見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

十七話

 酒場の手伝いを終え、晩飯を済ませた俺は部屋でストレージの中身を確認していた。
 今日はアイアンゴーレムの魔石を手に入れたし、昨日は特殊個体の魔石も手に入れている。

 最近はずっと果ての洞窟の攻略をしているからか、魔石に加えて鉱石も結構な数が溜まってきている。

「えーっと、アイアンゴーレムの魔石のスキルはっと……ん?」

 アイアンゴーレムの魔石を選択し、スキルの内容を確認した俺は、思わず固まってしまった。

 そこに表示されているスキルは「劣化軽減」と「自己修復(金属)」と書かれていたからだ。一瞬「自己修復」という名前で、自己再生的なスキルかと思ったが、その後に(金属)と表記されているから、多分そういうのとは違うだろう。

 嫌な可能性を考えると、修復した箇所を、金属で再生するとかだが、普通に考えてそんな事はないだろう。
 つまり、どっちも人に作用するスキルだとは思えない。

 どちらかといえば、武器や防具なんかに付与した方が……。

「あ、付与か」

 俺はそこで初めてその可能性に気が付いた。

 そうだ。何でその可能性に今まで気が付かたかったのか。いや、既にそれに近い事はしていたのか。

 マリーに作った杖型の魔導具。アレの場合はスライムの魔石から酸魔法だけを抽出して、別の魔石に付与した物を軸に杖として合成したんだけど。

 もしも武器や防具そのものに直接スキルを付与出来たらどうだろうか?
 スキル次第ではとんでもない代物が出来上がるんじゃないか?

「とりあえずコレで試してみるか」

 俺はアイアンゴーレムの魔石からスキルを抽出し、次に魔鉄バットを選択してスキル一覧を開いた。
 すると予想通り、スキル付与の項目に魔鉄バットが表れている。

 さて、付与するスキルは、と。

「……お、これは」

 俺はとあるスキルを見て、あるアイディアが浮かんできた。
 とすると、後はこれとこれ。この三つを付与すれば……何だコレ? もし俺の思った通りの使い方が出来るなら、相当便利なバットの完成じゃないか。

 スキル付与を選択し、今選んだ三つのスキルを付与してみた。
 するといつもの如くストレージから三つのスキルが消え、代わりに魔鉄バットは「魔鉄バット改」に変化した。

 これで終わりか。相変わらず実感が湧かない作業だが、本当に付与出来たのだろうか?

 試しにストレージから魔鉄バット改を取り出してみた。
 見た目は普通の金属バットと同じなんだが、魔力を流してみると、全体が淡い紫色の光を放ちながら輝き出した。

 うん、間違いなく魔鉄バットだ。
 これにさっきのスキルが付与されてる筈なんだけど。

 試しに魔鉄バット改に鑑定をかけてみると、予想通りスキルは付与されていた。後はこれを実際に使って確かめてみるだけだけど。

「明日試してみるか」

 どうせ明日も果ての洞窟の探索をする予定だし、その時に確認してみればいい。
 そう結論付けると同時に、思い出したかのように強烈な睡魔が襲ってきた。

 いい加減寝ないと明日に差し障るな。そう考え俺はベッドの中に潜り込み、そのまま眠りについた。



 次の日。

「人間ロケット! からの横薙ぎ一閃!」

 魔鉄バットの一閃で、一気に三体のロックリザードが物言わぬ亡骸へと姿を変えた。
 今まで使ってた棍棒とは比較にすらならないな。この魔鉄バットは。
 ロックリザードの素材をストレージへと収納しながらそんな事を思った。

 現在、俺達は果ての洞窟八層の探索をしていた。
 八層に足を踏み入れてから今日で三日目。二人が言うにはそろそろ九層へと続く階段が見えてくる筈だという。

 という事は、三日かかった八層の攻略も、そろそろ終わりという事だ。

「今回は結構時間がかかったよな。これからはこれが普通になるのかね?」

 俺は率直な意見を述べてみた。
 正直七層までは一日一層ぐらいのペースで攻略していたから、八層に三日もかかるとは思ってもみなかった。

 もしもイレーヌさんに「数日かかる」と言われていなければ、正直かなり焦っていたかもしれない。

「攻略期間に関しては、むしろ今以上に伸びるでしょうね。果ての洞窟は下層に下りれば下りる程、攻略難易度も広さもどんどん上がっていきますから」

 マリーの言葉に、俺は特段驚きはしなかった。
 なんせ今まで一人も踏破した者がいないのだ。それを思えば、そのぐらいは当然だろう。

 今より広くなるというのはちょっと気になるけど。

「それでも、潜るのだろう? カイト君?」

 俺の意志を確認するようにフーリはニヤリと笑って尋ねてきた。
 そりゃあ、もちろん。

「漢のロマンだからな」

 俺は素直な気持ちをフーリに告げた。この世界で俺がやりたいと思った事。

 前人未踏の果ての洞窟最深部へと辿り着く。それが今の俺の目標だ。いや、階層次第では生涯の目標にもなり得るのだけど。それはまあ今は置いておこう。先の事なんか分からないのだから。

