見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~
三十一話
緊迫した空気が漂う。
ワ―タイガーとの距離はほんの数メートル程。
どちらかが飛び出せば、それだけで詰まってしまう程度の距離。
ワ―タイガーとの間に緊張感が走り抜ける。
「はっ!」
最初に飛び出したのは、フーリだった。
ワ―タイガーとの距離を文字通り一瞬で詰め、腰を低くして前傾姿勢を維持したまま、横薙ぎの一閃をワ―タイガーに向けて放つ。
だがその一撃を、ワ―タイガーは上空に飛び跳ねる事で回避した、が。
「なっ!? 何だあのジャンプ力は!?」
驚くべきは、ワ―タイガーのジャンプ力だ。
力を籠める時間なんてほとんどなかった筈なのに、そのジャンプ力は周りの木々を軽々と飛び越える程だった。
ワ―タイガーはそのまま近くの木の上に着地すると、それを足場にして俺に向かって飛び掛かってきた。
「ちょっ!? 俺かよ!?」
咄嗟に魔鉄バットでその攻撃を防いだが、そのあまりの力の強さに、足が僅かに地面にめり込んでしまった。
「「カイトさん(君)!」」
二人が咄嗟に俺の名前を叫び、ワ―タイガーに攻撃を加えようとするのが見えたが。
「っらぁ!」
それよりも早く、俺は更に魔鉄バットへと魔力を流し込み、それを力任せに思いっきり振り抜いた。
「っ!?」
まさか押し返されると思っていなかったのか、ワ―タイガーが数歩後退って一瞬だけ硬直したのが分かった。
「今だ!」
俺は叫び、ワ―タイガーの足元へと足払いをかける。いくら身体能力がおかしくても、足元から崩されれば隙も生まれる筈だ。
そう考えての行動だったが、そう簡単にはいかなかった。
「うっそだろ、おい!?」
驚く事に、ワ―タイガーは俺の足払いに合わせて体を傾け、払われる足の動きを殺さずに体の上下を入れ替えると、そのまま手の平で地面を叩き、後方へと距離を取る事に成功していた。
側転からのバク転。綺麗に決まったその動きで、俺の足払いは回避されてしまったのだ。
マリーが放った氷柱も、フーリの剣閃も、攻撃すべき対象を失い、空しく空を切る。
「今のをあっさり躱すのかよ! おかしいだろ!」
「来るぞ!」
「「っ!」」
フーリの言葉に反応するかの様に、ワ―タイガーが地面を蹴って、俺達との距離を一息に詰めると、その鋭い爪を横薙ぎに一閃。俺達をまとめて切り裂こうとしてきた。
俺が魔鉄バットでその一撃を受け止め、三人同時に後方へと距離を取る。
そのまま二人が一度態勢を整えるのを尻目に、俺は左手を後方へと突き出し。
「人間ロケット!」
逆にワ―タイガーとの距離を詰める事を選択した。
ストレージを両サイドに展開し、そこから串マシンガンを射出しながら距離を詰める。
すると、その動きが予想外だったのか、ワ―タイガーは躱すか防ぐかで一瞬だけ硬直した後、防ぐ事を選択した様だ。
まるで虫でも払うかの様に腕を振るう事で串マシンガンを何度も振り払う。
そのおかげで、俺はワ―タイガーとの距離をノーリスクで詰める事に成功した。
ストレージでもう一本魔鉄バットを生産して取り出すと、両手に一本ずつ魔鉄バットを持ち、ワ―タイガーに向かって叩きつける。
右の魔鉄バットを防がれれば左の魔鉄バットを、それも防がれれば、また右の魔鉄バットを。そうやって何度もワ―タイガーに向かって叩きつける。
二刀流なんて大それた物じゃないが、単純に手数は倍になった。
片手で振るう分、一撃の威力は低くなるが、そこは魔鉄バットに流す魔力の量と手数でカバーだ!
