見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~
十二話
「アイアンゴーレムの特殊個体は、体が魔鉄という金属で出来ているんです。魔鉄は魔力を流す事で、硬度を自由に変える事が出来るので、普通の武器だと傷一つ付けられません」
「魔鉄? 初めて聞く金属だな。そんなのもあるのか、この世界は」
俺が知ってるファンタジー金属なんて、精々がミスリルとオリハルコンぐらいで、後はよく知らない。この世界にオリハルコンがあるのか知らないけど。
でも、そんなのが相手じゃあ、俺の棍棒なんて傷を付けるどころか、逆にこっちが文字通り砕け散るだけだろうな。
それにしても、魔鉄かぁ。名前もだけど、魔力を流すと硬度を変えられるなんて、なかなか中二心をくすぐるじゃないか。
「凍れ!」
そんな事を考えていたら、マリーがアイアンゴーレムに向かって魔法を発動し、たった今切り落とされた右腕の付け根を凍らせ始めた。
「アイアンゴーレムの特殊個体は、腕を切り落としても再生しちゃいますからね。こうやって少しでもその再生を遅らせないと」
「そうなのか。ただ切り落とせばいいって訳じゃないんだな」
「そうですね。私が再生の邪魔をしますから、カイトさんはアレの動きを止めて下さい。出来ますか?」
マリーの言葉にフーリの方を見ると、ゴーレムとフーリの戦闘が目に入る。
正直フーリの方が優勢ではあるものの、どうにも攻めあぐねているようだ。
ゴーレムの動きは、あの大柄の体に似合わず俊敏で、フーリの攻撃は当たってはいるものの、致命傷にまでは至っていない。
ゴーレムというのは体内にある核を潰さない限り、その動きを止める事はない。というのは、この八層でよく理解している。
両手足を落とした筈のストーンゴーレムが地を這ってくる姿は、軽くトラウマ物だった。
アレも同じなら、核を潰さない限りジリ貧だろう。
「動きを止める、か。さて、どうしたものか」
確かに俺がゴーレムの動きを止める事が出来れば、フーリが一方的に攻める事が出来る。なんならその一瞬で核を潰す事も、フーリなら可能だろう。
問題は、どうやって動きを止めるかだが。
……あ、そっか。その手があったか。
俺はゴーレムの足元に注目した。あのゴーレムの動きは確かに俊敏だが、それは地上での事。もし突然地面を奪われれば、どうなるだろうか?
例えどんなに強い存在であっても、そんな事態になったら少なからず動きは止まるだろう。
「よし、そうと決まれば……収納!」
俺はゴーレムの足元の地面をストレージ内にごっそり収納した。すると、ゴーレムの足元には穴が開く訳で。突然現れた穴に足を奪われたゴーレムは、そのまま大きく態勢を崩し、そのまま前のめりに倒れ込んでいった。
これでゴーレムの動きを止める事には成功した筈だ。あとは。
「今だ、フーリ!」
「ありがとう、カイト君! これなら!」
フーリは膝を折って一瞬力を溜める動作をし、次の瞬間上空に向かって大きく跳躍。そのまま空中でゴーレムを見下ろし、地面に落下する勢いを利用して。
「終わりだ。炎熱剣!」
ゴーレムの体の中心――人間でいう心臓がある部分に、ミスリルの剣を深々と突き立てた。
って、炎熱剣? フーリの新技か?
