見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~
二十二話
「……れ……るの?」
誰かの声が聞こえる。まだ幼い、女の子の声だ。
それと同時に、鼻腔をくすぐるいい匂い。この匂いは……シチュー?
「……う、ん?」
その匂いに釣られ、まどろみの中にあった俺の意識は、徐々に覚醒しだした。
そうだ。俺は確か、酒場で晩飯を取らずに部屋に戻って、アミィが晩飯を用意してくれるまでの間、少しだけ寝ようと思ったんだったか。
「あ、お兄ちゃん、起きた?」
「……ん? ああ、アミィか。おふぁ、ふぁ~、んん」
おはようと言おうとして漏れた欠伸と涙。未だ眠い眼をこすりながら、ゆっくりとアミィに視線を移す。
「あはっ、お兄ちゃん、まだ眠そうだね。夕飯出来たけど、すぐ食べる?」
「……ん。ああ、食べる」
さっきから香るこのいい匂い。コレは多分シチューの匂いだ。アミィの傍には車輪の付いた台車の様な物――俗にいうキッチンワゴンが置かれており、そこには大きめの鍋とパンを入れたバスケットが置かれている。
「良かった。すぐ準備するね」
アミィはキッチンワゴンに乗せられた皿を一つ取ると、鍋の中身をそれによそい始めた。あの色、とろみ。やっぱりシチューで間違いないみたいだな。
部屋に備え付けられている簡素なテーブルの上にシチューとパンを準備し、俺の方を振り返るアミィ。
「さあ、準備出来たよ。栄養満点、キノコシチュー! さあ、どうぞ召し上がれ!」
アミィに引かれてテーブルに着くと、目の前にはいい匂いのシチューと焼き立てであろうパン。そしていつの間にかサラダまで用意してある。
このパン、もしかしてわざわざ焼いてくれたのか?
ぐぅ。
食欲をそそる内容に、思わず腹の虫も鳴いてしまった。
「ありがとう、アミィ。ありがたく頂くよ」
俺はすぐ傍に置かれていたスプーンを手に取り、目の前のシチューに視線を移し。
「いただきます」
この世界に来て初めて、食前の挨拶「いただきます」を言った。
うん、やっぱりこれを言わないとな。今まで飯の時間はイマイチ落ち着かなかったんだけど、これでしっくりきた。
「いただきます? お兄ちゃん、いただきますって?」
スプーンでシチューを掬って口に運ぼうとしていた所、アミィから今の言葉について尋ねられた。
うん、やっぱりアミィ……ていうか、多分この世界の人には馴染みのない言葉だよな。
「ああ、いただきますっていうのは、俺の故郷――異世界の食前の挨拶なんだ。やっぱりこれを言わないと、どうにも落ち着かなくてな」
アミィには俺が異世界の人間だという事は教えてあるし、正直に答えても問題ない。そもそも、こんな言葉一つでそこまで問題になるとも思えないし。
「へー、そうなんだ。いただきます、いただきます……」
アミィは小声で何度も「いただきます」と呟くと。
「うん、もう覚えたよ! いただきます!」
アミィはもう一組同じメニューを用意してから俺の対面に座ると「いただきます」と言った。
「アミィも今から晩飯なのか?」
「うん、お兄ちゃんと一緒に食べようと思って!」
満面の笑みでそう答えるアミィ。
まあ俺の看病をするって言ってたんだし、晩飯を一緒に食べるのは普通か。
そう思い、シチューを掬ったスプーンを口元に運び。
「お待たせしました! カイトさん、良い物を買ってきましたよ!」
そのまま口に入れる直前で停止した。
部屋の扉が「バァンッ!」という擬音が出そうなぐらい勢いよく開かれ、そこに立っていたのは。
「マ、マリー? ど、どうしたんだ? 何か用事があったんじゃ?」
さっき突然酒場から姿を消したマリーの姿がそこにあった。
よく見ると、その手には紙袋が握られている。さっきのマリーの口ぶりからして、それを買いに行っていたのだろうと思われる。
「はい、カイトさんの具合が良くなるようにと、ちょっと薬を買いに。なので、もう用事は済みました」
マリーはそう言って、紙袋の中から小さな瓶を取り出し。
「はい、カイトさん。これが薬です」
そう言って差し出してきた瓶の中には、見るからに怪しげなオーラを放つ、緑色の液体が詰まっていた。
緑色と聞くと、ポーションを思い出すかもしれないが、その液体はポーションとは似ても似つかない。
ポーションは薄緑色のサラッとした水の様な液体なのだが、これは違う。これは濃い深緑色の、ドロッとした液体である。いや、瓶の中の液体の動き。コレは液体というより、スライムに近いかもしれない。
そんな物が薬だって? 確かに良薬口に苦しとは言うが、限度って物があるだろう。
「な、なあ、マリー。コレは薬、なのか? 俺には新種のスライムみたいに見えるんだが」
「鋭いですね、カイトさん。何を隠そう、この薬にはヒールスライムの素材が使われてるんです!」
「マジでスライムなの!?」
冗談のつもりで言ったのに、まさかの正解。いや、正確にはスライムの素材を使って
るだけで、スライムではないのだろうけど。そんなの何の気休めにもならない。
アミィも黙って見てないで何か言ってくれ!