「炎熱剣!」
ワ―タイガーが俺の攻撃を防ぐのに集中している隙をついて、後方に回り込んでいたフーリが背後から奇襲を仕掛けた。
突然の背後からの一撃に、しかしワ―タイガーは体の芯をずらす事で致命傷を回避した様だった。
「グァガァァァァ!」
だが、炎熱剣そのものを躱す事は出来なかった様で、肉を焼き切る様な音と、ワ―タイガーの苦し気な悲鳴が、ジャングル内に木霊する。
「ありがとう、カイト君。おかげで隙をつく事が出来た」
フーリは一言だけそう言うと、そのままもう一度ワ―タイガーに攻撃を加えようとするが。
「グッ」
短く声をあげ、フーリを飛び越える程大きく跳躍して、後方へと回避した。が、その動きはさっきまでと比べて明らかに鈍かった。だが、それでも俺達と距離を取るだけなら充分だったようだ。
そして、ソレを見たフーリがニヤリと笑う。
「確かにとんでもない身体能力だが、回避の仕方がワンパターンだな。マリー!」
「任せて! 水よ!」
ワ―タイガーが回避した先。そこにはあらかじめマリーが作っておいたのか、大きな水たまりが出来上がっていた。
そのままワ―タイガーは水たまりに着地し、マリーの操る水に足を絡め取られる。
そこまで見て、俺はワ―タイガーに向かって一目散に駆け出した。そしてフーリも。
俺の想像が間違いじゃなかったら、あのワ―タイガーはもう逃げられない筈だ。
俺達が一気に距離を詰めてくるのに気が付いたワ―タイガーは、すぐさまそこから跳び退こうとしたが。
「させない!」
ワ―タイガーが脱出するよりも早く、マリーが足元の水を凍らせる事で、ワ―タイガーの拘束に成功。
突然の事でワ―タイガーが驚き、その意識が逸れた瞬間、俺は魔鉄バットをワ―タイガーの脳天目掛けて思いっきり振り下ろした。
だが、ギリギリの所で気が付いたワ―タイガーが、両腕を目の前で交差する事で、俺の攻撃を防ぐ事に成功した……が。
「終わりだ。炎熱剣!」
背後からの一撃。流石に反応しきれなかったワ―タイガーは、腰から上と下に真っ二つに切り裂かれた。
そのままずるりと上半身がずり落ち、ワ―タイガーは顔面から地面に向かって落下した。
流石にこれで終わりだろう。と思ったが。
「ガッ、ガァァッ! グガァ!」
「な!? こいつ、まだ生きて!」
「いや、その必要はない。見ろ、カイト君」
真っ二つにされて尚動こうともがくワ―タイガーを見て、咄嗟に魔鉄バットを構えた俺だったが、ワ―タイガーの様子を見てそれをやめた。
ワ―タイガーは既にいつ死んでもおかしくない状態だ。今更何も出来はしないだろう。
俺の想像通り、ワ―タイガーはしばらくの間もがき苦しんだ末、そのまま静かに命を落とした。
「流石は姉さん!」
「ああ。だが、あんなに上手くいったのは、二人のおかげだ。ありがとう、二人共」
「いやぁ、上手くいって良かった。勘違いだったらどうしようかと思ったわ」
おかしな話かもしれないが、二人の行動を見た瞬間、何をしようとしているのかが何となく伝わってきたのだ。
それを成功させる為に、囮として最大限の行動をしたつもりだ。
「カイト君も、見事な囮っぷりだったぞ。聞いてもいないのによく理解してくれた」
フーリに褒められ、俺は自分の表情が緩むのを感じた。
自分で言うのもなんだが、今のは今までで一番上手く連携出来ていたと思う。少しは二人に近づく事が出来たかな。
そう思うと、嬉しくて仕方がない。
「ああ、ありがとう」
二人にお礼を言ってから、俺はたった今倒したワ―タイガーの死骸に近づいた。
それにしても見事に真っ二つだな。傷口も炎熱剣の熱で塞がってるし、流石はフーリって所か。
「さて、素材の回収をっと。ん? これは……」
俺はワ―タイガーの死骸をストレージに収納しようとして、ソレの存在に気が付いた。
