナさんはとても分かりやすく、かつ丁寧に説明してくれた。が、それがまた、この話が冗談などではないのだと如実に物語っていた。
だからこそ、俺は。
「マジかぁ」
深く落ち込んだ。折角果ての洞窟の探索を再開したのに、初日で出入り禁止とは。
こんな事ある?
「ま、まあまあカイトさん。そう落ち込まないで下さい。冒険は何も果ての洞窟だけじゃありませんよ」
「いや、そりゃそうなんだけどさ」
マリーは落ち込む俺を慰めようとしてくれたが、そう簡単には切り替えられない。
確かに果ての洞窟以外にも、北の平原や賢者の森なんかもある。実際、そっちをメインに活動している冒険者も沢山いるのも知っている。
だけどなぁ。
「分かる。分かるぞ、カイト君。私には君の気持がよく分かる!」
マリーが俺を慰めてくれるのに対し、フーリは俺に共感してくれるみたいだ。
「一層下りる毎に、それまでとは全く違う環境、違う生態系、そして初めて見る魔物。それらを自分の目で見て、肌で触れて、戦って……そういうのがいいんだろう?」
「ああ……ああ! そうなんだよ! 俺はそういう経験が楽しくて仕方ないからこそ、果ての洞窟に潜ってるんだ!」
フーリが言葉にしてくれた事で、俺は改めて自分の気持ちを理解する事が出来た。
俺は果ての洞窟に潜りたい! もっと探索したい! やっぱりこの気持ちに嘘はつけない!
「でも、どうしようもないですよ? ギルドが出入り禁止だと言った以上、それは絶対です。破ればペナルティを課せられますし」
「ペナルティ? そんなもの心配しなくても、堂々と潜る方法があるじゃないか」
俺はやんわりと止めに入ってきたマリーにそう言った。
そうだ。果ての洞窟に潜れて、且つ、ペナルティも課せられない。そんな方法が存在するのだ。
「え? どういう事ですか?」
「カイト君、私にも教えて欲しい。一体どんな方法があるというのだ?」
二人が俺の言う「方法」という物に興味を示してきたが、別に難しい話じゃない。ちょっと考えればすぐに分かる事だ。
「カイトさん、今度は一体何を考えてるんですか?」
二人だけでなく、エレナさんまでもが尋ねてきた。
「なに、簡単な事ですよ」
俺は受付のエレナさんに改めて向き直り。
「俺も九層の調査隊に参加させて下さい!」
俺は腰を深く折り、頭を下げてエレナさんに懇願した。エレナさんが望むなら土下座も辞さない覚悟だ。
「ちょっ! 何言ってるんですか!? そんな急に頭を下げられても困ります!」
「じゃあゆっくりと」
「速度の問題じゃありません!」
そう、果ての洞窟に潜り続ける方法。それは、俺自身が九層の生態系調査の調査員になればいいだけの話だ。
そうすれば、堂々と果ての洞窟へ堂々と潜り続けられる。
「カイトさん」
「カイト君」
その時、二人のとても冷ややかな視線を感じ、俺が振り返るのと同時に呆れる様な声が俺の名を呼んだ。
え? 何で? 俺何かやらかした?
「もしかして、忘れてる訳じゃありませんよね?」
「忘れる? 何を?」
はて、俺は何か忘れているだろうか? 別に何も忘れてない様な……。
「アルクの護衛。まさかとは思うが、忘れてはいないよな?」
……あ、やべ。果ての洞窟に潜る方法を考えるのに必死で、すっかり頭から抜け落ちていた。
そういえば、あと二週間切ってたんだっけ?
「ま、まさかぁ。そんな大事な事、俺が忘れる訳ないじゃないか!」
二人の冷ややかな視線を誤魔化す様に、俺は出来るだけ自然に答えた。
「そうですよね! 忘れる訳ないですよね!」
「当たり前だろ、マリー。あのカイト君が忘れる訳じゃないか。きっと、何か考え合っての発言だろう」
「……」
……カイトは逃げ出した! しかし回り込まれた!
「くっ! かくなる上は、人間ロケッ」
「こんな所でそれはやめて下さい!」
「ギルドを破壊するつもりか!? そんな事をしたら、君は果ての洞窟ではなく独房に潜る事になるぞ!」
ちっ、やっぱりダメか。
ていうか、誰が上手い事を言えと?