その炎熱剣とやらを受けたゴーレムの瞳が、しばらく明滅を繰り返し、やがてスッと光を失う。それと同時に、今まで何とか立ち上がろうともがいていた体の動きも停止する。
……うん、どうやら終わったみたいだな。
「おつかれ、フーリ」
俺はゴーレムの傍に立つフーリに近づきながら声をかけた。
「ああ、ありがとう。やはりミスリルの剣は凄まじいな。切れ味もだが、魔力伝導率が段違いだ」
フーリは自らの剣を見ながら、やや興奮している様だ。
「そうだ、さっきの「炎熱剣」って何だ? フーリの新技?」
ゴーレムを倒す時、フーリは確かに炎熱剣と言った。
爆炎とは違って、爆発は起こらなかったみたいだけど、今まで見た事もない技だ。
「ああ、そうだ。炎熱剣は刀身に火の魔力を流す事によって刀身が熱を帯び、切れ味を引き上げると同時に、相手を焼き切る技なんだ」
へえ、面白そうな技だな。
切った瞬間に爆発を起こして相手にダメージを与える「爆炎」もいいけど、スマートに焼き切る炎熱剣も良い。
相手の特性に合わせて使い分けも出来るから、一概にどっちが凄いとは言えない。ていうか、どっちも凄い。
「それに、炎熱剣は魔力消費が少ないからな。一撃の威力を重視するなら爆炎。切れ味と魔力消費を気にするなら炎熱剣、といった所か。まあ炎熱剣はまだ試作段階だがな」
フーリは苦笑いをしながら頬を掻いているが、正直俺からすれば、炎熱剣も充分完成された技に見える。
いや、本人にしか分からない拘りというのもあるか。
「姉さんは凝り性だから、納得いくまでは絶対に完成とは言わないもんね。はい、カイトさん。魔石です」
「ありがとう、マリー」
フーリと話していると、ゴーレムの魔石を回収してきてくれたマリーが俺に手渡してきたので、それを受け取ってストレージに収納する。
マリーのいう事はすごく分かる。確かにフーリはそんな感じがする。一度手を出すと、とことん拘るタイプというか。
職人気質とでもいうのだろうか?
「む? 別に普通の事じゃないか? 中途半端な出来で完成だなんて、口が裂けても言えないぞ」
「はぁ。姉さんの場合、理想が高すぎるの。理想を高く持つのもいいけど、少しは妥協も覚えないと、疲れちゃうよ?」
マリーは呆れを含んだ溜息と共にそんな言葉を漏らす。
「マリーの言いたい事も分かるんだが、どうしても気になってな」
ああ、やっぱり。フーリは根っからの職人気質だわ。
妥協を許さず、常に高みを目指し続ける。そういう人種だ。
それを悪いとは言わないけど、少しは妥協というか、気を緩める事も覚えないとダメだと思う。まあフーリみたいなタイプは妥協するのが苦手だったりするし、仕方がないのかもしれないけど。
「私の事はいいだろ。それよりもアイアンゴーレムの特殊個体の素材だ。魔鉄は武器でも防具でも活躍出来る優秀な素材だからな。回収し忘れが無いようにしないとな」
フーリは話題をすり替える様に、ゴーレムの素材の話を始め、その素材の回収をしようとゴーレムの死骸に近づいた。
「はぐらかされちゃいましたね、カイトさん」
「だな」
マリーの言葉に俺は頷く。フーリのアレはもう「そういう性格」としか言いようがないし、仕方がない事だろう。
もしそれでフーリが無理をしている様なら、俺達が助けてあげればいいだけだ。
なんせ俺達は同じパーティの仲間なんだから。
「俺達で、フーリが無理をしない様に気を付けないとな」
「カイトさん……そうですね! 頼りにしてますよ!」
マリーは一度何か言いたげに言葉を区切ると小さく笑い、俺の言葉に頷いてくれた。
「ほら、二人も手伝ってくれ! 折角の魔鉄なんだ。全部回収しないと……ん? これは?」
俺達を呼びながらゴーレムの素材を回収していたフーリだが、何かに気が付いたのか、ゴーレムの瞳に手を伸ばし始めた。