ビー玉ぐらいの大きさの、深い赤色の玉――魔核の存在に。
「なあ、コイツってマッスルキャットの特殊個体なんだよな?」
「え? ええ、そうですよ? それがどうかしましたか?」
マリーの回答に、少し前に立てた俺の中の仮説が、より真実味を帯びてくるのを感じた。
特殊個体は絶対に魔核を落とす。その仮説が。
ワ―タイガーとの距離はほんの数メートル程。
どちらかが飛び出せば、それだけで詰まってしまう程度の距離。
ワ―タイガーとの間に緊張感が走り抜ける。
「はっ!」
最初に飛び出したのは、フーリだった。
ワ―タイガーとの距離を文字通り一瞬で詰め、腰を低くして前傾姿勢を維持したまま、横薙ぎの一閃をワ―タイガーに向けて放つ。
だがその一撃を、ワ―タイガーは上空に飛び跳ねる事で回避した、が。
「なっ!? 何だあのジャンプ力は!?」
驚くべきは、ワ―タイガーのジャンプ力だ。
力を籠める時間なんてほとんどなかった筈なのに、そのジャンプ力は周りの木々を軽々と飛び越える程だった。
ワ―タイガーはそのまま近くの木の上に着地すると、それを足場にして俺に向かって飛び掛かってきた。
「ちょっ!? 俺かよ!?」
咄嗟に魔鉄バットでその攻撃を防いだが、そのあまりの力の強さに、足が僅かに地面にめり込んでしまった。
「「カイトさん(君)!」」
二人が咄嗟に俺の名前を叫び、ワ―タイガーに攻撃を加えようとするのが見えたが。
「っらぁ!」
それよりも早く、俺は更に魔鉄バットへと魔力を流し込み、それを力任せに思いっきり振り抜いた。
「っ!?」
まさか押し返されると思っていなかったのか、ワ―タイガーが数歩後退って一瞬だけ硬直したのが分かった。
「今だ!」
俺は叫び、ワ―タイガーの足元へと足払いをかける。いくら身体能力がおかしくても、足元から崩されれば隙も生まれる筈だ。
そう考えての行動だったが、そう簡単にはいかなかった。
「うっそだろ、おい!?」
驚く事に、ワ―タイガーは俺の足払いに合わせて体を傾け、払われる足の動きを殺さずに体の上下を入れ替えると、そのまま手の平で地面を叩き、後方へと距離を取る事に成功していた。
側転からのバク転。綺麗に決まったその動きで、俺の足払いは回避されてしまったのだ。
マリーが放った氷柱も、フーリの剣閃も、攻撃すべき対象を失い、空しく空を切る。
「今のをあっさり躱すのかよ! おかしいだろ!」
「来るぞ!」
「「っ!」」
フーリの言葉に反応するかの様に、ワ―タイガーが地面を蹴って、俺達との距離を一息に詰めると、その鋭い爪を横薙ぎに一閃。俺達をまとめて切り裂こうとしてきた。
俺が魔鉄バットでその一撃を受け止め、三人同時に後方へと距離を取る。
そのまま二人が一度態勢を整えるのを尻目に、俺は左手を後方へと突き出し。
「人間ロケット!」
逆にワ―タイガーとの距離を詰める事を選択した。
ストレージを両サイドに展開し、そこから串マシンガンを射出しながら距離を詰める。
すると、その動きが予想外だったのか、ワ―タイガーは躱すか防ぐかで一瞬だけ硬直した後、防ぐ事を選択した様だ。
まるで虫でも払うかの様に腕を振るう事で串マシンガンを何度も振り払う。
そのおかげで、俺はワ―タイガーとの距離をノーリスクで詰める事に成功した。
ストレージでもう一本魔鉄バットを生産して取り出すと、両手に一本ずつ魔鉄バットを持ち、ワ―タイガーに向かって叩きつける。
右の魔鉄バットを防がれれば左の魔鉄バットを、それも防がれれば、また右の魔鉄バットを。そうやって何度もワ―タイガーに向かって叩きつける。
二刀流なんて大それた物じゃないが、単純に手数は倍になった。
片手で振るう分、一撃の威力は低くなるが、そこは魔鉄バットに流す魔力の量と手数でカバーだ!
