見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~
十六話
果ての洞窟の探索を打ち切ってペコライに帰ってきた俺達は、一度依頼完了の報告を済ませるべく冒険者ギルドに来ていた。
「エレナさん、依頼完了しました」
「あ、はーい、ちょっと待って下さいね」
受付の奥から姿を現し、受付業務の準備をしながら返事を返してくるエレナさん。
エレナさんはカウンターの下から収納ボックスを取り出すと、いつも通りそれをカウンターの上に乗せて。
「それじゃあ早速アイアンゴーレムの素材をお願いします」
「分かりました」
エレナさんに言われ、俺はストレージから収納ボックスに必要量の素材を納品した。
「終わりました」
「はい、えーっと……はい、確かに。今回もお疲れさまでした」
「ええ、それじゃあまた明日」
俺は一言返事を返し、その場を立ち去ろうとしたのだが。
「あ、ちょっと待って下さい!」
「はい? 何ですか?」
エレナさんに呼び止められた。
はて? 依頼の達成報告は済ませたし、素材の納品も済ませたよな?
「実は、カイトさんに渡したい物がありまして」
「俺に?」
一体何だろう? 特に心当たりはない、よな?
エレナさんは一度ギルドの奥へと消えていき、戻って来た時には、手に小さめの巾着袋を持っていた。
「はい、これ。Cランク昇級のお祝いです」
と、手に持ったそれを俺に差し出してきた。
え? これを俺に? ていうか、Cランク昇級のお祝いって、こんなの貰っていいものか?
「えっと、ありがとうございます」
俺は少しの間考え、エレナさんから巾着袋を受け取った。
折角用意してくれたのだし、受け取らないというのも失礼だろう。
「それ、私が作ったクッキーなんです。この間のはあまり綺麗に出来てませんでしたけど、今回は自信作ですよ。あと二つあるので、これはフーリさんとマリーさんに渡して下さい」
「あ、はい、分かりました」
フーリとマリーの分もあると言って差し出された二つの巾着袋も受け取って、ストレージに収納した。
エレナさんのクッキーか。この間貰ったお菓子もクッキーだったけど、別に失敗作だなんて思わなかったけどな。
味も旨かったし、文句無しの品だったと思う。
まあ確かに手作り特有の型崩れなんかは少しあったけど、それも気にならないレベルだった。それでも、エレナさん的には失敗作だったと言うのだから、判断基準が高い。
そんな事を考えながら、視線を手元からエレナさんへと戻した。
「それにしても、カイトさんもCランク冒険者ですか。時が経つのは早いですねぇ」
エレナさんは遠い目をしながら、しみじみと語り始めた、が。
「いやいや、早いも何も、俺がここに来て、まだ一か月も経ってませんからね?」
俺がペコライに来てから、まだ一か月も経っていない。
それなのに、エレナさんが感慨深そうな表情をするのはおかしいからね?
「あれ、そうでしたっけ?」
片目を瞑り、ペロリと舌を出してとぼけるエレナさんは、何だかいつにも増して機嫌が良さそうだ。
「エレナさん、何か良い事ありました?」
気になった俺は、エレナさんに尋ねてみた。
「そう見えますか? そうですね、実はあったんですよ。良い事」
エレナさんは、本当に嬉しそうに頬を緩めながら俺の質問に答えた。
あんな表情をするなんて、余程良い事があったんだろう。
「実はですね」
エレナさんはそこで一度言葉を区切り、クイクイっと俺に向かって手招きをした。これは俺に耳を貸せっていう事だろうか?
俺はそう思い、エレナさんのすぐ近くに顔を寄せ、耳を近づける。
「すぅ……わっ!」
「っ!?」
耳元で突然声を上げられ、俺は驚いてパッとその場から飛び退いた。
そんな俺の反応を見て、面白そうに笑うエレナさん。
「あははっ。ご、ごめんなさい。まさかそんなに驚くなんて、ふふっ」
「もう、勘弁してくださいよ」
エレナさんに苦言を呈してみたが、当のエレナさんはお構い無しに笑い続ける。いや、何この変なテンション?