「どうかしたのか?」
不思議に思った俺は、ゴーレムの素材をストレージに回収しながらフーリに尋ねてみた。
「やはり、これは」
フーリは短くそう呟くと、おもむろにゴーレムの瞳に剣を突き立て、その瞳を真っ二つに切り裂いた。
「何やってんのフーリ!?」
いくら何でもオーバーキル過ぎるだろ! 既にゴーレムは完全に機能停止していたんだし、そこまでしなくても……。
「ふむ、やはり魔核だな。カイト君、これも回収しておいてくれ」
フーリは俺のツッコミに気が付いていないのか、笑顔でソレを差し出してきた。
「あ、ああ、分かった」
俺は苦笑いを浮かべながらも、フーリからそれを受け取り、そして気が付いた。
わざわざ鑑定するまでもない。何故ならそれはアイアンゴーレムの特殊個体の魔核だと一目で分かったからだ。
だからフーリは急にあんな事したのか。
「魔鉄? 初めて聞く金属だな。そんなのもあるのか、この世界は」
俺が知ってるファンタジー金属なんて、精々がミスリルとオリハルコンぐらいで、後はよく知らない。この世界にオリハルコンがあるのか知らないけど。
でも、そんなのが相手じゃあ、俺の棍棒なんて傷を付けるどころか、逆にこっちが文字通り砕け散るだけだろうな。
それにしても、魔鉄かぁ。名前もだけど、魔力を流すと硬度を変えられるなんて、なかなか中二心をくすぐるじゃないか。
「凍れ!」
そんな事を考えていたら、マリーがアイアンゴーレムに向かって魔法を発動し、たった今切り落とされた右腕の付け根を凍らせ始めた。
「アイアンゴーレムの特殊個体は、腕を切り落としても再生しちゃいますからね。こうやって少しでもその再生を遅らせないと」
「そうなのか。ただ切り落とせばいいって訳じゃないんだな」
「そうですね。私が再生の邪魔をしますから、カイトさんはアレの動きを止めて下さい。出来ますか?」
マリーの言葉にフーリの方を見ると、ゴーレムとフーリの戦闘が目に入る。
正直フーリの方が優勢ではあるものの、どうにも攻めあぐねているようだ。
ゴーレムの動きは、あの大柄の体に似合わず俊敏で、フーリの攻撃は当たってはいるものの、致命傷にまでは至っていない。
ゴーレムというのは体内にある核を潰さない限り、その動きを止める事はない。というのは、この八層でよく理解している。
両手足を落とした筈のストーンゴーレムが地を這ってくる姿は、軽くトラウマ物だった。
アレも同じなら、核を潰さない限りジリ貧だろう。
「動きを止める、か。さて、どうしたものか」
確かに俺がゴーレムの動きを止める事が出来れば、フーリが一方的に攻める事が出来る。なんならその一瞬で核を潰す事も、フーリなら可能だろう。
問題は、どうやって動きを止めるかだが。
……あ、そっか。その手があったか。
俺はゴーレムの足元に注目した。あのゴーレムの動きは確かに俊敏だが、それは地上での事。もし突然地面を奪われれば、どうなるだろうか?
例えどんなに強い存在であっても、そんな事態になったら少なからず動きは止まるだろう。
「よし、そうと決まれば……収納!」
俺はゴーレムの足元の地面をストレージ内にごっそり収納した。すると、ゴーレムの足元には穴が開く訳で。突然現れた穴に足を奪われたゴーレムは、そのまま大きく態勢を崩し、そのまま前のめりに倒れ込んでいった。
これでゴーレムの動きを止める事には成功した筈だ。あとは。
「今だ、フーリ!」
「ありがとう、カイト君! これなら!」
フーリは膝を折って一瞬力を溜める動作をし、次の瞬間上空に向かって大きく跳躍。そのまま空中でゴーレムを見下ろし、地面に落下する勢いを利用して。
「終わりだ。炎熱剣!」
ゴーレムの体の中心――人間でいう心臓がある部分に、ミスリルの剣を深々と突き立てた。
って、炎熱剣? フーリの新技か?
