見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~
二十八話
それから一週間の時が過ぎた。
思えば一週間も休みを取ったのなんて、学生の時以来かもしれない。いや、かもしれないじゃなく、間違いなくそうだ。
社会人になって初めての長期休暇を、まさか異世界で取る事になるなんて。あの頃は夢にも思わなかったな。
だが、やはり休みとは良い物だ。
朝は寝坊しても誰に咎められる事もなく、好きな時間にゆっくり飯が食べられる幸せ。寝たい時に寝て、起きたい時に起きる。穏やかに過ぎていく時間を、のんびりと過ごす。
久しぶりに味わってなかった感覚だった。
だが、どんな事にも、終わりは必ず訪れるもの。
「さあ、早速ガンツ武具店に行くぞ」
「新しい防具。楽しみですね、カイトさん!」
「あ、ああ、そうだな」
ガンツ武具店に防具作成を依頼して、今日で丁度一週間。防具が完成する予定日だ。そして、夢の終わりでもある。
「俺の休み、終わっちゃった」
「ん? ええ、そうですね?」
俺の呟きが聞こえたのか、マリーが小首を傾げながら、不思議そうに返事を返してくれた。うん、まあそういう反応になるよね。言いたかっただけ。
「ごめん、なんでもないんだ。気にしないでくれ」
「はあ、そうですか?」
俺がそう答えると、マリーは特に言及してくる事もなかった。
「二人共、何をしている? 置いて行くぞ」
「あ、待ってよ姉さん!」
フーリが少し先を歩きながら後ろを振り返り、俺達を急かしてきて、それにマリーが慌てて小走りで駆け寄り。
「……はっ! お、俺も! 置いて行かないでくれ!」
二人の姿が俺から徐々に遠ざかり始めているのに気付き、慌てて二人の後を追いかけ、なんとか追いつく事が出来た。
危ない、もう少しで置いてけぼりをくらう所だった。
そのまま歩く事十数分、俺達はガンツ武具店の前に立っていた。
「どんな仕上がりになっているか、今から楽しみだな」
フーリはまるで子供の様に無邪気な笑顔を浮かべており、防具が楽しみで仕方がないと言った様子だ。
でも、確かフーリはインナーだけしか頼んでなかったよな?
「インナーだけなのに、そんなに楽しみなのか?」
「ガンツさんの腕は確かだからな。例えインナーだけとはいえ、楽しみなのには変わりないさ」
俺がフーリに尋ねると、フーリは心底楽しみだといった調子で答えた。
まあ、確かにあのガンツさんの事だ。きっとインナーだけでもかなりの物を用意してくれているに違いない。
「さあ、とりあえず入ろうか」
フーリはそのままガンツ武具店の扉を開き、さっさと中へ入って行ってしまった。
「さあ、私達も行きましょう」
「そうだな」
俺とマリーもフーリの後に続き、ガンツ武具店の扉を開き。
「「「こんにちは!」」」
店内に入って開口一番、三人同時に挨拶すると、店の奥からガンツさんが姿を現した。相変わらず片手にハンマーを握り、作業着を着た職人スタイルで。
「いらっしゃい! って、なんだ、お前達か」
来店早々随分なご挨拶を頂きました。
「なんだはないでしょう、ガンツ殿。折角防具を受け取りに来たというのに」
「ん? おお、そうだったな。悪い悪い。もう出来てるから、ちょいと待ってな!」
だが、流石はガンツさん。多少口は悪いかもしれないが、仕事はきちんと間に合わせてくれたらしい。
ていうか、よく考えたら三人分の防具を一週間で仕上げるなんて、何気に凄いんじゃないか?
他の武具店を知らないから分からないけど。
……他の武具店か。全く考えなかった訳じゃないけど、果たしてどうなんだろうか?