「とにかく、今回は諦めて出入り禁止が解かれるまで我慢して下さい。分かりましたか?」
「……ああ、分かったよ」
まあ確かに二人の言う通り、今回は諦めるしかないか。
マリーの言う通り、冒険は果ての洞窟以外でも出来るし、何ならしばらく稼がなくても問題ないぐらいには蓄えもある。いっそ護衛までの間は、新たな長期休暇にしてもいいかもしれない。
「えっと、もう大丈夫ですか?」
俺がそんな事を考えていると、エレナさんがおずおずと尋ねてきたので「大丈夫ですよ」と返しておいた。
「それでは明日からしばらくの間、果ての洞窟への出入りは禁止でお願いしますね」
「ええ、分かりました。それでは、また」
俺達はエレナさんに軽く頭を下げてから、受付を後にした。
ギルドから出る時、周囲からは「明日からどこで稼ごう?」とか「俺、今朝装備を新調したばっかりなのに、これじゃ稼ぎが……」「いっそ薬草採取でも受けようかな」等々、普段果ての洞窟を活動拠点にしているのであろう冒険者達から嘆きの声が聞こえてくる。
中には、実際に果ての洞窟で見かけたメンツもちらほら見えるな。話した事はないけど。
それにしても、やっぱりみんな慣れた狩場を出入り禁止にされたのが痛かったみたいだな。
そんな嘆きの声を聴きながら、俺達は冒険者ギルドを出て、賢者の息吹に向かった。
今日の晩飯はなんだろうなぁ、と。そんな事を考えながら。
何事も無かったかの様に受付に戻ってきたエレナさんは、俺の顔を見てニッコリと笑顔を作り。
「明日からしばらくの間、果ての洞窟への出入りは禁止です」
「何で!?」
とんでもない爆弾を投げつけてきた。
果ての洞窟に出入り禁止? 何で? 俺何か出禁をくらう様な事したっけ?
……いや、思いつく限り、そんな事をした記憶はない。でも、ならどうして?
「あ、勘違いしないで下さいね。別にカイトさんだけが出入り禁止な訳じゃなくて、ギルド関係者以外は全て対象ですから」
「あ、なんだ、それなら納得……出来ないな。何でまた急に?」
出禁は俺だけじゃないと聞いてとりあえず安心したが、それでも納得はしていない。何でいきなり出入り禁止なんて話になるんだ?
「もしかして、九層が原因ですか?」
理由が分からず頭を捻っていると、隣のフーリがエレナさんに尋ねた。
九層? もしかして、ワ―タイガーが原因か?
「はい、フーリさんの仰る通りです。先程の報告を受け、ギルドは原因究明の為に調査員を派遣する事を決定したので、それが落ち着くまでは果ての洞窟への出入り自体を禁止する事になりました」
エレナさんはフーリの質問に対して滞りなく答えたが、俺はそれを聞いて少し不安になった。
だって、調査員と言えば、つい最近悲惨な出来事があったばかりじゃないか。
「エレナさん、それはその……大丈夫なんですか?」
以前、賢者の森の調査隊は、シンによって壊滅させられている。
そういう前例がある以上、今回も全滅の可能性があるのではないかと考えてしまったが故に出た言葉だった。
だが、エレナさんは俺の言葉に一つ頷くと、自信満々な表情で。
「安心して下さい。今回調査の指揮を執るのは、あのモーヒさんですから」
と、俺達を安心させる様に答えた。
「モーヒさんが指揮を? それは本当ですか、エレナさん?」
モーヒさんが指揮を執ると聞いて、それに真っ先に反応を示したのはマリーだった。そういえば、マリーにはいつかモーヒさんの事を聞こうと思っていたのだが、すっかり忘れてたな。
「はい、間違いありません。前回の失敗を反省して、今回はモーヒさんを中心に九層の生態系の調査を行う事になりました。念の為、九層と八層の間には結界石を設置し、万が一の時は転移魔法陣で地上へと脱出する、という話です」
なるほど。流石にギルドも、賢者の森の一件から何も考えない訳がないか。それを聞いて少し安心した。
それに、何と言ってもモーヒさんはS級冒険者。この街最強の冒険者の筈だ。
「詳しい内容はこれから詰めるとの事ですが、とりあえずその調査が終わるまでの間は、果ての洞窟への出入りは禁止です」
エレナさんはとても分かりやすく、かつ丁寧に説明してくれた。が、それがまた、この話が冗談などではないのだと如実に物語っていた。
だからこそ、俺は。
「マジかぁ」
深く落ち込んだ。折角果ての洞窟の探索を再開したのに、初日で出入り禁止とは。
こんな事ある?
「ま、まあまあカイトさん。そう落ち込まないで下さい。冒険は何も果ての洞窟だけじゃありませんよ」
「いや、そりゃそうなんだけどさ」
マリーは落ち込む俺を慰めようとしてくれたが、そう簡単には切り替えられない。
確かに果ての洞窟以外にも、北の平原や賢者の森なんかもある。実際、そっちをメインに活動している冒険者も沢山いるのも知っている。
だけどなぁ。
「分かる。分かるぞ、カイト君。私には君の気持がよく分かる!」
マリーが俺を慰めてくれるのに対し、フーリは俺に共感してくれるみたいだ。
「一層下りる毎に、それまでとは全く違う環境、違う生態系、そして初めて見る魔物。それらを自分の目で見て、肌で触れて、戦って……そういうのがいいんだろう?」
「ああ……ああ! そうなんだよ! 俺はそういう経験が楽しくて仕方ないからこそ、果ての洞窟に潜ってるんだ!」
フーリが言葉にしてくれた事で、俺は改めて自分の気持ちを理解する事が出来た。
俺は果ての洞窟に潜りたい! もっと探索したい! やっぱりこの気持ちに嘘はつけない!