その炎熱剣とやらを受けたゴーレムの瞳が、しばらく明滅を繰り返し、やがてスッと光を失う。それと同時に、今まで何とか立ち上がろうともがいていた体の動きも停止する。
……うん、どうやら終わったみたいだな。
「おつかれ、フーリ」
俺はゴーレムの傍に立つフーリに近づきながら声をかけた。
「ああ、ありがとう。やはりミスリルの剣は凄まじいな。切れ味もだが、魔力伝導率が段違いだ」
フーリは自らの剣を見ながら、やや興奮している様だ。
「そうだ、さっきの「炎熱剣」って何だ? フーリの新技?」
ゴーレムを倒す時、フーリは確かに炎熱剣と言った。
爆炎とは違って、爆発は起こらなかったみたいだけど、今まで見た事もない技だ。
「ああ、そうだ。炎熱剣は刀身に火の魔力を流す事によって刀身が熱を帯び、切れ味を引き上げると同時に、相手を焼き切る技なんだ」
へえ、面白そうな技だな。
切った瞬間に爆発を起こして相手にダメージを与える「爆炎」もいいけど、スマートに焼き切る炎熱剣も良い。
相手の特性に合わせて使い分けも出来るから、一概にどっちが凄いとは言えない。ていうか、どっちも凄い。
「それに、炎熱剣は魔力消費が少ないからな。一撃の威力を重視するなら爆炎。切れ味と魔力消費を気にするなら炎熱剣、といった所か。まあ炎熱剣はまだ試作段階だがな」
フーリは苦笑いをしながら頬を掻いているが、正直俺からすれば、炎熱剣も充分完成された技に見える。
いや、本人にしか分からない拘りというのもあるか。
「姉さんは凝り性だから、納得いくまでは絶対に完成とは言わないもんね。はい、カイトさん。魔石です」
「ありがとう、マリー」
フーリと話していると、ゴーレムの魔石を回収してきてくれたマリーが俺に手渡してきたので、それを受け取ってストレージに収納する。
マリーのいう事はすごく分かる。確かにフーリはそんな感じがする。一度手を出すと、とことん拘るタイプというか。
職人気質とでもいうのだろうか?
「む? 別に普通の事じゃないか? 中途半端な出来で完成だなんて、口が裂けても言えないぞ」
「はぁ。姉さんの場合、理想が高すぎるの。理想を高く持つのもいいけど、少しは妥協も覚えないと、疲れちゃうよ?」
マリーは呆れを含んだ溜息と共にそんな言葉を漏らす。
「マリーの言いたい事も分かるんだが、どうしても気になってな」
ああ、やっぱり。フーリは根っからの職人気質だわ。
妥協を許さず、常に高みを目指し続ける。そういう人種だ。
それを悪いとは言わないけど、少しは妥協というか、気を緩める事も覚えないとダメだと思う。まあフーリみたいなタイプは妥協するのが苦手だったりするし、仕方がないのかもしれないけど。
「私の事はいいだろ。それよりもアイアンゴーレムの特殊個体の素材だ。魔鉄は武器でも防具でも活躍出来る優秀な素材だからな。回収し忘れが無いようにしないとな」
フーリは話題をすり替える様に、ゴーレムの素材の話を始め、その素材の回収をしようとゴーレムの死骸に近づいた。
「はぐらかされちゃいましたね、カイトさん」
「だな」
マリーの言葉に俺は頷く。フーリのアレはもう「そういう性格」としか言いようがないし、仕方がない事だろう。
もしそれでフーリが無理をしている様なら、俺達が助けてあげればいいだけだ。
なんせ俺達は同じパーティの仲間なんだから。
「俺達で、フーリが無理をしない様に気を付けないとな」
「カイトさん……そうですね! 頼りにしてますよ!」
マリーは一度何か言いたげに言葉を区切ると小さく笑い、俺の言葉に頷いてくれた。
「ほら、二人も手伝ってくれ! 折角の魔鉄なんだ。全部回収しないと……ん? これは?」
俺達を呼びながらゴーレムの素材を回収していたフーリだが、何かに気が付いたのか、ゴーレムの瞳に手を伸ばし始めた。
「どうかしたのか?」
不思議に思った俺は、ゴーレムの素材をストレージに回収しながらフーリに尋ねてみた。
「やはり、これは」
フーリは短くそう呟くと、おもむろにゴーレムの瞳に剣を突き立て、その瞳を真っ二つに切り裂いた。
「何やってんのフーリ!?」
いくら何でもオーバーキル過ぎるだろ! 既にゴーレムは完全に機能停止していたんだし、そこまでしなくても……。
「ふむ、やはり魔核だな。カイト君、これも回収しておいてくれ」
フーリは俺のツッコミに気が付いていないのか、笑顔でソレを差し出してきた。
「あ、ああ、分かった」
俺は苦笑いを浮かべながらも、フーリからそれを受け取り、そして気が付いた。
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