ここに不満がある訳じゃないけど、これからずっとこの世界で冒険者として生きていくのなら、他の武具店の事も知っておいて損はないと思う。
「おう、待たせたな! ん? どうしたカイト?」
人が乗っても問題なく使えそうなぐらい大きい台車を押してきたガンツさんが、怪訝な表情で尋ねてきた。
「え? あ、いや、別にどうもしませんよ。ははっ」
俺はそれに適当な言い訳を返しつつ、乾いた笑いを上げていた。
まさか「他の武具店の事を考えてい」たなんて言える筈もない。
「そうか? ならいいんだけどよ。それより見てみろ。これが注文の品だ。間違いないか確認してみてくれ」
ガンツさんは台車の上に乗った品の中から、まずはインナーを三人分、俺達に手渡してきた。
それを受け取った瞬間、俺は驚愕に目を見開く。
魔鉄で作って貰った筈なのに、手触りが全く金属っぽくないのだ。それに全然重くない。
まるで普段着でも持っているかの様な手触り。そして軽さだ。魔鉄で出来てるって言われないと気付かないぐらい。
試しに魔力を流してみると、インナーは俺の魔鉄バットと同様に、淡い紫色の光を放ち始めた。
という事は、これは間違いなく魔鉄で出来ているという事になる。
二人の方に視線を向けてみると、俺と同じ様に驚いている様子だった。
「驚きました。魔鉄で出来ているとは思えないぐらいの軽さと手触りですね。並大抵の腕ではこうはいきませんよ」
フーリがインナーを手に持ちながら、ガンツさんに賞賛の言葉を送っている。確かに俺も同じ事を思った。
けど「並大抵の腕では」か。それはつまり、ガンツさんの腕は、少なくともその「並大抵」以上という事になる。
職人の腕が現れる作品。この魔鉄インナーは、まさにそれなんだろう。
「気に入って貰えたようで何よりだ。マリーの嬢ちゃんとカイトはどうだ? 気に入ったか?」
「はい。コレ、凄く良さそうですね」
「俺も。こんなに軽いなんて思ってもみませんでしたよ」
これなら防具を身に付けているというより、服を着ているという感覚が強いだろう。俺としては重鎧なんかよりもそっちの方が扱いやすいから助かる。
「そうだろうそうだろう! がっはっはっはっはっ!」
ガンツさんは俺達が気に入った事に満足したのか、実に愉快そうに豪快に笑い始めた。
「さあ、インナーの方はこれでいいとして、カイト。お前さんには鎖帷子とプレートもあるからな。こっちも確認してくれ」
「あ、はい。そうでしたね」
そう言うとガンツさんは、最初に鎖帷子を手に取り、俺に手渡してきた。
それは俺が一週間前まで使っていた鎖帷子と同じ物の様に見えたが、心なしか目が
細かくなっている気がする。
そして更に、顔以外の頭全体を覆う、ヘルメットの様な物まで用意してあるが、俺こんなの頼んでたっけ?
「ガンツさん、コレは?」
「おう、それな。お前さん、兜は持ってないだろ? それがちょっと気がかりでな。だから、いらんお節介かもしれないが、俺の方で勝手に作らせて貰った。もちろん、ソレの代金はいらねえからな!」
「え? いや、そんな。悪いですよ」
なんとガンツさんは、俺の事を心配してコレを用意してくれた様だ。
しかも代金はいらないという。俺を心配して用意してくれたのに、それは流石にガンツさんに悪い。
「なあに、気にすんな! 聞けば、カイトはCランクに昇級したって話じゃないか。それは俺からのお祝いだ! 是非使ってやってくれ!」
「ガンツさん……」
ガンツさんは二ッと笑い、親指を立てる。その行動に、ちょっとグッときてしまった。
この世界に来て大体三週間程。たったそれだけの期間なのに、こうも俺に優しくしてくれる人達に出会えるなんて。
「ありがとうございます、ガンツさん。大切にしますね!」
「おうよ! まあ防具は壊れてなんぼだ。修理が必要な時はいつでも来な。まあ、その時は修理代を貰うがな! がっはっはっはっはっ!」
ガンツさんはまたも豪快に笑い、俺の肩を叩く。ああ、本当にいい人だな、ガンツさんは。
「よし、なら鎖帷子も問題なし、と。じゃあ最後にコレを確認してくれ」
