見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

二十五話

「お待たせしました。こちら、チーズとチョコの欲張りケーキセット。そして紅茶でございます」

 店員は俺の前にチーズケーキとチョコレートケーキの乗った皿を置くと、今度はマリーの方に視線を向け。

「それで、こちらが、その……えぇ、これ頼む人とかマジでいるんだ。信じらんねぇ」

 小声でぼそぼそと呟いているが、全部丸聞こえなんだよなぁ。聞こえた上で、全面的に同意する。

 ちなみにマリーは店員が持つトレイに乗っている「アレ」に目を奪われ、聞いていなかった様だ。

「……オイ椎茸パフェと紅茶になります!」

 両目を瞑り、マリーの目の前にパフェと紅茶を置く店員。目を瞑ってるのに器用だな。

「それでは、ごゆっくりどうぞ!」

 そう一言だけ告げると、そそくさとその場から立ち去っていく店員。後に残されたのは俺とマリーの二人だけ。
 テーブルの上には俺達が注文したメニューが並んでいる。

 オイ椎茸パフェというのは、文字通り普通のパフェの上にオイ椎茸が乗っているだけのパフェに見える。

 いや、パフェの上にオイ椎茸って時点で「だけ」と言って良いのか分からないが。とにかく見た目のインパクトはかなりのものだ。
 食べたいとは思わないけど。

「さあさあ、カイトさん! 早速頂きましょうか!」
「え? あ、ああ。そうだな」

 俺がそんな事を考えていると、逆に食べたくて仕方がないといった様子のマリーに促された。
 いや、これを見て食欲が湧いてくるのはおかしい気がするけど。

「いただきます」

 マリーは速攻でオイ椎茸パフェにスプーンを突っ込み、それを一掬い。

「ああ、夢みたい! 料理にオイ椎茸を使う事のは普通ですけど、パフェに使うって発想はありませんでしたよ!」

 マリーが感心したように何度も頷き褒めているが、俺はむしろそんな発想をした奴をぶん殴ってやりたい衝動に駆られた。

 何故かというと、俺も昔とんでもないパフェを食べたことがあるからだ。その名も「納豆パフェ」という、世にもおぞましい代物。
 当時俺は高校生で、妹の光は小学生だった。

 母さんに連れられて入った店で「ソレ」を見つけた母さんは、迷わずソレを注文。
 届いたパフェを見た時はテンションも最高潮だった。
 ちなみに光は幼いながらもソレの危険性を察知したのか、終始苦笑いを浮かべていた。

 母さんはそのテンションそのままに納豆パフェを頬張り……次の瞬間トイレへと猛ダッシュしていった。
 そりゃそうだ。納豆とパフェが合う筈がない。どう考えてもネタスイーツ枠だ。

 俺はそこで笑いがこみ上げてきて、我慢しきれず大笑いしてしまった。その後起こるであろう悲劇を考えもせずに。

 母さんは笑い続ける俺に、笑顔で納豆パフェを食べる様命令してきたのだ。とんでもない母親である。

 もちろん拒否したのだが、そこは流石の母さん。おもむろにカバンの中に手を突っ込むと、中なら何故か俺の日記帳(黒歴史)を取り出し、声に出して朗読するという暴挙に出ようとした。

 もちろんそんな俺に拒否権などある訳もなく。俺は吐きそうになるのをなんとかこらえながら納豆部分を完食し、口直しのパフェの部分を食べようとした所、母さんに奪われるという悲劇を味わった。

 長々と語ってしまったが、言いたい事はただ一つ。あんなのが旨い訳ない 

 だが、そんな俺の心の声が届く筈もなく、マリーはオイ椎茸パフェをス山盛り掬ったスプーンを見つめ、それを思いっきり頬張り……喜色満面だったマリーの顔は、みるみる内に真っ青になっていった。

 あ、デジャヴ。
 が、マリーは涙目になりながらもゆっくりと咀嚼。
 ごくんと喉を鳴らして飲み込むと、すぐさま紅茶を手に取り口の中に流し込んだ。

 熱すぎずぬる過ぎない紅茶は、マリーが舌を火傷する事なく飲み干すには最適だったようだ。
 そのまま一息に紅茶を飲み干したマリーは、俺に視線を向けて一言。

「こ、これはオイ椎茸ではありません」

 などという世迷言をのたまい始めた。

「オイ椎茸だよ! どこからどう見ても、これは純然たるオイ椎茸!」

 思わずツッコミを入れてしまったが、俺は間違っていない筈だ。
 これはどこからどう見てもオイ椎茸であり、それ以外の何物でもない。ちなみに下はパフェ。これも事実だ。

 俺がツッコむと、マリーはその瞳にみるみる涙を溜めていき。

「絶対……美味しいと、思ったんです」

 そう、涙ながらに口にした。
 ……え、もしかしなくても泣いてる?
 慌てて周りを見回してみると、数少ない他の客が、全員俺に視線を集中していた。

 その視線には、俺を非難する様な色が明らかに籠っている。
 え、俺? これって俺が悪いの? 俺悪くなくない?

