見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~
三十話
「フシャァァァァッ!」
「あ、待って!」
二人に邪魔させまいと意識をそっちに集中していたら、猫ちゃんがモフモフ拘束――略してモフ束の一瞬の隙をついて、俺の腕の中から離れて行ってしまった。
ああ、もっとモフモフしていたかった……。
猫ちゃんは木の上まで跳躍すると、一度態勢を立て直し、凄まじい眼光で俺を睨み付けてきた。
あ、やべ。めっちゃ怒ってる。
「反省して下さい、カイトさん」
「そうだぞ。相手は一応魔物なんだ。油断するな」
二人に咎められ、俺は今の自分の行いを振り返る。
……うん、流石にやり過ぎたな。
「次からはもっと優しく撫でる所から挑戦してみるよ」
「そういう意味じゃありません!」
「油断しすぎだと言ったんだ! 何度も言うが、相手は魔物なんだぞ!」
「うっ。わ、悪かったって」
即座に怒鳴り返され、俺は謝る事しか出来なかった。
ま、まあ、二人の言いたい事も分かる。魔物相手にモフモフするのは危険だって言いたいんだろう。
確かにそれは一理ある。
でも、だからといってアレと戦うのはなぁ。
「猫ちゃんを傷つけるなんて、俺に出来るかな?」
もっと魔物然としていてくれたら、俺も躊躇いなく戦えたかもしれない。でも、アレはほとんど猫だ。
二足歩行で歩く、大きな猫にしか見えない。そんなのと戦えだなんて。
「だが、アレを倒さないと素材は手に入らないし、九層も踏破出来ない。覚悟を決めるんだ、カイト君」
「そうですよ。相手は魔物なんです。躊躇ってはいけません」
二人は各々自分の武器を手に持ち、臨戦態勢を取っている。
「覚悟を決めるしかないのか?」
俺はストレージから魔鉄バットを取り出し、それを構える。
敵は猫ちゃん……いや、マッスルキャットという名の魔物なんだ。迷ってたら俺達がやられる。覚悟を決めるんだ、近衛かい……。
「ギニャッ、ギッ、ゲッ、グッ、グオニャァァァァッ!」
突如起こる悲劇。いや、俺にとってはある意味喜劇なのか?
ついさっきまでモフモフで可愛らしい見た目をしていたマッスルキャットが、突然体を丸めたと思ったら、次の瞬間体が肥大化。見るも無残な全身筋肉だるまの、醜い化け物へと姿を変えてしまっていた。
その姿は、奇しくも俺が最初に想像していたマッスルキャットの姿に酷似している。
「ちっ、変身を解かれてしまったか」
「ああなると戦闘能力が増すんですよね。出来れば変身を解く前に仕留めたかったけど」
変身を解く?
え? つまり、今までの姿は仮の姿で、こっちがマッスルキャットの本当の姿なのか?
どうやら二人はあの猫ちゃん……否、マッスルキャットの本当の姿を知っていた様だ。そりゃそうか。二人は十五層まで潜った事があるのだから、知ってて当然だ。
だからあんなに冷静でいられたのか。
俺もアレがマッスルキャットの本来の姿だと分かれば、迷いはなくなる。全力で戦える! 否、俺を騙していた分の恨みも込めて、全力を超えた力すら出せる!
「はっ!」
俺は跳躍で真上に跳び上がり、上空からマッスルキャットの姿を視界に収めると、そのまま足の裏から炎を噴射し、人間ロケットでマッスルキャットに向かって突っ込んだ。
そのまま魔鉄バットを振り上げ、マッスルキャット目掛けて全力で振り下ろす。
人間ロケットによる加速。更に身体強化と剛力、そして筋力強化の重ね掛けに加えて、魔力を流し込んで硬度を増した魔鉄バットによる一撃。
当然並大抵の方法ではダメージを減らす事すら出来ないだろう。
反射的に目の前で腕を交差させ、防御態勢を取ったマッスルキャットだが、俺はその腕ごと魔鉄バットでへし折り、その脳天を叩き割った。
ひしゃげる頭蓋、飛び散る血飛沫。それはまさに、割れたザクロを彷彿とさせる光景だった。
うん、やり過ぎた。まさかこんな事になるとは。
不幸中の幸いは、納品素材の爪は傷一つ付いていない事か。
「カイトさん……」
「カイト君……」
二人の視線が痛い。まるで、弱い物いじめの現場を目撃したクラスメイトの様な視線だ。誤解だ。誤解なんだ二人共!