「ふぅ、落ち着きました。それで、何があったかですよね?」
ひとしきり笑って満足したのか、エレナさんは呼吸を整えると、話の続きに戻ってくれた。なんだかエレナさんの意外な一面を見た気がする。
「それはカイトさん、あなたですよ」
「……へ? 俺?」
あまりに予想外の答えに、俺はつい素で聞き返してしまった。
「はい、カイトさんです。ほら、カイトさんが冒険者登録をした日に、私が言った事を覚えていますか?」
冒険者登録をした日、というと。
「ああ、チュートリアルか」
「ちゅーとりある? ちゅーとりあるって何ですか?」
「あ、何でもないです」
どうやらチュートリアルという言葉はこの世界には存在しないらしい。
「そのちゅーとりあるが何なのかは分かりませんけど、無茶をした新人冒険者が命を落とすって言ったじゃないですか」
「ああ、その話ですか」
そういえばそんな話もしたなぁ。
俺は元々無茶をする気が無かったからほとんど関係ない話だったけど。
「無茶しない人は、オーガエンペラーに挑んだりしないと思いますけどね」
「心読まないで貰えます?」
俺の周りにはナチュラルに心を読む人が多い気がする。主にマリーとかフーリとか。
「まあ今はその話は置いておくとして。私の話をちゃんと聞いて、安全第一……かどうかは分かりませんけど、少なくとも、自分の力を過信する事なく、無事にCランクまで上がってくれたカイトさんを見ていたら、嬉しくなっちゃいまして」
エレナさんはまるで自分の事の様に誇らしげに語っているが、これって俺の事なんだよな。
「カイトさん、改めて、Cランク昇級、本当におめでとうございます」
エレナさんが笑顔を浮かべて、再び俺のCランク昇級をお祝いしてくれた。
もしかしたらエレナさんは、今まで何度も冒険者が亡くなるのを見てきたのかもしれない。いや、正確には依頼を受けた冒険者が戻ってこなかった、か。
何度注意しても、聞く耳持たずに無茶をして命を落とす新人冒険者。
それを何度も見続けてきたとしたら? そんなエレナさんの気持ちは、俺に推し量る事などとても出来るとは思えない。
ただ、そんな俺にも出来る事はある。
「エレナさん。俺は絶対に死にませんから。次はBランクに上がる所を見せてあげますよ」
エレナさんに悲しい思いをさせない為にも、精一杯生きてここに顔を出し続ける事だ。
なら、安全マージンは絶対に取り続けないといけない。
命を大事に、を常に頭に入れておかないと。
「カイトさん……ありがとうございます」
エレナさんは一度言葉を区切ると、改めて感謝の言葉を口にした。
「それじゃあ、もう行きますね」
「はい! また来てくださいね」
俺はエレナさんの言葉に会釈で返し、そのまま受付を後にした。
「お帰りなさい、カイトさん。遅かったですね」
二人の元に戻ると、マリーに声をかけられたので「ああ、ちょっとな」と短く返した。
「なんだか騒がしかったようだが、何かあったのか?」
フーリに問われ、俺は今のエレナさんとのやりとりを二人に簡潔に説明した。
「という事で、はいこれ。エレナさんから」
俺はストレージから巾着袋を二つ取り出し、マリーとフーリに手渡した。
「ああ。ありがとう、カイト君」
「私達にまで用意してくれるなんて、今度エレナさんにお礼を言わないと」
二人は俺からエレナさんのクッキーを受け取り、早速袋を開け始めた。
中には、小麦色の焼き色が綺麗なクッキーが沢山詰められていた。
「流石エレナさんだな。相変わらず手が込んでいる」
「本当。エレナさんはお菓子作り上手だよね。この間のも、失敗したとは思えないぐらいだったし」
二人はエレナさんのクッキーを褒めると、再び袋の口を閉じて立ち上がる。
「さて、そろそろ帰ろうか」
「カイトさんは今日も酒場のお手伝いでしたよね? なら早めに帰りましょう」
二人に言われ、俺はギルドの窓から外を眺めてみた。
日が傾き始め、そろそろ暗くなり始めそうな時間だ。
「そうだな。帰るか」
そろそろ酒場の手伝いの時間だ。早めに宿に戻り、仕込みの手伝いを始めないとな。
そう考え、俺達三人は冒険者ギルドを後にした。
「エレナさん、依頼完了しました」
「あ、はーい、ちょっと待って下さいね」
受付の奥から姿を現し、受付業務の準備をしながら返事を返してくるエレナさん。
エレナさんはカウンターの下から収納ボックスを取り出すと、いつも通りそれをカウンターの上に乗せて。
「それじゃあ早速アイアンゴーレムの素材をお願いします」
「分かりました」
エレナさんに言われ、俺はストレージから収納ボックスに必要量の素材を納品した。
「終わりました」
「はい、えーっと……はい、確かに。今回もお疲れさまでした」
「ええ、それじゃあまた明日」
俺は一言返事を返し、その場を立ち去ろうとしたのだが。
「あ、ちょっと待って下さい!」
「はい? 何ですか?」
エレナさんに呼び止められた。
はて? 依頼の達成報告は済ませたし、素材の納品も済ませたよな?