「コレ、まほう薬じゃないですか。高かったんじゃないですかコレ?」
アミィはソレを「まほう薬」と呼び、高かったのではないかとマリーに尋ねているだけだった。
え? 「まほう薬」ってなんぞ
「カイトさんは知らないかもしれませんが、これは「魔方薬」と言って、医者にかからずに病気を治す為の薬なんです。魔物の素材を使ってる事が多いので、魔方薬なんて名前で呼ばれてますけど、効き目はバッチリですよ!」
まだこの世界の事について詳しくない俺に、マリーが簡単に説明してくれた。
魔物の素材を使った「まほう薬」か。っていうか、それって漢方薬みたいな物か?
もしそうだとしたら、さしずめこれは「魔方薬」って所か。
「あ、ありがとう、マリー。でも、この見た目は流石になぁ」
効き目はバッチリでも、味がバッチリとは限らない。これ絶対、とんでもなく苦い奴だろ? 見たら分かるもん。
「大丈夫ですよ! 味の方も思った程悪くはないですから」
マリーは無い胸を張って太鼓判を押してくれたが、それが本当かどうかは……。
「はい、飲みます! 飲ませて頂きます!」
マリーの瞳から静かにハイライトが消えていた。恐らく俺が考えてた事が分かったのだろう。何でそんなに簡単にバレるんだ?
「カイトさん、視線には気を付けましょうね」
ニコッと、とても綺麗な、でもどこか恐ろしい笑顔を浮かべて注意してくるマリー。
そっか、視線か。考えた事もなかったな。男のチラ見は女のガン見とはよく言った物だ。今度から視線には気をつけよう。
マリーから薬の入った瓶を受け取り、蓋を取り外しながら、俺はそんな事を考えていた。
蓋を開けると、途端に異臭が……しない? 試しに瓶に鼻を近づけ、スンスンと臭いを嗅いでみたが、臭みは全くなかった。というか臭いその物がしなかった。
「ね? 変な臭いはしないでしょう?」
確かにマリーの言う通り、変な臭いはしない。だが味はどうだ?
今度は小指に液体を軽くつけ、それを舌で舐めとってみたが、味も全くしない。所謂無味無臭という奴だ。ドロッとはしてるけど。
これは驚いた。まさかこんな見た目で味も臭いもしないとは。
「ぷっ、あははははっ!」
「ふふっ、ア、アミィちゃん。カイトさんに、悪いよ。ふっ、ふふっ」
俺が魔方薬の確認をしていると、突然二人が俺の方を見ながら笑い始めた。
な、何だ? 俺、何か変な事でもしたか?
「ご、ごめんなさい。カイトさんの表情が、あんまりにもコロコロ変わるものだから」
ふふっ、と、笑いながら謝ってくるマリー。
「お、お兄ちゃんの百面相……ぷっ、あっはははは! すっごく面白かったよ!」
百面相? 俺が?
まあ確かに、臭いを嗅ぐ前と後で、大分心境に変化はあったけど、そんなに表情に出てたのか? でも、あの二人の笑い様を見るに、そうなんだろうな。
俺は二人が落ち着くまでの間、薬を飲まずに待ち続けるのだった。
誰かの声が聞こえる。まだ幼い、女の子の声だ。
それと同時に、鼻腔をくすぐるいい匂い。この匂いは……シチュー?