「「やり過ぎ」」
「はい、反省しています」
だが、俺の思いは二人には伝わらなかった様だ。
まあ今回は最初から最後まで全面的に俺が悪いので、素直に謝っておかないと。
「はぁっ。まあ、爪は綺麗に残ってるみたいですし、今回は許します」
「マ、マリー」
こんなにあっさり許してくれるなんて! マリーの背後に天使の羽が見える気がするよ!
「きちんと反省するんだぞ、カイト君」
「フーリも!?」
フーリまでこんなにあっさり許してくれるとは。え? 何か二人共妙に優しくない?
そういえば、二人は十五層までは潜った事があるんだよな? って事は、この階層の事ももちろん知ってた筈だよな?
その上で、こんなにあっさり許してくれるという事は……。
「なあ、もしかしてだけど、二人も同じ事を」
「さあ、気を取り直して探索再開だ!」
「カイトさん、まだまだ九層の探索は始まったばかりですよ!」
俺がふと気になった事を二人に尋ねようとしたのだが、二人は誤魔化す様に声を上げ、そのまま先へと進み始めてしまった。
うん、アレは多分クロだな。
きっと二人も以前似たような事をしたに違いない。
だからあんなにかわいい猫ちゃんを見ても、全く動揺しなかったのか。おかしいと思ったんだよな。あんなにかわいい猫ちゃんなのに、全然反応しないんだもん。
「カイトさん? 何してるんですか? 置いて行っちゃいますよ!」
「ああ、すぐ行く!」
俺はとりあえずストレージにマッスルキャットの死骸と魔石を収納し、二人の後を追いかけた。
これを後で分解すれば、素材も綺麗に分けられる。
俺が小走りで駆け出した所、二人は少し先で俺が来るのを待っていてくれた。
「さあ、気を引き締めて、探索再開だ!」
「「おーっ!」」
フーリの事言葉に、俺達は全く同じ返事を返す。
さあ、探索再開だ。
その後、探索する事数時間。出て来る魔物はマッスルキャットばかり。
最初こそ、その可愛らしい見た目に騙されていたが、何度か戦いを続けていく内に、すっかり慣れてしまった。
といっても、そのまま倒すなんて真似はまだ出来ないんだけど。
だが、アイツらは変身を解除すればただの魔物でしかない。
そうなれば、俺も倒すのに何の躊躇いはなくなる。
俺はマッスルキャットにわざと変身を解除させた上で、それを倒すというやり方を繰り返していた。
「まあ、カイトさんらしいと言えばらしいんですけど」
「敵をわざと強くして戦うなんて……いや、そうか。その発想は無かったな。敵を強くして戦う、か」
「姉さん!? 何考えてるの!?」
俺の戦い方を見ていたフーリが、物騒な事を考えている様だ。
そう言えば、北の平原でもオーガ相手に楽しそうに戦っていたっけ?
そういえばフーリは強い相手と戦うのが好きなんだったと、今になって思い出した。
「出来れば九層はさっさと踏破したいものだな」
だからといって、俺は必要以上にマッスルキャットと戦いたいとは思えない。
こんな階層、さっさ踏破するに限る。
と、その時だった。
「グルルルルッ!」
「「「っ!?」」」
こちらを威嚇する様な、重低音の唸り声が突然聞こえてきた。
反射的に姿勢を低くして身構える。
そのまま周囲を警戒していると、近くの木の上。木の葉の隙間からこちらを睨み付ける、二つの鋭い眼光を見つけた。
「上だ!」
それを見つけると同時に、二人にその存在を知らせる。
ガササッ
だが、二人がそっちに視線を向けるよりも早く、そいつは木の上から飛び降りてきた。
大地を踏みしめる、大きくしなやか足。人の顔程度なら完全に覆い隠せる程大きな手。そしてそれらから伸びる、どんな物でも切り裂けそうな鋭い爪。
今まで見てきたマッスルキャットよりも一回り小さいが、ヤバさはその比ではなさそうだ。
巨大という訳ではないが、無駄のない引き締まった筋肉が、その力強さを物語っている。
全身を覆う黄色い体毛には、所々に黒い縞模様が入っている。まるで、虎が二本の足で立っているかのようだ。
空想上の生き物だが、これと似た生物に、二足歩行の狼――ワーウルフという生物がいるが、それ風に言うなら、これは「ワ―タイガー」とでも呼ぶべきか。
「マッスルキャットの特殊個体……」
「これはまた、大物が出てきたものだ」