「実は、カイトさんに渡したい物がありまして」
「俺に?」
一体何だろう? 特に心当たりはない、よな?
エレナさんは一度ギルドの奥へと消えていき、戻って来た時には、手に小さめの巾着袋を持っていた。
「はい、これ。Cランク昇級のお祝いです」
と、手に持ったそれを俺に差し出してきた。
え? これを俺に? ていうか、Cランク昇級のお祝いって、こんなの貰っていいものか?
「えっと、ありがとうございます」
俺は少しの間考え、エレナさんから巾着袋を受け取った。
折角用意してくれたのだし、受け取らないというのも失礼だろう。
「それ、私が作ったクッキーなんです。この間のはあまり綺麗に出来てませんでしたけど、今回は自信作ですよ。あと二つあるので、これはフーリさんとマリーさんに渡して下さい」
「あ、はい、分かりました」
フーリとマリーの分もあると言って差し出された二つの巾着袋も受け取って、ストレージに収納した。
エレナさんのクッキーか。この間貰ったお菓子もクッキーだったけど、別に失敗作だなんて思わなかったけどな。
味も旨かったし、文句無しの品だったと思う。
まあ確かに手作り特有の型崩れなんかは少しあったけど、それも気にならないレベルだった。それでも、エレナさん的には失敗作だったと言うのだから、判断基準が高い。
そんな事を考えながら、視線を手元からエレナさんへと戻した。
「それにしても、カイトさんもCランク冒険者ですか。時が経つのは早いですねぇ」
エレナさんは遠い目をしながら、しみじみと語り始めた、が。
「いやいや、早いも何も、俺がここに来て、まだ一か月も経ってませんからね?」
俺がペコライに来てから、まだ一か月も経っていない。
それなのに、エレナさんが感慨深そうな表情をするのはおかしいからね?
「あれ、そうでしたっけ?」
片目を瞑り、ペロリと舌を出してとぼけるエレナさんは、何だかいつにも増して機嫌が良さそうだ。
「エレナさん、何か良い事ありました?」
気になった俺は、エレナさんに尋ねてみた。
「そう見えますか? そうですね、実はあったんですよ。良い事」
エレナさんは、本当に嬉しそうに頬を緩めながら俺の質問に答えた。
あんな表情をするなんて、余程良い事があったんだろう。
「実はですね」
エレナさんはそこで一度言葉を区切り、クイクイっと俺に向かって手招きをした。これは俺に耳を貸せっていう事だろうか?
俺はそう思い、エレナさんのすぐ近くに顔を寄せ、耳を近づける。
「すぅ……わっ!」
「っ!?」
耳元で突然声を上げられ、俺は驚いてパッとその場から飛び退いた。
そんな俺の反応を見て、面白そうに笑うエレナさん。
「あははっ。ご、ごめんなさい。まさかそんなに驚くなんて、ふふっ」
「もう、勘弁してくださいよ」
エレナさんに苦言を呈してみたが、当のエレナさんはお構い無しに笑い続ける。いや、何この変なテンション?