「炎熱剣!」
ワ―タイガーが俺の攻撃を防ぐのに集中している隙をついて、後方に回り込んでいたフーリが背後から奇襲を仕掛けた。
突然の背後からの一撃に、しかしワ―タイガーは体の芯をずらす事で致命傷を回避した様だった。
「グァガァァァァ!」
だが、炎熱剣そのものを躱す事は出来なかった様で、肉を焼き切る様な音と、ワ―タイガーの苦し気な悲鳴が、ジャングル内に木霊する。
「ありがとう、カイト君。おかげで隙をつく事が出来た」
フーリは一言だけそう言うと、そのままもう一度ワ―タイガーに攻撃を加えようとするが。
「グッ」
短く声をあげ、フーリを飛び越える程大きく跳躍して、後方へと回避した。が、その動きはさっきまでと比べて明らかに鈍かった。だが、それでも俺達と距離を取るだけなら充分だったようだ。
そして、ソレを見たフーリがニヤリと笑う。
「確かにとんでもない身体能力だが、回避の仕方がワンパターンだな。マリー!」
「任せて! 水よ!」
ワ―タイガーが回避した先。そこにはあらかじめマリーが作っておいたのか、大きな水たまりが出来上がっていた。
そのままワ―タイガーは水たまりに着地し、マリーの操る水に足を絡め取られる。
そこまで見て、俺はワ―タイガーに向かって一目散に駆け出した。そしてフーリも。
俺の想像が間違いじゃなかったら、あのワ―タイガーはもう逃げられない筈だ。
俺達が一気に距離を詰めてくるのに気が付いたワ―タイガーは、すぐさまそこから跳び退こうとしたが。
「させない!」
ワ―タイガーが脱出するよりも早く、マリーが足元の水を凍らせる事で、ワ―タイガーの拘束に成功。
突然の事でワ―タイガーが驚き、その意識が逸れた瞬間、俺は魔鉄バットをワ―タイガーの脳天目掛けて思いっきり振り下ろした。
だが、ギリギリの所で気が付いたワ―タイガーが、両腕を目の前で交差する事で、俺の攻撃を防ぐ事に成功した……が。
「終わりだ。炎熱剣!」
背後からの一撃。流石に反応しきれなかったワ―タイガーは、腰から上と下に真っ二つに切り裂かれた。
そのままずるりと上半身がずり落ち、ワ―タイガーは顔面から地面に向かって落下した。
流石にこれで終わりだろう。と思ったが。
「ガッ、ガァァッ! グガァ!」
「な!? こいつ、まだ生きて!」
「いや、その必要はない。見ろ、カイト君」
真っ二つにされて尚動こうともがくワ―タイガーを見て、咄嗟に魔鉄バットを構えた俺だったが、ワ―タイガーの様子を見てそれをやめた。
ワ―タイガーは既にいつ死んでもおかしくない状態だ。今更何も出来はしないだろう。
俺の想像通り、ワ―タイガーはしばらくの間もがき苦しんだ末、そのまま静かに命を落とした。
「流石は姉さん!」
「ああ。だが、あんなに上手くいったのは、二人のおかげだ。ありがとう、二人共」
「いやぁ、上手くいって良かった。勘違いだったらどうしようかと思ったわ」
おかしな話かもしれないが、二人の行動を見た瞬間、何をしようとしているのかが何となく伝わってきたのだ。
それを成功させる為に、囮として最大限の行動をしたつもりだ。
「カイト君も、見事な囮っぷりだったぞ。聞いてもいないのによく理解してくれた」
フーリに褒められ、俺は自分の表情が緩むのを感じた。
自分で言うのもなんだが、今のは今までで一番上手く連携出来ていたと思う。少しは二人に近づく事が出来たかな。
そう思うと、嬉しくて仕方がない。
「ああ、ありがとう」
二人にお礼を言ってから、俺はたった今倒したワ―タイガーの死骸に近づいた。
それにしても見事に真っ二つだな。傷口も炎熱剣の熱で塞がってるし、流石はフーリって所か。
「さて、素材の回収をっと。ん? これは……」
俺はワ―タイガーの死骸をストレージに収納しようとして、ソレの存在に気が付いた。
ビー玉ぐらいの大きさの、深い赤色の玉――魔核の存在に。
「なあ、コイツってマッスルキャットの特殊個体なんだよな?」
「え? ええ、そうですよ? それがどうかしましたか?」
マリーの回答に、少し前に立てた俺の中の仮説が、より真実味を帯びてくるのを感じた。
特殊個体は絶対に魔核を落とす。その仮説が。
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