二人はこの魔物をマッスルキャットの特殊個体だと言っている。
そうか、こいつ特殊個体なのか。
「相手にとって不足はないな」
フーリは腰に差したミスリルの剣を抜き、ワ―タイガーに向けて構えた。
「あ、待って!」
二人に邪魔させまいと意識をそっちに集中していたら、猫ちゃんがモフモフ拘束――略してモフ束の一瞬の隙をついて、俺の腕の中から離れて行ってしまった。
ああ、もっとモフモフしていたかった……。
猫ちゃんは木の上まで跳躍すると、一度態勢を立て直し、凄まじい眼光で俺を睨み付けてきた。
あ、やべ。めっちゃ怒ってる。
「反省して下さい、カイトさん」
「そうだぞ。相手は一応魔物なんだ。油断するな」
二人に咎められ、俺は今の自分の行いを振り返る。
……うん、流石にやり過ぎたな。
「次からはもっと優しく撫でる所から挑戦してみるよ」
「そういう意味じゃありません!」
「油断しすぎだと言ったんだ! 何度も言うが、相手は魔物なんだぞ!」
「うっ。わ、悪かったって」
即座に怒鳴り返され、俺は謝る事しか出来なかった。
ま、まあ、二人の言いたい事も分かる。魔物相手にモフモフするのは危険だって言いたいんだろう。
確かにそれは一理ある。
でも、だからといってアレと戦うのはなぁ。
「猫ちゃんを傷つけるなんて、俺に出来るかな?」
もっと魔物然としていてくれたら、俺も躊躇いなく戦えたかもしれない。でも、アレはほとんど猫だ。
二足歩行で歩く、大きな猫にしか見えない。そんなのと戦えだなんて。
「だが、アレを倒さないと素材は手に入らないし、九層も踏破出来ない。覚悟を決めるんだ、カイト君」
「そうですよ。相手は魔物なんです。躊躇ってはいけません」
二人は各々自分の武器を手に持ち、臨戦態勢を取っている。
「覚悟を決めるしかないのか?」
俺はストレージから魔鉄バットを取り出し、それを構える。
敵は猫ちゃん……いや、マッスルキャットという名の魔物なんだ。迷ってたら俺達がやられる。覚悟を決めるんだ、近衛かい……。
「ギニャッ、ギッ、ゲッ、グッ、グオニャァァァァッ!」
突如起こる悲劇。いや、俺にとってはある意味喜劇なのか?
ついさっきまでモフモフで可愛らしい見た目をしていたマッスルキャットが、突然体を丸めたと思ったら、次の瞬間体が肥大化。見るも無残な全身筋肉だるまの、醜い化け物へと姿を変えてしまっていた。
その姿は、奇しくも俺が最初に想像していたマッスルキャットの姿に酷似している。
「ちっ、変身を解かれてしまったか」
「ああなると戦闘能力が増すんですよね。出来れば変身を解く前に仕留めたかったけど」
変身を解く?
え? つまり、今までの姿は仮の姿で、こっちがマッスルキャットの本当の姿なのか?
どうやら二人はあの猫ちゃん……否、マッスルキャットの本当の姿を知っていた様だ。そりゃそうか。二人は十五層まで潜った事があるのだから、知ってて当然だ。
だからあんなに冷静でいられたのか。
俺もアレがマッスルキャットの本来の姿だと分かれば、迷いはなくなる。全力で戦える! 否、俺を騙していた分の恨みも込めて、全力を超えた力すら出せる!
「はっ!」
俺は跳躍で真上に跳び上がり、上空からマッスルキャットの姿を視界に収めると、そのまま足の裏から炎を噴射し、人間ロケットでマッスルキャットに向かって突っ込んだ。
そのまま魔鉄バットを振り上げ、マッスルキャット目掛けて全力で振り下ろす。
人間ロケットによる加速。更に身体強化と剛力、そして筋力強化の重ね掛けに加えて、魔力を流し込んで硬度を増した魔鉄バットによる一撃。
当然並大抵の方法ではダメージを減らす事すら出来ないだろう。
反射的に目の前で腕を交差させ、防御態勢を取ったマッスルキャットだが、俺はその腕ごと魔鉄バットでへし折り、その脳天を叩き割った。
ひしゃげる頭蓋、飛び散る血飛沫。それはまさに、割れたザクロを彷彿とさせる光景だった。
うん、やり過ぎた。まさかこんな事になるとは。
不幸中の幸いは、納品素材の爪は傷一つ付いていない事か。
「カイトさん……」
「カイト君……」
二人の視線が痛い。まるで、弱い物いじめの現場を目撃したクラスメイトの様な視線だ。誤解だ。誤解なんだ二人共!