「ふぅ、落ち着きました。それで、何があったかですよね?」
ひとしきり笑って満足したのか、エレナさんは呼吸を整えると、話の続きに戻ってくれた。なんだかエレナさんの意外な一面を見た気がする。
「それはカイトさん、あなたですよ」
「……へ? 俺?」
あまりに予想外の答えに、俺はつい素で聞き返してしまった。
「はい、カイトさんです。ほら、カイトさんが冒険者登録をした日に、私が言った事を覚えていますか?」
冒険者登録をした日、というと。
「ああ、チュートリアルか」
「ちゅーとりある? ちゅーとりあるって何ですか?」
「あ、何でもないです」
どうやらチュートリアルという言葉はこの世界には存在しないらしい。
「そのちゅーとりあるが何なのかは分かりませんけど、無茶をした新人冒険者が命を落とすって言ったじゃないですか」
「ああ、その話ですか」
そういえばそんな話もしたなぁ。
俺は元々無茶をする気が無かったからほとんど関係ない話だったけど。
「無茶しない人は、オーガエンペラーに挑んだりしないと思いますけどね」
「心読まないで貰えます?」
俺の周りにはナチュラルに心を読む人が多い気がする。主にマリーとかフーリとか。
「まあ今はその話は置いておくとして。私の話をちゃんと聞いて、安全第一……かどうかは分かりませんけど、少なくとも、自分の力を過信する事なく、無事にCランクまで上がってくれたカイトさんを見ていたら、嬉しくなっちゃいまして」
エレナさんはまるで自分の事の様に誇らしげに語っているが、これって俺の事なんだよな。
「カイトさん、改めて、Cランク昇級、本当におめでとうございます」
エレナさんが笑顔を浮かべて、再び俺のCランク昇級をお祝いしてくれた。
もしかしたらエレナさんは、今まで何度も冒険者が亡くなるのを見てきたのかもしれない。いや、正確には依頼を受けた冒険者が戻ってこなかった、か。
何度注意しても、聞く耳持たずに無茶をして命を落とす新人冒険者。
それを何度も見続けてきたとしたら? そんなエレナさんの気持ちは、俺に推し量る事などとても出来るとは思えない。
ただ、そんな俺にも出来る事はある。
「エレナさん。俺は絶対に死にませんから。次はBランクに上がる所を見せてあげますよ」
エレナさんに悲しい思いをさせない為にも、精一杯生きてここに顔を出し続ける事だ。
なら、安全マージンは絶対に取り続けないといけない。
命を大事に、を常に頭に入れておかないと。
「カイトさん……ありがとうございます」
エレナさんは一度言葉を区切ると、改めて感謝の言葉を口にした。
「それじゃあ、もう行きますね」
「はい! また来てくださいね」
俺はエレナさんの言葉に会釈で返し、そのまま受付を後にした。
「お帰りなさい、カイトさん。遅かったですね」
二人の元に戻ると、マリーに声をかけられたので「ああ、ちょっとな」と短く返した。
「なんだか騒がしかったようだが、何かあったのか?」
フーリに問われ、俺は今のエレナさんとのやりとりを二人に簡潔に説明した。
「という事で、はいこれ。エレナさんから」
俺はストレージから巾着袋を二つ取り出し、マリーとフーリに手渡した。
「ああ。ありがとう、カイト君」
「私達にまで用意してくれるなんて、今度エレナさんにお礼を言わないと」
二人は俺からエレナさんのクッキーを受け取り、早速袋を開け始めた。
中には、小麦色の焼き色が綺麗なクッキーが沢山詰められていた。
「流石エレナさんだな。相変わらず手が込んでいる」
「本当。エレナさんはお菓子作り上手だよね。この間のも、失敗したとは思えないぐらいだったし」
二人はエレナさんのクッキーを褒めると、再び袋の口を閉じて立ち上がる。
「さて、そろそろ帰ろうか」
「カイトさんは今日も酒場のお手伝いでしたよね? なら早めに帰りましょう」
二人に言われ、俺はギルドの窓から外を眺めてみた。
日が傾き始め、そろそろ暗くなり始めそうな時間だ。
「そうだな。帰るか」
そろそろ酒場の手伝いの時間だ。早めに宿に戻り、仕込みの手伝いを始めないとな。
そう考え、俺達三人は冒険者ギルドを後にした。
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