「……う、ん?」
その匂いに釣られ、まどろみの中にあった俺の意識は、徐々に覚醒しだした。
そうだ。俺は確か、酒場で晩飯を取らずに部屋に戻って、アミィが晩飯を用意してくれるまでの間、少しだけ寝ようと思ったんだったか。
「あ、お兄ちゃん、起きた?」
「……ん? ああ、アミィか。おふぁ、ふぁ~、んん」
おはようと言おうとして漏れた欠伸と涙。未だ眠い眼をこすりながら、ゆっくりとアミィに視線を移す。
「あはっ、お兄ちゃん、まだ眠そうだね。夕飯出来たけど、すぐ食べる?」
「……ん。ああ、食べる」
さっきから香るこのいい匂い。コレは多分シチューの匂いだ。アミィの傍には車輪の付いた台車の様な物――俗にいうキッチンワゴンが置かれており、そこには大きめの鍋とパンを入れたバスケットが置かれている。
「良かった。すぐ準備するね」
アミィはキッチンワゴンに乗せられた皿を一つ取ると、鍋の中身をそれによそい始めた。あの色、とろみ。やっぱりシチューで間違いないみたいだな。
部屋に備え付けられている簡素なテーブルの上にシチューとパンを準備し、俺の方を振り返るアミィ。
「さあ、準備出来たよ。栄養満点、キノコシチュー! さあ、どうぞ召し上がれ!」
アミィに引かれてテーブルに着くと、目の前にはいい匂いのシチューと焼き立てであろうパン。そしていつの間にかサラダまで用意してある。
このパン、もしかしてわざわざ焼いてくれたのか?
ぐぅ。
食欲をそそる内容に、思わず腹の虫も鳴いてしまった。
「ありがとう、アミィ。ありがたく頂くよ」
俺はすぐ傍に置かれていたスプーンを手に取り、目の前のシチューに視線を移し。
「いただきます」
この世界に来て初めて、食前の挨拶「いただきます」を言った。
うん、やっぱりこれを言わないとな。今まで飯の時間はイマイチ落ち着かなかったんだけど、これでしっくりきた。
「いただきます? お兄ちゃん、いただきますって?」
スプーンでシチューを掬って口に運ぼうとしていた所、アミィから今の言葉について尋ねられた。
うん、やっぱりアミィ……ていうか、多分この世界の人には馴染みのない言葉だよな。
「ああ、いただきますっていうのは、俺の故郷――異世界の食前の挨拶なんだ。やっぱりこれを言わないと、どうにも落ち着かなくてな」
アミィには俺が異世界の人間だという事は教えてあるし、正直に答えても問題ない。そもそも、こんな言葉一つでそこまで問題になるとも思えないし。
「へー、そうなんだ。いただきます、いただきます……」
アミィは小声で何度も「いただきます」と呟くと。
「うん、もう覚えたよ! いただきます!」
アミィはもう一組同じメニューを用意してから俺の対面に座ると「いただきます」と言った。
「アミィも今から晩飯なのか?」
「うん、お兄ちゃんと一緒に食べようと思って!」
満面の笑みでそう答えるアミィ。
まあ俺の看病をするって言ってたんだし、晩飯を一緒に食べるのは普通か。
そう思い、シチューを掬ったスプーンを口元に運び。
「お待たせしました! カイトさん、良い物を買ってきましたよ!」
そのまま口に入れる直前で停止した。
部屋の扉が「バァンッ!」という擬音が出そうなぐらい勢いよく開かれ、そこに立っていたのは。
「マ、マリー? ど、どうしたんだ? 何か用事があったんじゃ?」
さっき突然酒場から姿を消したマリーの姿がそこにあった。
よく見ると、その手には紙袋が握られている。さっきのマリーの口ぶりからして、それを買いに行っていたのだろうと思われる。
「はい、カイトさんの具合が良くなるようにと、ちょっと薬を買いに。なので、もう用事は済みました」
マリーはそう言って、紙袋の中から小さな瓶を取り出し。
「はい、カイトさん。これが薬です」
そう言って差し出してきた瓶の中には、見るからに怪しげなオーラを放つ、緑色の液体が詰まっていた。
緑色と聞くと、ポーションを思い出すかもしれないが、その液体はポーションとは似ても似つかない。
ポーションは薄緑色のサラッとした水の様な液体なのだが、これは違う。これは濃い深緑色の、ドロッとした液体である。いや、瓶の中の液体の動き。コレは液体というより、スライムに近いかもしれない。
そんな物が薬だって? 確かに良薬口に苦しとは言うが、限度って物があるだろう。
「な、なあ、マリー。コレは薬、なのか? 俺には新種のスライムみたいに見えるんだが」
「鋭いですね、カイトさん。何を隠そう、この薬にはヒールスライムの素材が使われてるんです!」
「マジでスライムなの!?」
冗談のつもりで言ったのに、まさかの正解。いや、正確にはスライムの素材を使って
るだけで、スライムではないのだろうけど。そんなの何の気休めにもならない。
アミィも黙って見てないで何か言ってくれ!