「「やり過ぎ」」
「はい、反省しています」
だが、俺の思いは二人には伝わらなかった様だ。
まあ今回は最初から最後まで全面的に俺が悪いので、素直に謝っておかないと。
「はぁっ。まあ、爪は綺麗に残ってるみたいですし、今回は許します」
「マ、マリー」
こんなにあっさり許してくれるなんて! マリーの背後に天使の羽が見える気がするよ!
「きちんと反省するんだぞ、カイト君」
「フーリも!?」
フーリまでこんなにあっさり許してくれるとは。え? 何か二人共妙に優しくない?
そういえば、二人は十五層までは潜った事があるんだよな? って事は、この階層の事ももちろん知ってた筈だよな?
その上で、こんなにあっさり許してくれるという事は……。
「なあ、もしかしてだけど、二人も同じ事を」
「さあ、気を取り直して探索再開だ!」
「カイトさん、まだまだ九層の探索は始まったばかりですよ!」
俺がふと気になった事を二人に尋ねようとしたのだが、二人は誤魔化す様に声を上げ、そのまま先へと進み始めてしまった。
うん、アレは多分クロだな。
きっと二人も以前似たような事をしたに違いない。
だからあんなにかわいい猫ちゃんを見ても、全く動揺しなかったのか。おかしいと思ったんだよな。あんなにかわいい猫ちゃんなのに、全然反応しないんだもん。
「カイトさん? 何してるんですか? 置いて行っちゃいますよ!」
「ああ、すぐ行く!」
俺はとりあえずストレージにマッスルキャットの死骸と魔石を収納し、二人の後を追いかけた。
これを後で分解すれば、素材も綺麗に分けられる。
俺が小走りで駆け出した所、二人は少し先で俺が来るのを待っていてくれた。
「さあ、気を引き締めて、探索再開だ!」
「「おーっ!」」
フーリの事言葉に、俺達は全く同じ返事を返す。
さあ、探索再開だ。
その後、探索する事数時間。出て来る魔物はマッスルキャットばかり。
最初こそ、その可愛らしい見た目に騙されていたが、何度か戦いを続けていく内に、すっかり慣れてしまった。
といっても、そのまま倒すなんて真似はまだ出来ないんだけど。
だが、アイツらは変身を解除すればただの魔物でしかない。
そうなれば、俺も倒すのに何の躊躇いはなくなる。
俺はマッスルキャットにわざと変身を解除させた上で、それを倒すというやり方を繰り返していた。
「まあ、カイトさんらしいと言えばらしいんですけど」
「敵をわざと強くして戦うなんて……いや、そうか。その発想は無かったな。敵を強くして戦う、か」
「姉さん!? 何考えてるの!?」
俺の戦い方を見ていたフーリが、物騒な事を考えている様だ。
そう言えば、北の平原でもオーガ相手に楽しそうに戦っていたっけ?
そういえばフーリは強い相手と戦うのが好きなんだったと、今になって思い出した。
「出来れば九層はさっさと踏破したいものだな」
だからといって、俺は必要以上にマッスルキャットと戦いたいとは思えない。
こんな階層、さっさ踏破するに限る。
と、その時だった。
「グルルルルッ!」
「「「っ!?」」」
こちらを威嚇する様な、重低音の唸り声が突然聞こえてきた。
反射的に姿勢を低くして身構える。
そのまま周囲を警戒していると、近くの木の上。木の葉の隙間からこちらを睨み付ける、二つの鋭い眼光を見つけた。
「上だ!」
それを見つけると同時に、二人にその存在を知らせる。
ガササッ
だが、二人がそっちに視線を向けるよりも早く、そいつは木の上から飛び降りてきた。
大地を踏みしめる、大きくしなやか足。人の顔程度なら完全に覆い隠せる程大きな手。そしてそれらから伸びる、どんな物でも切り裂けそうな鋭い爪。
今まで見てきたマッスルキャットよりも一回り小さいが、ヤバさはその比ではなさそうだ。
巨大という訳ではないが、無駄のない引き締まった筋肉が、その力強さを物語っている。
全身を覆う黄色い体毛には、所々に黒い縞模様が入っている。まるで、虎が二本の足で立っているかのようだ。
空想上の生き物だが、これと似た生物に、二足歩行の狼――ワーウルフという生物がいるが、それ風に言うなら、これは「ワ―タイガー」とでも呼ぶべきか。
「マッスルキャットの特殊個体……」
「これはまた、大物が出てきたものだ」
二人はこの魔物をマッスルキャットの特殊個体だと言っている。
そうか、こいつ特殊個体なのか。
「相手にとって不足はないな」
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