見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

十四話

「なるほど、鉄鉱石でおびき寄せる、か。手持ちの鉄鉱石ならかなりの量あった筈だから、おびき出すのには充分足りる、か。うん、それでいってみるか」

 翌日、早速フーリに昨日の話をすると、フーリもこの作戦に賛同してくれた。

「流石イレーヌさんですね。私達は探し出す事ばかり考えていて、おびき出すなんて全然考えてもいなかった」

 マリーの言う通り、俺達は探す事ばかり考えていて、少々視野が狭まっていたみたいだ。
 これからも冒険者として活動していくなら、もっと思考を柔軟に持つ事が大切だろう。

「なら、今日の計画はそれでいこう」
「ああ、そうだな」
「今日こそは終わらせましょうね」

 満場一致で今日の計画が決まり、俺達は早速果ての洞窟へ向けて出発した。



「よし、それじゃあカイト君、鉄鉱石を出して貰えるか?」
「よし来た。ありったけ出すか」

 フーリに頼まれ、ストレージから手持ちの鉄鉱石を全て取り出した。
 その量たるや。俺と同じぐらいの高さの山が出来る程の量がある。

 昨日採掘した分と三層で採掘した分を合わせると、こんな量になるんだな。今まで気付きもしなかった。

「凄い量……私達って、こんなに鉄鉱石を持ってたんですね」

 マリーは目の前の鉄鉱石の山を眺めながら驚きの声を上げる。いや、本当。俺もこんなにあるとは思ってなかったわ。

「これだけあれば、流石にアイアンゴーレムもおびき出せるよな?」
「そうですね。多分大丈夫だと思いますけど」

 俺の問いかけに、マリーは大丈夫だというが、その表情はどことなく自信なさげだ。多分今まで鉄鉱石でおびき出すなんてやった事なかったんだろうな。

「さあ、おしゃべりはそこまでだ。物影に隠れるぞ」

 フーリに言われ、俺達三人は近くの岩陰に身を潜めた。これで向こうからはこっちの姿は見えない筈だけど。

「このままアイアンゴーレムが来るまで待とう。カイト君は念の為、気配探知で周囲の警戒を頼めるか?」
「あいよ、任せてくれ」

 俺は二つ返事で気配探知を発動させた。これでアイアンゴーレムが近づいてくればすぐに気付ける筈だ。
 後はこのままアイアンゴーレムが現れるのを待つだけだが……っ!?

「いや、いきなりかよ!」
「え? もう来たんですか!?」

 俺が小さく呟くと、それを隣で聞いていたマリーが驚きの声を上げた。が、流石に声は抑えていたので、アイアンゴーレムが俺達に気が付いた気配は感じなかった。

「随分早いな。カイト君、アイアンゴーレムが今どのあたりにいるか分かるか?」
「ああ、あの通路の奥から気配を感じる。多分もうそろそろ姿が見えて来る頃だと思うけど」

 俺は鉄鉱石の山を挟んで反対側にある通路の奥の方を指差しながらフーリに答えた。
 このスピードなら、もう五分もしない内に姿を現すだろう。今の内に準備をしておかないと。

「そうか、分かった。二人共、戦闘準備だ。それにしても、こんなに上手くいくとはな」

 フーリはミスリルの剣を鞘から引き抜き、真っ直ぐ通路の奥を直視しながらそう漏らす。その瞳には油断の色は一切含まれていない。

 流石はフーリ。昨日アイアンゴーレムの特殊個体を討伐したばかりだが、だからといって油断している様子はない。
 俺も気を引き締めないと。

 それにしても、こんなに上手くいくとはな。

 今朝賢者の息吹を出る時に、イレーヌさんから「鉄鉱石に魔力を帯びさせた方が早くおびき出せますよ」と言われ、鉄鉱石の中に魔力を流した少量の魔鉄を含ませたのが良かったのだろうか?

「来ましたよ、カイトさん。アイアンゴーレムです!」

 マリーが指差す方向。通路の奥の方から、全身銀色の鈍い輝きを放つ巨人――アイアンゴーレムが姿を現した。出たな。

 アイアンゴーレムは鉄鉱石の山を見つけると、その山に迷わず食い付いていた。
 あ、食い付くと言っても、実際に食い付いている訳じゃないからな?