ガンツさんは台車から最後の一つ、魔鉄で作られたプレートを差し出してきた。
それは、胸と鳩尾の辺りを綺麗に覆う様な形状をしている。それが二枚、ベルトで固定できる様に作られていた。
これは、プレートというよりも軽鎧に近い気がするんですけど。
そう思い、ガンツさんに尋ねてみると「でも、動きに支障はないだろ?」と言われた。
うん、確かに動きには全く支障はなさそうだ。
これにも試しに魔力を流してみると、やはり紫色の輝きを放つプレート……もとい軽鎧。これなら文句はないな。
俺はガンツさんに問題ない事を告げると、それらを全部ストレージに仕舞った。
思えば一週間も休みを取ったのなんて、学生の時以来かもしれない。いや、かもしれないじゃなく、間違いなくそうだ。
社会人になって初めての長期休暇を、まさか異世界で取る事になるなんて。あの頃は夢にも思わなかったな。
だが、やはり休みとは良い物だ。
朝は寝坊しても誰に咎められる事もなく、好きな時間にゆっくり飯が食べられる幸せ。寝たい時に寝て、起きたい時に起きる。穏やかに過ぎていく時間を、のんびりと過ごす。
久しぶりに味わってなかった感覚だった。
だが、どんな事にも、終わりは必ず訪れるもの。
「さあ、早速ガンツ武具店に行くぞ」
「新しい防具。楽しみですね、カイトさん!」
「あ、ああ、そうだな」
ガンツ武具店に防具作成を依頼して、今日で丁度一週間。防具が完成する予定日だ。そして、夢の終わりでもある。
「俺の休み、終わっちゃった」
「ん? ええ、そうですね?」
俺の呟きが聞こえたのか、マリーが小首を傾げながら、不思議そうに返事を返してくれた。うん、まあそういう反応になるよね。言いたかっただけ。
「ごめん、なんでもないんだ。気にしないでくれ」
「はあ、そうですか?」
俺がそう答えると、マリーは特に言及してくる事もなかった。
「二人共、何をしている? 置いて行くぞ」
「あ、待ってよ姉さん!」
フーリが少し先を歩きながら後ろを振り返り、俺達を急かしてきて、それにマリーが慌てて小走りで駆け寄り。
「……はっ! お、俺も! 置いて行かないでくれ!」
二人の姿が俺から徐々に遠ざかり始めているのに気付き、慌てて二人の後を追いかけ、なんとか追いつく事が出来た。
危ない、もう少しで置いてけぼりをくらう所だった。
そのまま歩く事十数分、俺達はガンツ武具店の前に立っていた。
「どんな仕上がりになっているか、今から楽しみだな」
フーリはまるで子供の様に無邪気な笑顔を浮かべており、防具が楽しみで仕方がないと言った様子だ。
でも、確かフーリはインナーだけしか頼んでなかったよな?
「インナーだけなのに、そんなに楽しみなのか?」
「ガンツさんの腕は確かだからな。例えインナーだけとはいえ、楽しみなのには変わりないさ」
俺がフーリに尋ねると、フーリは心底楽しみだといった調子で答えた。
まあ、確かにあのガンツさんの事だ。きっとインナーだけでもかなりの物を用意してくれているに違いない。
「さあ、とりあえず入ろうか」
フーリはそのままガンツ武具店の扉を開き、さっさと中へ入って行ってしまった。
「さあ、私達も行きましょう」
「そうだな」
俺とマリーもフーリの後に続き、ガンツ武具店の扉を開き。
「「「こんにちは!」」」
店内に入って開口一番、三人同時に挨拶すると、店の奥からガンツさんが姿を現した。相変わらず片手にハンマーを握り、作業着を着た職人スタイルで。
「いらっしゃい! って、なんだ、お前達か」
来店早々随分なご挨拶を頂きました。
「なんだはないでしょう、ガンツ殿。折角防具を受け取りに来たというのに」
「ん? おお、そうだったな。悪い悪い。もう出来てるから、ちょいと待ってな!」
だが、流石はガンツさん。多少口は悪いかもしれないが、仕事はきちんと間に合わせてくれたらしい。
ていうか、よく考えたら三人分の防具を一週間で仕上げるなんて、何気に凄いんじゃないか?
他の武具店を知らないから分からないけど。
……他の武具店か。全く考えなかった訳じゃないけど、果たしてどうなんだろうか?