「微力ながら、私も付き合わせて貰おう。共に果ての洞窟最深部へと至ろうではないか!」
「ああ、喜んで!」

 フーリの差し出してきた手を握り返し、俺達は熱い握手を交わした。

「コホン」

 その時、これ見よがしな咳払いをする人物が一人。マリーだ。
 マリーは俺とフーリを交互に眺めると。

「私もいるんですけど?」

 と、自分の存在を忘れるなとでも言わんばかりに胸を張る。

「大丈夫。忘れてなんかないって」

 マリーの事を忘れる訳ないだろう?

「三人一緒に最深部を目指そうな!」
「ああ!」
「はい!」

 俺の言葉に、マリーとフーリは力強く頷いた。この三人なら、きっと最深部だって目指せる。
 そんな想いを胸に、俺は九層へと至る階段を探し始めた。



「おっ。二人共、あったぞ! 階段だ」

 探索を開始して一時間程経った頃だろうか。フーリが九層へと至る階段を見つけたようで、俺達に知らせる声が聞こえてきた。

「あー、そういえばこの辺だったね。すっかり忘れてたよ」

 マリーはフーリに話しかけながら九層へと至る階段を眺めていた。

「久しぶりに潜ったからか、階段の場所を忘れていたな。まさかこんなに時間がかかるとは思ってもみなかった」

 フーリは軽く肩を回しながら、溜息を吐いている。
 そういえばフーリとマリーは、過去に果ての洞窟に潜った事があるんだっけ? その時は一体何層まで潜ったんだろうか?

「なあ、そういえば聞いてなかったけど、二人は何層まで潜った事があるんだ?」
「十五層だ」
「十五層ですね」
「十五層!?」

 さも当然の事の様に言ってのける二人だが、それはどう考えても当然ではない気がする。
 だって、最高到達階層が二十五層の洞窟を、この若さで十五層まで踏破してるって、凄くないか?

 それともこれが普通なのか?

「なあ、確か果ての洞窟って、二十五層までしか踏破されてないんだよな?」

 もしかしたら俺の勘違いの可能性もあるので、一応二人に確認してみたが。

「ああ、その通りだ」
「昔モーヒさん達が踏破したきり、誰もその記録を超えてませんからね」

 やはりというか、勘違いではなかった様だ。ていうか、二十五層まで辿り着いたのってモーヒさん達かよ!
 まあモーヒさんはSランク冒険者なのだから、当然といえば当然なんだろうけど。

「そんな場所を、二人は十五層まで踏破してるのか?」

 俺が尋ねると、二人はキョトンとしていた。そして一度互いに顔を見合わせた後。

「まあ、一応これでもBランク冒険者ですからね」
「十五層ぐらいなら、頑張れば案外誰でも踏破出来ると思うぞ」

 いや、流石にそれは無理じゃないかな? 流石はBランク冒険者と言うべきなのか。
 二人ってやっぱり凄い冒険者なんだな。

「ちなみにイレーヌさんは昔二十層まで踏破してますよ」
「ファッ!? 二十!?」

 イレーヌさんってそんなに凄かったの!?
 確かイレーヌさんは元Aランク冒険者だっていう話だ。Aランクといえば二人よりも更に上のランクなのだし、踏破していても不思議じゃないけど。

「なあ? 二人といい、イレーヌさんといい、それって……っ!?」

 普通の事なのか? と尋ねようとした所で、空気が揺れた。この感じ、魔物か!
 俺は急いで気配探知を発動させて辺りを見回した。すると。

「……上か!」

 上空で強い反応が引っかかった。それと同時に。

 ズッシィィィィン!

 という重い音と共に、突然目の前に現れるアイアンゴーレム。勘違いじゃなければ、今空から降ってきた様な?
 一体どこから降ってきたんだこいつ? そんな事を考えながら、俺はストレージから魔鉄バットを取り出した。

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