 両手に鉄鉱石を持ち、人間でいう心臓がある部分に持って行くと、その部分が一瞬赤く光り、鉄鉱石がそのままスゥッと飲み込まれていくのだ。
 ああやって鉄鉱石を吸収するのか。面白いな。

 アイアンゴーレムは、見た目こそ特殊個体とよく似ているが、大きさはその限りでは無い様だ。

 特殊個体と違って、その大きさは三メートル程。オーガとそこまで大きさは変わらないみたいだ。
 俺はストレージからトレントの棍棒を取り出して構えた。

 ……全身が鉄で出来たゴーレムに棍棒で殴り掛かろうとする男。
 その光景は、とてもシュールな事だろう。だが、そんな事は関係ない。俺もアイアンゴーレムと戦ってみたいんだ!

「カ、カイト君。今回は、その……なんだ。私が前衛を務めるから、カイト君は援護をして、くれないか?」

 フーリがとても言い難そうにしながら提案してくる。

「そ、そうですよ! カイトさん、私と一緒に姉さんの援護をしましょう! そうしましょう!」

 そしてマリーがその提案に乗っかる。
 うん、言いたい事はよく分かる。とてもよく分かる。非常によく分かる。そして、分かっているからこそ断りにくい。
 俺は少しの間考えた後。

「……分かった。今回は援護に回るよ」

 仕方なく、その提案に乗る事にした。
 まあ仕方がないのかな。きっと二人は棍棒でアイアンゴーレムを殴ろうとする俺の事を心配して提案してくれたのだろう。うん、そうだ。きっとそうに違いない!

 俺は自分に言い聞かせながら、フーリの援護をするべくストレージを開いた。
 そして。

「おっ?」

 俺の目に飛び込んでくる「魔鉄」の文字。
 そうだ、昨日手に入れたこの魔鉄。これで新しい武器が作れないだろうか?

 そのまま流れる様に魔鉄を選択。そして現れたのは「魔鉄バット」と「魔鉄パイプ」の二つ。
 ……ゑ?

「いや、何でその二択!?」
「カ、カイト君? どうした?」
「いきなり大声を上げないで下さいよ。ビックリするじゃないですか」

 二人に声をかけられ、俺は慌てて自分の口を両手で塞いだ。
 幸いアイアンゴーレムはこっちに気付いた様子はなく、目の前の鉄鉱石に夢中の様だ。

「「「セ、セーフ」」」

 三人の言葉が綺麗に重なる。ていうか「セーフ」って言葉あるのか、この世界。

「それで、一体どうしたというのだ? 急に大声を上げて」
「あ、ああ。それは悪かった。いや、実はフーリの援護をしようと思ってストレージを覗いたら、魔鉄で武器を作れる事が分かってな」

「魔鉄で武器、ですか? 相変わらずとんでもない事をさらっとやろうとしますね」

 マリーから呆れを含んだ視線で見つめられる。
 俺そんなにとんでも無い事してきたかな? まあ今は話が進まなくなるから置いておいて。

「それで、何が作れるかと思ったら「魔鉄バット」と「魔鉄パイプ」の二択で、なんじゃそりゃ!? ってなったんだよ」

 俺はたった今起きた出来事を、出来るだけ分かりやすく二人に説明した。
 まあこの世界に「バット」や「鉄パイプ」があるかは知らないけど。

「その「魔鉄バット」と「魔鉄パイプ」の二つは、そんなに驚く様な物なのか?」

 俺の説明ではイマイチ理解できなかったのか、フーリは俺に問いかけてきた。

「いや、別に驚く程の物じゃないけど、俺がいた世界では、どっちも武器としては使われていなかったんだ」

 そう、バットは野球の道具に。鉄パイプは街中色んな所に。それぞれ需要はあったが、それは武器としての需要ではなかった。
 これらを武器として使ってたのは、あくまで漫画の中だけだ。

「でも、武器として出てきたのなら、どちらかを選ぶしかないんじゃないですか?」
「確かにそうなんだけど……仕方がない「魔鉄バット」にしておくか」

 俺は少し考えてからそう結論付け、ストレージで魔鉄バットを生産してみた。

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