ここに不満がある訳じゃないけど、これからずっとこの世界で冒険者として生きていくのなら、他の武具店の事も知っておいて損はないと思う。
「おう、待たせたな! ん? どうしたカイト?」
人が乗っても問題なく使えそうなぐらい大きい台車を押してきたガンツさんが、怪訝な表情で尋ねてきた。
「え? あ、いや、別にどうもしませんよ。ははっ」
俺はそれに適当な言い訳を返しつつ、乾いた笑いを上げていた。
まさか「他の武具店の事を考えてい」たなんて言える筈もない。
「そうか? ならいいんだけどよ。それより見てみろ。これが注文の品だ。間違いないか確認してみてくれ」
ガンツさんは台車の上に乗った品の中から、まずはインナーを三人分、俺達に手渡してきた。
それを受け取った瞬間、俺は驚愕に目を見開く。
魔鉄で作って貰った筈なのに、手触りが全く金属っぽくないのだ。それに全然重くない。
まるで普段着でも持っているかの様な手触り。そして軽さだ。魔鉄で出来てるって言われないと気付かないぐらい。
試しに魔力を流してみると、インナーは俺の魔鉄バットと同様に、淡い紫色の光を放ち始めた。
という事は、これは間違いなく魔鉄で出来ているという事になる。
二人の方に視線を向けてみると、俺と同じ様に驚いている様子だった。
「驚きました。魔鉄で出来ているとは思えないぐらいの軽さと手触りですね。並大抵の腕ではこうはいきませんよ」
フーリがインナーを手に持ちながら、ガンツさんに賞賛の言葉を送っている。確かに俺も同じ事を思った。
けど「並大抵の腕では」か。それはつまり、ガンツさんの腕は、少なくともその「並大抵」以上という事になる。
職人の腕が現れる作品。この魔鉄インナーは、まさにそれなんだろう。
「気に入って貰えたようで何よりだ。マリーの嬢ちゃんとカイトはどうだ? 気に入ったか?」
「はい。コレ、凄く良さそうですね」
「俺も。こんなに軽いなんて思ってもみませんでしたよ」
これなら防具を身に付けているというより、服を着ているという感覚が強いだろう。俺としては重鎧なんかよりもそっちの方が扱いやすいから助かる。
「そうだろうそうだろう! がっはっはっはっはっ!」
ガンツさんは俺達が気に入った事に満足したのか、実に愉快そうに豪快に笑い始めた。
「さあ、インナーの方はこれでいいとして、カイト。お前さんには鎖帷子とプレートもあるからな。こっちも確認してくれ」
「あ、はい。そうでしたね」
そう言うとガンツさんは、最初に鎖帷子を手に取り、俺に手渡してきた。
それは俺が一週間前まで使っていた鎖帷子と同じ物の様に見えたが、心なしか目が
細かくなっている気がする。
そして更に、顔以外の頭全体を覆う、ヘルメットの様な物まで用意してあるが、俺こんなの頼んでたっけ?
「ガンツさん、コレは?」
「おう、それな。お前さん、兜は持ってないだろ? それがちょっと気がかりでな。だから、いらんお節介かもしれないが、俺の方で勝手に作らせて貰った。もちろん、ソレの代金はいらねえからな!」
「え? いや、そんな。悪いですよ」
なんとガンツさんは、俺の事を心配してコレを用意してくれた様だ。
しかも代金はいらないという。俺を心配して用意してくれたのに、それは流石にガンツさんに悪い。
「なあに、気にすんな! 聞けば、カイトはCランクに昇級したって話じゃないか。それは俺からのお祝いだ! 是非使ってやってくれ!」
「ガンツさん……」
ガンツさんは二ッと笑い、親指を立てる。その行動に、ちょっとグッときてしまった。
この世界に来て大体三週間程。たったそれだけの期間なのに、こうも俺に優しくしてくれる人達に出会えるなんて。
「ありがとうございます、ガンツさん。大切にしますね!」
「おうよ! まあ防具は壊れてなんぼだ。修理が必要な時はいつでも来な。まあ、その時は修理代を貰うがな! がっはっはっはっはっ!」
ガンツさんはまたも豪快に笑い、俺の肩を叩く。ああ、本当にいい人だな、ガンツさんは。
「よし、なら鎖帷子も問題なし、と。じゃあ最後にコレを確認してくれ」
ガンツさんは台車から最後の一つ、魔鉄で作られたプレートを差し出してきた。
それは、胸と鳩尾の辺りを綺麗に覆う様な形状をしている。それが二枚、ベルトで固定できる様に作られていた。
これは、プレートというよりも軽鎧に近い気がするんですけど。
そう思い、ガンツさんに尋ねてみると「でも、動きに支障はないだろ?」と言われた。
うん、確かに動きには全く支障はなさそうだ。
これにも試しに魔力を流してみると、やはり紫色の輝きを放つプレート……もとい軽鎧。これなら文句はないな。
俺はガンツさんに問題ない事を告げると、それらを全部ストレージに仕舞った。
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