 なんというアウェー。俺は絶対悪くない筈なのに、何故か俺が悪い様な空気が流れている。
 これはどうしたもんかと、ひとしきり考えた後。

「マリー」
「ぐすっ。なんですか?」

 俺が名前を呼ぶと、涙声で返事をするマリー。そんなにショックだったのか。

「とりあえず、俺のケーキ一つ分けてあげるから、元気出せよ」

 俺は欲張りケーキセットの内、チーズケーキをマリーに差し出した。

「……え? いえいえそんな、悪いです!」

 一瞬の沈黙の後、状況に理解が追い付いたのか、両手を振って遠慮するマリーだが、俺はそんなマリーの目の前にズイッとチーズケーキを差し出し。

「いいから、ほら、代わりにこっちは俺が貰うぞ」

 そう言ってマリーから半ばひったくる様な形で受け取ったのはオイ椎茸パフェ。
 こいつさえ何とかすれば、それで全て解決だ。

「カイトさん、流石にそれは私もオススメ出来ないというか、はっきり言って――美味しくないですよ?」

 マリーは苦虫でも噛み潰したかの様な表情で、とても言いたくない事を、仕方なく言う様に告げてきた。

「うん、それは見てたから知ってる」
「それじゃあ何で……」

 マリーの言葉がそこでいったん途切れる。何をどう言おうか考えている様だ。

「まあ見てなって。面白い事を考えたから。」

 俺は笑顔でマリーにそう告げると、再びオイ椎茸パフェに視線を移した。
 目の前にあるのは、普通のフルーツパフェのフルーツの部分を全てオイ椎茸に変更し、天辺には香ばしく焼いたであろうオイ椎茸を丸々一つ乗せているパフェである。

 いや本当、わざわざパフェにしなくても、別々に食べた方が絶対に旨いに決まってるのに、何でこんな業の深い事をしてしまったのか。

 と、そんな事はさておき。

「収納」

 俺は目の前の危険物を一度ストレージに収納した。俺の考えが正しければ、これでいける筈なんだけど。
 ストレージ画面を開き、オイ椎茸パフェの名前を探すと。

「お、あったあった」

 そこにはオイ椎茸パフェの名前があった。
 すぐさまそれを選択し、分解のコマンドを使用してみると、オイ椎茸パフェを「オイ椎茸」と「フルーツパフェ」の二つに分ける事に成功。

「よっしゃぁ! 危険物の分離成功!」

 つい言葉に出して喜んでしまってから、慌てて自分の口を両手で覆った。
 幸いな事に、周囲の客は「俺が何をしているか」よりも「オイ椎茸パフェをどうするのか」の方が気になっているらしく、まともに聞いていなかった様だ。

「セーフ。ほら、マリー。これでどうよ?」

 俺はストレージの中から分解したオイ椎茸とパフェを取り出し、目の前に並べた。
 周囲にいる人達は、幸いこことは少し離れた席に座っており、俺が手元で何をしているのか、ハッキリ見えていない様であった。

「っ!? オイ椎茸パフェが……」

 そこから先は言葉にならない様である。
 マリーは驚きに満ちた表情でそれを眺め、おもむろにオイ椎茸に手を伸ばし、それを齧り。

「……美味しい」

 そう、呟いた。

「ありがとうございます、カイトさん! お礼にコレは半分こしましょう!」

 そう言うと、マリーはオイ椎茸を全て自分の方に寄せ、パフェを俺の方に差し出してきた。
 ……半分こ?

 まあ俺はオイ椎茸が食べたい訳じゃなかったから、別にいいけど。
 そのまま二人で半分こしたオイ椎茸パフェをそれぞれ堪能し、無事喫茶店を満喫する事が出来た。

 次からは注文する前に絶対止めよう。そう、心に誓った。まあ流石にマリーも二度と頼みはしないと思うけど……頼まないよね?

 ちなみにチョコレートケーキはかなり旨かった。こういう普通のメニューは旨いのに、何故あんなカルマを生み出してしまったのか。謎すぎる。

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