「コレ、まほう薬じゃないですか。高かったんじゃないですかコレ?」
アミィはソレを「まほう薬」と呼び、高かったのではないかとマリーに尋ねているだけだった。
え? 「まほう薬」ってなんぞ
「カイトさんは知らないかもしれませんが、これは「魔方薬」と言って、医者にかからずに病気を治す為の薬なんです。魔物の素材を使ってる事が多いので、魔方薬なんて名前で呼ばれてますけど、効き目はバッチリですよ!」
まだこの世界の事について詳しくない俺に、マリーが簡単に説明してくれた。
魔物の素材を使った「まほう薬」か。っていうか、それって漢方薬みたいな物か?
もしそうだとしたら、さしずめこれは「魔方薬」って所か。
「あ、ありがとう、マリー。でも、この見た目は流石になぁ」
効き目はバッチリでも、味がバッチリとは限らない。これ絶対、とんでもなく苦い奴だろ? 見たら分かるもん。
「大丈夫ですよ! 味の方も思った程悪くはないですから」
マリーは無い胸を張って太鼓判を押してくれたが、それが本当かどうかは……。
「はい、飲みます! 飲ませて頂きます!」
マリーの瞳から静かにハイライトが消えていた。恐らく俺が考えてた事が分かったのだろう。何でそんなに簡単にバレるんだ?
「カイトさん、視線には気を付けましょうね」
ニコッと、とても綺麗な、でもどこか恐ろしい笑顔を浮かべて注意してくるマリー。
そっか、視線か。考えた事もなかったな。男のチラ見は女のガン見とはよく言った物だ。今度から視線には気をつけよう。
マリーから薬の入った瓶を受け取り、蓋を取り外しながら、俺はそんな事を考えていた。
蓋を開けると、途端に異臭が……しない? 試しに瓶に鼻を近づけ、スンスンと臭いを嗅いでみたが、臭みは全くなかった。というか臭いその物がしなかった。
「ね? 変な臭いはしないでしょう?」
確かにマリーの言う通り、変な臭いはしない。だが味はどうだ?
今度は小指に液体を軽くつけ、それを舌で舐めとってみたが、味も全くしない。所謂無味無臭という奴だ。ドロッとはしてるけど。
これは驚いた。まさかこんな見た目で味も臭いもしないとは。
「ぷっ、あははははっ!」
「ふふっ、ア、アミィちゃん。カイトさんに、悪いよ。ふっ、ふふっ」
俺が魔方薬の確認をしていると、突然二人が俺の方を見ながら笑い始めた。
な、何だ? 俺、何か変な事でもしたか?
「ご、ごめんなさい。カイトさんの表情が、あんまりにもコロコロ変わるものだから」
ふふっ、と、笑いながら謝ってくるマリー。
「お、お兄ちゃんの百面相……ぷっ、あっはははは! すっごく面白かったよ!」
百面相? 俺が?
まあ確かに、臭いを嗅ぐ前と後で、大分心境に変化はあったけど、そんなに表情に出てたのか? でも、あの二人の笑い様を見るに、そうなんだろうな。
俺は二人が落ち着くまでの間、薬を飲まずに待ち続けるのだった。
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