「でも、どうしようもないですよ? ギルドが出入り禁止だと言った以上、それは絶対です。破ればペナルティを課せられますし」
「ペナルティ? そんなもの心配しなくても、堂々と潜る方法があるじゃないか」
俺はやんわりと止めに入ってきたマリーにそう言った。
そうだ。果ての洞窟に潜れて、且つ、ペナルティも課せられない。そんな方法が存在するのだ。
「え? どういう事ですか?」
「カイト君、私にも教えて欲しい。一体どんな方法があるというのだ?」
二人が俺の言う「方法」という物に興味を示してきたが、別に難しい話じゃない。ちょっと考えればすぐに分かる事だ。
「カイトさん、今度は一体何を考えてるんですか?」
二人だけでなく、エレナさんまでもが尋ねてきた。
「なに、簡単な事ですよ」
俺は受付のエレナさんに改めて向き直り。
「俺も九層の調査隊に参加させて下さい!」
俺は腰を深く折り、頭を下げてエレナさんに懇願した。エレナさんが望むなら土下座も辞さない覚悟だ。
「ちょっ! 何言ってるんですか!? そんな急に頭を下げられても困ります!」
「じゃあゆっくりと」
「速度の問題じゃありません!」
そう、果ての洞窟に潜り続ける方法。それは、俺自身が九層の生態系調査の調査員になればいいだけの話だ。
そうすれば、堂々と果ての洞窟へ堂々と潜り続けられる。
「カイトさん」
「カイト君」
その時、二人のとても冷ややかな視線を感じ、俺が振り返るのと同時に呆れる様な声が俺の名を呼んだ。
え? 何で? 俺何かやらかした?
「もしかして、忘れてる訳じゃありませんよね?」
「忘れる? 何を?」
はて、俺は何か忘れているだろうか? 別に何も忘れてない様な……。
「アルクの護衛。まさかとは思うが、忘れてはいないよな?」
……あ、やべ。果ての洞窟に潜る方法を考えるのに必死で、すっかり頭から抜け落ちていた。
そういえば、あと二週間切ってたんだっけ?
「ま、まさかぁ。そんな大事な事、俺が忘れる訳ないじゃないか!」
二人の冷ややかな視線を誤魔化す様に、俺は出来るだけ自然に答えた。
「そうですよね! 忘れる訳ないですよね!」
「当たり前だろ、マリー。あのカイト君が忘れる訳じゃないか。きっと、何か考え合っての発言だろう」
「……」
……カイトは逃げ出した! しかし回り込まれた!
「くっ! かくなる上は、人間ロケッ」
「こんな所でそれはやめて下さい!」
「ギルドを破壊するつもりか!? そんな事をしたら、君は果ての洞窟ではなく独房に潜る事になるぞ!」
ちっ、やっぱりダメか。
ていうか、誰が上手い事を言えと?
「とにかく、今回は諦めて出入り禁止が解かれるまで我慢して下さい。分かりましたか?」
「……ああ、分かったよ」
まあ確かに二人の言う通り、今回は諦めるしかないか。
マリーの言う通り、冒険は果ての洞窟以外でも出来るし、何ならしばらく稼がなくても問題ないぐらいには蓄えもある。いっそ護衛までの間は、新たな長期休暇にしてもいいかもしれない。
「えっと、もう大丈夫ですか?」
俺がそんな事を考えていると、エレナさんがおずおずと尋ねてきたので「大丈夫ですよ」と返しておいた。
「それでは明日からしばらくの間、果ての洞窟への出入りは禁止でお願いしますね」
「ええ、分かりました。それでは、また」
俺達はエレナさんに軽く頭を下げてから、受付を後にした。
ギルドから出る時、周囲からは「明日からどこで稼ごう?」とか「俺、今朝装備を新調したばっかりなのに、これじゃ稼ぎが……」「いっそ薬草採取でも受けようかな」等々、普段果ての洞窟を活動拠点にしているのであろう冒険者達から嘆きの声が聞こえてくる。
中には、実際に果ての洞窟で見かけたメンツもちらほら見えるな。話した事はないけど。
それにしても、やっぱりみんな慣れた狩場を出入り禁止にされたのが痛かったみたいだな。
そんな嘆きの声を聴きながら、俺達は冒険者ギルドを出て、賢者の息吹に向かった。
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